グレイヴディッガー ★★★★☆

高野和明さん

グレイヴディッガー (講談社文庫)

を読み終えました。

 

評価は、星4つです。

 

はじめてこの作家さんの作品を読みましたが、

うーん、面白かった!です。

 

星1つ足りないのは、

いつものごとく、

個人的なイチャモンでしかありませんので、

読む人によっては気にならない方も多いのでは?

 

そうなれば、星5つです。

 

ぶっちゃけ、

5つでもいいかも…と思うくらい、

面白かったです。

 

次の作品が読みたい!

 

▽内容:

改心した悪党・八神は、骨髄ドナーとなって他人の命を救おうとしていた。だが移植を目前にして連続猟奇殺人事件が発生、巻き込まれた八神は白血病患者を救うべく、命がけの逃走を開始した。首都全域で繰り広げられる決死の追跡劇。謎の殺戮者、墓掘人(グレイヴディッガー)の正体は?圧倒的なスピードで展開する傑作スリラー巨編!

 

この作品、

読めばわかるんですが、

話自体は、24時間も使っていません。

 

要は、

1日もたってないうちに、

追跡劇や連続猟奇殺人、

そしてその捜査が展開されるのです。

 

読み終わって、

そういえば、この話って1日もかかってないんだよな、

──と気づく。

 

結構、

いろんなことが盛りだくさんだったはずなのに、

実はすべて24時間以内の出来事なわけです。

 

ドラマにしたら、

日本版の24みたいな。

 

主人公の八神は、

職業こそ違えど、

さながらジャックバウアーじゃないか、と。

 

解説に、

軸となるストーリーは、実にシンプルなのだ。十六時過ぎに友人の暮らす赤羽の部屋を訪れ、そして死体を発見した八神が、翌日の朝九時までに大田区の六郷土手にある病院に辿り着けるか。それだけなのである。

とありますが、

そのたかだか17時間のあいだに、

得体のしれないグループに追いかけられるわ、

そのグループのメンバーが別の何者かに次々と殺されるわ、

自分は重要参考人として指名手配されるわで、

踏んだり蹴ったりなのです。

 

でも、

白血病で苦しむ誰かのために、

人生で一度は善行をしたいと決めた八神にとって、

諦めるわけにはいかない。

 

何がなんでも骨髄移植を受ける病院に、

辿り着かなければいけないのです。

 

解説者(村上貴史氏)の言葉を借りれば、

このタイムリミットがあるからこそ、

物語は「冒険的」で「疾走感」のある作品に仕上がっているわけで、

その背景設定のうまさには、

確かに舌を巻くものがあります。

 

登場人物のギャップもよかった。

悪党のくせに実はいいヤツだったり(八神)、

融通が利かない捜査官のわりに、

人情的なところもあったり(剣崎)。

 

自分はあまり好きではないですけど、

男っぽい無骨なようで気障っぽい会話もドラマティックで、

こういうシーンに心温まっちゃう読者もいるんじゃないかと思いました。

 

私はそういう部分は、

作者の意図が見えすぎて、

逆に気持ち悪く感じてしまうほうなのですが、

ドラマ的には悪くはないと思います。

 

物語は冒頭から、

麻薬の売買中におこった喧嘩で、

被害者の死体が消えてしまうという事件から始まるのですが、

 

このセンセーショナルで不可解さが残る事件を筆頭に、

内容は違えど、

次々と別のまたセンセーショナルで不可解な事件が続くわけです。

しかも、わずか十七時間のあいだに。

 

そのわずかな時間のあいだに、

主人公は逃げ続け、

センセーショナルで不可解な事件たちに遭遇しながら、

逃走劇が展開されるのです。

 

目が離せないわけがない。(笑)

 

そして物語を、

いろんな人の視点から描くので、

これがまた立体的になって話を面白くさせるのです。

 

八神や捜査の実務トップ・越智管理官はモチロン、

あるときは、監察官・剣崎の視点から、

あるときは、その剣崎とタッグを組むことになった古寺の視点から、

そしてあるときは、事件を目撃したイチ主婦の視点から。

 

解説ではこれを、

実に印象的な”見せ方”

と評し、

次のように褒めています。

例えば、(中略)学者の話を聴く警察官、帰宅途中のOL、夕飯の支度をする主婦という三つの視点によって、ある事実を描き出している場面だ。これら三つの視点はそれぞれ独立しているが、本書のようなかたちで描かれることで、その間にしっかりとバトンのリレーが行われ、単に事実を語るより何倍も何十倍も印象的なかたちで、その出来事が読者にぶつけられるのである。

 

全くその通り。

こういうところも本当に24みたいです。

 

解説から知りましたが、

もともと高野さんは、

作家になる前に映画関係の仕事をされていたそうで、

映画を観ながら、

上映中の時間の経過と、

それぞれの時間を費やして描かれる内容の関連を分析していたことが

なんどもあるとか。

 

そうすることで、

何をどうやってどの順番で見せると効果的かを学んだんだそうです。

 

そうした経験が、

小説のほうにも活かされているんだとか。

 

個人的には、

24観まくってたんじゃないかと思いますけどね。(笑)

 

この効果的な見せ方によって、

次々におこるセンセーショナルで不可解な事件が、

少しずつ繋がりを見せはじめ、

パズルが出来上がってくるのです。

 

なるほどー、そういうことなのか!

ということは、こういうことか?

という、

ぼんやりしたシナリオが見えてくると、

もうあとはその階段を駆け上がるだけ。

 

その名の通り、

ラスト・スパートです。

 

こうした筋書きと見せ方のうまさは絶妙で、

話の中身としては、

難しい用語や表現もわりとあるんですが、

とにかく一気読みできた作品でした。

 

私は最後の最後まで、

グレイヴディッカーという英国の伝説が、

本当にあるものだと思っていたら、

なんとこれは作者の創作だったそうです(!)。

 

真面目で誠実な法螺吹き (by解説者)

とはよく言ったもので、

「グレイヴディッカー」の伝説は、

要は作家の法螺なわけです。

 

それを、

いかにも実際にそんな伝説が存在したかのように、

真面目に緻密に描いているのです。

 

でも、

それはただの突拍子もない思いつきではなくて、

何かをベースにして、

いかにもありえそうなものに脚色していくからこそ、

そこにリアリティーが供わっていくそうで、

作者なりの多大な努力・想像力が費やされているのだとか。

 

もはや、

超人的なスキルとしか言いようがありません。

 

とはいえ、

次々に起こる猟奇殺人が、

「グレイヴィディッカー」なる伝説の墓堀男を模しているというところまでは

全くOKなんですが、

 

その猟奇殺人とプロローグの死体盗難事件がリンクするのが、

ちょっと浅すぎる(短絡的すぎる)んじゃ?と思い、

星1つ減点となりました。

 

話の流れとしては、

捜査を担当していた越智管理官が、

その「リンク」(繋がり)に気づくのですが、

 

1.連続して起こる猟奇殺人がどうも何かを模してるくさい

2.学者とかに聞いてみたら、どうやらイングランドの伝説「グレイヴディッガー」、そんな殺し方がしていた

3.グレイヴディッガー=墓堀人=蘇る死者

4.そういえば、ちょっと前に死体がなくなった事件があったな

 

3.までは、わかるのです。

問題は、3と4の間というか、

3から4への飛び方で。

 

そんな簡単にリンクするか?

結構、溝があると思うけど…

と個人的には納得がいきませんでした。

 

そもそも、

プロローグの事件は、

「死体が消えた事件」として語られており、

「死体が蘇った」的な要素は小さかった。

 

まったくゼロではないですけど、

少なくとも自分が読んだ限りでは、

「死体が消えた」「誰かが盗んだ」不可解な事件というものでした。

 

あそこでもっと「死体が蘇った」的な書き方や、

その布石が敷かれていれば、

もう少しこの溝は埋められたんじゃないかと思います。

 

そこが惜しかったです。

 

でもこの作品、

ドラマにしたら本当に面白いと思います。

 

次は何読もうかなー。

 

■まとめ:

・1日もない時間のなかで、次々とセンセーショナルで不可解な事件が起こり、逃走劇と大捜査が繰り広げられる。さながら日本版の24。最後まで目が離せない。

・ストーリーの筋書や見せ方のうまさは絶妙で、一気読み必至。

・「グレイヴディッカー」なる伝説の創話自体は、リアリティーがあって凄いが、その伝説とプロローグの事件が結びつくのが尚早というか、材料が足りなさすぎた。惜しい。

 

■カテゴリー:

ミステリー

 

 

■評価:

★★★★☆

 

 

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グレイヴディッガー (講談社文庫)

 

 

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