テロリストのパラソル ★★★★☆

藤原伊織さん作

テロリストのパラソル (講談社文庫)

を読み終えました。

 

評価は、星4つです。

 

厳密には3.7とか3.8とかで、

4には届かないのが本音ですが、

一気読み・徹夜読みにおススメできるくらい、

先が気になるストーリーでした。

 

これは98年に出された作品で、

今からなんと、

16年も前のものなのですが、

 

当時自分は大学生、

本という本も読まずに遊び狂っていたので、

 

本書の存在については、

ずっとあとになってから知った次第です。

 

解説でも触れられていましたが、

同じ作品で乱歩賞と直木賞をダブル受賞したのは史上初だそうで、

(同一作家が、別の作品で各章を受章したことはあるらしい)

 

自分が読んだ講談社文庫の帯にも、

思いっきりそのことが宣伝されていました。

 

テロリストのパラソル (講談社文庫)

 

たしかに読み応えがあったし、

先述のとおり、

先が気になるストーリーで

ぐいぐい引き込まれました。

 

…が、

結末(というか全体的なカラクリ?)が、

自分はどうもイマイチでした。

 

まぁ、

フィクションそれもミステリーなので、

話の展開や構成に対する好き嫌いは、

個人によって違って当然なわけで、

 

自分にはそれほど響かなかったというのが、

(5点満点に対する)マイナス1.3とか1.2の差分です。

 

このあたりの詳細は、

後述にて。

 

 

▽内容:

アル中バーテンダーの島村は、過去を隠し二十年以上もひっそり暮らしてきたが、新宿中央公園の爆弾テロに遭遇してから生活が急転する。ヤクザの浅井、爆発で死んだ昔の恋人の娘・塔子らが次々と店を訪れた。知らぬ間に巻き込まれ犯人を捜すことになった男が見た真実とは…。史上初の第41回江戸川乱歩賞・第114回直木賞受賞作。

 

 

もう4~5年前になりますが、

ハワイから帰ってくる飛行機のなかで、

シリウスの道

というドラマを観たのですが、

 

この原作者がまさに、

藤原伊織さんです。

シリウスの道〈上〉 (文春文庫)

シリウスの道〈下〉 (文春文庫)

 

内容は全然覚えていないのですが、

すごくおもしろくて、

暗い機内のなかで目をこらして見続けた記憶があります。

 

たしかWOWOWでドラマ化したものだったかと。

 

詳細はさておき、

そのときに藤原伊織さんという作家を初めて知ったのですが、

 

後日、

代表作はこの『テロリストのパラソル 』で、

有名な賞も受賞している

──といったことを関知したわけです。

 

実際に読んだのは、

それからまただいぶ後の、

今になってですが…。

 

シリウス~』が面白かっただけに、

こちらも相当な期待がありました。

 

結果としては、

おもしろかったんですが、

イマイチなところもあって、

 

冒頭でも触れたとおり、

結末(カラクリ?)にウーン…

というのが正直な感想なのですが、

 

シリウス~』にしても『テロリスト~』にしても、

引き込まれ感はハンパなかったです。

 

ちなみに、

シリウス~』のほうは、

『テロリスト~』から9年後に発表されていて、

 

話自体は全く別物なのですが、

『テロリスト~』の登場人物のその後が語られたりして、

つながりがあるんだとか。

(自分は、もう覚えていません…)

 

ちなみのちなみに、

『テロリスト~』から3年後に発表された

雪が降る (講談社文庫』のなかの、

「銀の塩」という作品において、

 

本書の事件の少し前──同じ主人公の、違う事件を扱っている

 

──らしいです。

(本書の解説より) 

 

結末はイマイチでしたが、

それなりに面白かったので、

シリウス~』も含め、

是非読んでみたいと思っています。

 

さて、

この藤原伊織さんという方ですが、

自分はずっと女性作家かと思っていたんですが、

なんと男性でした!

 

本名は、

藤原利一(としかず)さん。

 

いまとなっては66歳ですが、

本書を上梓したときは50歳。

 

女性でありながら、

ここまで気骨のあるハードボイルド小説をよく書けるよなぁ

──なんて思っていたのですが、

 

50歳(当時)のおっさんで、

かつ元・電通マンと聞けば、

意外とすんなり受け入れられました。

 

彼は、

本書の前にも別の作品で賞を受賞しているのですが、

ダブルワークだったのか、

次々にオファーが来る原稿依頼を断っていたら、

やがてどの出版社からも相手にされなくなったとか。

(そりゃそうだ!笑)

 

ところが、

ギャンブルにはまって借金がかさみ、

すわ金が必要!

ってことになって書いたのが、

この『テロリストのパラソル』だったそうです。

 

そんな不純な(?)動機で、

有名な賞をダブルでもらっちゃうんだから、

まじでスゴイ!笑

 

あるいは、

火事場のクソヂカラってやつでしょうか。

 

スゴイといえば、中身もスゴイ

 

いや、

だからこそ賞をとっているわけですが、

何がすごいかというと、

 

まず、

話が壮大

 

爆弾テロという話からして、

そんじょそこらの

サスペンスとかミステリーといった類の範疇を

ゆうに超えてしまっているわけですが、

 

犯人のテロリストは、

日本から南米に渡ると、

左翼ゲリラを経て麻薬組織に加わり、

麻薬ビジネスで財をなしたあと、

かつて自分を苦しめた人間たちに復讐してやろうと、

日系南米人として日本に帰国し、

新宿中央公園で爆弾テロを起こします。

 

彼は、こう言っています。

 

「取り戻せないものは破壊する」

 

まだ理性の残っていた自分を、

取り戻せなくしてしまった人たち、

あるいは、

もう戻ることのできない過去の思い出、

そういったものはすべて破壊するんだと。

 

テロ自体や犯行動機も壮大ですが、

南米左翼とか麻薬組織っていうところも国際的で、

スケールがでかい。

 

インターポールは出てくるわ、

コロンビアのメデジン・カルテルは出てくるわ、

挙句の果てには、

(南米の)政治犯収容所における

残忍な拷問シーンまで登場するという。

 

新宿中央公園が爆弾テロの舞台となったときは、

お!あの炊き出しの新宿中央公園ね!

と親近感すらおぼえたものですが、

その爆弾テロを育てた土壌は、

南米の左翼ゲリラや麻薬組織だったとなると、

いっきに話がでかくなる。

 

そもそも、

このテロの発端が、

全学共闘の東大紛争まで遡るということころも

重厚感ありまくりなんですが、

 

とにかく、

時間的にも空間的にも、

物語が縦横無尽に行き来し、

当時あるいは現地の

(ある種、暴力的な)社会問題にアプローチしていくもんだから、

 

こちらとしては、

いちいち時空を股にかけて、

それらを見せられているわけで、

 

これを

”スケールでかい!重い!”と言わずに何という??

──といった感じです。

 

でも、

彼がテロリスト犯になってしまった、

最も根源的なきっかけは、

学生運動の経験や、

社会への不満以上に、

女絡みの嫉妬があった!

というオチがなんとも言えませんでした。

 

だいたい、

(仲のよい)男同士の関係がもつれるのは、

〈出世絡みか、女絡み〉と聞きますが、

まさにそれ。

 

個人的な妬みや敗北感が、

彼を卑屈にさせ、

テロリストとしての芽がそこで培われてしまった。

 

どんなテロリストも、

最初はこんなふうに、

しょうもない嫉妬や劣等感から始まって、

 

それが、

「世間」や「社会」というもっと大きな池のなかでどんどん増長し、

本物のテロリストになっていくのかもしれない。

 

スケールのでかい、

ただのハードボイルド小説かと思いきや、

そういう人間くさいところでリアルさが滲み出て

物語と読者の距離はいっきに狭まります。

 

よくも悪くも、

最後は結局「情」というわけです。

 

犯行原因が、

テロリストの高尚な屁理屈で終わっていたら、

読者は誰も納得しません。

 

でも、

そこに「情」があるもんだから、

ナルホドそういうことか!

と合点がいく。

 

個人的な恨み、恋慕、嫉妬…。

 

スケールのでかいハードボイルドに、

この「情」のエッセンスをたっぷり入れ込むことで、

 

えらく壮大で重く、

自分からはかけ離れた出来事なんだけれど、

感情面で思わず納得してしまう部分ができて、

なぜか親近感をおぼえてしまうという──。

 

このギャップが埋まるのがおもしろくて、

ミステリーにせよ、サスペンス映画にせよ、SFにせよ、

私たちは作り話にのめり込むのですが、

話が壮大であればあるほど、

ギャップが埋まるときのおもしろさは増大します。

 

そういう意味で、

本書のストーリーは壮大でありながらも、

現実に沿った事物(学生紛争、南米の麻薬組織)や、

誰もがもつ感情(愛憎、嫉妬)をうまく利用して、

上手にギャップを埋めていると言えるでしょう。

 

スゴイのは、

それだけではありません。

 

この物語は、

話自体の壮大さもさることながら、

他にも妙に納得してしまうギャップの埋め方があって、

 

選考者や解説者によると、

それは「構成」だと言っていました。

 

「主人公の造形といい、文章のゆるぎなさといい、構成の妙といい、どれをとっても完璧」(乱歩賞選考委員・高橋克典

 

本作品が際立っているのは、(中略)練達した文章のうまさ、ディテールの巧みさ、きっちりと計算されつくした構成の精緻さがまずひとつにある。けれど、それ以上に光っているのが登場人物たちの多彩さと魅力であろう。(本書の解説より)

 

たしかに、

思い返せばいろいろ伏線が散りばめられていて、

最後にどかーんと回収するパターンで、

読者はここでも、

ナルホドそういうことか!

となる。

 

感情として理解ができるというより、

理屈としてガッテンがいくという感じでしょうか。

 

ただ、

自分としては、

この構成には不満があります。

 

たしかに、

よく出来ていると思います。

 

でも、

あまりにもうまく出来過ぎています。

 

とくに、

解説者が「多彩」と評している人間関係は、

こんなに偶然つながっているわけないだろ!

とツッコミたくなる。笑

 

ここからは、

ネタバレになってしまうのですが、

 

浅井と望月が師弟関係で、

浅井の死んだ奥さんは実は望月の姉で、

 

さらにその死んだ奥さんの元旦那が、

昔、自動車爆弾テロで殉死した警官で、

 

もっというと、

自動車爆弾テロで警官に助けられたのが、

江口組の三代目で、

 

江口組は、

殉死した警官をはじめ、

浅井や望月には義理があって、

 

彼らは警官を殺した犯人に、

憤りこそあるけれど、

 

自動車爆弾テロと公園爆弾テロの犯人が

目の前にいる同一人物であることを知らない望月は、

金で買収されてしまう。

 

ここで犯人と望月(江口組)がつながり、

 

その江口組と、

茶髪の布教者(西尾)は、

もともと麻薬の売買でつながっていたので、

 

西尾は望月を通じて犯人とつながり、

テロの一端を担うことに。

(ホームレスの老人を薬漬けにし、爆弾を公園に運ばせる)

 

で、

その老人を紹介したのが、

ホームレスの辰村。

 

主人公の菊池(島村)と辰村は交流があったので、

このタツを通じて、

事件のパズルが少しずつ輪郭をあらわしてくるわけです。

 

要は、

ちょっと繋がりすぎなんです。

 

意図的に繋がるのならまだわかるのですが、

偶然に繋がっていることが多い。

 

読んでいる当初から、

なんとなくこいつが犯人なんだろうな、

というアテはついていて、

 

作者はいったいどう決着をつけるんだろう?と

展開が気になったのは事実ですが、

ちょっと出来過ぎ!

というのが正直なところです。

 

犯人が南米で左翼ゲリラに加担し、

軍に急襲されて捕らえられたとき、

日本大使館の一等書記官が身柄引き渡しを要求してきた、

それが警視庁の宮坂で、

 

身柄引き渡しに応じない政府に対し、

じゃあそいつは日本でも札付きのテロリストなんで

厳罰に処してくださいと応じた、

そのせいで犯人は過酷な拷問を受けた、

 

その宮坂が日本に戻り、

かつて犯人が愛した女性とお近づきになっていて、

新宿中央公園でよく落ち合っている、

 

しかもその新宿中央公園には、

かつての学生時代のライバルもいる、

 

ならばいっきに殺っちまえ!

 

──ということで、

新宿中央公園の爆弾テロが起こるわけです。

 

これだって出来過ぎ。

 

こんなにうまく、

ターゲットが一か所に集まるわけないでしょうよ…

と思ってしまうのです。

 

なんなら、

2~3回爆弾テロを分けるくらいしてほしかったし、

せめて、

宮坂が優子を慕うという設定はやめたほうがよかったと思います。

 

不満はそれ以外にもあって、

 

犯人は爆弾に関してはプロで、

緻密に計算されているにもかかわらず、

 

かつてのライバルを、

結果として

抹消できなかった(あえてしなかった?)のもよくわからないし、

 

事件のあと、

そのライバルを殴るだけで、

殺さなかったのも不可解すぎました。

 

作品のなかでは、

その理由を「ゲーム」だからといっており、

ライバルがやがて自分にたどり着くか?という挑戦だった、

というような読み取り方もできますが、

 

なんかパッとしない。

 

そもそも、

作品全体が抽象的な言い回しが多くて、

明らかにそれとわかるような表現が少ないのです。

 

解説者は、

 

「まず会話のうまさに舌を巻いた」

 

という選考委員の声を取り上げて紹介しているのですが、

 

自分は、

どうもこれには賛同できません。

 

たしかに、

全体的に登場人物の口調や文章そのものは、

「ゆるぎない」し「うまい」とは思います。

 

なんというか、

よくアメリカ映画で見かけるような、

気障な言い回しが多く、

各人ともそれが徹底されている。

 

でも、

自分としては、

そんな遠回しな言い方しないでハッキリ言えばいいのに…

と思って若干イライラしました。苦笑

 

だって、

わかりづらいし…!

 

それこそメタファーがかかりすぎている。

 

いくらヤクザでも、

普段からこんな気障な言い方する人いないでしょ?

とツッコミたくなるようなセリフが多くて、

自分としては戴けなかったです。

 

おっとーいかんいかん。

 

五木寛之さんの本なんかも読んで、

もっと曖昧さを楽しまなくちゃいけないって、

ここのところ意識するようになったのに、

 

早速、

白黒ハッキリさせねば!と

イライラしている自分がいます…。

 

まだまだですな。

 

■まとめ:

・一気読み・徹夜読みにおススメできるくらい、先が気になるストーリーで引き込まれ感はハンパない。

・時間的にも空間的にも、物語が縦横無尽に行き来し、壮大。壮大だけれども、現実に沿った事物(学生紛争、南米の麻薬組織)や、誰もがもつ普遍的な感情(愛憎、嫉妬)をうまく利用して、フィクションとのギャップを上手に埋めている。自分からはかけ離れた出来事なんだけれど、感情面で思わず納得してしまう部分ができて、なぜか親近感。

・でも、構成に不満あり。とくに人間関係(繋がり)がうまく出来過ぎている。偶然すぎて、せっかく埋まったギャップ(現実感)が遠のいてしまう。気障な言い回しが多く、登場人物の真意がわかりづらいのにもイライラした。

 

■カテゴリー:

ミステリー

 

■評価:

★★★★☆

 

▽ペーパー本は、こちら

テロリストのパラソル (講談社文庫)

テロリストのパラソル (講談社文庫)

 

 

Kindle本は、こちら

テロリストのパラソル 角川文庫

テロリストのパラソル 角川文庫