名探偵に薔薇を ★★★★☆
城平京さん著
を読み終えました。
評価は、星4つです。
正確には、3.5くらいが妥当かな。
紀伊國屋書店に行ったときに、
書店員さんのおススメ?的なPOPが立っていて、
詳細を忘れたんですが、
「第一部で読むのを止めないで、第二部も必ず読んでください!!」
──みたいな宣伝文句が書かれていた気がします。
(帯だったかな…?)
その宣伝文句に惹かれ、
今回、
ようやく手をつけたわけですが、
宣伝どおり、
本書は二部仕立てになっていて、
第一部と第二部で内容は異なってきます。
たしかに、
第二部が用意されていないと、
結局、名探偵(瀬川みゆき)の正体って何だったワケ?
という物足りなさが残り、
作品自体が尻切れトンボになってしまう恐れはあるんですが、
私個人としては、
二部の出来が全体的にイマイチだったので、
期待していたほどの、
いわゆる”驚愕の展開”的な読了感は得られず、
先の宣伝文句に対して、
そこまで第二部に期待感もたせんじゃねーよ
と愚痴りたくなりました。
ただ、
話のオチ自体は、
なんだかな~的な部分はあっても、
ミステリーとしての仕掛けやアップダウンは、
精巧にできているなぁと感心しました。
なんというか、
無理矢理すぎる感もなく、
ロジックが整っていて、
現実ではここまでの仕掛け(企み?)は、
絶対ありえないんだけれども、
どこか納得してしまうという。
結果や動機の部分に、
共感できたり満足できるかは別としても、
(正直、自分はそこがイマイチでした)
手法?流れ?としては無理がなく、
むしろ、
よく出来ているなぁと思ったくらいです。
そういう意味では、
名探偵に薔薇を。
作者にも薔薇を!
▽内容:
始まりは、各種メディアに届いた『メルヘン小人地獄』だった。それは、途方もない毒薬をつくった博士と毒薬の材料にされた小人たちの因果を綴る童話であり、ハンナ、ニコラス、フローラの三人が弔い合戦の仇となって、めでたしめでたし、と終わる。やがて童話をなぞるような惨事が出来し、世間の耳目を集めることに。第一の被害者は廃工場の天井から逆さに吊るされ、床に「ハンナはつるそう」という血文字、さらなる犠牲者……。膠着する捜査を後目に、招請に応じた名探偵の推理は? 名探偵史に独自の足跡を印す、斬新な二部構成による本格ミステリ。
まず、
この作品は97年に出来ていますが、
すでにその原型となるものが、
96年に先行して雑誌に発表されています。
そのタイトルは、
「毒杯パズル」。
本書の第二部と同じタイトルです。
この第二部に大幅な改稿を加え、
それと同時に、
第一部を追加して出来上がった長編が、
今回の『名探偵に薔薇を』になるそうです。
要は、
先に「毒杯パズル」があって、
これを際立たせるためにつけたオマケが、
第一部の「メルヘン小人地獄」だったということのようです。
だからメインはあくまで第二部のほうであって、
第一部はメインに通じるイントロダクションでしかない。
どうやらそういう位置づけのようですが、
冒頭に述べた通り、
自分はそのメインのオチに、
どうも納得がいかなかったです。
犯人の動機が、
まさかその程度だったとは…。
え?それが理由?
しかも何?
それで犯人死んじゃうわけ?
なんだよそれ…
──みたいな。
たしかに、
どんでん返しといえばどんでん返しの結末なんですが、
そこまで引っ張ったわりに、
そのオチはないでしょうよ…
という不満が残りました。
この結末を、
名探偵の哀しい使命かのように表現している作者にも
いまいち共感をもてなかったんですが、
そんな名探偵が切ない…
とか、
とか言っている読者もいて、
結構ビックリ。
挙句の果てに、
涙腺が…なんて方も。
エ?!
何が?!
どこで?!
──と、ただただ驚愕するばかりですが、
こんな感想ばかり目にすると、
逆に、
自分って感受性低いのかなーとすら思ってしまいます。汗
私としては、
名探偵が切ないというより、
オチのしょぼさが切ないという感じで、
そこまで感傷的にはなれなかったのです。
第一部は、
真相にすんなりたどり着くのですが、
第二部は、
真相にたどりつくまでに二転三転します。
今思うと、
二部があれだけ予想外の展開を次々に見せるのに、
一部のあの解決スピードといったら、
半端ない。笑
よくあれだけで解決できるよな、
と読んでいる最中から思いましたが、
まぁそこは、
さすが名探偵!
ということで。
そして、
二部のその二転三転という展開は、
先述のとおり、
ロジックにあまり無理がなくて、
むしろ、
感心するほど精巧にできているなと思った次第です。
どうなってんの?
どうなっちゃうの?
と先が気になってページをめくってしまうくらい。
解説でも、
というふうに評されているとおり、
ロジックだけで、
これだけの無理のないミステリを成り立たせているのは、
本当にすごいことだと思います。
第二部の巧みな構成は筋金入りのマニアをも納得させるだろう
自分は、
筋金どころかハリガネも入っていない、
マニアでもなんでもない平凡な読者ですが、
解説者のいう「巧みな構成」という表現には賛同できて、
この作家、唯モノじゃないなと思います。
この城平京という作家さんですが、
この名前はあくまでペンネームのようで、
その由来は「平城京」なんだとか。笑
なぜに平城京よ?
って興味わきますが、
理由は不明。
解説を読むと、
ミステリー作家としての萌芽は、
わりと早かったようで、
修練を積んだ期間はわずか4,5年程度なんだとか。
もともとはSFとかファンタジーのほうが好きな青年だったようですが、
大学の文芸部在学中に、
先の文芸部誌に「毒杯パズル」を上梓し、
ミステリー作家として本格的にデビューしたそうです。
自分は読んだことがないのですが、
『スパイラル-推理の絆- 』というマンガも、
原作はこの城平京さんらしく、
ヒットを飛ばしたんだとか。
ちなみに、
この城平さん(というか、この作品)、
文体も特徴的で、
第二部はさほどでもないのですが、
あえて「擬古的」な文体を採用するなどして、
まるで昔の「謎々おとぎ話」のような世界観を醸し出しているのが、
独創的でした。
その例となる表現を
一部抜粋してみます。
『小人地獄』を取り巻くことどもは浮かび上がり、人間はつながっていく。だがなぞはまだ暗く底知れぬ堀となり、事件を囲っている。その堀を埋める冬の陣は、起こるや否や。
夜は更ける。小人地獄事件の過剰な装飾の意味は奇しくも鶴田文治によって語られ、そして三橋たちの手をことごとく封じた。この奸智の迷宮を攻略する糸玉は、ありやなしや。
「冬の陣」「奸智の迷宮」「攻略する糸玉」といった単語や、
「起こるや否や」「ありやなしや」といった言い回し。
どこか古めかしいし、
意図的に謎々を仕掛けているような表現ですが、
それがまたこの作品の「ミステリーっぽさ」を強調し、
独特の謎々の世界を創り上げているわけです。
話が逸れましたが、
作者の経歴や文体はさておき、
物語の構成というかトリック自体は、
ほんとうにアッパレ。
ただ、
やっぱり第二部で
「誰が、何のために、ポットに毒を入れたのか」について、
作者が語りたかったことが、
どうも物語を別の方向にもっていってしまった気がして、
自分はそれが残念でなりませんでした。
いや、だからこそ、
単なるミステリーに留まらない、
人間ドラマの要素を多分に含む、
生きる姿勢なんかを考えさせられる作品として
多くの人に受け入れられているのかもしれないけれど、
そこに傾倒しすぎないほうが、
むしろシンプルでよかったと思います。
Amazonレビューアの感想では、
これが一番、
自分の意見に近いかな。
ただし、全体的に名探偵が抱える宿業・悲劇といったものに焦点を当て過ぎていて、違和感を覚えた。もっとストレートなミステリ劇に仕立てた方がより楽しめる作品になったと思う。
いや、
名探偵が言ってること(生きる姿勢)は、
なんとなくわかるんです。
なんでもかんでも明らかにすることは、
逆に行動範囲が狭まり、
ともすれば自分の首を絞めることにもなりかねない。
名探偵・瀬川みゆきが、
自らの使命と胸に刻み、
良かれと思って(言い聞かせて)やっていることが、
時に思いもよらぬ結果を招き、
自分も傷つくことになる。
それで本当に幸せといえるのか。
病気があるけど、
病気があるなんてわからなければ、
人は幸せに生きれるんじゃないか?
というのと同じで、
真相なんて解決しないほうがよくて、
ただの事故だった…で終わらせるほうが、
みんな幸せなんじゃないか?
でも、
だからといってそこで立ち止まってしまったら、
今までの自分の生き方をすべて否定することになる。
だから、
名探偵は真相を解明することをやめない。
いくら病気なんて見つからないほうがいい
とわかっていても、
研究熱心な医者が、
すぐに研究をやめれるかといったら、
やめられないわけです。
だって、
それが医者の使命であり、
いままでもこれからも自分の拠り所なんだから。
病因がわかったら、
それを解決する手段を考える。
見つからない幸せと、
見つけたら解決する幸せ。
どっちも幸せの方法になりうるわけで、
名探偵は後者を選んだ。
もちろん、
そのぶん大変なんだけれど、
見つけない幸せを選ぶのは、
彼女にとって「逃げ」でしかない。
結局、
そういうことなんだと思います。
学生時代に、
ゼミの先生が言っていた言葉を思い出します。
コロンブスは新大陸を発見し、
それによって世界は拡がったというけれど、
本当にそうなのか?
むしろ、
無限大にあった世界が限定され、
縮まったんじゃないか?
──この小説で、
彼女の生き方を目にして、
ゼミの先生が言っていた、
そんな言葉を思い出しました。
それでも彼女は、名探偵は、
コロンブスであることをやめないでしょう。
それこそがこの第二部の、
ひいては作品全体の、
メインディッシュになっているわけですが、
その姿勢はわかるんだけど、
それをわざわざメインディッシュにしなくても…というのが
正直な感想でした。
以上、
今回はネタバレなしで感想を述べてみましたが、
読んだ人じゃないと、
このレビュー、ぱっぱらぴーだろうなぁ。汗
あ、あと、
意外にグロいです。
毒薬の作り方とか、
殺人のやり方とかが。
苦手な方は、
ご注意ください。
■まとめ:
・二部仕立てになっており、メインは二部。一部は二部を盛り上げるための脇役。一部はすぐに真相があばかれるが、二部は真相にたどり着くまで二転三転する。全体をとおして、トリックの構成は極めて精巧で、無理がない。ロジックだけで、これだけ無理のないミステリを成り立たせているのは、すごい。
・話の展開には思わず惹きつけられていくが、最後のオチは、個人的にはいただけなかった。「誰が、何のために、毒を入れたのか」について、作者が語らんとした別の人間ドラマが、どうも物語を別の方向にもっていってしまったように思える。
・グロい表現も多々あるが、あえて擬古的な文体を採用して、「謎々おとぎ話」のような世界観を醸し出す様は、より一層、ミステリー感があってよかった。
■カテゴリー:
ミステリー
■評価:
★★★★☆
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