光の海 ★★★★☆

小玉ユキさんのマンガ

光の海

を読み終えました。

 

評価は、星4つです。

 

前回の『羽衣ミシン』に続きまして、

このところ、

小玉づいております。

 

これもよかったなぁ~。

 

いちおう短編集なので読み応えには欠けるのですが、

(逆にサラリと読めます)

小玉ユキさんの初期の作品として、

その後の

羽衣ミシン』や『坂道のアポロン』にも通ずる、

切なさ・清らかさがありました。

 

▽内容:

先輩、人魚はじめてですか?  海や川に人魚が住む、わくわくするような日常。そこに生きる人間たちの、ごまかしのない姿を、しなやかな感性と細やかな視点で描き出した珠玉のオムニバス。
とある海辺の町、寺の坊主・秀胤(しゅういん)は、住職の孫・光胤(こういん)の言動が何かと気に食わない。明るく奔放で人気があり、住職の血を引く光胤には、かわいい恋人までいる。いい加減なあいつばかりが、なぜ?…悶々(もんもん)とする秀胤だったが!?
●収録作品/光の海/波の上の月/川面のファミリア/さよならスパンコール/水の国の住人

 

前回読んだ『羽衣ミシン』が、

「鶴の恩返し」をヒントに描かれた物語であるのに対し、

こちらは「人魚」が土台になっています。

 

つまり、

伝説(昔話?)がモチーフになっているという点では、

ふたつの作品は共通しています。

 

そのせいか、

ともに現代の架空の話なのに、

ノスタルジックな雰囲気に溢れている。

 

あの『坂道のアポロン』もそうでした。

 

あれはそもそも時代設定が昭和の半ばだったので、

昭和の雰囲気があふれるのは、

当然といえば当然なんですが、

 

それだけに、

今のようなシステマチックな世界観というより、

バンカラで優しくて泥臭い感じが広がっていて、

みずみずしい感じ。

 

──それが彼女の作品に共通する素晴らしさだと思います。

 

タイトルにもなっている第一話の「光の海」では、

受験にやぶれた末、

苦難を乗り越えてようやく僧侶の道を歩むようになった秀胤と、

住職の孫・光胤の話。

 

秀胤が不器用で消極的、

どちらかというとネクラな性格であるのに対し、

光胤は器用で自由奔放、

いつもサーフィンと人魚に明け暮れて、

それでいて周囲からも好かれる存在。

 

コツコツ真面目に修行を積んできた秀胤からすると、

光胤はうらやましい反面、

疎ましい存在でもあるわけで、

それは人魚への慕情を通して、

いよいよ明らかになっていきます。

 

職業上のライバルだけでなく恋敵にもなっていく。

 

そんな光胤が、

ある日、

交通事故であっけなく死んでしまいます。

 

住職に次ぐナンバー2のポジションも、

見た目も器用さも血縁も、

すべて自分から奪っていった光胤でしたが、

急にこの世から消えてしまう。

 

秀胤はそれを人魚に伝えることができません。

 

僧侶というのは、

人が亡くなったときに、

遺された人たちも哀しい思いをしないよう、

「手当て」をするのがその仕事なんだ、

君にも「手当て」してあげるから!

と約束しておきながら、

 

いざ光胤が亡くなってしまうと、

読経は全然読めないし、

人魚にも対して「手当て」できない自分がいる。

 

そして気づくのです、

 

──ああ 

僕はあいつのすべてに

憧れとったんや

くるおしいほどに

 

疎ましいと思っていたのは、

彼に対してものすごく憧れたのに、

いっこうに近づけない自分がいたから。

近づこうともしなかったから。

 

それがわかった秀胤は、

いまから近づこうと決心します。

 

そして、

光胤が使っていたサーフボードに乗って、

海に出かけていく。

 

うまく言う必要なんかない

こわがってほっとくほうが残酷や

今日は跳びまわってないな

岩場におるんやろうか──

寂しくて泣いとるかもしれへん──

そしたら頭なでてやるから

約束守るから

頼むから 姿 消したりせんといてくれ──

 

そうやって、

ずっとゆらゆら光る水面を見ながら、

人魚が出てくるのを待っている。

 

ときに、

光胤と人魚がたわむれる幻覚が見えるし、

 

こうしていると、

ものすごく気持ちがしずまりかえる。

 

物語は、

 

この幻見たさに

私はこの海通いをやめられずにいるのかもしれません

 

という一文で終わります。

 

光胤を追いかけ、

人魚に会うために勇気を出し、

海に出るようになったら、

その海がおもいのほか気持ち心地よくて秀胤をかえた

という結末。

 

この光胤と秀胤の対極的な性格は、

坂道のアポロン』の、

センとボンみたいでした。

 

お互い真反対にいながら、

憧れてもいる存在。

 

私はこの「光の海」が、

この作品集のなかでは一番印象に残りました。

 

二作目の「波の上の月」は、

同性愛を描いたものなんですが、

全然気持ち悪さを感じさせなかった。

 

小玉さんが描くと、

同性愛すら清らかに見えてきます。

 

三作目の「川面のファミリア」もよかったです。

 

両親が離婚し、

父親と暮らす少女が、

父の新しい恋人でもある人魚に、

はじめは嫉妬を感じながらも、

その距離を縮めていく話。

 

最後のほうに、

主人公の女の子が、

 

お父さんに人魚と結婚しないの?

って聞いたら

結婚なんて人間だけのルールでしょうが

と笑われた

 

とつぶやくシーンがあります。

 

このセリフに、

自分は秀逸さを感じずにはいられませんでした。

 

なんだろうなぁ、小玉ユキさん。

独特のセンスを持っているんだよなー。

 

読了後に、

元気が出る!というトーンでは決してありませんが、

じんわりきて優しい気持ちになれます。

 

寝る前とかに読むといいかも。

 

■まとめ:

・人魚という伝説(昔話)をモチーフとしているだけに、ノスタルジックな雰囲気に溢れており、それだけに、今のようなシステマチックな世界観はなく、バンカラで優しくて泥臭い感じが広がっていて、みずみずしい感じがある。これぞまさに、小玉マジック。

・タイトル作「光の海」の二人の登場人物(秀胤と光胤)の関係は、その後のヒット作『坂道のアポロン』に出てくるボンとセンの関係を彷彿とさせる。対局的な性格として描きながらも、自分を変えてくれた貴重な存在として位置づけている。五つの話のなかでは、これが一番印象に残った。

元気が出る!というトーンではないが、読了後は、じんわりきて優しい気持ちになれる。

 

■カテゴリー:

少女マンガ

 

■評価:

★★★★☆

 

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