知らないと恥をかく世界の大問題5 ★★★★☆

池上彰さん

知らないと恥をかく世界の大問題5 どうする世界のリーダー?~新たな東西冷戦~

を読み終えました。

 

評価は、星4つです。

 

この『知らないと恥をかく』シリーズは、

今回で5作目。

 

これまで4冊すべて読んでいますが、

ダントツのわかりやすさと、

客観的・中立的な説明

 

欲を言えば、

もう少しタイムリーに読みたいので、

本当は池上さんのHPや公式ブログがあるとよいのですが、

WEB上で見つけられるのは、

ご本人の執筆されたHPではなく、

あくまでオフィシャルなファンクラブサイトのみ。

 

一時期、執筆活動に専念するため、

TV出演を大幅に制限されていたようですが、

現在でもいくつかのTV番組で、

解説を続けられています。

 

ここがポイント!!池上彰解説塾|テレビ朝日

日経スペシャル 未来世紀ジパング ~沸騰現場の経済学~|テレビ東京

池上彰の報道特番|テレビ東京

 

などなど。

 

こうしたTV番組を活用しつつ、

著書や執筆記事(解説)で補いつつ、

勉強していくのが良さそうですね。

 

▽内容:

プーチン動く!―ウクライナ、クリミア問題は世界のパワーバランスに大きな影響を与えた。ロシアVS欧米という対立構造は、かつての「東西冷戦」の再現に見える。世界は再び危険な一歩を大きく踏み出してしまったのか…。世界が抱える大問題を考える際には、国際政治の「地政学」的観点を持つことが大事だ。遠い国の出来事がいずれ日本に大きな影響を与える。めまぐるしく変化する“世界のいま”を俯瞰する大人気シリーズの最新・第5弾。第2次世界大戦以降、最大の大国衝突の危機を池上彰が斬る!

 

今回は2014年5月に刊行されていて、

前回が2013年5月。

 

つまり本書では、

おおよそ2013年後半~2014年初頭にかけての

国際情勢や日本の政治・社会問題について、

解説がほどこされていて、

主な内容としては、

大きく次の9つです。

 

ウクライナ問題

②シリア問題

③アメリカ(オバマ政権)の凋落

④ヨーロッパの移民問題

⑤”アラブの春”のその後

⑥日本の脱原発問題

北方領土問題

反日問題と東アジア情勢

アベノミクス

 

構成自体は、

プロローグ+全6章+エピローグの全8部から成っており、

目次は以下のとおりです。

 

プロローグ: 新たな東西冷戦の始まり
第1章: 大きく内向きになるアメリカ
第2章: EU混乱の主役はロシア!?
第3章: 過酷な“アラブの夏”の深刻化
第4章: 小泉元首相も脱原発派に
第5章: “物騒”になってきた東アジア情勢
第6章: アベノミクスはどこへ向かうのか?
エピローグ: 自分なりの意見を持とう

 

今回は、

感想をあとまわしにして、

それぞれの章で印象に残ったことを

箇条書きにしてまとめておきたいと思います。

 

ココから---------

 

◇プロローグ: 新たな東西冷戦の始まり

・ブッシュ前政権のアフガニスタンイラク戦略で泥沼化したことみてきたオバマは、シリア問題に関わることを尻込みしていたが、アサド政権が一線を超えた際には、軍事介入を行うという公約を宣言。

 

・政府軍が化学兵器を使用した疑惑が生じ、やむを得ず軍事介入をおこなう方針を決めたものの、オバマ本人は大統領権限を使うのではなく、国民の支持を受けた形にしたかったため、議会へ打診。これに対し、ブッシュ前大統領のイラク攻撃で嫌煙反戦ムードが高いアメリカ世論は、シリア内戦に介入することを反対。身動きがとれなくなったオバマに、プーチン大統領が「シリアが保有する核兵器を国際管理下に置いて廃棄させる」と提案し、オバマが便乗。ロシアの大統領の言動が、アメリカの大統領の行動を変えさせオバマ政権レームダック化が急速に進んでいる。

 

・2期目に入ったオバマは、名声欲に執着し、イランとの関係回復に乗り出す。イラン(ロウハニ大統領)は、ウラン濃縮活動を中止し、IAEAの査察を受け入れを表明。

 

・中東において、イランはシーア派を支持し、サウジはスンニ派を支持する構造になっているので、これまで親米・反イランの立場をとってきたサウジとしては、両国の歩み寄りは面白くない。親ヒズボラ・親アサドのイランと、反政府のサウジにとって、シリア内戦はイランとサウジの代理戦争になっているため、ここにアメリカとの関係が加わると、中東に与えるインパクトも変わってくる。いま、アメリカ vs サウジアメリカ vs イスラエルの緊張関係が芽生えつつある。

 

安倍政権プーチンと親密な関係を築いてきており、北方領土改善の礎を築かんとしているが、ここにきて中国が焦り始めている。中国はロシアに対し、「尖閣諸島を中国領と認めてくれたら、北方領土をロシア領と認める」と親ロ協調路線を模索しはじめている。(ロシアはこれを拒否したが)

 

・もともと中国の建国当初、両者は同じ社会主義国家として親密な関係にあったが、ソ連スターリン批判と中国の核兵器製造が決定要因となって、関係悪化。中国には、ソ連からミサイルが飛んできたときのためのシェルター(地下都市)が各地に建設され、北京の天安門広場の地下にも巨大核シェルターが存在、中国共産党幹部の住居や執務室からは、直接この地下シェルターに降りられるようになっている。

 

・関係が悪化するようになってから、中ソはそれぞれ包囲網づくりをはじめる。ソ連はインド、中国はパキスタン・日本というように。だから中国の地図では北方領土は日本の領土になっているが、ここに来て中国は、反日・日本包囲網を敷かんと、ロシアに歩み寄っている。

 

・アメリカ寄りだった韓国も、軍事力・経済力の観点から、中国に歩み寄りはじめている。中国としても朝鮮半島からアメリカを駆除したいため、中韓両国は急接近。朴槿恵政権は、いま、中国とアメリカを両天秤にかけて、どちらに付こうか揺れている状態。

 

朝鮮半島の有事の際には、在韓駐米軍では数が足りないため、在日駐米軍の支援が必要となるが、日米安保条約では、日本にいるアメリカ軍が有事の際に軍事行動を起こす場合には、日本政府の事前協議が条件とされている(日本がノーといったら、アメリカは駐日軍を動かせない)。

 

・国際世論は、当初、歩み寄りを見せる日本に同情的だったが、昨年末の安倍首相の靖国参拝で、一転して日本を非難。事前にアメリカ副大統領が安倍首相に働きかけていたにもかかわらず、靖国参拝を断行したことから、「隣国の国民感情に配慮しない行為」としてクレームを入れている。

 

・14年3月にアメリカの仲介により、日米韓の3か国首脳会議が開かれたが、日韓の関係修復には至っていない。中国もまた然りで、安倍首相は両国に見切りをつけ、トルコやインドなどとの関係強化に乗りだし、中国包囲網を形成しようと目論んでいる。

 

第1章: 大きく内向きになるアメリカ

・アメリカは、その圧倒的な軍事力を盾に「世界の警察」としての役割を果たしてきたが、いま、対外政策より対内政策(おもに景気の問題)に舵を切るべしという世論に押され、その役割を放棄せざるを得ない状況になっている。

 

オバマ政権は今、四面楚歌の状態で、「債務上限問題」「オバマケア問題」「スノーデン問題」「シリア問題」という4つの問題を抱えている。

 

・「債務上限問題」では、国の借金をめぐって議会が対立。アメリカの議会は、上院・下院の二院制になっていて、両者の力は均等(日本は衆議院優先)だが、上院は与党(民主党)が優勢、下院は野党(共和党)が優勢というねじれ状態になっている。「オバマケア」に反対する下院(共和党)が、債務上限の引き上げをいつまでたっても承認しないことで、政府機関がこれまでに何度か凍結。現状では、15年3月までは、「債務上限をめぐって大統領に反対することはしない」と共和党が約束しているが、ねじれ構造によるデフォルトの危機や「決められない政治」は続いている。

 

・「オバマケア」は、アメリカ版国民皆保険制度であり、オバマ大統領本人が、議会を経ずに実行可能な大統領令で断行した制度だが、”小さな政府”を掲げる共和党は、これに反対。「医療保険制度に入るかどうかは個人の自由で、国が強制することではない」と主張。アメリカは移民も多いので、自己責任にしないと(移民のぶんまで払えず)国の財政がもたない。連邦裁で合憲の判決が出されてから、共和党の穏健派は妥協したが、強硬派のティーパーティーに支持された議員らが反対しつづけている。13年10月にスタートを切るも、初動のトラブルでも躓いているため、難航中。14年11月の中間選挙では、必ずこれが争点になる。

 

・「スノーデン問題」は、元政府機関の局員だったエドワード=スノーデンが、アメリカ政府の情報収集活動を暴露したことで、米政府に対する国内・国際的信頼が問われることになった問題。アメリカの安全保障は、まず、NSCアメリカ国家安全保障会議)という最高機関がトップにあって、その下に16の情報機関が連なっている。CIA(人による諜報活動)やNSA(電子機器による諜報活動)もその1つ。FBIは、CIAの国内版。スノーデンは、もともと、NSAの下請けで働いていたが、ITに関する知識や技術が豊富だったところを買われて、NSA本体に派遣され、そこでアメリカの膨大な諜報活動の実態を知る。「元CIA局員の立場を利用して」とメディアで紹介されることが多いが、本来は「元NSA局員の立場を利用して」が正しい。CIAにも在籍したことがあるが、彼は9.11後に、愛国心が刺激されて軍隊に入隊したところCIAに出向となっているが、彼の暴露事件は、CIAから民間企業に下野してからの出来事。

 

・スノーデンは、ロシア経由でエクアドルに亡命を申請していたが、途中、アメリカ政府が彼のパスポートを無効に。スノーデンは、モスクワ空港のトランジットエリアで立ち往生していたところを、ロシアが一時入国を認めている。アメリカは身柄引き渡しを要求しているが、ロシアはこれを拒否。ドイツのメルケル首相の携帯も盗聴されていたことが明らかになり、米ロ関係の悪化だけでなく、世界のアメリカに対する信頼悪化を招いている。

 

・「シリア問題」でオバマ政権は、プーチンの妥協案によって、軍事介入の公約反故を免れたものの、アメリカの影響力はがた落ち。ウクライナ問題でもスノーデン問題でも、アメリカはロシアにやられっぱなしの状況が続いている。

 

・2014年の中間選挙では、民主党(与党)が大敗。オバマ政権の没落ぶりが見て取れる。アメリカの二院制において、上院は全米50州からそれぞれ二人ずつ選出されるが(州代表・100議席)、下院は小選挙区制となっており、人口比で各区から一人ずつ選出される(選挙区代表・435議席)。大統領の任期4年に対し、そのあいだに、2年ごとに選挙があるので、中間選挙といわれている。下院の(小)選挙区は、10年毎に区割りの見直しがあり、2010年の見直しで、共和党が自党に有利なように選挙区の区割りをかえたことで、中間選挙で大躍進を果たす。地方では、「小さな政府」を求める草の根運動の保守勢力:ティーパーティの勢力が強く、先の選挙区改編で、彼らに支持されれば共和党議員として当選しやすくなった。さらに、「オバマケア問題」や景気対策などにおける現政権批判を武器に、先の中間選挙で共和党が圧勝。

 

・2016年の大統領選で注目されているのは、民主党ヒラリー・クリントン国務長官当選すれば、米国初の女性大統領になる。国務長官(日本でいう外務大臣)時代は、故ネルソン・マンデラやアウンサン・スー・チーらとの親交を深め、人権派・外交に強いイメージを醸成。一方、共和党は、ニュージャージー州のクリス・クリスティ州知事(穏健派でティーパーティとは距離をおく)と、ヒスパニック系のマルコ・ルビオ上院議員。ちなみに、アメリカ大統領の登竜門は、一般的に州知事か上院議員とされている。

 

・アメリカではFRB議長に女性として初の、ジャネット・イエレン女史が就任。リーマンショックの危機から脱出するため、バーナンキ前議長のもと、早くから量的緩和政策がとられてきたが、ここにきて金融緩和の停止(縮小)が模索されはじめている。FRBの金融政策は、世界経済に大きな影響を与えるだけに、イエレン議長による量的緩和の幕引きも、慎重さが期されている。

 

第2章: EU混乱の主役はロシア!?

・日本で「北方領土」とされている島々は、ロシアでは「南クリル諸島と呼ばれている。北方領土は現在、ロシアによって実効支配が続いているが、アメリカでのシェール革命を機に、天然ガスが売れなくなることを憂慮するロシアは、その売り込み先として有力候補である日本との関係改善を模索北方領土問題にも慎重になりながら、前向きに検討しはじめている。

 

・ロシアは、元祖「世界の火薬庫」のバルカン半島だけでなく、新「世界の火薬庫」といわれるカフカス地方(コーカサス地方)の取り込みにも躍起になっている。バルカン半島ではウクライナを、カフカス地方ではチェチェングルジアアゼルバイジャンに、それぞれ軍事出動しており、影響力を高めている。

 

ウクライナはもともと、東部を親ロシア派が、西部を親欧米派が多数を占めていたが、ウクライナ新政府に親欧米政権が誕生したことで、ロシアがクリミア半島に軍隊を送り、クリミア半島ウクライナから独立させロシアに編入。ロシアの糸引きで、ウクライナ東部もまた、これにのっかろうとしている。

 

・親欧米派はEUへの参加を求めているが、プーチンとしては、東ヨーロッパ諸国がEUに加入するのは許せても、旧ソ連を構成していた国々がEUに加入するのは許せない。旧ソ連圏」をいまもロシアの影響下においておきたいという、かつてのソ連覇権主義が残っている。

 

・ヨーロッパでは、ドイツなどのリードによって、ギリシャやスペイン、ポルトガルなどの一連の経済危機を免れたものの、今度は移民問題が火種にあがっている。これは、隣国あるいはアフリカ・シリアなどからの移民が、自国の職を奪っているというもので、スイスでは移民を受け入れない国民投票も行われているし、スウェーデンでも難民受け入れ反対の声があがっている。イギリスではすでに一部の国の移民就労者に対し、失業保険の給付を制限している。

 

・2014年9月には、イギリスでスコットランド独立の住民投票がおこなわれ、ギリギリで否決された。イギリスはそもそも、スコットランド」「ウェールズ」「イングランド」「北アイルランドの4地域から成っており、イギリス=イングランドではない。スコットランドは元来、イングランドと仲が悪く、たびたび抗争してきた。イギリスのサッカーリーグも、イングランド・プレミアリーグと、スコティッシュ・プレミアリーグがあり、両者は別物。また、スコットランドでは独自の貨幣も流通しており、イングランド銀行券(イギリス・ポンド)とスコットランド銀行券の両方が使える。

 

第3章: 過酷な“アラブの夏”の深刻化

・シリアのアサド政権は、イスラム教でも少数派であるシーア派のなかの、さらにローカル色の強い「アラウィ派」を信奉する一族が擁した政権。アラウィ派は、シーア派と土着宗教が結びついたもので、転生思想が入っている。多数派であるスンナ派からすると、シーア派の、さらに転生思想をもった「アラウィ派」は、もはやイスラム教ではないという見方が強く、サウジやカタールといったスンナ派のアラブ国家は反アサドの立場をとる。彼らは、シリアの反政府勢力(自由シリア軍)を支持。一方、レバノンシーア派過激組織「ヒズボラ」は、シーア派国家であるイランなどの支持も受けて、アサド政権に肩入れ。また、スンナ派過激組織であるアルカイダもまたシリアに入ってきているが、シーア派のアサド政権と対決するのではなく、反政府組織の陣地を奪うことで、シリアでの勢力を拡大しようとしている。

 

・ロシアと中国は終始アサド政権を擁護しているが、ロシアはシリアにある海軍基地を維持したいからで、中国は、「それぞれの国のことは、それぞれの国で解決すべきで、国連やほかの国が口出しすべきではない」というスタンスから。中国のこの主張の裏には、アフリカなどの独裁国家との関係強化と資源確保の意図がある。

 

・アメリカをはじめとする欧米各国は反アサド的だが、ロシアの介入によりアメリカは軍事介入を諦め、シリアも保有する化学兵器の全廃を約束。化学兵器廃絶のために幅広い活動をおこなう国際組織OPWC(化学兵器禁止機関が、すでにシリアで活動をはじめており、ノーベル平和賞も受賞。

 

・1979年のイラン革命で、反米路線を歩んできたイランだったが、ここにきて保守穏健派のロウハニ大統領により、アメリカとの距離がいっきに縮まる。一時、イランは、ハタミ大統領によって、親米的になりつつあったが、当時のブッシュ政権がこれを拒否したことで、いっきに反米気風が回復、反米強硬派のアフマディネジャド大統領が誕生。ハタミ政権時にいったん凍結していた核開発も、再開。これを再度、親米路線に切り替えたのが、ロウハニ大統領で、イランの最高指導者ハメネイもこれを支持。見返りとして、イランに対する経済制裁が一部緩和されることに。

 

・長年、イランと犬猿の仲にあるイスラエルは、イランの核開発放棄には不信感を募らせており、アメリカとイランの関係回復にイスラエルは怒っているが、孤立化しつつもある。アメリカがイスラエルと距離をおく理由には、イスラエルパレスチナ入植が原因。イスラエルネタニアフ首相は、アメリカが保証人として調停したオスロ合意を公然と破り、パレスチナにおけるイスラエルの入植地拡大を次々と進めている。

 

・エジプトで起きた民主化運動では、ムバラクの独裁・軍事政権が崩壊したとはいえ、イスラム主義(イスラム同胞団)のモルシ政権も、経済政策で失策。再び若者による政権打倒が起こり、シシ国防相による軍事クーデーターに発展、結果的に軍事政権が復活することに。軍事政権は、ムバラク時代におこなったムスリム同胞団を再び非合法化したため、将来の過激派の種が蒔かれたといっていい。アメリカもエジプトへの介入を見合わせてきたため、最近はロシアが急接近している。建国当時、エジプトはソ連から武器を買うなど、緊密な関係を保っていたが、サダト政権時に親米路線に切り替わってからソ連との関係性が希薄化。ここにきてまた、中東におけるロシアの存在感が増してきている。

 

第4章: 小泉元首相も脱原発派に

東日本大震災後に起きた福島原発の事故では、廃炉作業は、うまくいっても40年はかかるといわれており、いま行われている処理は、第一歩にすぎない。

 

・その処理とは、大きく「核燃料の処理」「汚染水対策」「除染の3つ。「核燃料の処理」では、使用済み核燃料の取り出しや、原子炉に残る溶け落ちた燃料棒の回収が主たるミッションで、核燃料の再処理(リサイクル)あるいは最終処分をどうするかという問題がある。また、「汚染水対策」では、「汚染水」そのものと、地質上「汚染水にならざるを得ない水」をどうするかという問題があって、前者はその処理・貯蔵をどうするのかという問題、後者は原子炉に流れ込む地下水や雨水をいかに遮断するかという問題がある。「除染」については、汚染されてしまった土地をいかにクリーンにするかという問題。いずれも、莫大な費用と莫大な時間がかかる。

 

フィンランドには使用済み核燃料の最終処分場として、オンカロという施設があるが、ここは地震が起こらず地下水もないという地質上の特徴を利用して建設された地下埋蔵地。地下水が豊富で地震も多い日本では、建設はできても運用が難しい。小泉元首相はこの視察後に、原発ゼロ」発言で、世間から注目を浴びる。東芝や日立、三菱重工の幹部らと同行しての視察だったが、企業の思惑を一蹴する形での「原発ノー」宣言。

 

・日本では使用済み核燃料の最終処分用地は決まっておらず、原発を再稼働させると、さらに生態系に影響を及ぼす危険物質が増える。ただでさえ、日本の原発から毎年出される使用済み核燃料は、生態系への影響が許容範囲になるまでに10万年かかるとされている。

 

・日本の電力はいま、原発がとまっているので、火力発電をフル稼働させることで賄われており、その結果、燃料(石炭・石油・ガス)の輸入が急騰、貿易赤字が拡大している。原発再開の声もあがっている。

 

・日本では原発が使えないので、安倍首相は新興国に向けて、原発トップセールスを開始。サウジ、ベトナム、インド、トルコ、中国といった新興国では、いま、原発の新設ラッシュが続いている。ロシアとの関係が緊張状態にある東ヨーロッパでも、原発のニーズが発生しており、安倍首相は東欧を訪問し、V4(ポーランドチェコ・スロバキアハンガリー)と原子力分野での協力強化で合意(原子力の平和利用のみを目的とする「原子力協定」を締結)

 

・アメリカではシェール革命が目下進展しているが、環境破壊の悪影響も懸念されており、規制を求める動きも出ている。日本でも、メタンハイドレートの商業化が急ピッチで進んでおり、これがアベノミクス成長戦略の1つにあがっている。

 

第5章: “物騒”になってきた東アジア情勢

親日家の娘として名高い韓国の朴槿恵大統領だが、ここにきて日韓関係は最悪の状態。きっかけは、李明博・前大統領時代におきた、韓国の裁判所が慰安婦問題で政府が日本と交渉しないことを違憲とみなした判決。これにより韓国政府が日本に文句を言わないのは憲法違反と見なされ、「(日本に)損害賠償しろ」と言わざるを得ない立場に追い込まれる。

 

・日韓国交正常化に際し、慰安婦問題や徴用工問題についてはすべて清算済みであり、国対国のレベルでは解決済みとなっている。裁判所の判定は、「個人の(損害賠償の)請求権は消滅していない」という論旨であり、これを韓国政府がかわって請求するべきというもの。政府としては板挟み状態にある。

 

・アメリカでは、韓国系アメリカ人による反日活動がエスカレートしており、韓国系アメリカ人の多いニュージャージー州では、アメリカの教科書で記載されている「日本海」に、韓国名の「東海」を併記する法案が可決。ニューヨーク州でも同様の法案が審議中。全米各地に設置が増えている「従軍慰安婦像」も、在米ロビイストの働きかけによるもの。莫大な資金を投じたロビー活動は、韓国人のほうが日本よりも上手

 

・韓国も中国も日本とは戦争をしていない。我々がいま「中国」とよんでいる国(=中華人民共和国)は、厳密には戦勝国ではない。中華人民共和国の成立は1949年で、日本が戦ったのは中華民国(台湾へ退去)。また、1972年の日中共同声明で、中国は日本に対する戦争賠償を放棄することを宣言している。

 

中国が新たに設定した「防空識別圏」には尖閣諸島が入っている尖閣諸島は日本の領海・領空内で主権がおよぶが、防空識別圏は主権が及ぶものではなく、各国が自由に設定できる安全保障のための目安線。尖閣は中国が領有権を主張してきていて、今回の防空識別圏はそのための予行となる強硬策。

 

リーマンショック後、中国でも政府として大規模な景気対策を断行、公共事業を強化して、国の財源を元手に、地方政府は都市開発を推進。しかし、2010年に中国人民銀行が景気の過熱をおさえるため、金融引き締めをおこなったため、地方政府は事業が続けられなくなる。その結果、銀行が別の投資会社(影の銀行)をつくってお金をあつめ、不動産開発に充てるという、非公式な融資を継続(シャドーバンキング)

 

・ところが、ここにきて不動産の需給バランスが崩れ、明らかに供給過多。実際、地方のいたるところに、鬼城(ゴーストタウン)が出現。デフォルトの連鎖が発生するのも、もはや時間の問題。リーマンショックサブプライムローン住宅ローン)の焦げ付きが発端だったが、中国のバブル崩壊は街(都市開発)ローンの焦げ付きが発端になるかも。

 

習近平国家主席は、もともと江沢民派ではあったが、同じ江沢民派で前国家主席胡錦濤は、江沢民の影響が強すぎて自分のやりたいことをやれなかったので、江沢民からの決別をめざしている。そのために、共産党首脳陣の汚職を摘発して(周永康事件)腐敗撲滅を掲げているが、これはあくまで建前であって、実際は権力闘争の色が濃い。従来、中国では、共産党政治局で常務委員まで務めた人は、どんな疑惑があっても摘発しないという不文律があったが、習近平はそのタブーをやぶることに。中国では共産党員には警察が手を出せないので、まず彼は、周永康共産党から除名し、一般市民となったところで警察が逮捕→検察が起訴という手順を踏んだ。

 

・中国の5つの自治区では、トップこそ、その民族の代表が務めるものの、ナンバー2は漢民族がおさえている。いわば傀儡政権胡錦濤政権時代に、「西部大開発」の名目で莫大な資金を投下し、新疆ウィグル・チベットの両自治区の開発を推進。その結果、いまでは数の上で漢民族のほうが多くなり、もともとの民族が少数民族になって追いやられている。古い文字や町並みも失われつつある。

 

北朝鮮金正恩第一書記は、事実上のナンバー2であり、中国とのパイプも太い張成沢(叔父)を処刑。政府が公約していた平壌市内の都市開発を、本来は資材不足や人手不足が原因で遅延が発生しているにもかかわらず、その原因と責任を彼になすりつけ、排除したのが実態。権力の集中を狙う。現在の日韓関係の悪化をみて、日本に歩み寄りを見せる一面も。

 

第6章: アベノミクスはどこへ向かうのか?

アベノミクスの経済政策は、「金融緩和」「財政政策」「成長戦略の3つで、「三本の矢」といわれている。長いデフレから脱却し、再びインフレ気味にしようというのがアベノミクスの狙い。90年代後半に生じたバブル崩壊は、もともとインフレを狙った政策が招いたものなので、今回も慎重さが必要。

 

・第2次安倍政権発足より1年の中間評価は、「金融緩和」はA、「財政政策」はB、「成長戦略」はE(ABE)。「金融緩和」で株価水準はあがり、円安・ドル高も進行、輸出産業が大幅に収益を改善、景気回復に活路を開く。「財政政策」は公共事業を増やしたものの、震災の復興事業や消費税増税による駆け込み需要などもあって、建設資材や人手が足りていない状態(供給不足)、遅れが生じている。成長戦略」は戦略自体が手薄で、「薬のネット販売」「国家戦略特区」「TPP」など、まだまだ試行・懸案状態のものが多い。

 

・TPPは、日本の食糧自給率の低さから、おもに農作物の関税撤廃に懸念が大きく、足踏み状態。日本の食品安全基準についても、アメリカなどから非関税障壁とクレームがつけられており、見直しを求められている状態。

 

・「財政政策」の1つとして消費税増税が位置づけられているが、安倍首相が考えているのは、消費税増税財政再建を目指すだけでなく、投資をすることで新たな税収を生み、財政を立て直して景気を上向きにするというもの(「ベストシナリオ」)。

 

長期金利(10年の国債金利)が低い(安い)と、市場で売買される国債の価値が高いということなので、国債の信用もそれだけ高い。つまり、国の財政が評価されているということ。消費税増税後の長期金利は、低水準を保っているので、現段階では成功への期待感のほうが大きい。国の財政に対する評価が低いとき、国債の信用度は下がり、逆に長期金利は上がる。長期金利は、国の財政の体温をはかるもの

 

靖国神社はもともと、東京招魂社といって、戊辰戦争における明治新政府軍の戦没者を慰霊するために建てられた神社。西郷隆盛西南戦争で賊軍に属したため、明治維新の立役者であっても対象外。それ以降、お国のために死んでいった人たちの霊を祀るようになる。神道では、死んだら誰もが「神」となり、靖国神社に祀られている神様は246万柱以上。

 

靖国神社国家神道の中心的存在となり、戦争における日本人の天皇を頂点とする軍国主義に利用されたため、戦後、GHQより政教分離が徹底される。

 

・そもそもA級・B級・C級といった戦犯のランクは、罪の重さではなく、罪の種類で分類されている。サンフランシスコ講和条約の締結後、戦犯の罪は消滅し、すべて「公務死」として定義されるに至ったため、それまでNGだったA級戦犯(平和に対する罪の犯罪者)が靖国に合祀されるが、これが国内外で問題に。また、政府要人の靖国参拝も、国内では政教分離の観点から問題視され、国外(おもに中韓)でも「近隣諸国の感情を傷つける」として批判。

 

東京裁判は、戦争に勝った連合国側が負けた側を一方的に裁いたもので、このとき断罪された【平和に対する罪】は、いってみれば事後法。本来、近代法の概念では、後からできた法律で、その法律ができる以前の出来事を裁くことはできないということもあって、東京裁判の判決(←事後法)は無効とする意見もある。

 

・安倍首相は、第一次内閣誕生の際、アメリカより先に中国を訪問して、日中関係の劇的な改善に寄与A級戦犯に問われた岸信介(容疑者として逮捕されたがのちに釈放)の孫ということもあり、靖国に対する思い入れはあったが、結局、靖国参拝に至らぬまま辞職。第二次内閣では、靖国参拝を半ば公約していたので、13年末に参拝。中国をはじめ、アメリカからも非難をうけたが、安倍さんとしては戦後レジーム(戦後、連合国が勝手につくった国際秩序)からの脱却」を図りたい思いがある。その意味で、彼は本質的には反米主義者

 

・「特定秘密保護法」は、情報の入手先であるアメリカからの圧力を背景に成立。建前としては、国民の安全にかかわる情報を「特定秘密」に指定し、政府のなかから外部に漏らさないようにするための法律だが、現行する「国家公務員法」や「自衛隊法」以外に、より強度な罰則を求めるアメリカに配慮して制定。

 

・「特定秘密保護法」には問題点が3つある。①「何を秘密にするか」の範囲が広く、拡大解釈が可能なため、施政者にとって都合の悪い情報は隠し放題。②第三者によるチェック機関がないので、中立性・公平性に欠ける。③秘密の指定期限が長い(最長60年)ため、自分が生きている間に公にならなければいいと、歯止めがかからず、なんでも秘密にしがち。国民の知らないところでとんでもないことが起きていた、という危険性は大いにある。

 

・沖縄基地問題は、民主党鳩山内閣のときに、普天間の県外移転が公言されるが、移転地が決まっておらず白紙撤回。自民党・第二次安倍内閣になって、辺野古移転が提案されたのを、仲井間知事が承認。辺野古にはもともと、アメリカ海兵隊の基地(キャンプ・シュワブがあり、ここに接続する形で埋め立てすれば利便性もよい。ただし、この移転費用は全額日本政府がもつうえ、沖縄県にも振興予算を確保を約束しているので、国庫の費用負担は莫大。名護市・市長選挙では辺野古移転反対の稲嶺氏が勝利しているので、市長権限で工事の停滞もありうる。

 

オバマは駐日大使にキャロライン・ケネディを選定、これは大統領選で政治資金集めに貢献してくれた「論功行賞」でもある。また、日本にはケネディファンも多く、「オバマは日本を重視している」と思わせるうまい人事でもあるが、本来、彼女は政治や外交についてはドシロウト。日本という同盟国だからこそできる”お飾り大使”。腕利きのプロの外交官は、基本的に反米諸国(中国、ロシア、中東など)に送られる。

 

安倍政権外交政策では、憲法9条の改正が最終目標。国防軍を保持し、集団的自衛権を行使できるようにすること。自衛権には、自分の国は自分で守るという「個別的自衛権」と、仲の良い国同士で互いに守りあうという「集団的自衛権」の2種類があり、国家として日本も両方の権利をもっているものの、憲法9条では、国際紛争を解決する手段としての武力行使を禁止しているため、集団的自衛権は「持っているが行使できない」状態。

 

憲法そのものを改正するのは相当な時間を要するので、安倍さんは解釈改憲で、集団的自衛権の行使を閣議決定したい。そのために、内閣法制局長官も賛成派の小松一郎(前フランス大使)を起用。しかしこれ(閣議決定による断行)では、政権交代のたびに、総理大臣の一存で憲法の解釈がかわってしまうおそれがある。

 

---------ココまで

 

相変わらず、

「そうだったのか!」ポイントが結構ありました。

 

シリア内戦が、

サウジ vs イランの代理戦争になってきているのも

「へえ!」でしたし、

 

そのシリア内戦に、

アメリカがなぜ軍事介入しなかったのかも

「へえ!」でした。

まさかプーチンの提案に乗せられたとは。

 

アメリカはもはや、

国際社会におけるプレゼンスを失い始めている。

 

だから韓国も、

アメリカと中国を両てんびんにかけて、

どちらについたほうが得策かを

計算しはじめているんだな、と。

 

ではなぜアメリカはいま、

国際的な立ち位置が弱くなってきているのか。

 

その1つは、

単に国外より国内

シフトチェンジしはじめているから。

 

要は、

国内のことで手がいっぱい。

雇用問題やら格差拡大やら経済低迷やら。

 

つい最近、

こんなニュースがありました。

 

米下院共和党、「オバマケア」めぐり政権を提訴 (AFP=時事)

 

オバマケア自体は、

すでに合憲という判決が出ているものの、

記事によると、

 

オバマケアは従業員50人以上の企業にフルタイムの従業員への医療保険の提供を義務づけており、雇用主がこれを怠った場合には罰金を科すと規定している。しかし、政府は昨年、この規定の実施を2015年まで先送りすることを決定。

 

どうやら、

この対応(先送りにしたこと)が、

勝手な越権行為だとして、

共和党のジョン・ベイナーさんは、

オバマ政権を提訴しているわけです。

 

池上さんの解説を読んだあとにこの記事を読むと、

彼ら(共和党)は、

もはや現政権の重箱の隅をつつくというか、

揚げ足取りをしている気配すらある。

 

記事にはまた、

以下のような記載があるのですが、

 

共和党は、今回の提訴を大統領が行政権の乱用を繰り返したことへの挑戦だと位置付けており、同党のジョン・ベイナー(John Boehner)下院議長は、「大統領は何度も米国民の意思を無視し、下院の議決を経ずに連邦法を書き換えた」と述べた。

 

この「下院の議決を経ずに」というのは、

要は、

「【共和党が多い下院】の議決の経ずに」

ということであり、

共和党のオレたちを無視すんじゃねーよ!的な

敵対心むきだしといったところでしょうか。

 

そもそも自分は、

アメリカの上下両院において、

与野党のねじれ現象が起きていることすら知らなかったので、

 

本書を通じて、

上院=与党(民主党)が優勢

下院=野党(共和党)が優勢

ということを改めて知り、

 

また、

先の中間選挙で、

この上院の議席が逆転し、

下院でもさらに共和党が議席数を伸ばしたことで、

民主党オバマ政権)=”大敗”と報じられたのかと、

今さらながら理解できました。

 

オバマ民主、歴史的大敗 中間選挙 共和が上下院制す :日本経済新聞

 

池上さんによると、

共和党が下院の議席数を伸ばしたのは、

10年に一度おこなわれる選挙区の見直しがきっかけで(2010年)、

彼らが選出されやすいように、

選挙区の区分けの仕方をかえたそうです。

 

池上さんは、

【エピローグ】で、

これからの時代に求められるのは、

「即戦力」ではなく、

「自ら考え、自ら道を切り開いていく能力」だと断言しており、

 

いまの日本人は、

与えられたルールのなかで一生懸命努力してきたけれど、

ルールがかわったとたんに使い物にならなくなる、

これからはルールメーカーになる必要がある、

と述べられていました。

 

共和党はまさに、

選挙区(の見直し)という新しいルールをつくったわけで、

えげつないかもしれないけれど、

彼らのその行動こそ、

時流をかえたといっていいかもしれない。

 

池上さんはまた、

 

ルールメーカになるには、即戦力を養っているのでは無理です。柔軟性があり、人が考えつかないようなことを考える力が必要です。近年、リベラルアーツ(幅広い教養)の重要性が叫ばれているのはそのためです。

 

と説いていますが、

これにも「なるほどなぁ」と頷けました。

 

どうも私たちは、

専門特化とかスペシャリティとか、

”専門性”こそが効率的で重要という見方に傾いている気がします。

 

教育もそう、

キャリアもそう。

 

そのほうがたしかに、

はやくスムーズに問題解決できるし、

はやくたくさん稼げる(生産できる)。

 

そもそも分業とか専門特化なんていうのは、

効率が最優先の資本主義社会では、

あって当たり前なんですが、

逆にそのことで、

偏りが出ているのも事実だと思います。

 

自分はこれさえ知っていればいい、

それ以外はムダだから切り捨て。

 

だから、

個人の考え方が大きく偏ってしまう。

 

でも、

だからといって収入が減るわけではない。

 

むしろ、

スペシャリティとして重宝され、

収入が上がることのほうが多いかもしれない。

 

そしたら余計に、

これでいいんだ・このほうがいいんだと

誰だって思うわけで。

 

上記はあくまで、

仕事に対する向き合い方のたとえで述べていますが、

仕事が人生の大半を占める人たちにとって、

仕事での向き合い方が

だんだん仕事以外での向き合い方にも似てくる。

 

そうすると、

自分勝手で独りよがりな人間は確実に増えます。

 

それが私は、

「今」なんじゃないかと思うのです。

自分も含めて。

 

本当は、

もっと違う意見とか、

真反対の分野のことを、

私たちは知っておいたほうがいい

 

ネットの世界なんていうのは、

まさにこれ。

 

池上さんも、

次のように提言しています。

 

ネットは、自分が知りたい情報だけしか入ってこないメディアなのです。できるだけ多くの言論、意見に触れることが、現代に生きる人間には必要です。

 

私自身、

ネットの恩恵をめちゃくちゃ受けていて、

それはとても効率的でいいものだと思っている。

 

でも、

どんどん考え方が偏っているのも事実で、

それは年のせいかと思っていたけれど、

たぶんそれだけではない。

 

ネットの恩恵や効率という美名のもと、

都合のよい情報だけしか取得しないようになっているから、

どんどん考えや性格が偏ってきているんだと思います。

 

たぶん、

私だけじゃなく、

そういう人は結構いると思う。

 

最近、

五木寛之さんの『大河の一滴』や『下山の思想』を読んだり、

香山リカさんの『私は「うつ」と言いたがる人たち』なんかも読んで、

 

実は「グレー」とか「曖昧(であること)」 って、

とても大事なんじゃないかと思い始めてきました。

 

結局、

バランスです。

 

効率的なことも大事だけれど、

非効率的なことも大事、

ポジティブもいいけど、

ときにはネガティブさも必要、

専門的な深堀りも大事だけど、

幅広い知識もあったほうがいい。

 

みんなそう言っていたのに、

誰しもが一度はそう教えられているはずなのに、

今ようやく、

それを理解した気がしています。

 

次は、

筑紫哲也さんの『スローライフ―緩急自在のすすめ (岩波新書)

を読んでみたいと思っている今日この頃。

 

話をもとに戻しますが、

アメリカを頂点とする国際秩序が崩れ始めているいま、

日本もアメリカだけに頼っていてはまずい。

 

でも、

短期的にはやはりアメリカに頼らざるを得ない。

 

だから、

アメリカの言うことを聞くべく、

特定秘密保護法」を制定させたし、

集団的自衛権」だって行使できるようにしておかないとまずい。

 

安倍さんは本質的には「反米主義者」である

という池上さんの指摘には、

正直ビックリしましたが、

 

彼は言ってみれば国粋主義者で、

日本の国力を少しでも伸ばしたい。

 

しばらくは、

アメリカの力を借りなければいけないけれど、

長い目でみたときには、

アメリカに頼らなくても、

日本でなんとかできる枠組みをつくっておきたい。

だから憲法9条を改正したい。

 

でも、

そのためには、

諸外国と協調すべきところはして、

バランスをとっていかなければいけない。

 

それが政治なのでしょう。

 

私は、

安倍さんがプーチンと親密な外交を繰り広げていたことを、

全く知りませんでしたし、

オバマと犬猿の仲であることも意外だったのですが、

 

彼の政治家としての外交手腕は、

シロウトの自分からみても、

結構高いのではないでしょうか。

 

本書を読んで、

理解がしやすくなったニュースは他にもあります。

 

タイムリーなところでいうと、

これ。

 

新疆ウイグル自治区で暴徒が飲食店街襲撃、4人死亡 警察が暴徒11人射殺 (産経新聞)

 

池上さんは、

中国の「西部開発」について、

漢民族自治区の民族を排除していると言っており、

自治区の民族が何かやらかすと、

すぐ「テロ」と断定して封じ込めると言っていましたが、

 

この新疆ウィグルの事件も、

早速、

「暴徒」「ウィグル族によるテロ事件」

というふうに報道されています。

(さすが産経!笑)

 

このニュースもタイムリー。

 

ムバラク元大統領「無罪」 旧体制への回帰、鮮明 エジプト (産経新聞)

 

池上さんは、

アラブの春」のあとの、

エジプトの混迷についても解説してくれていましたが、

 

ムバラクさんを「有罪」にすると、

ムバラクと一緒に体制を維持してきた軍部も、

「有罪」ということになりかねない。

 

いまの軍事政権を運営するシシ大統領としては、

それは絶対に避けなければいけない。

だから彼は「無罪」となったわけです。

 

この「無罪」判決には、

各地で反対デモも起きているようなので、

まさかの「ムバラク返り咲き」はあり得ないと思いますが、

”やっぱり旧体制(軍事政権)じゃないとダメでしょ”的な流れになるのは、

もう目に見えているので、

シシさん率いる軍事政権が今後も続くのでしょう。

 

あと、

中国はシリアのアサド政権を擁護しており、

 

池上さんによると、

 

「それぞれの国のことは、それぞれの国で解決すべきで、国連やほかの国が口出しすべきではない」

 

というのが彼らのスタンスということでしたが、

 

それはつまり、

自分たちがこれからやることについても、

おまえら何もいってくんじゃねーぞ!

と釘をさしているようなもので、

 

たとえば、

これがいい例です。

 

中国「部外者に口出しの権利ない」南シナ海「人工島」開発で

 

中国はいま、

アフリカやら東南アジアで、

「うまみ」を得ようと躍起になっている。

 

彼らとしては、

自分たちがそこでやることに、

諸外国から文句を言われたくないわけで、

 

だから、

第三国における内戦にも、

当事者主義を主張している。

 

じゃないと筋が通らないから。

 

自分は親中派でもなんでもないですが、

欧米の汚いやり方とはまた違うやり方で、

彼らは主義主張を通しているわけで、

ある意味わかりやすくてシンプルだなと思いました。

 

池上さんは、

基本的にどっちがいいとも悪いとも言わず、

ただ客観的に説明をしてくれるので、

そのニュートラルさがとてもいいと思います。

 

でも、

それをどうとらえるか、

どう考察するかがとても大事で、

 

エピローグで筆者は、

「自分なりの意見を持とう」と言っています。

 

そのために、

先に述べたバランス感覚や、

メディアリテラシーが必要になってくる。

 

日本の原子力はもう国内では使えないから、

外国に売るしかないと、

安倍さんによるトップセールスが行われているのが現状ですが、

池上さんはこれについて、

 

原発を輸入する国は「核兵器に転用したい」という野望を持っていないとは限りません。平和利用されないというリスクがあることも忘れてはなりません。

 

と警告しています。

 

単純に「売れてよかったね!」とか

「その手があったか!」だけではなくて、

その先(裏)にある意図を考えることが、

実はとっても大事。

 

これぞ、

著者自身の言う「メディアリテラシー」であり、

「メディアを読み解く力」というわけです。

 

それでいうと、

慰安婦問題における日本の対外交渉もしかりで、

 

日本としては、

「国家が従軍慰安婦を強制したという証拠はない」といって、

従軍慰安婦国が関わったか否かのレベルで発言をしているけれども、

 

池上さん曰く、

 

(このような政府答弁は)あたかも日本政府が責任逃れをしているように受け取られてしまっています。歴史的に何があろうと、現代においては「慰安婦」は女性に対する重大な人権侵害と受け止められています。「日本が国家として強制したのではないのだ」といくら強調しても、現代では通用しないのです。(中略)日本政府として、対外的な広報戦略を抜本的に見直す必要があるでしょう。

 

と言っています。

 

実はここは、

是非もう一歩踏み込んで、

具体的にどういった広報戦略が考えられるのか

教えてほしかった!

 

ただ、 

福田和也さんも『父が子に教える昭和史』で、

従軍慰安婦については次のように論じられており、

池上さんの指摘に通ずるところがあります。

 

われわれは慰安所の存在を到底誇るべきこととも考えることができないし、必要悪としても許容すべきではないと思う。戦争という人間の本質が露呈する場面にこそ、強い抑制と倫理を求める必要がまずあるし、何よりもこうした荒廃が生じないように、国家は戦略的に軍を用いなければならない。

 

そもそも「慰安所」という存在自体、

許容してはいけないというわけです。

 

池上さんも、 

慰安婦問題にしろ靖国問題にしろ、

 

ただ「日本人の思い」を掲げても説得はできないでしょう。世界に通用する論理の構築あるいは言動が必要なのです。

 

と自論を展開していますが、

本当にそのとおりだと思います。

 

世界で問題になっているのは、

慰安婦に国が関わったかどうかじゃないし、

 

靖国問題において、

日本の国内ではもう戦犯処理は終わっているとか、

そもそも東京裁判自体が無効だからとか、

そんな話を今さらしたところで全く意味がない。

 

そういう意味では、

戦争を知らない人のための靖国問題』の著者・上坂さんとは、

ちょっと意見が異なってしまうのですが、

いくら日本の事情を伝えても、

納得してもらえるわけがないと思うのです。

 

我々が靖国という「場所」にこだわりすぎていたら、

何も解決しない。

 

以下はあくまで私の個人的な考えにすぎませんが、

お国のために亡くなった戦没者については、

たとえば原爆や空襲の犠牲者も含め、

それこそ国会議事堂や皇居で追悼記念式典をやればいい。

 

そうすれば、

政教分離の原則にも反しないし、

やれ戦犯がどうだと、

近隣諸国の国民感情を逆なですることもない。

 

靖国が日本人にとって、

とても重要な精神的どころであることは確かだけれど、

大事なのは、

彼らを弔い、

戦争という過ちを二度と起してはならないという言動のほうであって、

ただ靖国に行けばいいってもんじゃない。

 

そして、

池上さんが言うとおり、

「世界に通用する論理」でなければ、

いつまでたっても埒があかない。

 

靖国参拝という形式主義に凝り固まらず、

もっと柔軟に、

本質に立ち戻ってはどうでしょうか。

 

池上さんが、

おもしろいことを言っていたのですが、

 

韓国の反日感情のおおもとは、

日本が戦争に負けたことで、

自動的に独立が転がり込んできたという経緯にあり、

建国当初から反日感情が続いているそうです。

 

同じように、

東南アジアも日本に占領されたのに、

ベトナムインドネシアもマレーシアも、

反日感情は相対的に希薄。

 

日本軍によってひどい目には遭ったけれど、自分たちの手で独立を勝ち取った誇りがある、だから反日にはならない。

 

──と。

 

きちんと段階を踏んで、

日本を排斥し、

膿を出したのが東南アジア諸国であり、

 

逆にその段階を経ぬまま、

膿がたまったまま、

今に至っているのが韓国だと。

 

だから、

反日感情が払拭されていない。

ケリがついていない。

何かあれば、

すぐ日本に矛先が向く。

 

彼はこのように言いたいのかと思います。

 

この指摘、

鋭いなぁと思いました。

 

私は、

この本のタイトルが、

あまりにも「釣り」っぽくて、

イマイチ好きになれないのですが、

 

書いてあることはとてもわかりやすく、

指摘や考察もまた鋭く、

この本を読んでからニュースを読むと、

いろいろなことがすんなり理解できます

 

ぶっちゃけ、

われわれ一般市民としては、

知らなくたって恥なんてかけばいい、

かいてナンボだと思うので、

本当にこの本のタイトルには反対なんですが、

 

知るとためになるのは間違いないので、

知るとわかる世界の大問題

とかにすればいいんじゃ?と思いました。笑

 

とはいえ今回もまた、

とても勉強になりました!

 

もう一度、

過去4作を読み直したいと思いました。

 

■まとめ:

ウクライナ問題、オバマ政権の凋落(アメリカ中間選挙における大敗)、東アジア情勢と反日問題など、2014年の主要なニューストピックスをまとめて解説。ダントツのわかりやすさと、客観的・中立的な説明。

・ちょうど第二次安倍政権衆議院解散と総選挙を控えているいま、アベノミクスのおさらいと途中経過がわかって、参考になった。

・解説だけでなく、池上さん独自の考察や指摘も含まれていて、これがまた斬新で鋭い。効率や専門性が重視されがちないま、私たちは、もっと広くいろいろなこと・意見を知るべきだと思った。

 

■カテゴリー:

政治

 

■評価:

★★★★☆

 

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