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民王 ★★☆☆☆

池井戸潤さん

『民王』
を読みました。
 
評価は、星2つです。
 
2か3で迷いましたが、
2にしました。
 
非常に読みやすかったのですが、
池井戸潤さんにしては、
リアリティに欠けるところと、
 
そのせいもあって、
主人公たちから発せられる言葉が終始茶番じみていて、
安っぽいとさえ感じてしまいました。
 
池井戸さんと言えば、
現代経済小説と勧善懲悪を書かせれば右に出る人はいないと言っていいほど、
いまや著名な作家の一人です。
 
過去、
ようこそ、我が家へ』『ロスジェネの逆襲』を読んでいますが、
彼が登場人物らに吐かせる言葉は、
それだけ聞けば、
確かに勧善懲悪モノにありがちな"クサい台詞"なのですが、
 
文脈全体の流れにのると、
それらは嫌味のないどころが、
爽快感すらおぼえる、
感銘深い言葉になっています。
 
それは読み手に、
どこかフィクションであることを忘れ、
自分の身近なところで起こっている物語かのような
錯覚を与えるからだと思われるのですが、
この『民王』にはそれがありませんでした。
 
フィクションがフィクションすぎるから、
リアリティもクソもない。
 
だから、
"クサい台詞"が"クサい"ままで、
つくられた感動のような無理やり感が否めませんでした。
 
こうなると、
池井戸さんつまらないなー。
 
期待していただけに、残念。
 

▽内容:

夢かうつつか、新手のテロか? 総理と息子の非常事態が発生--。
「お前ら、そんな仕事して恥ずかしいと思わないのか。目をさましやがれ! 」漢字の読めない政治家、酔っぱらい大臣、揚げ足取りのマスコミ、バカ大学生が入り乱れ、巨大な陰謀をめぐる痛快劇の幕が切って落とされた。
総理の父とドラ息子が見つけた真実のカケラとは!? 謎が謎をよぶ、痛快政治エンタメ!

 
この小説は、
自民党麻生太郎政権のとき(2009年)に書かれ、
 
主人公の武藤泰山は、
まさに麻生元総理をモチーフとしており、
漢字を読み間違えるシーンや、
アキバ系に人気があるところなど、
時の麻生氏の特徴を小説に組み入れています。
 
また、
冒頭で武藤泰山が、
二人の総理の任期半ばでの辞任を経て首相になるところも、
安部晋三福田康夫という実際の総裁の辞任とリンクしています。
 
主人公だけでなく、
取り巻きの閣僚が次々と不祥事を起こして
難局に立たされていくサマも然り。
 
経済産業大臣・鶴田洋輔の酩酊会見は、
実際にG7出席後の記者会見で起こしたそれでしょうし、
 
連立政権国土交通大臣による不適切発言は、
中山成彬氏の日教組に関する発言をさしています。
 
巻末にある村上貴史氏の解説を読むとわかりますが、
この作品はWEBマガジンで始めた連載だったようで、
 
やはり内容が内容だけに、
雑誌や新聞ではやりづらく、
WEBという新領域だったからこそ、
大胆なモチーフが描けたとのことです。
 
解説者は、
小説のなかで"現在"を描くのは至難の技だと言い、
 
その時代の息吹を伝えるには有効な手法ではあるが、その一方で、後に読み返した際には古さを感じさせる要因にもなる。使いこなすのが難しい手法といえよう。
 
と前置きしながら、
 
あえてそのリスクに立ち向かいながらも、
時代を超越する力強さがあるとして、
大絶賛していました。
 
この『民王』は時代に寄り添ったのではなく、政治の本質、あるいは社会の本質を糾した小説なのである。その当時の政治家の滑稽さは、政治や社会の本質を糾す際の枝葉の一つに過ぎない。この小説の幹は、池井戸潤が考えに考え抜いて描いたものであり、普遍性と永続性を持つ。
 
たしかに本書では、
政治家と財界の癒着や、
はじめは純粋な大志を抱き、
日本の未来を変えるつもりで政治の世界に踏み込んだものの、
結局は、
自らや自らの党の利権第一に考えるようになってしまう様子が描かれ、
そこに疑問符を投げかけ問いただしていくわけで、
 
これを政治の本質と言うなら、
その通りだけれども、
 
それと"現在"を描くことの難しさを、
こんなふうにまわりくどく讃え並べて言わなくてもよくないか…?
と私は思ってしまいました。
 
”解説が大袈裟すぎる”
ということはよくありますが、
この作品もその一つだと思います。
 
村上氏は、
本書の位置づけを、
有権者必読の書」とまで言い切っていますが、
そこまで必読か?と思うわけです。
 
私たちが、
選挙って?政治って?と立ち返るときに、
読んでみるといいかもしれない小説だとは思いますが、
はたして必読なのか?
 
有権者というより、
政治家こそがまず読むべきじゃないのか?
と私なんかは思っちゃいました。
 
でも、
父になりかわって総理になってしまった息子(翔)が、
マスコミに「大人になろうぜ」と正論を放ったことを受けて、
父・泰山がこんなことをつぶやきます。
 
たしかにいま、日本中がどうも子供じみているような気がする。政治家に女がいたらけしからんとなり、増税だといえばとんでもないとなる。一方で、各世帯に金をばらまくとか、高速道路を安くするとかそんな目先の利益に飛びつく。それでいいのか?いまのご時世、世論なんてものはどこにもない。あるのは要求だけだ。この日本の将来を真剣に考えて投票する人間が果たしてどれだけいる?
 
これは、
言い方といい着眼点といい、
いかにも池井戸さんらいしい言葉だなと思いましたが、
 
これがいちばん納得がいったいうか、
本作で感銘を受けた台詞でした。
 
政治家もそうですが、
まずは政治家を選ぶ我々がかわっていかなければ、
政治はかわらないんだと。
 
そういう点で、
村上氏の「有権者必読の書」という評価は、
あながち間違ってはいませんが、
でもやっぱ必読は言い過ぎだろー。笑
 
彼(村上貴史氏)はまた、
池井戸潤の作品のなかで、
本作はテイストが違うけれども、
 
テイストが異なるのはあくまでも枝葉であり表層的なもの
 
と述べています。
 
根幹は、
作者にインタビューした回答からも得られているとおり、
前作『空飛ぶタイヤ』や『鉄の骨』と一緒なのだと。
 
『空飛ぶタイヤ』が"何故リコールすべきものを隠すのか"という疑問から生まれ、『鉄の骨』が"どうして談合はなくならないのか"という問いから生まれたように、『民王』は"どうしてこの国には一億何千万人もの人間がいるのに、何故漢字が読めないような人が首相になるのか"という疑問が執筆動機となったというのだ。そうした社会的で素朴な疑問から生まれたという点で、この三作品は"同じ"なのである。
 
しかしこれは、
書き手あるいは書き手側に立った言い分であって、
 
読み手から言わせてもらえば、
動機が同じなだけで内容的にはやっぱり池井戸作品の中では異例
という位置づけになると思います。
(あくまで一読者の感想に過ぎませんが…)
 
いかに小説で実際にあった話を描いても、
登場人物(の脳波)が入れ替わるというのはあり得ないわけで、
そこがエッセンスと言われたらそれまでなんですが、
好きか嫌いかで言ったら私は嫌いでした。
 
これはもう好みの問題ですね。
 
人が入れ替わってしまうSFっぽい作品は、
たとえば、
東野圭吾さんの『秘密』や
浅倉卓弥さんの『四日間の奇蹟』などがあり、
 
テレビドラマでも、
韓流の『ビッグ~愛は奇跡〈ミラクル』も見たことがありますが、
 
どうも池井戸さんだと、
ファンタスティックさに欠けてしまう。
 
この人はあんまり、
ファンタジー的な作品は書かないほうがいいんじゃ?
と思いました。
 
ファンタジーならファンタジーで、
それなりの後始末があってしかるべきなのに、
 
本作では、
最後に犯人のアジトを突き止めて、
脳波の操作というテロ(?)を終わらせるわけですが、
どうやって終わらせたのか詳細の説明がないまま、
公安がアジトに踏み入れたところで、
武藤泰山(総理)と翔(息子)が元に戻っている。
 
そこはまだいいとして、
一番おいっ!と思ったのは、
政敵の蔵本とエリカ(娘)も、
脳波が入れ替わっていたはずなのに、
そこには何の言及もないまま、
気づいたら元に戻っていたところです。
 
このあたりは、
池井戸さんちょっとガサツすぎない?
と思わずにはいられませんでした。
 
どうせなら、
最後までちゃんとそれらしく書こうよ…。
 
解説では、
 
正論を真面目な話でやると説教くさくなりすぎる
 
として、
 
このトリッキーなエッセンスを組み込んだのは正解!
とこれまた評価していましたが、
 
池井戸さんの良さは、
正論を真面目な話でやるところだと思うので、
ここは彼らしく真っ正面から描いて欲しかったです。
 
入れ替わりなんていうウルトラCなんか使わなくても、
池井戸さんなら書けると思いますし。
 
もはや池井戸さん批判なのか、
解説者批判なのかわからなくなってしまいましたが、
内容は茶番じみていると思えても、
どうなる?どうなる?
と思ってあっというまに読み終えてしまったことから鑑みると、
作者の腕はやっぱりすごいんだと思います。
 
 

■まとめ:

・池井戸さんの作品らしく、読みやすくて、先が気になってしまい一気に読めた。
・登場人物が入れ替わってしまうつくりが、自分の好みではなかった。池井戸さんらしいリアリティと、気障な言葉もクサく感じさせないところが、この作品にはなかった。全体的に茶番じみていた。政治の本質と正論を突き詰めるのはよいが、入れ替わりなんていうSF的な手段に頼らず、彼らしく真っ向から取り組んで欲しかった。
・解説者の解説が大袈裟すぎる。まわりくどく称賛に値するあかしを並びたて、ヨイショしすぎ。
 
 

■カテゴリー:

 
 

■評価:

★★☆☆☆
 
 

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