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13階段 ★★★★☆

高野和明さん

13階段 (講談社文庫)

を読みました。

 

評価は、星4つです。

 

前回、高野さんの作品で、

グレイヴディッガー (講談社文庫)』を読んでからというもの、

その面白さの虜になってしまい、

早く次を読みたい!と思って

手にとった作品がコチラです。

 

結論、

グレイヴディッガー 』よりも、

また一段と面白かった!

 

この作家、恐るべし!

 

▽内容:

犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。2人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。

 

こちらの文庫本解説は、

あの宮部みゆきさんが執筆されているんですが、

あのミステリーの大家をして、

手強い商売仇を送り出してしまったものです。

と言わせしめたほど、

江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編」なわけです。

 

実はいま、

自分がハマっている作家が二人いて、

一人はまさにこの高野和明さんで、

もう一人が真梨幸子三という方なのですが、

 

高野さんの『グレイヴディッガー 』を読んだあとに、

真梨さんの『深く深く、砂に埋めて (講談社文庫)』という小説を読み、

そしてまた高野さんの本作『13階段 』を読み終えまして、

今回はもう、

圧倒的に高野さんのほうに軍配が上がりました。

 

もちろん、

同じミステリーとはいえ、

タイプが全く異なるので、

一概に同じ天秤で測るのも難はありますが、

 

真梨さんは『殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫)』が面白すぎて、

そのインパクトが強すぎたために、

まだこれを超える作品に(辿り着きたいのに)辿り着けない…

というジレンマがあるのですが、

 

高野さんの場合は、

読んだ順番もよかったみたいで、

本作は『グレイヴディッガー』よりも、

さらにパワーアップした感がありました。

(この『13階段』こそ、彼のデビュー作にあたるのですが)

 

真梨作品のレビューも書きたいと思ってはいるのですが、

なかなか時間もとれず、

そのうち、さらに別の本を読み始めてしまったりして、

このレビューが手つかずになってしまっているのですが、

 

とはいえ『殺人鬼フジコの衝動』は、

劇的に面白かったので、

いつかここできちんと書いておきたいと思っています。

 

さて、

話をもとに戻し、本作について。

 

宮部みゆきさんも、

周到で緻密な構成と理知的な落ち着いた文章(平明にして重厚というところが得難い資質)

と評するとおり、

 

本作もまた、

トーリーの展開は言わずもがな、

「死刑」という重くて難しいテーマを取り上げつつ、

それを登場人物のセリフや物語の流れでうまく嚙み砕いて、

読者を手離しません。

 

死刑に関する法的な内容も、

たくさん出てくるので、

自分のような一般ピーポーからすると、

専門的で小難しいわけです。

かつ、テーマ自体が重い。

 

それが高野さんの魔法にかかると、

あーもう難しいからここでやめちゃおう…っていうふうには、

決してならない。

 

それどころか、

死刑って法的にそうやって段階を踏むのか、

死刑の実態ってそうなってるんだ、

といった一種の好奇心さえ植えつけられます。

 

私は、松本清張さんが好きなんですが、

彼の作品もなかなか重厚なものも多いのですが、

やたら自分なりの解説が多くて、

それがこっちからすると「知識のひけらかし」にすら

見えてくるものもあったりします。

 

それでいうと高野さんは、

そういうイヤらしさも全くありません。

 

最後の参考文献一覧を目にするとよくわかりますが、

この作品を上梓するにあたって、

彼自身、本当によく死刑のことを勉強されたんだろうな…

という努力の証が見て取れます。

 

その昔、

大塚公子さんの『死刑執行人の苦悩 (角川文庫)』という

ルポを読んで衝撃を受けたことがありますが、

 

高野さんも勿論これは読まれていて、

本作のなかにも、

上記を参考にして描いたであろう部分がありました。

 

彼のこうした膨大な下調べのうえに、

この作品は成り立っていて、

それは「死刑」というとても重いテーマで、

かつ、専門的で難しい内容でもありながら、

読者にむしろ一種の好奇心すら植えつけ、

死刑について考えさせもする、

この手腕。

 

わかりやすくて読みやすいほうが、

個人的には好きなんですが、

高野マジックにかかると、

難しいのもなかなかイイな…とすら思えてくる。

これが彼のスゴイところだと思います。

 

彼は「死刑」というテーマを足がかりに、

「正義」とは?「真実」とは?「法」とは?

という本質的なところを、

本作で突いてくるのです。

 

刑法がその強制力を以て守ろうとする正義は、実は不公平ではないのか。

 

そして、

制度の矛盾、法律の矛盾に言及し、

それに直面する刑務官(南郷)たちの苦しみを描きながら、

そのことを上手にわかりやすく読者に伝えています。

 

結局、法なんて、

良くも悪くも人間に都合よくつくられていて、

人間の中身まで本質的に変えたり、

制約できるものではないのです。

 

あったら足かせになることもあるけど、

ないと不便だから、

表面上のルールは絶対に必要で、

それが「法」というものなんじゃないかと、

私はこれを読んで自分なりに解釈しました。

 

そう、

あくまでも≪表面上≫のルールなんです。

 

≪表面上≫だから、

それが必ずしも正義とは限らないのです。

むしろ、

≪本質的≫には、悪だったりもする。

 

──そんなことを、

この作品から改めて教わった気がします。

 

さて、

次はストーリーのほうなんですが、

こちらもよく考えてできている。

 

本作には主人公が二人いて、

一人は刑務官の南郷、

もう一人は前科者の青年・三上なんですが、

 

冒頭から、

(前科を犯す前に)高校生のころ家出をした中湊で、

三上青年に何かあったんだろうな…

的な伏線はバッチリありますし、

 

これは最後に、

ああやっぱりな…

というオチに至ります。

 

また、

なんとなく三上と、

その三上が殺してしまった佐村(親子)との間にも、

何か語られていないことがあるんだろうな…

あるいはこれから何かが出てくるんだろうな…

的なニオイがプンプンするんですが、

 

こちらも終盤で、

ホラやっぱりね…

となります。

 

このあたりは、

伏線の回収が上手だし、

わかりやすいし、

読了感としては晴れやかでした。

 

※※この先、ネタバレ注意※※

 

ひとつだけ、

少し無理があるかなと思ったのは、

佐村(父)が三上に罪を着せようとしたところ。

 

いや、

それ自体は良いのです。

そこまでの流れというか、

伏線が少し足りなかったような気がするのです。

 

そもそもこの物語は、

息子を殺された佐村(父)が、

たった数年で刑務所から出てきた三上に対して、

どうやっても許すことができなくて、

なんとかコイツをこの世から葬りたい!

と考えていたことが始まりでした。

 

要は、

佐村(父)からしたら、

懲役何年とかじゃ全然足りないんです。

 

三上を死刑に処してこそ、

親として息子のかわりとして、

その憎悪は報われるのです。

 

だから、

なんとしてでも彼を死刑にしたかった。

 

折しも、

ちょうど中湊で起こった強盗殺人事件の犯人・樹原に、

死刑が確定し、執行が目の前に迫っていた。

 

ただ、この死刑囚には、

記憶がなかったり決定的な証拠がなかったりで、

死刑そのものが冤罪ではないかという側面もありました。

 

だから佐村(父)は、

(地元で起こった)樹原死刑囚の死刑が近づくにつれて、

三上が樹原のかわりに死刑だったらいいのに…と思っていた。

 

※作品にこう書いてある↑わけではないんですが、

 読むとそういうことになります。

 

でも、

ちょうどその事件が起こったころ、

実は三上は高校生で、

彼女と中湊に家出してきていて、

警察に補導されていたことに佐村パパは気づくのです。

 

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

彼は、

三上を中湊強盗殺人事件の真犯人に仕立て上げることを思いつきます。

 

出所した三上が謝罪に訪れる前から、

すでにこの身代わり案は考案されていて、

佐村(父)は、

すでに弁護士を雇って動き出していました。

 

表向きは樹原の冤罪を晴らすことでしたが、

本当の目的は、

三上を真犯人として仕立てることだったのです。

 

そして、

三上が佐村家に謝罪訪問したとき、

最大のチャンスを迎えます。

 

その顔を見るだけではらわたが煮えくり返る三上に、

佐村(父)はお茶を勧めます。

そこで三上の指紋をゲットする。

 

佐村の会社は3Dプリンタを持っていましたから、

その指紋を3Dプリンタで複製して、

新たな証拠をつくります。

 

中湊の強盗殺人事件では、

犯行に使われた手斧が見つかっていませんでしたし、

現場にあったはずの通帳や印鑑も無くなっていて、

それがずっと見つかっていなかった。

 

そこに目をつけた佐村(父)は、

手斧と印鑑に複製した三上の指紋をはりつけ、

それを使う機会をうかがっていました。

 

杉浦弁護士を通して、

証拠が埋もれているであろう場所がわかると、

佐村(父)は、

自らの手で複製した証拠たちをその場に埋めるのです。

 

そして、

杉浦弁護士の依頼を請け負っていた南郷と、

南郷が相棒として選んだ三上が、

それを掘り当てる。

 

有力な証拠が見つかったので、

死刑執行は間一髪で保留になるのですが、

その証拠から、三上の指紋が出てきます。

 

全く身に覚えのない三上と、

純一が真犯人であるとは到底思えない南郷。

 

とりあえず、

三上が警察に捕まらないよう、

南郷は、

ずっと彼こそが冤罪事件の「依頼人」だと思い込んでいた安藤のもとへ、

助けを求めに行きます。

 

一方で、

三上は身を隠しつつ、

自分は潔白であることを電話で伝え、

そして最後の証拠(通帳)のありかがわかった!と南郷に残す。

 

それさえ見つかれば、

自分の潔白が晴らせる。

 

南郷も三上も、

土砂に埋もれた寺へまた戻ります。

 

南郷は、安藤の運転する車で、

三上は、単身で。

 

向かう途中で、

南郷は、実は安藤が犯人であることに気づく。

 

一方で、

ただ一人、寺に乗り込んだ三上は、

新たな証拠(通帳)をゲットし、

そこから安藤が犯人であることを突き止めます。

 

ところがそのとき、

佐村(父)が寺にやってきて、

散弾銃をぶっ飛ばすのです。

 

ようやく三上を死刑台に送り込めることになったのに、

ここでまた真相を覆されたら、

彼の計画は台無しなわけで。

 

結局、

三上は、

乱闘の末、佐村(父)から逃れることに成功し、

南郷は、

安藤と途中で死闘になって、彼を殺してしまいます。

 

最後は、

南郷が刑務所に送られ、

佐村(父)も殺人未遂で起訴されますが、

樹原は晴れて無罪となるハッピーエンドです。

 

私は、

きっと安藤が依頼人で、

犯人は佐村(父)が関係していたんだろうな…

と思っていたら、

見事に逆でした。

 

まさか、

佐村(父)が依頼人で、

犯人が安藤だとは、ね。

 

この期待の裏切りは、

全然嫌いではありませんし、

むしろ、さすがだな!と思いました。

 

ただ、

ちょっと納得がいかなかったのが、

以下2点です。

 

三上が謝罪にくることを知ってて、

証拠のねつ造を考えていたのは少し無理があるような気も。

 

最後に、寺に佐村(父)が現れたのはなぜか?

どうしてそこに三上がいるのがわかったのか?

 

①については、

そんな良いタイミングで三上が謝罪に来るか?

というところが、

うーん…となりました。

 

被害者の遺族へお詫びに伺うのが、

罪を犯した人間の勤めだとはいえ、

それを本当にやるのは一握りでしょうし、

出所してすぐには行けないんじゃないかと思います。

 

でも、

実態はどうだか自分もわかりませんので、

そこは百歩譲るとしても、

もう樹原の死刑は確定していて、

だいぶ年月もたっていて、

明日にでも死刑が執行されてもおかしくないというときに、

そんなうまいタイミングで目当ての人物が謝罪に来るか?!

っていうね。

 

なかなか足が向かわず、

樹原の死刑執行が終わってからになるかもしれない。

 

まさか杉浦弁護士のもとで南郷が雇われ、

その南郷が三上に連れ添ったからこそ、

彼は意外とすんなり謝罪に来ることができた、

っていうところまではアグリーなんですけど、

 

そもそも、

死刑確定前に、絶対に三上は謝罪に来るはずだ!

という確信が佐村(父)にあったことになるわけです。

 

まさか、

自分が依頼した冤罪晴らすぞ大作戦(別名:真犯人を仕立て上げろ大作戦)に、

三上が関わっていることは、

このときは知らないはずなのに。

 

それなのに、

三上がひょっこりグッドタイミングで謝罪に訪れるっていう、

あたかもそれを知ってたかのような作りが、

自分的にはイマイチ納得できなかったです。

 

(謝罪に来て)指紋がとれなければ、

そもそも三上を真犯人として仕立て上げるのは難しいので、

ここはわりと肝心なところなんですが、

その肝心なところでの布石が、

少し足りなかったようにも思います。

 

たとえば、

一度は謝罪に訪れた三上を、

(指紋をとってやろうという魂胆はあったけれど)

やっぱり怒りで顔も見れず追い返してしまった、

でもこれじゃそもそもの計画が成り立たない、

だから今度は自分が出向いて怒鳴りつけてやる替わりに、

別の方法で指紋を奪ってくるとか、

そういったシーンがあってもよかったのかもしれないです。

 

②については、

きっと杉浦弁護士を通じて、

南郷や三上の居場所が突き止められたんでしょうけれど、

その素振りがあってもよかったような気がします。

 

この物語のなかでは、

杉浦弁護士の動きは結構重要で、

彼がどんな動きをしていたかを具体的に描くことで、

「あー、そうやって繋がってたわけね!」

と読者側はあとになって納得ができる。

 

意外と彼はキーマンです。

 

だから、

ここももう少し、

そのキーマンの動きをとらえてくれていたら、

もう少し納得がいったかなと思います。

 

まとめると、

完璧な納得感を出すためには、

トーリーの補足(補強)があったほうがよかった

と自分は思います。

 

しかし、

それを差し引いても、

超絶おもしろかったです。

 

星4つと書きましたが、

4.5くらいでいいと思います。

 

 

■まとめ:

・「死刑」という重くて難しいテーマを取り上げながらも、それを登場人物のセリフや物語の流れでうまく嚙み砕いて、難しいけどわかりやすく、重いけど(重いからこそ)つい考えさせられてしまう作品だった。

・伏線の回収が上手でわかりやすいく、読了感としては晴れやかな部分も多かった。一方で、期待を裏切る「まさか」のどんでん返しも。それはそれで面白かった。テンポもよく、先が気になって一気読みしてしまえる作品。

・ただ、ちょっと無理があるんじゃ?感も、少しだけあったので、完璧な納得感を出すためには、もう少し布石を増やすなど、ストーリーの補強があったほうがよかった。

 

■カテゴリー:

ミステリー

 

■評価:

★★★★☆

 

▽ペーパー本は、こちら

13階段 (講談社文庫)

 

Kindle本は、まだありません

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死刑囚・樹原の冤罪を晴らすための真犯人探し、

つまりこの物語それ自体が成り立たないので、

元も子もなくなっちゃうんですが、