シャイロックの子供たち ★★☆☆☆
池井戸潤さんの
を読み終えました。
評価は、星2つです。
池井戸作品は、
『ロスジェネの逆襲』
『民王』
に続いて、
これで4作目ですが、
この作品も自分にとっては不発でした。
期待していただけに、
残念。。。
▽内容:
ある町の銀行の支店で起こった、現金紛失事件。女子行員に疑いがかかるが、別の男が失踪…!?“たたき上げ”の誇り、格差のある社内恋愛、家族への思い、上らない成績…事件の裏に透ける行員たちの人間的葛藤。銀行という組織を通して、普通に働き、普通に暮すことの幸福と困難さに迫った傑作群像劇。
この本は、
全部で十話から成っており、
一話一話が、
同じ銀行に勤めながらそれぞれ違う人間の視点で描かれています。
そのバラバラな視点を紡ぎ合わせながらも、
ひとつのストーリーができあがるよう、
うまく構成されています。
一見、
それぞれが独立した話かと思いきや、
実はつながっているという、
ありがちな構成ですが、
こういう書き方ができる作家は
(漫画家も含め)なにげにすごいと思います。
小説やマンガなんて描いたこともありませんが、
自分のような素人には、
こんなストーリーの構成力はきっとないわけで。
でもそれだけに、
今回の作品は登場人物も多く、
誰が誰だかよくわからなくなって難儀しました。
池井戸さんの作品には、
「難儀する」ということが、
そもそも自分のなかではあり得ないので、
そうあって欲しくないですし、
難儀せずとも上手にストーリーを構成し、
こうつながるのか!こう来るのか!と
ある種の快感を与えるのが彼の凄さだと思っていたので、
個人的には、
今回は残念な読了感でした。
解説を、
霜月蒼(シモツキ アオイ)さんという、
ミステリ研究家の方が書かれているのですが、
彼?彼女?の書評がまた、
歯が浮くような褒めっぷりで、
自分は若干ひいたのですが、
その解説でも、
この登場人物の多さについて触れられています。
ただ、
自分とは違い、
解説者はこれを大絶賛していました。
じつは本書、フルネームが書かれている行員だけで二十人以上にのぼる。それぞれのキャラクターはきっちり書き分けられている──有能なのは誰で、お調子者が誰で、困ったときには誰を頼るべきで、最低なのは誰なのか。それがきっちり伝わるから、いつの間にか読者は、銀行の現場の仕事を学び、支店の人間関係のなかに入りこんでしまい、気づけば行員たちの悩みや喜びに合わせて一喜一憂するようになっているのだ。
自分は、
このコメントには、
あまり同意ができません。
二十人以上にのぼるそれぞれのキャラクターが、
本当に「きっちり伝わる」のか?
ぶっちゃけ私は、
伝わらなかったです。
副支店長の古川は、
各話を通して、
概して「最低」の類に入ると思われるキャラクターですが、
彼がそういう人間になってしまった経歴も描かれていて、
仕方ないよなーとも思ってしまう。
それぞれのキャラクターが「書き分けられている」のは、
その通りなんですが、
それは当たり前といっちゃ当たり前なわけで、
その場で「お調子者」を演じていた人物はいても、
本質的な「お調子者」なんて登場しなかったですし、
本当に「最低」と白黒つけられる人物も、
果たしてよくわかりません。
強いて言えば、
支店長の九条がそれにあたりますが、
じゃあ副支店長(古川)は?
というと、
前述のとおり、
自分のなかではグレーです。
第一話では、
彼がパワハラを犯すに至る経緯が描かれていますが、
彼には彼の言い分があって、
それなりに一生懸命、
銀行人生を歩んできたわけで。
人物のグレーさでいうと、
現金紛失事件の犯人をつきとめた西木もそうです。
一見、部下思いで、
組織にも迎合せず、
銀行ではアウトローでありながらも、
ニュートラルな感覚の持ち主。
彼は事件の真相を知ったことにより、
犯人によって抹殺されてしまう悲劇のヒーローと化すのですが、
最終章で、
思いがけぬ展開が待ち受けていました。
実は西木は死んでおらず、
自らが私的に抱えていた巨額の負債を帳消しするために、
あえて存在を消した…?
だとしたら、
コイツは相当のタヌキです。
解説にも、
最後のドンデン返しで、ある人物にまつわるイメージががらっと変わる
とありましたが、
これは、
まぎれもなく西木のことだと思います。
結局、
自分の読解力の乏しさもあって、
オチはよくわからないんですが、、、
このように、
私の中ではそれぞれの人物像が、
決して解説者のいうようにハッキリしていませんですし、
作者自身もそれを狙っていたとはとても思えないのです。
「いつの間にか読者は、銀行の現場の仕事を学び、支店の人間関係のなかに入りこんでしまい、気づけば行員たちの悩みや喜びに合わせて一喜一憂するようになっている」のは、
まあそうなんですが、
それは、
それぞれの人物がクリアーに伝わるからではなくて、
むしろその逆で、
それぞれの人物像がグレーな部分もあるから、
だからよりリアルさを感じると思うのです。
現実の人間関係って、
グレーなことのほうが多いですし。
好き嫌いはあっても、
こいつが悪者でこいつが善者、
だなんて結構決められない。
それが現実の世界です。
だから私は、
解説者のこの評には、
どうも納得がいきませんでした。
とはいえ、
人物像がよくわからないまま終わる・読み取るのに難儀するというのは、
池井戸作品にはあって欲しくない側面でした。
いっそ、
西木のオチ(最後のドンデン返し)も、
古川副支店長の最初の一幕も、
最初からなかったほうが、
全然シンプルでよかった。
これ↑を言ったら、
身も蓋もありませんが…。
第二話の友野のハナシもそう。
このシーンいる??
全然、今回の「事件」に関係ないじゃん!
とすら思いました。
池井戸作品には、
すべてにおいてその底流に「義憤」があると、
書評では述べられています。
でも、
今回の「義憤」はちょっと違うと、
解説者は言います。
本書にも義憤はもちろんこめられている。だが、そこにひねりが加えられているのが大きな特徴だ。最後のドンデン返しで、ある人物にまつわるイメージががらっと変わるまで、組織の理不尽に対する復讐劇が読者の眼から隠されているからである。そして、それが明らかになった瞬間に一気に浮かび上がる「ある人物」のアンチヒーローぶり!これがじつにカッコいいのだ。「ふざけんな」と吐き捨てはしないけれど、この人物もまた、池井戸潤の義憤を体現していることは間違いない。
これもまた、
私は同意できませんでした。
このオチ、
「カッコいい」か?
全然カッコよくなかったですし、
そもそも「ドンデン返し」ということすら、
わかりづらかった。
作者が意図した「ドンデン返し」が、
読者に伝わらないほど不毛なことってありません。
ホームランを打つはずだったのに、
チップに終わった、みたいな。。。
そこに、
「カッコよさ」もクソもないです。
解説は、
行員たちの発見がモザイクのように積み重なり、犯罪の全貌が見えた瞬間、それまで見てきた幾人からの行員の「真の顔」が電撃的に明かされ、「東京第一銀行長原支店」という小宇宙の秩序が根底から引っくり返る。じつに鮮やかなドンデン返しなのだ。しかも読み終えたあとで各話を再読すれば、真相へ至る手がかりや伏線が随所にちりばめられていたことに気づく寸法になっている。
と続くのですが、
きっと、
再読すれば新たな発見があるとは思うものの、
オチに共感ができないので、
いまいち再読する気が起こりませんでした。
「シャイロックの子供たち」というタイトルのとおり、
結局、
銀行なんて強欲な人間だらけ、
善良な人間なんていねーんだよ!
という結末で終わるわけで、
そんな作品であるにもかかわらず、
「涙なしに読めない」と評する解説者には、
心底、うさん臭さを感じてしまいました。
なんだか、
池井戸さんどうのというより、
今回は、
解説者に対するバッシングがメインになってしまいましたが、
この解説者は、
ひさびさにクソだなと思ってしまいました。
(ボロクソ言ってすみません…)
アーメン
■まとめ:
・自分の読解力ではオチがいまいちよくわからず、結局、犯人を最初につきとめた西木がどんな人間だったのか(いいヤツなのか悪いヤツなのか?)、生きているのか殺されたのか、グレーのまま終わって、気分が悪かった。「ドンデン返し」がわかりづらいという最悪のパターンだった。
・登場人物が多すぎて、誰が誰なのかよくわからない。現金紛失事件をきっかけに行内の人間模様を描くのであれば、最初の1話(古川副支店長と小山の絡み合い)や2話(苦難の果てに大型融資を決め、シンガポールに転勤が決まった友野の話)は、いらないのでは?
・銀行という閉鎖的な組織の内情や仕事の中身が、臨場感をもってわかりやすく描かれているという点では、これまでの池井戸作品同様、一定の評価はできる。
■カテゴリー:
■評価:
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