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汝の名 ★★★★☆

読んだ本

明野照葉さん著

汝の名 (中公文庫)

を読み終えました。

 

評価は星4つです。

 

心が荒んでいるのか、

最近(最近も?)、

やたらドロドロして醜い・怖いミステリー的なものが読みたくて、

この小説にたどり着きました。

 

作者・明野照葉さんは、

初めて読む著者になるのですが、

この本の〔著者紹介〕をみると、

 

東京都生まれ。1998年、「雨女」で第三十七回オール讀物推理小説新人賞を受賞。2000年、『輪廻RINKAI』で第七回松本清張賞を受賞、一躍、注目を集める。ホラーやサスペンスタッチな作品を得意とし、「女の心理と狂気」を描いた独自の作風はファンを魅了してやまない。

 

とありました。

 

「女の心理と狂気」だって!

 

そうそう、

まさに、

そういうのが読みたかったわけです。

 

こういった類でほかに思いつくのは、

私としては、

桐野夏生さんや乃南アサさんになるのですが、

果たして明野さんに、

彼女たちに比肩する力はあるのか?!

 

──結果は、

「是」(マル)でした。

 

たしかに、

ドロドロの女の狂気だぜ!

 

他の作品も読んでみたくなりました。

 

▽内容:

若き会社社長の麻生陶子は、誰もが憧れる存在。だが、その美貌とは裏腹に、「完璧な人生」を手に入れるためには、恋も仕事も計算し尽くす女だ。そんな陶子には、彼女を崇拝し奴隷の如く仕える妹の久恵がいた。しかし、ある日から、二人の関係が狂い始め、驚愕の真実が明らかになっていく…。『女神』の著者が「女の心理と狂気」で描く現代サスペンスの傑作。

 

作者の明野照葉さんは、

1959年生まれの現在56歳。

 

この本を出したのが2007年なので、

今から8年前、

作者48歳のときの作品ということになります。

 

ちなみに、

明野照葉というお名前ですが、

「あきの しょうよう」ではなく、

「あきの てるは」と読むそうです。

 

やはりペンネームらしく、

本名は「田原 葉子」というようです。

 

大学卒業後、

一度は社会人も経験しているみたいで、

この本を読む限り、

たしかにOLやサラリーマン事情にも詳しい感じはしました。

 

話のつくりとしても、

書き方(文体?)としても、

非常に読みやすくて、

下手したら土日でさっと読めるくらいなんですが、

 

よくよく振り返ると、

もう少し肉付けしたほうがよかった点や、

最後のオチはちょっといただけないかも…

──という印象があり、

ここがマイナスポイントでした。

(あくまで個人的主観です)

 

詳細は後述しますが、

ここからはネタバレも含まれますので、

ご注意ください。

 

この物語を読んでいると、

最初は、

自立心・上昇志向が強い、

いわゆるキャリアウーマンの主人公(麻生陶子)が、

男をうまく頼りながら、

事業を成し遂げていく、

「やり手」の女社長の話なんだなと思います。

 

たしかにそうなんですが、

実はこの麻生陶子という人物、

本来はいわくつきの戸籍の持ち主で、

借金苦で首が回らなくなったところを、

その戸籍を綺麗にすることを条件に、

三上里矢子という女性が借り受けているわけです。

 

つまり、

三上里矢子が麻生陶子になりすましている。

(主人公=三上里矢子)

 

この三上里矢子という女性、

プロローグで出てきたとおり、

もとはしがないOLで、

劇団員の彼と同棲するも、

実態は彼女が彼を養っているも同然。

 

彼女は、

そんな自分に嫌気がさし、

ある日、

同棲中の自宅を飛び出してしまうのです。

 

そのときふと目にしたのが、

オシャレな高級マンションに、

颯爽と入っていく綺麗なキャリア・ウーマン。

 

自分の理想とする姿がそこにはあったのです。

 

もう男に搾取される生き方はまっぴら!

 

──そう決心した里矢子は、

ヒモ男やしょうもないOL人生にサヨナラし、

新たな生き方を模索しはじめます。

 

そんな彼女が最初にたどりついたのは、

ブランド品を売りさばくブランドショップの販売会社。

 

ここで里矢子は、

河島宏治という男に会います。

 

彼は、

ブランド品だけでなく、

不動産や金融業など幅広く事業を展開する、

成金のやり手野郎。

 

過去と決別し、

新たな人生を開拓していくにあたって、

彼女は三上里矢子という名前を捨て、

おそらく河島のツテで得た「麻生陶子」の戸籍を借り、

株式会社ETSという人材派遣会社を立ち上げ、

軌道に載せていきます。

 

このETSという会社がまた面白い!

 

人材派遣の一種なんですが、

一般的なホワイトカラー(あるいはブルーカラー)の派遣ではなく、

役者を派遣するというもの。

 

たとえば、

結婚式への参列や、

販売会場のサクラ、

孫や母親代わりなど。

 

この作品のなかでは、

ヘッドハンティングの演出をする役者が陶子によって雇われ、

さらには、

実体のないペーパーカンパニーの事務アシスタントまでもが配役され、

とある男性(伊庭久二)を転職させるというシナリオが展開されています。

 

けれどもこれ、

クライアント(依頼主)は

その男を辞めさせたい会社であり、

要は、

彼を解雇するために、

自ら転職させてしまおうというのが目的。

 

この演出を、

陶子の会社(ETS)がおこなっているわけです。

 

このビジネスモデルは面白い!

 

ETS、エクストラ・タレント・スタッフ──、陶子が抱えているスタッフの多くは、かつて舞台にあこがれていた人間、演劇をやっていた人間、芝居好きな人間、それに現在も演劇に携わっている人間たちが主だ。つまりETSが求めているタレント、才能とは、与えられた役柄をきちんと演じることができる能力のことだった。

おかしな人材派遣業だ。陶子自身そう思う。けれども、不思議なほど需要はある。

 

ネット社会のいまでこそ、

普通にありそうな話ですが、

8年前にこんなビジネスを思いついた作者の発想力がすごい。

 

「不思議なほど需要はある」って、

たしかに、

そうなんだろうなと思います。 

 

ただ、

彼女がどうやってETSを始めるに至ったのか?

については、

もう少し経緯を肉付けしたほうがよかったと思います。

 

そもそも陶子(=里矢子)自身、

昔から演劇に縁があったからという背景はわかるんですが、

そこからどう派生してこのビジネスモデルにたどり着いたのか?

という部分について、

もうちょっと説明があったほうがいい。

 

言わば、

主人公と「演出」というものを結びつける因縁みたいなものですかね。

 

これはラストの結末にも通じるところなので、

自分としては、

もう少しその布石にもなるような、

補足が欲しかったかなと思いました。

 

陶子のその事業を、

裏で河島が支援し、

そのがために彼女は、

肉体関係を拒みもせず、

ビジネスとして割り切ります。

 

一方でまた、

年下のデザイナー(伊藤恭平)とも「いい関係」を維持し、

自社WEBサイトの設計・運営に協力してもらうかわりに、

男女の付き合いを続ける。

 

陶子に言わせると、

これらは、

いいように男に搾取されるのではなく、

陶子もまた男を利用するというビジネスの一環。

 

そうやって三上里矢子は、

麻生陶子として生まれ変わり、

いつしか住まいや身につけるものも洗練され、

やり手の女社長として成功者の階段を着実に昇っていきます。

 

かつての「しがないOL」とは完全にオサラバ。

 

さて、

この三上里矢子には、

高校時代の友人(杉本久恵)がいて、

彼女は里矢子とは正反対の人物でした。

 

里矢子が、

派手で気が強く体型もスマートであるのに対し、

久恵は、

地味でネクラで幼児体型。

 

──まさに陽と陰の関係。

 

久恵はいつも里矢子に憧れていて、

それは東京に出てからも続いていました。

 

作品のなかで、

久恵は里矢子の「信奉者」という表現がされていましたが、

早い話が、

この時点ですでに彼女は、

里矢子の「ストーカー(予備軍)」でした。

 

地味でネクラな久恵も、

東京の勤務先でそれなりに恋をするのですが、

新しく入ってきた新卒女に男をとられてしまい、

あえなく失恋。

 

ただでさえ、

人への憧れや依存心が強い久恵。

 

失恋を機に、

いっきに人間不信に陥り、

精神的に病んでしまいます。

 

おそらくそんな彼女までも、

自身の新たな人生設計に、

陶子(里矢子)は利用できると思ったのでしょう。

 

精神的にひどく落ち込み、

働く意欲も失われた久恵を、

陶子は自分の妹役にして自宅に居候させ、

身の回りの世話をしてもらいます。

 

病気の妹がいるということで、

男からの誘いを上手くかわしたり、

何かと口実にすることができるからです。

 

ただ、

ここも少し言葉足らずかなと思いました。

 

具体的には、

里矢子と久恵が再会し、

同居するようになった経緯がイマイチよくわからないわけです。

 

前述のとおり、

里矢子が麻生陶子を名乗るようになった経緯や、

久恵がもともと高校時代から里矢子を信奉し、

上京してからもそれが続いていたという経緯は触れられていましたが、

 

彼女が失恋して立ち直れなくなってから、

どこでどんな経緯があって里矢子と共に暮らすようになり、

妹分として名乗ることになったのかについては、

特に言及されていませんでした。

 

三上里矢子が麻生陶子になって、

仕事だけでなくプライベートも演出であり、

結局すべてが演出でした、

でもその演出は崩れ……

以上おわり!

──みたいな話なのかなと思ったのですが、

 

最後まで読むと、

この流れはまんざらハズレでもないわけです。 

 

であれば、

演出の「出だし」のディテール部分も、

きちんと説明してほしかったかなと思います。

 

(ちょっとこれは、

細かい部分にとらわれすぎかもですが…)

 

まあ、

結果的に陶子は、

新しい男(壱岐亮介)に出会ったことで、

なんだかんだいいつつ自分は河島の手の上で転がされていること、

麻生陶子としての生き方が本来の自分ではないということに気づいてしまい、

自らを偽って生きることを辞めようと決心するのですが、

 

さて、

ここからが久恵の出番です!

 

強迫観念が強く、

依存体質の久恵は、

陶子が三上里矢子に戻っていくことが怖くなりました。

 

演出でもいい、

虚構でもいい。

 

久恵は、

いまの陶子との、

持ちつもたれつの関係を壊したくありません。

 

陶子が何人男を作ろうが、久恵はまったく気にならない。陶子を羨み、妬むこともない。そういう陶子が好きだからだ。久恵にはできないことをする女。ただし、愛する男を作られるのは嫌だった。男を愛するなどというのは、陶子のあり方ではない。陶子本来のあり方でないから嫌なのではなかった。相手の男に対する嫉妬だ。陶子の目がそちらに向けられることで、自分が見捨てられてしまうことが恐ろしい。もはや価値のないものとして放りだされ、陶子との生活が終わってしまうことが嘆かわしい。

 

その陶子が、

さんざん自分を利用し、

こき使ってきた彼女が、

男なんかに恋をして、

本来の里矢子に戻ろうとしている。

 

(裏切り者)

久恵はなかば吐き捨てるように心で呟いた。

(陶子ちゃんの裏切り者)

久恵は、何かに憑かれたような鬼気迫る面持ちをして、陽射しの下を歩き続けた。

 

──このあたりは、

完全にストーカーの心理を突いていますね。

 

愛と憎しみは紙一重。

 

相手への愛情(依存度)が深ければ深いほど、

いざそれが報われないときの怨みもまた深いわけで、

久恵の陶子に対する愛情は、

いっきに憎しみに変わったわけです。

 

そして彼女は、

持ち前の薬学に関する知識をつかって、

陶子を薬漬けにし、

これを軟禁するという行為に及びます。

 

このあたりの久恵の心理状態に関する、

作者の描写の上手いこと!

 

久恵には、自分が社会で人間扱いしてもらえなかったという思いがある。いつも過去を振り返っては、頬をわななかせて臍を噛んでいた。自分を疎んじ蔑ろにしてきた人や社会に対する彼女の恨みには、根深いものがある。自分自身を否定するか外側の人や社会を否定するか──、今の久恵は後者に傾いている。人を人とも思っていない。

 

この作者は、

人間や女性のどす黒い部分(真理)を、

エグイほど突いているのです。

 

先の久恵の豹変ぶりもそうなんですが、

久恵の陶子に対する「仕打ち」もそう。

 

毒殺は、女が使う殺害の手段──、俗説だ。偏見に満ちてもいる。少なくとも陶子はそう思っている。けれども、久恵を見ていると、あながちはずれていないという気もしてくる。女というのは非力で陰湿で、反面、恨みがましくて執念深いもの。そういう存在だった時代には、恐らく真実を突いた説だったろう。だが、今の女は違う。男も変わった。肉体を頼りに闘うことを放棄した男は薬を使い、自ら闘うことを覚えた女は薬に頼らない。そういうことからするならば、久恵は悪い意味で、昔ながらの女だった。正々堂々と闘う力がないから、姑息で卑怯な手段に出る。

 

先の陶子の会社における、

解雇のための演出というアコギな商売もそう。

 

生き残りのため、企業までもが自社の社員に、詐欺に近い芝居を仕かけてくる。道義も何もあったものではない。また、見栄のため、体面を繕うため、自分がいい気味を味わうため…人は思いの外惜しみなく金を使う。

 

非常に的を得ている表現が多いのです。

 

明野さんは、

こういった人間の欲深さ・どす黒さをよくわかっているし、

隠そうともしない。

 

さらには、

この小説を書くにあたり、

その究極にある精神病理や、

薬に対する知識なども、

おそらくそれなりに勉強されたのでしょう。

 

それは久恵という人物だけでなく、

麻生陶子という新しい生き方に固執する里矢子の描写をみても、

よくわかります。

 

自分自身の目的意識に従って生き生きと行動しているようでありながら、現実に見捨てられまいという思いから死に物狂いの努力をしているに過ぎず、相手に応じて演じ分けるのも、相手に見捨てられたくない、価値のないものとされたくないという心の奥底の思いから生じている。感情的には不安定この上なく、鬱と精神分裂の狭間にある……。

 

この表現↑なんかは、

まさにそう。

 

そして、

私なんぞは、

かつての自分にもこういった面が少なからずあったなぁと、

共感すらしてしまうのです。

 

解説で、

文芸評論家の吉野仁さんという方が、

次のように述べていました。

 

おそらく、読者の知り合いのなかにも、陶子や久恵とよく似た女性が一人や二人はいるだろう。かたや見栄っ張りでヒステリックで自己顕示欲が強い傲慢な女。かたや気が弱くて自分に自信が持てず何をやっても愚図な女。もしかすると、誰でも自分の人格の何パーセントかに、こうした側面を持ち合せているかもしれない。とりわけ女性読者は、陶子や久恵のどろどろした欲望や悪意を拒絶するばかりではなく、むしろいくらか共感を覚える部分も多いのではないだろうか。

 

いやいや、

ほんとその通りだと思います。

 

自分には、

陶子ほどの向上心・行動力はありませんし、

だからといって、

久恵ほどドンクサく陰湿でもない(と思う)。

 

でも、

陶子のような、

自分輝いてます!的な〔なんちゃって勘違い〕の生き方や

ときに病的なまでにヒステリックになるところは、

自分も持ち得ている(持ち得ていた)し、

 

どうせ自分はダメ人間、

でも待てよ、

そうなったのは自分が悪いんじゃなくて、

まわりが悪い、

きっとそうだ、

いやそうに違いない!

──といった久恵のような考え方も、

ゼロかといったらそんなことはない。

 

ともに、

「わかるわ~」と思えるのです。

 

小説の面白さというのは、

新しい世界観とかストーリーの意外性とか、

いろいろ評価ポイントはありますが、

なんだかんだいって、

どれだけ共感できるかによるところは大きいと思います。

 

そういった意味では、

明野さんの作品は、

人間(とくに女性)の真理を突いており、

非常に共感ができて面白かったです。

 

最後は、

軟禁状態から辛うじて脱出した陶子が、

久恵に向けて「お馬鹿さん」という言葉を残し、

無事に久恵のもとを去るわけですが、

 

そんな久恵にもまたようやく春が来て、

新しく男ができ、

ついに結婚か?!と、

人並みの幸せをとり戻していきます。

 

そんななか、

いつしか陶子に対する懺悔の気持ちも芽生え、

実際に陶子に出くわし、

謝罪の言葉も口にするのですが、

 

最後の最後、

この新たな幸せこそ、

陶子が仕組んだ演出だったことに気付かされます。

 

つまり、

長い月日をかけて、

陶子は復讐のために、

久恵に新しい恋人(婚約者)を送り込み、

偽装恋愛を演出したわけです。

 

この真相を知って、

愕然となる久恵。

 

そして物語は、

次のように幕を閉じます。

 

頬にはまだひきつりがあった。しかし、久恵は、しっかりと自分の足で立っていた。

(待っててね、陶子ちゃん。今度は私の番だからね──)

暗いなかにも、久恵の瞳に確かな光が宿っていた。

 

このラストの結末は、

言ってみれば「大どんでん返し」だと思います。

 

衝撃の結末──。

 

なんだけれども、

自分は何かいまひとつ、

納得がいかない。

 

なんでだろう?と思ったときに、

 

「演出」の世界から離れ、

本来の自分に戻った・戻ろうとしたはずの里矢子が、

 

結局、

ここでも「演出」を武器に、

久恵を陥れたわけです。

 

それくらい里矢子と「演出」というのは、

切っても切り離せない関係にあったというのが

作者が読者に印象付けたかったところなのでしょうが、

 

自分としては、

話の流れに逆行しているというか、

「あれ?」と矛盾を感じてしまう。

 

本来の自分(里矢子)に戻るんだ!

と決心し、

(もう少しよ。里矢子、本当にもう少しの辛抱よ。)

と自分に言い聞かせ、

久恵という魔の手から逃れた里矢子(陶子)でしたが、

 

(見ていなさいよ。あんたみたいな薄のろに、いつまでもいいようにされて堪るもんですか。久恵、この借りは、きっちり返させてもらうからね)

と復讐を誓います。

 

この部分こそ、

衝撃のラストに通ずる伏線そのものと言ってよいかと思いますが、

 

本来の自分に戻る流れを描きながら、

結局はまた虚構をつくりだしている。

 

そこになんだか矛盾を感じてしまい、

だからこそ、

このオチに納得がいかなかったし、

もっと里矢子と「演出」の因縁深さなり

ETSという事業の創設との関連性なりを、

作者は印象づけるべきだったんじゃないかと思います。

 

まあでも、

そもそも狡猾であれなんであれ、

虚構や演出を駆使することもまた、

麻生陶子ならぬ、

本来の三上里矢子の生き方であり、

そういうことに闘志が湧いてナンボ、

生き甲斐を感じてナンボなのが里矢子なんだとしたら、

それもまた本来の自分であって、

なんら矛盾はしていませんね。

 

持って生まれた性格はどれほどその欠点に自己嫌悪し、自覚して直そうとしても容易には変わらない。表面だけ別の顔を取り繕っても、性格はそのままだ。なにしろ理性ではどうしようもできない、すなわち「業」の部分が支配しているのだから。

 

解説者のこの一文に、

自分は最初、

「?」が3つくらい頭に並んだのですが、

 

上記のように考えると、

これこそまた、

「的を得ている」と思わずにはいられませんでした。

 

ということで、

今回は巻末の解説がとても参考になりました!

 

 ※以下は、登場人物です(備忘録)

 

・麻生陶子(三上里矢子):

もとは建設会社に勤めるしがないOL。交際相手でヒモの瀬永耕に愛想がつき、人生をやり直すべく、麻生陶子として生きはじめる。株式会社ETS(エキストラ・タレント・スタッフ)の女社長として、一人で会社を切り盛りする。

 

・瀬永耕:

劇団「類」に所属する役者。役者として一向にうだつがあがらず、里矢子と同棲するも、ヒモ状態に。

 

・河島宏治:

陶子(里矢子)の会社の出資者であり、事業パートナー。事業資金の融資、業務上の提携など、陶子を支援しつつ、体の関係も。自身は、貿易商・金融業など、ヤクザじみた事業を幅広く展開。

 

・伊藤恭平:

グラフィックデザイナーとして、陶子の会社のウェブデザインを手掛けるも、陶子との肉体関係から無料に。陶子にとっては、いわば、年下の「使える」セフレ。

 

・伊庭久二:

もとは、に勤めていた総務課長。ヘッドハンティングによって、新たな転職先(オメガ・トレーディング)を勧められ、退職してしまうが、実態は解雇であり、すべては陶子の会社(ETS)に雇われたキャストらによる演出だった。

 

・杉本久恵:

陶子(里矢子)の高校時代の同級生。昔から陶子の信奉者であり、陶子の妹役として神宮前の陶子宅に同居・居候し、陶子の身の回りの世話をする。山梨から上京し、光耀製薬にアシスタントとして勤めていたが、西島との失恋を機に、陶子のもとに入り浸るように。

 

・西島昂一:

光耀製薬の研究員で、久恵の元彼だったが、山口添水に乗り換え、久恵を捨てる。

 

・山口添水(そえみ):

光耀製薬に新卒入社で入ってきた研究員。西島と結婚。

 

・松谷継子:

久恵の元のアパート(若草コーポ)の近くに住む、一人暮らしの老女。具合が悪くなったときに、たまたま久恵が通りかかり、介抱したことがきっかけとなって久恵と親しくなるも、久恵によって気付かないうちにお金を吸い上げられるように。

 

・野地菊男/春川好子/中村カツ子/須藤那賀子/伊丹豊子:

若草コーポのある千駄ヶ谷近辺に住む独居老人。同じく、久恵のカモ。野地は保険に加入し、解約金を久恵に搾取される。春川や中村もまた、預金管理を任せるうちに、久恵にお金を抜き取られる。伊丹は認知症をいいことに、久恵の最も都合のよいカモに。

 

・麻生科子(麻生陶子):

(戸籍上の本人である)麻生陶子の実の妹。借金苦で三上里矢子に戸籍を貸し、自身は、消息不明の妹(科子)の名前と戸籍を使う。薬物依存症になり、麻生陶子と偽って、その戸籍を利用する里矢子に金をせびるも、池袋のアパートで変死。実は久恵が薬を盛って殺害。

 

壱岐亮介:

ゴルゴン・カフェのオーナーで、クラウンホテルグループの御曹司。陶子(里矢子)が本気で恋におちた相手。

 

今井宏幸:

久恵が新たに勤める新宿の不動産会社に客としてやってきた男。大手広告代理店勤務。久恵の4つ年下だったが、久恵と付き合い、同棲するように。

 

 


■まとめ:

・人間(とくに女性)のドス黒さ(真理)をエグイほど突いており、非常に共感ができて面白かった。他の作品も、是非読んでみたいと思った。

・話のつくりや文体も非常に読みやすくてよかったが、里矢子と「演出」の因縁や、里矢子と久恵が同居に至る経緯など、もう少し具体的に肉付けしたほうがよかった点もあった。

・最後はいわゆる「どんでん返し」で、衝撃のラストだったが、自分はちょっと矛盾を感じてしまった。でも、巻末の解説を読んで納得。

 

■カテゴリー:

ミステリー

 

 

■評価:

★★★★☆

 


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