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斑鳩宮始末記 ★★★☆☆

黒岩重吾さん

斑鳩宮始末記 (文春文庫)

を読了しました。

 

評価は、星3つです。

 

久しぶりに黒岩重吾さんの作品を読みました。

 

黒岩さんの作品は、

これで4作目(かな?)です。

 

聖徳太子 日と影の王子 ★★★★☆

斑鳩王の慟哭 ★★★★☆

落日の王子 ★★★★☆

 

──というふうに、

ここまでわりと高得点が続いていたのですが、

本作は少し読み応えに欠ける面がありました。

 

それもそのはず、

こちらは短編集になっているからです。

 

上記はいずれも長編になっていて、

とくに『聖徳太子~』なんて、

全4巻からなる結構ながーいお話です。

 

『落日の王子』のほうも、

こちらは蘇我馬子の孫にあたる、

蘇我入鹿の盛衰を描いたもので、

上下巻に分かれています。

 

それだけに、

山あり谷ありのドラマチックな要素がふんだんに詰められており、

観客としては非常に見応えがある。

 

一方、本作のほうは、

1997年~1999年にかけて、

雑誌向けに書かれた作品をとりまとめたもので、

黒岩さんの古代小説のなかでは、

だいたい中盤くらいに刊行されたものになるでしょうかね。

(時期的には、『斑鳩王の慟哭』と同じくらい)

 

各短編には、

著者自身によって、

必要最低限の解説が施されているので、

前知識のない方が読んでも、

わりとさくっと読めると思いますが、

 

先に黒岩さんの他の長編などで、

古代史を少しかじっておくと、

より話が入ってきやすいとは思います。

 

ただ、そうなると、

既述のとおり、

どうしても長編のほうと比較してしまうため、

やけにあっさりしてるなーとか、

起伏に富んだ人間ドラマとしてはどうかなー的な、

読み応え感には欠けてしまうわけです。

 

歴史小説(時代小説)って、

少なくともひとりの人間の歴史を語るわけだから、

やっぱり長編のほうが適しているのかなー

──なんていうふうに感じました。

 

 

▽内容:

調首子麻呂は百済からの渡来系調氏の子孫。文武に優れ、十八歳で廏戸皇太子(聖徳太子)の舎人になった。完成間近の奈良・斑鳩宮に遷った廏戸皇太子に、都を騒がす輩や謀叛人を取り締まるよう命じられた子麻呂は、秦造河勝や魚足らとともに早速仕事に取りかかるが、その矢先、何者かが子麻呂の命を狙う。

 

上記のとおり、

本作は短編といえども、

主人公が固定されていて、

それが「調首 子麻呂」(つぎのおびと ねまろ)という人物になります。

 

言いにくいねー読みにくいねー。

 

自分なんかは、

何作かすでに黒岩さんの作品を読んでいるので、

ああまたコイツかぁ的な印象はあるんですが、

 

最初のほうはずっと、

「調子麻呂」(ちょうしまろ)と読んでいました。

勝手に、ね。

 

「調」が「つぎ(の)」で、

「首」が「おびと」で、

「子麻呂」が「ねまろ」。

 

「ちょうしまろ」だと、

「首(おびと)」どこいったんだよ?!

って感じですけども、

人がわかればそれでいいわけで、

大して名前は気にしていませんが。

 

とはいえ、

この時代の人の名前ってのは、

みんな読みづらい。。

 

たとえば、

厩戸皇子(=聖徳太子)の側近で、

渡来系の氏族である、

「秦造 河勝(はたのみやつこ かわかつ)」なんていうのも、

スーパー読みづらいし、

 

厩戸皇子の側室である、

「菩岐岐美郎女(ほききみのいらつめ)」なんてのも、

一度ルビを振ってくれるだけでは、

絶対にそのあと読むことができません。

 

なので、

内容はさておき、

ロシア文学と同じくらい、

自分にとっては登場人物がおぼえにくい。

 

ならばいっそ、

正確な名前なんてもうどうでもいいかな、と。

 

登場人物名で挫折する小説って結構ありますが、

それだけで挫折するのってちょっと勿体ない。

だったら適当にニックネームでもつけて、

自分のアタマに入ってきやすい呼称にしちゃって、

話に入っていったほうが効率的だと思いました。

 

時代小説は、

人物名だけじゃなくて、

地名やら道具名やら、

独特な名称がたくさん登場してきますので、

結構それで苦手になってしまう人もいると思うんですが、

 

別に学校の授業じゃあるまいし、

読み手側で勝手に省略するなり名前を変えるなりして、

適当に扱う対応ができるようになれば、

結構おもしろいドラマが待っているかと思います。

 

つい余談が長くなりましたが、

本作は、

そんな読みづらい「子麻呂(ねまろ)」が主人公の、

警察小説みたいな感じです。

 

江戸時代の「捕物帖(とりものちょう)」の、

飛鳥時代バージョン的な、ね。

 

この調首子麻呂(つぎのおびと ねまろ)という人物は、

もともと厩戸皇子の舎人(親衛隊長)で、

そのへんは『聖徳太子―日と影の王子』などを読むとよくわかるんですが、

 

厩戸皇子斑鳩宮を建てて執政にあたるようになると、

身辺警護のほかに、

日々の犯罪捜査にも携わるようになったようです。

(あくまでこの小説を読む限りですが)

 

そんな調首子麻呂を取り巻く

おもな登場人物は以下のとおり。

 

・秦造河勝(はたのみやつこ かわかつ):

渡来系氏族で厩戸皇子に重用された側近。

調首子麻呂の直属の上司で、刑犯罪を裁く奉行的役割を担う。

ニュートラルな考えの持ち主で正義感も強く、

厩戸皇子を心から敬い、彼に忠誠を誓う。

 

厩戸皇子(うまやどのおうじ):

聖徳太子のこと。河勝や子麻呂の主君。

父親は用明天皇

推古天皇は用明の妹で、厩戸皇子の叔母にあたる。

仏教に心酔し、人間平等主義の考えが強く、

当時にしては、まわりから異端視されるほどの、

リベラルなマインドの持ち主で、

推古天皇の摂政となってからは次々と政治改革に着手。

 

・難波吉士魚足(なにわのきし うおたり):

子麻呂の部下で補佐役。

子麻呂と一緒に、犯罪事件の捜査にあたる。

難波吉士もまた、渡来系支族。

のちに冠位をさずかり、秦部に改姓。

 

・縫郎女(ぬいのいつらめ):

子麻呂の正室。

渡来系の書(ふみ)氏の出。

息子(百舌)と娘(イト)を遺し、病死。

 

あとは、

各ストーリーでそれぞれいろんな人物が出てきますが、

全体的には、

子麻呂とその部下・魚足が、

斑鳩宮周辺で起こる様々な事件を解決していくというもの。

 

捜査の壁にぶち当たったときは、

上司の秦造河勝(はたのみやつこ かわかつ)にアドバイスを求めたり、

あるいは中間報告がてらヒントをもらったりして、

事件の解明にあたっていくわけです。

 

また、

子麻呂が捜査にのぞむ心構えや人を裁くときの態度として、

厩戸皇子の助言や訓示がちょこちょこ出てくるのですが、

そこにはやはり、

厩戸皇子の人格者としての考え方が盛り込まれています。

 

以下は、

各ストーリーのあらすじと感想です。

 

※※ネタバレ注意※※

 

子麻呂道(ねまろどう)

子麻呂の自宅から、斑鳩宮まで続く道を、

「子麻呂道」(ねまろどう)という。

 

ある日、子麻呂が通勤途中に、

この子麻呂道で何者かに襲われる。

 

当時、子麻呂は、

農家に押し入り15歳の娘を犯して殺し、

一家三人を斬殺した事件を捜査していた。

 

捜査線上に浮かびあがったのは、

中級官吏である難波吉士高雄(なにわのきし たかお)。

 

彼は、

奴婢に対してSM的なハードプレイを強要している疑いが出ていた。

 

直接、子麻呂が取り調べをおこなったところ、

農家の斬殺事件に高雄は関与していなかったものの、

奴婢への暴行の事実が明らかになる。

 

ここから、

子麻呂を襲った張本人は高雄であることも判明。

 

事の次第が子麻呂によって明るみにでて、

斑鳩宮へ報告されることを恐れた高雄は、

殺し屋を雇って子麻呂殺害をくわだてた。

 

それが裏目にでてしまい、

結局、高雄は、

奴婢SMプレイの暴行罪で打ち首となる。

 

──という話なんですが、

えっ、こんな時代にSM?!

びびってしまい、

 

(古代にもSMはあったのかもしれないけれど)

時代に合っている気がしなくて、

嘘くさすぎる…というのが正直な感想でした。

 

あと、

結局、農家斬殺事件は未解決じゃん!

というところがしっくりいきませんでした。

 

川岸の遺体

ある日、

鋭い刃物で首を斬られた男の死体が川岸で見つかります。

 

川岸近くの小屋に住む男(フト)や、

村長の角先(ツノサキ)に聞いても、

なかなか真相が浮かび上がってこない。

 

子麻呂が河勝に、

事件の発端や捜査の経過を報告すると、

男の死体は河勝の弟に仕えていた武人であることが判明。

 

ただこの男、

河勝の弟の娘(河勝の姪)に手を出してしまい、

秦家を出禁になる。

 

クビになった男は、

流浪人となって村で盗みやレイプを繰り返していた。

 

捜査を続けるうちに、

フトには義理の娘が何人かいたが、

この娘(トネ)が、

川岸のフトの小屋の近くで、

自分の姉(ササ)がレイプされたことに怒り、

鎌でとびかかって男を斬殺したことが判明。

 

また、

男には他にも余罪が多々あったが、

保身のために、

村長(ツノサキ)が村での暴行事件を村民に口止めしていたことも明らかになる。

 

村長はその後、

島流しの刑に、

娘(トネ)は身分を剥奪され奴婢となる。

 

──チャンチャン。

 

これも、

ミステリーではあるんですが、

なんだよ、またレイプかよ!

という印象。

 

レイプ多すぎる。。。

 

子麻呂(ねまろ)の恋

一夫多妻制が許されていたこの時代、

子麻呂は妻をひとりしか娶らず、

律儀な男のようにもみえるのですが、

そんな子麻呂も恋をします。

 

相手は、

物部の残党の娘で、奴婢となったアヤメ。

 

アヤメは、

当時、子麻呂が捜査・調停にあたっていた、

とある集落どうしの水争いで、

奴婢として交渉材料にされていました。

 

村長は、

ヨソオ vs オヌヒ。

 

最初は、

ヨソオのもとで夜の奴隷として囲われていたアヤメですが、

逃げ出して隣の集落のオヌヒのもとへ。

 

年寄のオヌヒだったら大丈夫かと思いきや、

これが執拗なまでのエロジジイだった。

 

水争い自体は、

オヌヒ側に言い分を子麻呂が認め、

彼らの村落が勝訴したが、

ヨソオ側は判決をのむかわりにアヤメを返せと主張。

 

どっちにもいたくないアヤメは、

子麻呂からわずかな食糧をもらい、

村から武器を盗んで逃亡。

 

それからしばらくして、

二人の村長の斬殺死体が見つかる。

 

犯人としてアヤメの名があがったが、

結局、アヤメは見つからず、

捜査は打ち切りとなる。

 

これには、

公人の立場にありながら、

アヤメに肩入れした子麻呂も罪を逃れることができたが、

 

その後、

アヤメが彼らを斬殺したのにはもう1つ理由があって、

それは蘇我・物部の戦のときに、

彼らがアヤメの父親を裏切って死なせたことがわかった。

 

アヤメの目に宿る憎悪が

二人の男に弄ばれたことからくるものだと信じていた子麻呂だったが、

 

それでも、

自分だけには抱かれてもいいと言っていた

彼女の一言はいつまでも信じたい。

 

──そんな子麻呂のひと夏の(?)恋でした。

 

うーん、せつないですね~!

 

…って

そんなことあるわけねーだろ。(爆)

 

いや、ここまでくると、

もうこの本は、

ちょっとしたエロ小説なんじゃないかと思えてなりません。

 

実際、

子麻呂とアヤメのスカトロプレイ的なシーンも出てきますし、

なんじゃこれは?的な感想です。

 

黒岩さんも好き者だなぁ。

 

まぁこれが、

(その時代の)野性の恋だと言われたら、

そうなんですねーとしか言いようがないんですね。

 

 

『信』の疑惑

ある晩、

魚足がタッションしていたところ、

つまづいて転んだら、

そこには男の死体が。

 

そして、

死体のそばには、

「信」の文字が記された木簡が見つかる。

 

斑鳩宮で記録係として勤務していた、

西漢直鳥(かわちのあやのあたいのとり)だった。

 

鳥は喉と腹部を刺されていたが、

死体の股間の、

竿の部分に真珠の玉を2つ嵌め込んでいた。

 

子麻呂たちが調べていくと、

仕事にはシビアな鳥ではあったが、

プライベートは好色でかなりの好き者、

真珠の玉は、

1つは女性を悦ばせるため、

もう1つは自らのイチモツの不老長寿を願って

はめこんだものだということがわかりました。

 

より捜査をすすめるべく、

子麻呂はかつて舎人仲間で、

いまは鳥と同じく記録係をしている田辺史鷹(たなべの ふひと たか)にも

話を聞くことに。

 

ところが、

鷹の家から帰る途中、

子麻呂は何者かに命を狙われます。

 

負傷しながらも一命をとりとめた子麻呂ですが、

相手は自分と同じくらい腕のたつ武人。

思い当たるのは昔の舎人仲間くらいしかいません。

 

負傷にめげず、

子麻呂はしぶとく鳥殺害事件の捜査を続け、

鳥の正室のもとを訪れます。

 

そこで正室から、

鳥が、

同僚(民直内人)の新妻に懸想していたことを聞き出します。

 

そして、

民直内人を直撃。

 

すると、

民が罪を認め、

鳥を妻に呼び出させて殺したことを自白。

(民はそのあと自害)

 

事件はこれで解決かというところで、

自分を襲った相手に心当たりがある子麻呂は、

かつての舎人仲間でいまは船着場で記録係をしている

書首学(ふみのおびと がく)のもとを訪れます。

 

そして、学に、

なぜ自分を襲ったのかと問いただします。

 

学は、

同じ舎人として厩戸皇子に仕えておきながら、

子麻呂だけが優遇されて今のポジションを得ており、

自分や鷹は文人にされて冷遇されていることを愚痴ります。

 

要するに、

子麻呂に嫉妬し、

ちょうど子麻呂が鳥の殺害事件の捜査の一環で、

鷹のもとを訪れることを知った学は、

鷹と一緒に子麻呂殺害を企てたというわけです。

 

当時、

ちょうど厩戸皇子が冠位十二階の制定に着手していたときで、

いくら公正明大な冠位制と言われていても、

どうせ子麻呂みたいなコネのある人間が優遇されるんだろ

という諦めもあり、

事件を起こしたというもの。

 

──ここには「冠位十二階」という、

当時の社会改革をあらわすキーワードが登場し、

 

子麻呂の殺傷事件も、鳥の殺害事件も、

時代を反映した事件の1つとして描かれています。

 

鳥の死体のそばには、

「信」の字が記された木簡が添えられていたわけですが、

これは、

冠位十二階のもととなった、

中国の儒教における五常思想(仁・義・礼・智・信)のなかの

1項目を指しています。

 

「信」とは、

「信頼」とか「信用」とかいうように、

相手を信じること・だまさないことが、

人として正しく重要な姿であり、

人間関係の基本である、

──みたいな感じですかね。

 

鳥は、

その「信」に反したことを犯していた。

 

農民から賄賂がわりに娘を差し出させたり、

同僚の新妻に手を出したり。

 

だから、

同僚・民直内人(たみのあたい うちびと)は、

鳥を殺し、

ダイイング・メッセージとして「信」の書を添えた。

 

これが、

この物語の全容かと思います。

 

自分のイチモツをデコレーションするとか、

賄賂として女を差し出させるとか、

げー、またそっちの話かよ?!

正直、辟易した部分もありましたが、

 

話としては、

これが一番面白かったかなー。

 

冠位十二階という時代をあらわすキーワードと

話がリンクしていたのがよかったし、

それがまた、

ちょっとした謎かけになっていた点もうまかった。

 

でも、

鷹と学が子麻呂に嫉妬し、

こっちもまた冠位制と関係してくる部分は、

正直、必要なかったかなと思います。

 

しつこくて、

無理やり感があります。

 

天罰

厩戸皇子の船を管理し、

外交方面でも活躍する、

高官の難波吉士海亀(なにわのきし うみがめ)には三人の妻がいたが、

そのうちの一人・小糸が殺された。

 

その惨殺死体が川で見つかり、

子麻呂と魚足は捜査に乗り出す。

 

はじめは、

海亀や正室・忍郎女(おしのいつらめ)の関与も疑ったが、

それらしい証拠はなく、

海亀においては、

愛妻を亡くし、

本当に嘆いている模様だった。

 

小糸に仕えていた待女のハナにも聞いてみたが、

思わしい収穫もない。

 

困った子麻呂は、

河勝を訪ねると、

そこには厩戸皇子も。

 

厩戸皇子が子麻呂に、

小糸の郷里に行くようにアドバイスする。

 

郷里には、

娘を亡くしたショックで憔悴しきった実父の

民首火弓(たみのおびと ひゆみ)と、

小糸の待女として随伴したサチが戻ってきていた。

 

ただ、

サチは何かに憑りつかれたかのように精神を病み、

いまは山にこもっているとのこと。

 

山を訪れた子麻呂は、

そこでサチに襲われそうになる。

 

ここから、

小糸を惨殺したのはサチであることが判明。

サチも犯行を自白する。

 

山からおりてきた子麻呂が、

再度、火弓に事情を問いただすと、

小糸に随伴して斑鳩宮に上京したサチは、

海亀の息子(繁郎)と恋仲に。

 

(身分的に)不相応の関係に、

怒った海亀と正妻(忍郎女)は、

火弓にいってサチを郷里に戻させる。

(サチは火弓の養女でもあった)

 

小糸が正妻の嫉妬の末に、

別宅に居を移されてから、

再びサチが待女として呼び戻されたが、

そのとき、

繁郎の婚姻が決まったこと、

繁郎との関係を海亀らに密告したのが小糸であったこと、

小糸もまた繁郎と深い関係にあったこと

…などを知る。

 

その後、サチは、

(精神を病み)巫女として郷里に戻ってきたが、

小糸への深い恨みを抱いていた。

 

途中でひろった犬を飼いならし、

小糸の寝巻をかがせるなどして、

暗闇でも小糸の別宅に迫ることができるよう仕向け、

復讐のため惨殺にいたる。

 

自分が(お金のために)小糸を嫁がせたり、

サチを待女に出さなければ、

このようなことにはならなかったと、

責任を感じた火弓は自害。

 

小糸は火炙りの刑(と見せかけ島流し)となる。

 

──以上で事件は一件落着となりますが、

今度はレイプものじゃなくてよかった…

というのが正直な感想です。

 

結局、犯人は「サチ」ということでしたが、

そもそもの張本人は、

自らの欲と権力にまかせ、

二人の(そしてその父の)人生をかき乱した「難波吉士海亀」だぜ

…的な示唆が、

最後の一節に含まれていました。

 

皇太子は、難波吉士海亀については何も口にしなかった。犯罪を犯していない。ひょっとすると冠位に関係してくるのではないか、と子麻呂は思った。ただそれは事件の真相を知った後に沸いた海亀に対する生理的な嫌悪感のせいかもしれなかった。

 

海亀は、

本件に関しては全くの無罪であるものの、

 

ときはちょうど、

冠位十二階の人事改編をおこなうところだったで、

厩戸皇子(=皇太子)としては、

安易に事前に詳細を述べるようなことはしなかった。

 

でも、

海亀について全く何も言わないというのは、

逆に、彼の自分勝手な態度を、

人事考課のマイナス点として与しようとしていたのではないか。

 

──と、

子麻呂は勝手に想像したようですが、

 

それというのも、

結局、この事件の発端は、

すべて海亀の欲望と権力の濫用にあるからじゃねーの?

と(子麻呂が)考えたからです。

 

事件の全貌を知る子麻呂だからこそ、

そういうふうに思う、

という面を付け加えた点においては、

リアリティーがあったよかったと思います。

 

憲法の涙

ある日、

子麻呂のただ一人の妻、

縫(ヌイ)が病に倒れる。

 

縫の実家は、

百済系の渡来氏族・書(フミ)氏であり、

斑鳩宮の高官・書直雄鳥(フミノアタイ オトリ)や、

書首小弓(フミノオビト コユミ)は、

彼女の親族にあたる。

 

彼らは縫の病に際し、

見舞いに来たものの、

縫は会おうともしない。

 

その数日後、

書首小弓(フミノオビト コユミ)の死体が発見される。

背後から何者かに刺され、

川に捨てられていた。

 

小弓の身辺を洗ううち、

子麻呂たちは、

彼が異常性欲者であることがわかってくる。

 

ロリコンで、

童女をとっかえひっかえ犯し、

飽きたら豪農に売り渡す。

 

それを知っていた縫は、

自らの親戚の過ちのせいで、

(子麻呂)家門に悪影響を及ぼすと懸念し、

一人で悩み、どんどん具合を悪化させていた。

 

捜査の途中で、

子麻呂は縫からの告白を受け、

その事実を確信する。

 

とはいえ、

そもそも農民からとっかえひっかえ娘を買うという

小弓の金の出所がわからない。

そこまでの稼ぎが小弓にあるとも思えない。

 

捜査線上にあがったのは、

小弓に娘を紹介したり、

犯され捨てられた娘を別の農家に売り渡すブローカーの存在。

 

彼の名は、クマといい、

交易人をやっていた。

 

捜査をすすめていくと、

クマが、

書直雄鳥(フミノアタイ オトリ)の家にも

出入りしていたことが判明。

雄鳥の逮捕に至る。

 

ここから、

雄鳥がクマと共犯して帳簿をごまかして、

年貢をピンハネしていたこと、

それに気付いた小弓が雄鳥を強請り、

小弓もまた財を得るようになったこと、

小弓の性癖からいつか捜査の手が自分に及ぶことをおそれ、

クマに小弓を殺害させたこと、

──などが明らかになります。

 

雄鳥は死罪、

クマは行方をくらます。

 

そして、

縫は病状をだいぶ回復し、

事件は落着します。

 

この話は、

短いながらも、

わりと起伏に富んでいて、

え、そういうつながりだったの?!的な驚きもありました。

 

が、やっぱりここでも、

性癖ネタかよ!っていう、ね。

 

しかも今度はロリコン。。。

 

うーん。。。

 

この事件がおきたとき、

ちょうど聖徳太子が十七条憲法を制定したところだったようで、

最後もまた憲法と絡めて、

人間の欲と憲法のつながりを示唆するシーンが出てきたりするのですが、

 

そこはうまいなぁと感嘆しつつも、

また性欲か…と幻滅。

 

暗殺者

(その後、縫が病死し)

妻を亡くし独り身となった子麻呂。

 

一方で、  

魚足は二人目の妻をめとる。

 

その婚姻の宴の帰り道、

子麻呂は何者かに襲われる。

 

押収物は、

幹に刺さった鉄の剣(の刃先)だけ。

 

ここから、

当時、日本では鉄の剣は使われておらず、

朝鮮で使われていたことから、

犯人は朝鮮人の疑いが出てくる。

 

ちょうどそのころ、

朝鮮半島の情勢は不安定で、

(朝鮮へ介入してくる)隋への対決と、

その隋とタッグを組んで

朝鮮統一に乗り出そうとしていた新羅へ対抗すべく、

日本も朝鮮への進出を計画していたが、

 

ときの政権内では、

富国強兵・対外進出派の蘇我馬子と、

平和安定・国内充実派の厩戸皇子で意見が対立していた。

 

自身が暗殺されそうになったことを河勝に報告すると、

河勝は他言無用を徹底したほか、

自宅の警護を厳重に。

 

子麻呂の知らない何かを、

河勝は何か知っているようだった。

 

数日後、

河勝を訪れた子麻呂は、

暗殺者は高句麗人だったこと、

(詳しくは言えないが)彼らはもう帰国したから、

もはや子麻呂の身に危険は及ばないこと、

──などを聞かされる。

 

子麻呂自身、

スッキリしないまま帰途につくが、

その帰り道、

またあの曲者と遭遇。

 

子麻呂も負傷するが、

無事、暗殺者を仕留める。

 

そして、

河勝に介抱され、

曲者が船に乗らず子麻呂暗殺のため、

日本に留まっていたことや、

子麻呂の暗殺に、

蘇我馬子がかかわっていたことを告げられる。

 

蘇我馬子は、

朝鮮遠征の派兵に反対する河勝をも脅しており、

その矛先を子麻呂に向けたようだった。

 

この話には、

当時の政権をめぐる蘇我氏vs聖徳太子という一面や、

朝鮮をめぐる東アジア情勢といったマクロな面が背景にあるのですが、

 

そういった紐づけ方が、

やっぱり黒岩さんのうまいところだと思います。

 

以下は、解説で、

毎日新聞記者の重里徹也さんが寄稿している評です。

(長いですが、そのまま引用)

 

時代はちょうど皇太子が冠位十二階や十七条憲法の制定を進めようとしている時だった。能力主義による人材登用や豪族・官吏の道徳律を定めようとするもので、世は改革の時代といっていい。これらの改革がきしみを生み、動揺を呼んでいるのも、人々の生活実感を逸して描かれている。

中国や朝鮮半島の動きも、登場人物たちの生活に直接かかわっている。隋とどのように関係を持つのか。高句麗百済新羅とは、どのように付き合えばよいのか。国際政治の動きが手に取るように伝わってくる。

裸の人間たちのこすれ合いを楽しみ、幅広い視野で権力闘争を味わいながら、遥か昔の日々に思いをはせ、この民族について考えること。この連作集は、黒岩さんの古代史小説の面白さを知るのにも、格好の一冊になっている。

 

そうそう。

 

その通り。

 

うまくマクロとミクロを組み合わせて、

古代史なんて全く何も知らない読者でも、

当時の一般人の暮らし方とか、

権力者の腹黒い野心や闘争、

それらを両方兼ね備えているから、

わりと自分もそこにいるような感じで読めたりする。

 

これが黒岩さんの小説の凄いところだと思います。

 

解説者がべた褒めする、

 

私たちが黒岩作品を読み始めてすぐに感じる、ある種の懐かしさのようなもの、居心地のいい解放感のようなもの

 

とか

 

生も死も一体になったような雰囲気を作品の中に漂わせる。生者も死者も有機的に結びついているような濃密な空気

 

というのは、

はっきりいって自分にはわからないんだけれども、

 

黒岩さんの小説に描かれる世界には、

なんとなく引き込まれることが多く、

大昔の話なのに、

なぜか納得してしまうところがあります。

 

それは彼が、

人間を描くのが上手だからだと思うのです。

 

人間が誰しももつ、

薄汚い欲とか野望、嫉妬。

 

あるいは、

生存本能から思わず悪事に手を染めてしまったり、

逆に理性がそれを押しとどめたり、

とどめきれずに反省したり。

 

こういうのって、

いつの時代でもどこでも、

おそらく

万民に共通する心の動きで、

 

それを黒岩さんは、

その時代の出来事や独特の風潮とリンクさせて見せてくれるから、

 

自分には全く関係ない、

無知の・大昔の人なのに、

活き活きしたリアリティと同時に、

いるいる、こういう人

あるある、こういう気持ち

──みたいな変な納得感が得られるのかな、と。

 

にしても。

 

今回の「好き者ネタ」は、

そこまで共感は得られなかったけど、ね。(汗)

 

こちらの続編で、

子麻呂が奔る (文春文庫)

という短編集が2004年に出されているようですので、

興味がある方は読んでみたらよいかと思います。

 

自分は、うーん、、、

ヒマなときに読もうかな。

(そこまで惹かれない)


■まとめ:

聖徳太子の舎人(親衛隊帳)だった調首子麻呂(つぎのおびと ねまろ)が、(太子が政治を執る)斑鳩宮周辺でおこる大小の犯罪捜査にあたり、事件を解決していく話。全7話からなる短編集。
・短編なだけあって、読み応えに欠ける。あっさりしていて、さくっと読めるが、起伏に富むドラマ性は薄い。また、内容的にも、どの話もエロ(しかもレイプ・ロリ・SM)が多くて、すこし辟易した。

・ただ、当時の人々の暮らしっぷりが些細に描かれ、リアリティーがありながらも、どの時代でもどこの国でも通用するような、人間として誰もがもつ薄汚い欲やそれをとどめさせようとする理性なんかも、包み隠さず描かれていて、(大昔の人なのに)隣人かのような親近感?が得られる。それをまた、その時代特有の出来事や風潮とうまくリンクさせてくるので、歴史の知識がなくてもわかりやすく読める。


■カテゴリー:

歴史小説

 

■評価:

★★★☆☆

 

 ▽ペーパー本は、こちら

斑鳩宮始末記 (文春文庫)

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斑鳩宮始末記

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