狭小邸宅 ★★★☆☆

新庄耕さん

狭小邸宅 (集英社文庫)

を読み終えました。

 

評価は、星3つです。

 

初めて知った作家さんで、

83年生まれ。

お若いですね!

 

イマドキの若者から見る、

厳しいサラリーマン社会の現実が描かれていて、

まぁ要は、

いわゆる「ブラック企業」の世界なんですけど、

怖いもの見たさでついつい先を読んでしまう感じでした。

 

文字も大きくて、

200ページに満たない薄い文庫本なので、

ほんとあっという間に読めます。

 

 

▽内容:

学歴も経験も関係ない。すべての評価はどれだけ家を売ったかだけ。大学を卒業して松尾が入社したのは不動産会社。そこは、きついノルマとプレッシャー、過酷な歩合給、挨拶がわりの暴力が日常の世界だった…。物件案内のアポも取れず、当然家なんかちっとも売れない。ついに上司に「辞めてしまえ」と通告される。松尾の葛藤する姿が共感を呼んだ話題の青春小説。第36回すばる文学賞受賞作。

 

上記の内容紹介(引用)では、

【青春小説】となっていますが、

本作は不動産会社を舞台にした、

一種の【経済小説】でもあります。

 

【青春小説】というカテゴリーで言えば、

自分も新卒で入社したときって、

こんな感じだったなぁ…と共感できる部分がありました。

 

解説者(城繁幸さん)の言葉をお借りすれば、

 

目的もないままなんとなんなく大学に進学し、周囲がすすめるからという理由でなんとなく就職してしまう。「なぜ畑違いの不動産業に?」と聞かれても自分でもよくわからない。そこが合わないとわかった後にも、目的がないからずっと足踏みし続けている。

 

まさにそんな感じです。

 

それなのに、

久しぶりに大学時代の仲間なんかに会うと、

忙しいアピールしたり、

高尚な仕事してる感を出したり、

──いま思い出すと、恥の極みです。

 

中2病ならぬ、

社会人2年目病みたいな。

 

城さんは、

こんな主人公の姿を「典型的な悩める若者」と言っていましたが、

であればかつても自分も、

そうだったのかもしれませんけれど、

 

今の私に言わせると、

ただのバカだったんじゃないかとさえ思います。

 

「悩める若者」って、、、

そんな感傷的なもんじゃなくて、

勉強不足で世間知らずなだけ。

 

(当時の自分を含め)

日本の大学生ほど、

バカで無意味な存在はないんじゃないかと、

本当にそう思います。

 

さて、

そんなおバカさんだった私も、

当時は本当に何をしていいのかわからず、

とりあえず就活をしていたという人間でして、

不動産業界もいくつか受けた記憶が。

 

・体育会系

・ノルマ

・休みなし

  :

 

当時からなんとなく、

こうしたキーワードは聞いていたような気もしますが、

この作品を読んで感じたのは、

まさかここまでスゴイ世界だとは!

ということですかね。

 

もちろん、

会社にもよるでしょうし、

これはあくまでフィクションですから、

一概には言えませんが、

 

それでも実態としては、

不動産業界なんていうのは、

わりとこの小説に近いんじゃないのかなと思います。

 

暴力的で、

理不尽で、

厳しいノルマの世界。

 

作者の新庄さんは、

この世界にいた人間なのかな?

と思ってしまうくらい、

臨場感あふれるブラックワールドを描かれています

 

主人公の松尾には、

共感できるとこもありましたが、

なかなか辞めないところがよくわからなくて、

なんでそんなにしがみついてんの?

と逆にイライラした部分もありました。

 

まぁその本人も、

なんでしがみついているのか、

よくわからないみたいでしたが。

 

それでも、

彼が左遷(異動)になった支店で、

直属の上司(豊川)からいろんなダメ出しをされます。

 

まだ一件も売ってないくせに、

自分なりの仕事論を見出そうとしてるけど、

頭でっかちになるな。

 

自分はほかのやつらとはちょっと違うんだ、

自分だけは特別なんだ、

なーんて思ってたら大間違いだぞ。

 

その本質を指摘されてから、

松尾は少しずつ成長をみせ始めます。

 

そしてついに、

会社でも肝いりの物件を売ることに成功するのです。

 

僕は満面の笑みを浮かべて、

「買いましょう」

と言った。惑いなく言いきった。

このひと言が言えなかった。検討してくださいとか、お願いしますとか、核心を避け、婉曲的な表現で濁してしまう。全く売れない営業マンが口にする言い回しを使ってばかりいた。客に対してはっきりものを言うことが何となく悪いような気がしていた。

 

このシーンは良かったですね。

 

なぜ自分が、

今までうだつのあがらない人間だったのかといえば、

自分のダメなところを知ろうともしなかったから、

──これに尽きます。

 

会社がどうとか、

これまでの環境がどうどか、

そんなことだけ理屈で考えていたって、

何もかわらない。

 

なぜ仕事がきついのか?

──ノルマや残業が多いから。

 

なぜノルマや残業が多いのか?

──不動産業界の掟だから。

 

じゃあなぜ不動産業界に入ったのか?

──ただなんとなく。

 

ここまできて、

あー俺ってバカだよなぁ…

となるパターン。

 

わかりますわかります、

私もそうだったから。

 

でも。

いやしかし。

 

そういう根本のところで振り返るのも大事なんですが、

 

そもそも、

なぜ仕事がきついのか?

という問いが発生するということは、

当然、仕事が面白くないわけです。

 

 

大変でも面白いと思える仕事や、

大変でも面白いと思える時間って必ずあります。

 

でも、

きついなーいやだなーと思っているということは、

面白いと思えていないわけです。

 

じゃあ、

なんで面白いと思えないのか。

 

答えは簡単です、

成果が出せていないから。

 

成果が出せていたら、

それが仮に周りが納得しなくても、

自分が納得できていれば、

少しは面白いと思えるし、

それで周りがギャーピー言うなら、

たぶんもうその会社にはいないでしょう。

 

でも、

なぜかいるんです。

 

それは単純に、

自分にも周りにも、

納得できる成果が出せていないからなんじゃないかと。

 

要は、

負け犬なのです。

 

そこに気づかない。

 

気づかないまま、

「自分とは性が合わなかったので」、

「新たな可能性を探したくて」、

そんなきれいな言葉で転職活動したりする。

 

ただ負けただけなのに、

こうなるともうアホでしかない。

 

私を含め、多くの人間は

自分の負けを認めたくない。

 

成果が出ないのは、

「興味がないから」と言ってしまえば早いんですが、

いったんそれは置いておいて、

 

自分の仕事のやり方で、

何が足りないから成果が出ないのかを、

もっとクリティカルに考えたほうが良い。

 

きっと上司の豊川課長は、

そんなことを松尾に教示したかったんでしょうね。

 

でもこれって、

自分にも当てはまることで、

感情の部分での本音(もともと興味がなかった…)と、

スキルの部分での本音(自分にはこれが足りてない)を、

素直に認める必要があるなぁと思いました。

そうしないと何も始まらない。

 

そんなことを、

改めて考えさせられた一冊でした。

 

さて、

この豊川課長がまたミステリアスな存在で、

結果的には、いい人なんですけど、

なんでこんな理性的でアタマもきれる人が、

(大手商社を辞めて)こんな会社にいるのかもよくわからないし、

それは最後までグレーです。

 

そして、

本格的にこの仕事の面白さと一層の厳しさを知った松尾が、

これからどうなってしまうのかも、

最後まで読み終えてもグレーです。

 

きっと葛藤しながら続けるでしょうけれど、

彼の前にエリート営業マンとして君臨していたジェイさんは、

独立して自分で不動産業を営むことになりましたけれど、

果たして松尾がそれをやるのか?といったら、

絶対やらなさそうだしなぁ。

 

ならば結局、

体壊して辞めざるを得なくなるんじゃ?とか。

 

──そうやって、

読了後もいろいろ想像できるのは、

読者によってはそれが醍醐味という人もいるでしょうけれど、

私はスッキリしなくてむしろ気持ち悪い読了感でした。

 

というわけで、

この作品、

いろいろグレーな部分がちょいちょいあります。

 

結局、作者は何を言いたかったんだ?

どう落としどころをつけたかったんだ?

──というのがよくわからなくて、

たぶん、1ヶ月もしたら、

もう内容忘れてしまうであろう小説です。

 

そういう意味で星3つなのですが、

それでもこの主人公が、

こんなブラックな会社でどんな進退を見せるのか気になって、

ついついページをめくってしまう

そんな作品でした。

 

■まとめ:

ブラック企業の不動産会社で働く、青年サラリーマンの奮闘記。主人公が、こんなブラックな会社でどんな進退を見せるのか気になって、ついついページをめくってしまう。

・仕事との向き合い方について、あらためて考えさせてくれる本。

・終盤、結局主人公はこの先どうなるのかわからない感じで終わってしまう。この尻切れトンボ感が個人的には残念。苦しくてもこのまま仕事を続けるべきなのか?の作者の答えがが見えなくて、読了感としては気持ち悪い。

 

 

■カテゴリー:

経済小説

 

 

■評価:

★★★☆☆

 

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狭小邸宅 (集英社文庫)

 

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