ロスジェネの逆襲  ★★★★☆

池井戸潤さん著

『ロスジェネの逆襲』

を読み終えました。

 

評価は、星4つです。

 

いやー面白かった!

 

さすが、池井戸さん。

やっぱ、安定してますねー。

 

▽内容:

ときは2004年。銀行の系列子会社東京セントラル証券の業績は鳴かず飛ばず。そこにIT企業の雄、電脳雑伎集団社長から、ライバルの東京スパイラルを買収したいと相談を受ける。アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるビッグチャンスだ。ところが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍が入る。責任を問われて窮地に陥った主人公の半沢直樹は、部下の森山雅弘とともに、周囲をアッといわせる秘策に出た―。直木賞作家による、企業を舞台にしたエンタテインメント小説の傑作!

 

ご存知のとおり、

本作は、

オレたちバブル入行組』・『オレたち花のバブル組』に続く、

半沢直樹シリーズの第三弾です。

 

といっても、

私はTVでしか観ていないので、

第何弾とか言える立場ではないのですが、

 

この『ロスジェネ~』では、

半沢は子会社(東京セントラル証券)へ出向しているところから始まります。

 

最初は、

え?いつの間に出向しちゃったの?!

と驚きましたが、

 

たしかドラマの最終回も、

中野渡頭取から、

半沢直樹次長、営業企画部部長職として東京セントラル証券への出向を命じる」

と言われて終わっていましたね。

 

半沢直樹の「出向」は左遷、降格? 銀行に戻って役員になる可能性はないのか : J-CASTニュース

 

その後、

TBSで半沢直樹の続編が噂されていましたが、

この続編こそ、

まさに『ロスジェネ~』だったわけですね。

 

今さらですけど…(汗)。

 

結局、

続編のドラマ化は白紙になったようで、

その替わりに放送されたのが、

唐沢敏明さん主演の『ルーズヴェルト・ゲーム』。

 

こっちのほうは、

残念ながら、

私は見そびれてしまったんですが、

 

結局、脚本も演出も音楽も、

すべて『半沢直樹』と同じスタッフ。

主演が堺雅人から唐沢敏明にかわっただけ、という。

 

TBSとしても、

半沢の続編をやりたかったんだけど、

堺さん側と調整がつかず、

仕方なく別のドラマにして、

唐沢さんを起用したとか。

(※あくまでネット上で流れている情報の一端を拾った限りです)

 

ちらっと見ただけですが、

その『ルーズヴェルト・ゲーム』、

やっぱり『半沢直樹』と雰囲気がガチで似ていました。

 

そりゃそうだ。

製作スタッフ同じですから。

 

結局、

いまだ続編の目途は立っていないようですが、

小説で読んでも俄然楽しめました!

 

池井戸さんの本って、

経済小説といえども、

一般市民にもわかりやすく端的に説明してくれているので、

決して難しくない。

 

そして、

読者はハラハラドキドキしながら、

あっという間にページが進んでしまう。

 

以前、

ようこそ、わが家へ』も読んだときに、

私は以下のようにコメントしていたのですが、

 

・はじめて池井戸さんの著書を小説で読んだが、彼がなぜここまで大衆ウケしているのかがよくわかった。わかりやすい文体・表現が駆使され、親近感ある登場人物や、裏切られない勧善懲悪。これらが多くの読者から共感・支持されている所以である。

 

この小説も類に漏れず、

文章のわかりやすさといい、

登場人物への親近感といい、

裏切られない勧善懲悪っぷりといい、

まさに”池井戸リズム”満載でした。

 

この作品を通して知ったことも多かったです。

以下はその一例。 

 

・親会社・子会社関係においても、銀行は絶対な立ち位置

 

・銀行の証券営業部は花形

 

・とはいえ大型の企業買収については、実績やノウハウが意外と少ない?

 

・買収には友好的買収と敵対的買収があり、買収される側の経営陣がその買収に同意している場合は友好的、していない場合は敵対的

 

敵対的買収において、3分の1の株式を保有すれば、株主総会で拒否権を有することができ、過半数を保有すれば子会社化できる

 

・株式取得の方法の1つが、株式公開買い付け(TOB

 

・買収防衛策の1つが、新株を発行して信用できる第三者に株をもって(買って)もらう方法(第三者割当増資)

 

・ただし、会社支配の維持を目的に第三者割当増資を行う場合、商法に抵触する

 

敵対的買収を仕掛けられたとき、買収する側に対抗して、友好的買収に持ち込む第三者を「ホワイトナイト(白い騎士)」という

 

敵対的買収者による買収を防ぎ、友好的な企業の支配下に自らを置くという選択をとるとき、こうしたホワイトナイトをたてて、第三者割当増資をおこなう

 

・戦後の高度経済成長期に産まれたオッサンたちが団塊世代、バブル景気のときに就職した今の40代がバブル世代、その後の就職氷河期世代(いまの30代くらい?)がロスジェネ世代

 

・企業買収のときに行う精査をデューデリデューデリジェンス)という

 

耳にしたことはあっても、

意外と内実って知らないので、

こういうのが小説で知れるのはラクでいいです。笑

 

この小説の中でも、

お決まりの「倍返しだ!!」が使われていましたが、

それ以外の半沢語録も、

なかなか胸を突かれるものがありました。

 

世の中と戦うというと闇雲な話にきこえるが、組織と戦うということは要するに目に見える人間と戦うということなんだよ。それならオレにもできる。間違っていると思うことはとことん間違っているといってきたし、何度も議論で相手を打ち負かしてきた。どんな世代でも、会社という組織にあぐらを掻いている奴は敵だ。内向きの発想で人事にうつつを抜かし、往々にして本来の目的を見失う。そういう奴らが会社を腐らせる。

 

長いものに巻かれてばかりじゃつまらんだろ。組織の論理、大いに結構じゃないか。プレッシャーのない仕事なんかない。仕事に限らず、なんでもそうだ。嵐もあれば日照りもある。それを乗り越える力があってこそ、仕事は成立する。世の中の矛盾や理不尽と戦え

 

仕事は客のためにするもんだ。ひいては世の中のためにする。その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をするようになる。自分のためにした仕事は内向きで、卑屈で、身勝手な都合で醜く歪んでいく。そういう連中が増えれば、当然組織も腐っていく。組織が腐れば、世の中も腐る。

 

多かれ少なかれ、

世の中のサラリーマンはこんなこと↑思うこともあると思いますが、

なかなかそれを表明したり、実行に移すことは難しい。

 

半沢は、

それを徹底しているからすごい。

 

私なんて、

ちょっと格好つけて半沢のような態度をとったりすることはあっても、

 

やっぱり長いものに巻かれたほうがラク、

組織に乗っかってしまったほうが手っ取り早い、

と思って、

 

結局は、

8:2で会社人間に準じてしまう。

 

メンドクサイのは、

2でも半沢チックなところがある部分。

 

徹していないだけに、

痛いしダサい。。。

 

出世って結局、

個人の能力ではなくて、

まわりに対していかに媚びへつらうのがうまいかでしょ、

とバカにしつつも、

 

そのバカにしている先にいる人たちを、

めちゃくちゃ意識している。

 

その意識は、

敵視でもあるし、

蔑みでもあるし、

でもきっと、

羨望もあると思うのです。

 

本当にバカにしているだけなら、

いちいち敵視なんてしないはずで。

 

だから、

自分ダサいなーと思ってしまいます。

 

流されるなら流されきったほうが勝ちだし、

流されないなら半沢のようにどこまでも信念を貫いたほうが、

自他ともに格好いいと思える気がしました。

 

まぁ、

そんなブレない半沢を描く池井戸さんが素晴らしいのですが。笑

 

実際、

こんなヤツそうそういないだろうとわかってはいても、

何も超能力的な不可能なことをやっているわけではないし、

意外と肝っ玉さえあればできることなので、

サラリーマンの多くは半沢に共感してしまうのでしょうし、

著者もそこをわかっている気がします。

 

池井戸さんの小説は、

構成も素晴らしい。

 

物語に起伏をつけて、読み手をぐっと引き寄せます。

 

電脳雑伎集団vs東京スパイラルという、

IT系企業同士の(単体の)敵対買収かと思いきや、

 

実は、

(電脳による)買収そのものの目的が、

子会社の粉飾決済をごまかすためのものだった!

 

…というオチ自体が、

いわゆる「ドンデン返し」なわけです。

 

そこに銀行の思惑が絡んで、

将来のリターンを目的とした巨額融資の実行、

さらに郷田の会社(フォックス)を

ホワイトナイトに擁立しておきながら、

 

実は、

電脳→フォックス→東京スパイラルという、

銀行の黒い”二重買収”のスキームが隠れていたり。

 

 さらには、

(東京スパイラルを傘下におさめようとする)フォックスに対して、

スパイラル側が逆買収をもちかけ、

 

電脳+東京中央銀行(親会社)

 vs

スパイラル+東京セントラル証券(子会社)

 

という構図を生みだします。

 

そこでは、

フォックスの有力子会社(コペルニクス)の存在が、

キーになっていたり。

 

これはもう、

「まだ来るか!隠し玉?!」状態です。 

 

思いもよらぬところに隠し玉が潜んでいて、

その隠し玉がまた思いもよらぬ展開を見せて、

それが私たち読者に、

どうなる?どうなる?感を植え付けていくわけです。

 

素直に、

すごいなぁと思います。

 

ただ、

1つだけ残念だったのが、

 

電脳による一連の買収策は、

子会社(ゼネラル電設)の粉飾を目論んでいたわけですが、

ここの部分が本来は一番、

説明を詳しくすべきなのに、

意外とザツだったところです。

 

そもそも、

電脳の平山社長はものすごい合理主義者で、

計算高いビジネスマンという体で終始描かれているのに、

ゼネラル電設に対して、

彼がなぜそんな無謀な投資をしたのかが「?」ですし、

 

粉飾のカラクリというか計画が、

半沢が概略を語っているだけで、

いまいちパッとしません。

 

なんていうか、

え?それだけ?(そんなこと?)

という失望すらありました。

 

ここが物語の真否を問う一番の山場でもあるゆえに、

もう少しページを割いてもよかったんじゃないかと、

私は思っています。

 

物語は結局、

大恥をかかされた銀行本体の証券営業部(伊佐山)と、

それを擁護した同派閥の副頭取(三笠)が、

腹いせに半沢の証券出向を解除し、

融資先の電脳の再建に再出向させるという、

強硬人事に出ようと目論みますが、

 

ここは、

中野渡頭取がガツンとやってくれます。

 

敗れた者たち(伊佐山と三笠)こそ、

逆に電脳に飛ばされ、

勝者(半沢)は、

銀行に戻ってくるという結末で終わります。

 

この頭取も、

うまいよねーと思ってしまいました。

 

周囲に合わせながらも、

ここぞというときにに、

自分への抵抗分子を落としこむ。

 

まあ、

逆にそういう清濁併呑の人でないと、

銀行のようなヤクザの世界で、

トップの座なんて勤まらないんでしょうけれども。

 

とはいえ、

頭取の最後の言葉もまた、

名言でした。

 

「どんな場所であっても、また大銀行の看板を失っても輝く人材こそ本物だ。真に優秀な人材とはそういうものなんじゃないか」

 

これを著者は、

人事部長にこのように言わせています。

 

その言葉はふたりのバンカーの胸に突き刺さっただろうが、同時に兵頭は気付いていた。中野渡の言葉は、いまそこにはいないひとりの男に贈られた最大の賛辞に違いないと。

 

「ふたりのバンカー」とは、

半沢と敵対した伊佐山と三笠副頭取で、

「兵頭」が人事部長、

「いまそこにはいないひとりの男」こそ半沢です。

 

私たちは仕事でもなんでも、

肩書きとか看板みたいなものにこだわっていて、

○○大学出身の自分にはこんな生活はふさわしくないとか、

○○部の所属なのにどうしてこんな仕事しなきゃいけないんだとか、

そう思って日常を過ごしていることがいかに多いか。

 

肩書きなんてクソくらえと思っている私でさえ、

実際そういうシーンはよくあります。

(だから本当は自分も執着しているんだと思う)

 

目の前の仕事をこなすことと、

○○部の所属なのになんでここまでやらなきゃいけないんだと

不満をもらすことは、

根本が違う。

 

それこそ半沢が言っていた、

「客のためにやる仕事」か、

「自分のためにやる仕事」か、

という違いだと思います。

 

後者になると、

「卑屈になる」と言っていましたが、

本当にその通りだと思います。

 

ストレスも、

後者のほうがたまりやすいんじゃないかとすら思う。

 

前もって、あるいは後付であっても、

自分を飾るものに固執せず、

目の前の「やるべきこと」をやっている人のほうが、

実はあれこれ考えなくていいかもしれない。

 

守るものが増えると、

人間、やっぱり煩悩も増えると思うわけです。

最初から捨てきっていれば、

何もいちいち思いわずらわなくて済む。

 

組織に埋もれちゃいけないし、

とにかく、

何かとこだわらないほうがいい。 

 

客のため・お金を頂くために仕事はする。

 

仕事のなかでラクをしようとか、

みんなから一目置かれる成果を残そうとか、

出世して偉くなろうとか、

これらはあくまで副産物であって、

本当はそんなことを目的にすべきじゃない、

とあらためて思いました。

 

■まとめ:

経済小説といえど、文章のわかりやすさといい、登場人物への親近感といい、裏切られない勧善懲悪っぷりといい、まさに”池井戸リズム”満載だった。

・物語の構成もうまく、いたるところに「隠し玉」が潜んでいて、意外な展開に読者は引き寄せられる。ドンデン返しもアリ。最後まで”ブレない”半沢には、拍手喝采。

・一連の買収攻防は、買収する側が、実は子会社の粉飾を目論んで仕掛けたというオチについて、もう少し詳しくその過程やカラクリにページを割いて欲しかった。「え、そんなことが理由だったの?」という印象をもってしまい、少し安っぽい動機にすら感じられた。

 

■カテゴリー:

経済小説

 

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