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下町ロケット  ★★★★★

池井戸潤さん

下町ロケット

を読み終えました。

 

評価は、星5つです。

 

おもしろかった!

 

夜、眠れなかったので、

この本に頼りましたが、

逆に入り込みすぎて、

余計に寝れなくなるという…。

2日くらいで一気に読みました。

 

池井戸さんの本では、

いまのところ、

これがベストかもしれません。

 

昔からこの本の名前だけは、

やたらと電車の交通広告などで目にしていましたが、

まさかここまでだったとは。

 

さすが、直木賞受賞作品。

 

さすが、池井戸潤

 

泣けました。

 

▽内容:

「お前には夢があるのか? オレにはある」

研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。
圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。
特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた――。
男たちの矜恃が激突する感動のエンターテインメント長編!
第145回直木賞受賞作。

 

この小説、

のっけから主人公が逆風にさらされるところから始まります。

 

まずは、

宇宙科学開発機構のロケット開発において、

自ら手掛けたエンジンの開発ミス。

 

責任を追及され、

組織における前途が閉ざされたなか、

今度は父親の死に直面。

 

彼は、

研究職を辞して家業を継ぐことになりますが、

同じ研究者だった妻からも見放され離婚。

 

母と娘を抱え、

小さな下町の製造会社(佃製作所)で、

従業員数十人を養いながら、

なんとか経営を軌道に載せてきたところ、

今度は主要取引先の大企業(京浜マシナリー)から、

取引停止を告げられる。

 

売上の一割を占める大型の取引先だっただけに、

その痛手は大きく、

営業上ピンチを迎えます。

 

悪いことは続くもので、

そうしたさなか、

競合大手メーカー(ナカシマ工業)から、

特許侵害で訴えれる。

 

目論みとしては、

佃製作所の足元をみていて、

やつらが弱っている隙に特許の裏を突き、

裁判の長期化をはかって、

さらなる経営難に追い込んだところを買収しちゃえ、

というのがそのシナリオ。

 

ピンチのうえに、

大ピンチです。

 

シナリオどおり、

裁判が泥沼化する最中、

これを機に特許のとりかたを見直したことがきっかけとなり、

 

今度は、

政府へのロケット開発・納入をおこなっている

巨大企業(帝国重工)を敵にまわすことになってしまう。

 

これがまた、

予期せぬ大ピンチ!

 

読んでいても、

本当に苦難の連続

 

どうなる?どうなる?

とハラハラドキドキ。

 

これが全く親近感のもてない主人公だったら、

どうにでもなれば?

という感じですが、

この主人公はそうじゃない。

 

ある意味、

可哀想すぎて判官びいきしてしまう面も否めませんが、

キャラクター的に憎めない。

 

むしろ、

応援したくなってしまう。

 

いわゆる”我”(ワガママ?)のような、

人間くさい、あるいは醜い面も持ちつつ、

そんな自分をかえりみて反省したり、

あるいは諦めたり、

謙虚になるところはなって、

人をたてたり、

ちゃんと謝ったり。

 

要は、

単なる「いい人」ではないわけです。

 

だから、

決して偽善者にも思えないし、

架空の人物とはいえ、

とても身近な存在に感じる。

 

それは、

前述のように、

人間の一見「醜いなぁ」と思うようなところも、

きちんと描いているからだと思います。

 

私たちも、

仕事なんかで絶対に自分が正しいと思って、

強い姿勢・口調にでた日、

 

帰りの電車でふと、

やっぱ今日は言い過ぎたかなかぁ…とか

よく考えてみたらアイツの言ってることも正しいよな…とか、

そうやって自分をふりかえって反省したり、

 

いやそうは言っても仕方なかったんだ…と

無理やり自分を納得させたりして、

そういうことは誰しも経験があるわけで。

 

池井戸潤の描く主人公は、

(生い立ちや在籍する企業といったバックボーンはさておき)

ちょっと頑張れば近づけそうな人で、

決して手の届かないような人ではない、

だからつい応援したくなるんだ、

…なんてことを誰かが言っていた気がしますが、

本当にそうだと思います。

 

気持ちのうえでは等身大みたいな。

 

…とかいっちゃって

じつは自分なんて、

等身にも及ばないかもしれないけれど、

かといって、

決して理解できないような人物じゃない。

 

それが池井戸さんの描く人物像で、

だからこそリアルだったりする。

 

この小説に出てくる佃航平も、

またその一人でした。

 

人物像といえば、

主人公だけでなく、

その取り巻きや敵対関係にある人たちの人物描写も、

メリハリがあってよかったです。

 

私が好きなのは、

同じ佃製作所の経理部長・殿村。

 

厳密には、

取引先の銀行からの出向者であり、

最初は

自他ともに部外者的存在かのように描かれていた殿村ですが、

物語の進行にしたがって、

だんだん彼の良さが出てくる。

 

もともと不器用で口達者でない彼は、

その部外者的意識から遠慮がちで、

言うことも遠回しな表現が多く、

 

佃もその扱いに困っているところが見受けられましたが、

 

実は正義感が強く、

義理や人情を大事にする、

まじめで思いやりのある人間。

 

小さな下町の工場に、

技術面で先を越されてしまった帝国重工が、

(部品発注ではなく)特許使用のライセンス契約をもちかけようと、

不当ともいえる取引前の審査をおこなったとき、

彼らは佃製作所をあからさまに見下して、

重箱の隅をつつくような粗探しや否定、

暴言を繰り返します。

 

佃側では、

血気盛んな営業の若手リーダー、

江原がまず反撃する。

 

江原:

「中小企業未満ですね。あなた、なにしにここに来てるんですか。我々は貴重な時間を費やしてこれだけの資料を作成してるんですよ。しっかり評価する気がないんなら、止めませんか。迷惑です」

 

そりゃそうだ。

 

だって、

一生懸命、

徹夜で作業したんだもん。

 

それを、

いい加減なデータだなんて、

自分たちが大手だからって、

勝手に決めつけるんじゃねーよ!

…と読んでるこっちだってそう思います。

 

でも、

そんなふうに言われると、

大企業のプライドが許さない。

 

帝国重工側の査定担当の一人:田村は、

思わず売り言葉に買い言葉で言ってしまう。

 

田村:

「(取引前評価を)止めていいのなら、そうしたいもんだな」

「部品供給だなんて、分不相応なことをいってないで、特許使用契約にしておけば、お互いに無駄が省けただろうにな」

 

そして、 

ここであの殿村が、

一撃をぶちかますのです。

 

殿村:

「なにか勘違いされていませんか、田村さん」

「こんな評価しかできない相手に、我々の特許を使っていただくわけにはいきません。そんな契約などしなくても、我々は一向に困ることはありません。どうぞ、お引き取りください」

 

おまえたちのような輩と

無理に取引しなくたって

全然こっちは構わないんだよ!

 

だから、

「どうぞ、お引き取りください」

というこの一言。

 

よく言ってくれた!

 

少なからず、

そう思った読者は多いのではないでしょうか。

 

あくまで観客なんですが、

この時点で完全に、

佃製作所を応援するサポーターになってしまっているわけです。

 

帝国重工側は、

小さな下町の工場のことだ、

目先の資金が欲しいに決まっている、

ちょっと無理難題を押しつければ、

すぐにこちらの要求(特許使用契約)を飲むにちがいないと、

ハナから見下している。

 

実際、

佃側でも、

目先の利益をとる特許契約派と、

いままでの技術開発と製造という軸にこだわって、

長期的な成長を目指す部品供給派とで、

いわゆる内部分裂が起こっていました。

 

そこに、

社長をはじめとする経営側が、

後者のビジョン(技術開発と製造を軸とした長期的成長)で

なんとか推し進めていこうと舵を切ったところでした。

 

部品供給の線がダメなら、

帝国重工との取引自体を諦めるという覚悟をもって。

 

帝国重工としては、

まさか相手がそこまで覚悟して臨んでいるとは

予想だにしていないわけです。

 

だから、

ちょっと無理難題を押しつければ、

折れるだろうと甘くみていた。

 

これこそが彼らの傲慢であることを、

読んでいるこちらは知っています。

 

対する佃側は、

彼らのそうした具体的な思惑には気付かないものの、

明らかに見下されていることだけはわかる。

 

そこで、

当初、部品供給に反対していた江原たち若手は、

プライドを傷つけられて反発心が芽生えます。

 

大企業の無理難題に対して、

やってやろーじゃねーかコンチキショウ!

と寝る間を惜しみ、

いつも以上に完璧な仕事をこなしていく。

 

彼らの傲慢な姿勢が、

逆説的に、

分裂していた社内を一つにしてしまったのです。

 

私たち読者は、

帝国も佃もどっちの考え・スタンスも知っている。

 

でも、

小説のなかの彼らは、

お互いの目的を知らない。

 

ここに内部告発者がいたりして、

目的を知ったほ一方が、

うまく交渉をリードする

…という話の展開もありえますが、

 

今回、作者がとった道は、

あくまでお互い知らないまま進み、

帝国側の、

相手の覚悟を知らない・知ろうともしない傲慢さが、

かえって佃に勝機を与えてしまうというウルトラC

 

ときに予想もしない相手(あるいは競合)の失態が、

自社の窮地を救うことは、

現実のビジネスでもよくある話で、

 

作者が仕掛けたこのウルトラCは、

ウルトラでありながらも、

決して例外でもない。

 

それを知っているから、

ただの小説のなかの話にも思えません。

 

傲慢さは仇になる

──そういう意識を私たちも常にもっていないといけないな

と思いました。

 

我々は、

そういった双方の思惑や、

現実世界で本当にありうることだと知っているだけに、

この着地がどうなるものかと

ハラハラしながら見守ります。

 

気づいていない彼らの傲慢さに、

気づいているこちらとしては、

早く言ってやれー!

とばかり思っているから。

 

だから、

殿村のシメの一言は、

ものすごい爽快感でした。

 

「こんな評価しかできない相手に、我々の特許を使っていただくわけにはいきません。そんな契約などしなくても、我々は一向に困ることはありません。どうぞ、お引き取りください」

 

まじでスカッとしたなー、

あのシーン。

 

殿村に対する主人公の接し方も、

だんだん変わっていきます。

 

会社を救おう・伸ばそうとする、

殿村の真摯な向き合い方に、

はじめは、

「ありがとうな、殿村さん」

と言っていた佃ですが、

 

いつのまにか

「ありがとうな、トノ」

というようになっていたのが印象的です。

 

ここでも、

度重なる試練が、

逆説的に二人の距離を縮めたわけです。

 

そのちょっと前ですが、

会社の方針に反対派だった佃製作所の若手が、

帝国の査定団を受け入れるにあたり、

会社にポスターを貼ったシーンもよかったです。

 

「──佃品質。佃プライド。」

 

これを目にした佃は、

殿村から事情を聞いて、

そして徹夜明けの本人たちを目の前にして、

胸に熱いものが込みあげます。

 

佃:

「ご苦労さん」

「頼んだぞ、みんな。それと──ポスター、ありがとな」

 

いや、ホントご苦労さん。

関係ないけど、こっちからもありがとう。

と、

自分まで熱いものが込みあげました。

 

主人公や殿村のみならず、

先の江原もよかったし、

技術バカの山崎もよかった。

 

登場人物がそれぞれ役割分担されていて、

みんなよかったです。

 

また、

この小説は、

いろんな対立の構図が登場するのですが、

解説で村上貴史氏が言っているように、

そこには必ずしも一方が善で一方が悪という

偏った価値感は含まれていません。

 

中小企業 vs 大企業、

技術開発 vs 営業拡大、

夢(信念) vs 現実(妥協)、 

…などなど。

 

一見、

中小企業を食い物にする大企業は本当に最低だ!

という描かれ方をしているように見えますが、

全員が全員、悪者かというと、

決してそうではない。

 

帝国重工の戝前も浅木も、

自らの信念に基づいて体制側に反旗を翻し、

ある意味で佃の理解者になったわけですし、

 

自らの理想を盾に勝手に別れた妻も、

特許侵害の裁判の際に神谷弁護士を紹介してくれて、

佃の窮地を救ってくれます。

 

この神谷弁護士とは、

正直、

もう少し会話があるとよかったと思います。

 

なぜ神谷は佃を応援することになったのか。

元々契約関係にあった原告(=ナカシマ工業)との間に何があったのか。

そのナカシマとの裁判に勝ったときどう思ったのか。

…などなど。

 

欲張りかもしれませんが、

できればこれを、

神谷氏のナマの言葉で聞きたかったかな、と。

 

ここが唯一のがっかりポイントでした。

 

それこそ肉付けされなさすぎて、

一番、

非リアルに感じたところかもしれないです。

 

さて、

話をもとに戻しますと、

 

先にあげた

技術開発 vs 営業拡大、

夢 vs 現実、

という対立構図は、

おもに佃製作所の内部の話ですが、

 

これも、

誰が正解で誰が間違いとは言い切れませんし、

作者自体、

そこに善悪や是非の価値判断はつけていません。

 

技術開発に莫大な資本を投下するのは、

長期的な成長戦略を描くには必要なことだし、

かといって足元の営業をおろそかにしては、

会社はまわらなくなってしまう。

 

佃が夢を追いかけるのが利己的ならば、

従業員が現実的に家族を守ろうとするのも利己的だし、

 

現実世界においても、

俺についてこいという経営者がいれば、

部下に権限移譲して

うまく回している経営者だっているわけで、

 

要は、

どっちにもどっちの言い分があって、

どれが正しいというわけでは決してない。

 

それが正しいと信じて、

あるいは間違ったときにはそれを謙虚に認めて、

軌道修正するしていくしかない。

 

物事というのは、

結局そんなもんなんだと思います。

 

そういうことをリアルに描いているから、

この小説はググッと入り込めるんだと思います。

 

仲間につても、あるいは闘いの構図についても、池井戸潤は、画一的にならないようにきっちりと配慮している。 大企業=悪、といった紋切型ではないのだ。大企業のなかにも佃製作所と理想を共有できる人物もいれば、自分の仕事に誇りを持ち、その信念に基づいて行動する人物もいる。そうした人々も佃製作所の仲間なのだ。同様に、佃製作所=善、といった描き方もしていない。佃製作所のなかにも、異なる価値観が存在し、会社の存亡の危機のなかにあってさえ一枚岩になれずにいる。こうした意見の相違を描くさじ加減が絶妙で、人間関係は実に生々しい。

 

先に述べた解説で、

村上氏は上記のように評していますが、

本当にそのとおりだと思いました。

 

氏は、

本作において、

こうした価値観の対立構図・人間関係の描き方のほかにも、

「チームワーク」だったり、

「夢を追って進み続けることの素晴らしさ」だったり、

 「技術を語る面白さ」などを

大変評価しています。

 

「チームワーク」については、

まさに戦友という言葉がそうであるように、

試練が大きければ大きいほど、

いざこざが多ければ多いほど、

その絆は強く、

厚い信頼感が生まれるわけで、

 

苦難続きの佃製作所(というストーリー展開)だったからこそ得られた、

何にも替えがたい副産物であり、

それがリアルに読者に伝わってくるのかと思います。

 

「夢を追って進み続けることの素晴らしさ」や

「技術を語る面白さ」については、

モチーフを「ロケット」にした設定が、

実はすごく功を奏したと思います。

 

ロケットというのは、

人類にとって、

まさに「夢」や「技術」のシンボルです。

 

現実的にも、

そこにかかる技術やコスト・時間、

関係者の期待や熱意は、

どれをとっても莫大なもので、

 

そうした努力や手間ひま・想いをのせて、

宇宙という無限の空間に飛び立っていくわけですから、

これを「夢の結晶」あるいは「(最先端)技術の塊」と言わずに何という

…的な世界だと思います。

 

それがどんなにすごいものかわかっているから、

関係者はもちろんのこと、

見ているこちらまでもが

あの飛び立つときの高揚感や緊張感に

胸をつかまれる。

 

ロケットというのはそういうもので、

だからこそ、

それがうまく打ち上げられたときには、

感動はもう頂点に達するわけで、

 

この小説もまた、

見事にクライマックスを迎える

という展開になっています。

 

これがロケットじゃなくて、

たとえばいま話題の国産小型飛行機(MRJ)だったとしても、

池井戸さんの術にハマれば

それなりに感動するんでしょうが、

 

やっぱり、

より重厚でリスクも高い「ロケット」だったからこそ、

「夢」や「技術」の素晴らしさを

多くの読者に与えることができたのかと思っています。

 

 

■まとめ:

・苦難の連続で、終始どうなることやらとハラハラドキドキしながら読み進んだ。主人公や取り巻きたちの人物像が、とても人間臭く描かれていて、親近感がもてたこともあり、そこに判官びいきもまじって、気づいたら佃製作所のサポーターになっていた。

・対立の構図や人間関係がわかりやすく、すごくリアルに描かれていて、感情移入しやすかった。苦難の連続が逆に会社のチームワークを強くしていくサマも、現実的でかつ感動的だった。

・夢や技術のつまった「ロケット」をモチーフにしたからこそ、それらの素晴らしさを多くの読者に与えることができたと思う。最後にロケットが無事、打ち上げに成功するシーンは、お約束どおりに物語もクライマックスを迎え、感動。泣けた。

 

■カテゴリー:

経済小説

 

■評価:

★★★★★

 

▽ペーパー本は、こちら

下町ロケット (小学館文庫)

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