ハピネス ★★★★☆

桐野夏生さん作

ハピネス

を読みました。

 

評価は、星4つです。

 

期待していた以上におもしろかった!

 

この人はやっぱり、

女性の陰湿な世界とか、

嫉妬・欺瞞・確執とかを描くのがめちゃくちゃ上手。

 

わりと暗い作品が多いけれど、

女性の方であれば、

結構、

共感できる部分はあるんじゃないでしょうか?

 

▽内容:

三十三歳の岩見有紗は、東京の湾岸地区にそびえ立つタワーマンションに、三歳二カ月の娘と暮らしている。結婚前からの憧れのタワマンだ。
おしゃれなママたちのグループにも入った。そのリーダー的な存在は、才色兼備の元キャビンアテンダントで、夫は一流出版社に勤めるいぶママ。
他に、同じく一流会社に勤める夫を持つ真恋ママ、芽玖ママ。その三人とも分譲の部屋。しかし有紗は賃貸。そしてもう一人、駅前の普通のマンションに住む美雨ママ。
彼女は垢抜けない格好をしているが、顔やスタイルがいいのでいぶママに気に入られたようだ。
ある日の集まりの後、有紗は美雨ママに飲みに行こうと誘われる。有紗はほかのママたちのことが気になるが、美雨ママは、あっちはあっちで遊んでいる、自分たちはただの公園要員だと言われる。
有紗は、みんなには夫は海外勤務と話しているが、隠していることがいくつもあった。
そして、美雨ママは、有紗がのけぞるような衝撃の告白をするのだった……。
「VERY」大好評連載に、新たな衝撃の結 末を大幅加筆!

 

はじめて桐野さんの作品を読んだのは、

東京島』だったかと思います。

無人島に漂着し、

逆ハーレムのなかで女を売りにしながら、

いかに貪欲に狡猾に生き延びるかという話。

(…だった気がする)

 

結構、衝撃的だったなぁ。

その後、映画化もされていましたね。

(映画は観ていません)

 

それから、

OUT(アウト)』も読みました。

 

弁当工場で働くパート主婦たちの、

閉塞感・陰湿なエネルギーをこれでもかというほど

描き切った作品。

 

個人的にはこっちのほうが衝撃的だったし、

先が気になって一気読みしました。

 

これで味をしめてから、

次に手をつけたのが『グロテスク』。

 

美しい妹と醜い姉・級友たちの、

名門女子校に渦巻く嫉妬や悪意、

その後の人生の転落を描いたもの。

 

こちらも全体的に暗いのですが、

暗いという点においては、

先の2作品とそれほどかわらないものの、

読了感はこれが一番、

どんよりした気分になったのを憶えています。

 

あと、

全体を通して淡々とした語り口調だったのもあって、

先を読ませるようなスピード感には欠けていました。

 

で、

桐野さんの作品のなかでは、

本作が4作目となるわけです。

 

今回は、

ママ友の世界がテーマになっています。

 

先の3作が、

無人島やら弁当工場やら娼婦の世界で生きる女性を

フォーカスしているのに対し、

 

こちらは、

豊洲の高層マンションに住む

ママたちの世界に照射をあてている。

 

前者(群)が、

わりと社会の底辺を描いていたのに対し、

後者は、

いわゆる”勝ち組”的なセレブママたちを描いている。

 

桐野さんのファンの中には、

これがちょっといただけないと言う方もいらっしゃるようで、

 

Amazonのレビューを読むと、

どうした?!」という声や、

らしくない」という声、

主人公の生き方、(ママ友の世界の)描き方も、すべてが中途半端」といった声が

目につきました。

 

たしかに、

先の桐野作品を読んだ限りでは、

すべてに共通するのは、

読了後の”救いようのなさ”で、

陰湿さ・閉塞さすべてが尖っている。

 

でも、

この作品は、

意外とハッピーエンドだったりもする。

”救われた”感がある

 

子育てやママ友、

タワーマンションの無機質な人間関係など、

ねっとりとした閉塞感という点においては、

桐野さん特有の雰囲気はあると思うのですが、

 

”えーそこまでいっちゃう?!”

”ヤバい、どん底感ハンパない…”

 

──みたいな”どろっどろっ感”は、

この作品は薄かったかもしれません。

 

しいて言えば、

”ちょいどろ”かなぁ。

 

だから、

桐野作品が大好きという方には、

パンチが弱いと感じられたんだと思いますが、

自分としては、

以下3つの観点から、

総じて高い評価になりました。

 

1.ストーリーの展開が気になり、思わず一気読み

 

ここで描かれているママ友とかタワマンの世界は、

自分からすると、

マジでアホらしいと思うし、

逆に可哀想だなとも思ってしまうくらいなのですが、

 

世界観はさておき、

ストーリーの展開としては、

興味をひきつけられました。

 

ママ友どうしの色恋沙汰がいつバレて、

どう揉めて、

そして、

どのように彼女たちの仮面がはがれていくのか、

 

あるいは、

主人公がママ友たちの間で見せているソトヅラも、

いつか本当の姿がバレてしまうのか?

 

そしたら、

主人公もタワマンを出るのか?

夫とは離婚するのか?

もう一人の子はどうするのか?

 

…などなど。

 

なんだかんだ気になって、

一気読みしてしまいました。

 

主人公の人生のリスタートに関しては、

私も、

こんな終わり方ってあるか?

綺麗にまとめすぎなんじゃ?

──と、

ちょっと物足りなさを感じた一人ではありますが、

 

思わず一気読みしてしまったという意味では、

それなりにハラハラドキドキして面白かった

と思います。

 

舞台設定(豊洲)が、

自分の住んでいるところに近いということも、

惹きつけられやすかった点ではありますが。

 

2.子供は絶対イヤだという気持ちと、子供ってやっぱりいいなという気持ちが両方発生

 

先に書いたことと若干重複しますが、

本書で描かれているママ友の世界が、

わりとリアルな実態であるとしたら、

たとえそれが極端なケースであるにしても、

 

自分は絶対、

子供を持つ親になりたくないし、

間違ってもタワーマンションなんかで生活したくない、

と思ってしまいました。

 

私が普段よく通る公園でも、

ママさんたちがよく集まってワイワイやっているんですが、

あのなかにいったいどれくらいの

愛想笑いや社交辞令が渦巻いているかと思うと、

めちゃくちゃ気持ちが悪い。。。

 

色眼鏡で見過ぎという自覚はありますが、

ただでさえそんな自分なのに、

いくら子供のためだからと、

ましてや見栄や嫉妬だらけのタワマンセレブに混じって、

着ている物や乗っている車、

住んでいる階数や子供の進路などを、

チェックしチェックされるような世界なんて、

絶対にごめんだと思ってしまいます。

 

つまりは、有紗たちもママも、子供という生き物と、それに伴う雑多な物や出来事を、どう大人たちの暮らしに合わせてアレンジしていくかという闘いを続けているのだった

 

ここでいう「大人たちの暮らし」とは、

社会的なルール・常識が守られる合理的な空間であり、

見栄や嫉妬が渦巻く腹黒い空間でもあります。

 

そこに子供を合わせる。

 

あるいは、

(子供がいることで)

子供をもつ親たちの世界に合わせる。

 

それならいっそ、

子供なんて持たない方がいい。

 

ついつい、

自分はそう思ってしまうのです。

 

でも、

先のレビューアさんから

”中途半端”とダメだしされていた主人公(有紗)ではあるものの、

そんな主人公が立ち直る原動力になったのは、

娘(花奈)の存在が一番大きかったと思います。

 

他の子に比べてどんくさくて、

発育も少々悪い娘だけれど、

けなげで無垢で優しい女の子。

 

この本を読んでいると、

ママたちがどいつもこいつも腹黒すぎるせいもあって、

子供(なかでも花奈)がとても清らかで、

いとおしい存在に感じてくるのです。

 

そして、

そんな三歳の小さな女の子が、

主人公を救い、奮い立たせ、離れた夫婦を一つに戻す。

 

──となると、

やっぱ子供っていいなぁ!とも思ってしまう。笑

 

この点も、

本書の”救われた”感のひとつで、

 

私の中に、

このような子供に対するアンビバレントな感情が生じました。

 

3.結末の”ちょい”どんでん返しには、喝采と不完全燃焼の複雑な後味

 

前掲の【内容】にも転載したとおり、

物語の最後は、

「新たな衝撃の結末」が出迎えてくれるわけですが、

 

おそらくそれは、

1でも取り上げた、

ママ友どうしの色恋沙汰で、

 

具体的には、

「いぶママ」vs「みうママ」の勝敗の行方かと思います。

 

要するに、

結局、そっちが勝っちゃうのかよ!?

というオチがあるわけですが、

 

このオチ自体は、

どうも私はしっくりきませんでした。

 

なんというか、

モヤモヤ感・残尿感がある感じです。

 

じゃあ、

いぶママの、

あの銀座デートはなんだったんだ?

という疑問が浮かび上がるのですが、

 

それはきっと、

いぶママが自慢していたような、

「妊娠」がきっかけなんかじゃなくて、

 

有紗が想像していた、

(わが子の)「青学合格」か、

あるいは、

浮気がばれかけた夫が、

ご機嫌とりのために仕込んだものか、

たぶんそのどちらかでしょう。

 

このへんがわかりづらくて

若干イラっとしました。

 

どうせ「みうママ」と「いぶママ」の夫が結ばれて、

その前に「いぶママ」の化けの皮を剥いでいくなら、

彼女のついたウソを、

思いっきり・わかりやすくなじってほしかったです。

 

こちらとしては、

「いぶママ」の醜態がどんどん明らかになっていくにつれて、

よっしゃザマーみろ!的な気持ちになっていただけに、

最後の終わり方が本当に微妙すぎました。

 

いや、それで、

「みうママ」と「いぶママ」の夫が

よりを戻すというのも別にいいんですが、

なんかそれにしては脇の固め方がザツだなぁ…

という印象をもちました。

 

ところどころ、

”中途半端”な感じはありましたが、

私個人としては、

概ね面白かったという感想です。

 

でもこれ、

先のレビューアさんがご指摘のとおり、

たしかに有紗の生き方は”中途半端”で、

そんな主人公に「共感できない」という声もあるように、

 

男手を頼らず女手ひとつで子供を育てているシングルマザーとか、

あるいは結婚したくてもできない、

子供が欲しくてもできない、

世の中の女性からすると、

 

なんてお気楽なヤツなんだ、

甘ったれんじゃねーよ!

 

という声も聞こえてきそうです。

 

そういう意味では、

彼女の生き方それ自体は、

いまこのご時世では、

同じ女性からの共感(賛同)を得られにくいと思いますが、

 

彼女の生きる世界(ママ友や女性特有の世界)は、

拒否反応を示されながらも、

あるある・わかるー!

といった共感が得られるのではないでしょうか。

 

文庫化されるのも、

時間の問題ですな。

 

■まとめ:

・ママ友の世界に渦巻く閉塞感を描いた作品だが、桐野夏生さんにしては、珍しい?ハッピーエンド。桐野さん特有の”どろっどろっ感”を求める人には物足りないかもしれないが、それなりに”どろどろ感”はある。

・いろいろ中途半端なところもあるが、ストーリーの展開が気になり、思わず一気読みしてしまったという点では、ハラハラドキドキして面白かったといえる。

・主人公の生き方には共感・賛同できないが、主人公を取り巻く世界(ママ友や女性特有の世界)には、(たいていの女性なら)拒否反応しつつも、あるある!わかるー!的な共感が残るのではないだろうか。

 

■カテゴリー:

小説

 

■評価:

★★★★☆

 

 

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