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夜光の階段 ★★★★☆

 松本清張さん著

夜光の階段 (上) (新潮文庫)

夜光の階段 (下) (新潮文庫)

を読み終えました。

 

評価は、星4つです。

 

ここのところ、

天野節子さんという、

女流作家のミステリ小説にハマりまして、

 

彼女はデビュー時から「女性版・松本清張」と謳われていたそうで、

先日読んだ『烙印』と作品が、

まさに清張だな!と思って、

急に清張が懐かしくなり、

この本を手に取った次第です。

 

かういう自分も、

20代後半くらいに清張にハマり、

初期の作品を除いて、

次々と彼の著書を読み漁った時期がありました。

(といっても、文庫版になっている代表作程度ですが)

 

その後も、

テレビや映画などで清張の作品が放映されると、

ちょこちょこ観てしまって、

米倉涼子って結構演技うまいじゃん!

──とか、急に彼女の株があがったりもして。

(清張ドラマには、何故か米倉さんが出ていることが多い)

 

いまだに、

松本清張生誕○周年記念”とかカコつけて、

やたらBSなんかでやってますけど、

どんだけお茶の間で人気あんだよ?!と思いつつ、

自分もおそらくその一人であり、

こうしてまた清張の作品に魅了されているという。

 

この『夜光の階段』は、

実は以前にも読んだことがあり、

自分が読んだ清張作品のなかでも、

相当におもしろかった記憶があります。

 

もちろん、

実際に再読してみると、

細かいストーリーの内容や結末は、

見事に忘れてしまっていましたが、

 

たしか、

暗い過去をもった、成り上がり美容師の話だったよなー

とか、

その美容師が次々と女を籠絡して殺しちゃうんだよなー

といった、

大雑把なストーリーがなぜか強く印象に残っていて、

 

その男女のドロドロ感みたいなのが、

エライ刺激的でたまらなかった記憶がありました。

 

松本清張といえば、

私の中では”元祖・ドロドロ系”だと思っていて、

その”ドロドロっぷり”が、

いわゆる女性特有のものにとどまらず、

金・権力・名誉・男女関係・家系…などなど、

けっこう広範囲にわたって描かれています。

 

それこそ清張にハマったときは、

この人って相当な人間観察力があるか、

あるいは、

清張自身がそのドロドロしたものを持っているんだろうな…

──としか思えず、

 

よくもまぁこんなに人間の黒さを書けるもんだな、

──と(決して揶揄ではなく)感嘆したものです。

 

自分の経験からして、

だいたいドロドロ系が好きな人というのは、

やっぱりどこか自分のなかにも、

その黒くよどんだモノがあることを知っていて、

かつそれは、

多少なりとも罪あるいは恥(低俗)であることも自覚している。

 

だから、

それが他人やフィクションに投影されたとき、

”知ってる知ってる、この感情!”

とか

”最低!──でも、ちょっとわかる!”

みたいな共感を禁じ得ず、

 

怖いもの見たさで

ついつい見てしまうことが多い…

 

──と(私なりに)考えています。

 

おそらく、

それを提供する側、

たとえば今回でいうと、

松本清張という作家自身についても、

 

単なる人間観察力や、

読者がどんなものを求めているかというマーケティング能力のみならず、

そもそもの前提として、

彼自身にもやはり、

 

どこか自分のなかにも、

その黒くよどんだモノがあることを知っていて、

かつそれは、

多少なりとも罪あるいは恥(低俗)であることも自覚している

 

──といったベースがあるはずと思うのです(前掲)。

 

じゃないと、

ここまで書けないだろ!って。

 

でも、

私はそれが決して悪ではないと思っていて、

むしろ、

人間らしいと思うのです。

 

だって、

綺麗ごとばっかじゃないし。

 

ワイドショーがなくならない理由も、

ゴシップ記事をなぜか見てしまう理由も、

結局そこにあるわけで。

 

みんな低俗・卑俗だとわかっているけど、

絶対に自分も同じようなことを、

100%同じ経験はしていなくても、

似たような経験をかじったことがあったり、

 

あるいは、

経験とまではいかずとも、

どこかで妄想したことがあって、

ふと頭をよぎったものの、

いけねーいけねーとすぐに打ち消したり、

 

──そんな罪の意識にも近い、

恥じらいの?感情を持ち得たことがあるはずです。

 

嫉妬や欲望なんていうのは、

自然に発生してしまうのですが、

私たち人間はそれを理性でコントロールして、

よくない、下卑た、恥ずかしいものとして、

打ち消そうとする。

 

でも、

やっぱり嫉妬するし、

欲望を満たしたいと思う。

 

ある意味、

それが人間の命運でもあるわけですが、

 

嫉妬したり、

欲にまみれたり、

そしてそれを制御しようと頑張ってみるけれど、

どうしても隠し切れなかったり、、、

そこに私は「人間らしさ」があると思うのです。

 

欲望100%でぶつかってきたら、

こいつバカか!赤ん坊か!

と思う。

 

でも、

隠しきれなかったら、

こいつやっちゃたなー(痛いなー)

と思う。

 

この違いは何か?

 

前者については、

すでに自分が卒業しきっているフェーズで、

完全に自分とは違う異質なものと見なしているけれど、

 

後者については、

下手すれば自分もやりかねないフェーズにいて、

同情ではないけれど共感できる部分がある

(──と私は思っています)。

 

みんな、

こいつやっちゃったなー(痛いなー)

って他人事のように批判したりもするけれど、

自分もその過程を(100%他人事ではなく)知っているから、

「やっちゃった」「痛い」と認識する。

 

そして、

どこかで自分じゃなくてよかった…と思いつつ、

下手に知ってるだけに共感もできたりして、

「人の不幸は蜜の味」だとか、

「昼ドラ大好き」な主婦とか絶対いるわけで。

 

──とまあ、

だいぶ話は逸れてしまいましたが、

そんなドロドロを知り尽くした清張作品のなかでも、

この『夜光の階段』は、

とびきりドロドロしまくっています!

 

ドラマ化もされていましたので、

今度、是非観てみたいと思います。

 

※無料動画はこちら(全9話)

第1話

第2話

第3話

第4話

第5話

第6話

第7話

第8話

第9話

  

▽内容:

貧しい青年美容師佐山道夫は、勤め先の美容室の常連客で、証券会社の社長夫人波多野雅子と関係を結び、その出資で独立する。野望に燃える佐山は、一方では雑誌「女性回廊」の編集者枝村幸子に接近し、彼女の紹介で有名タレントのヘヤーデザインを次々と手がけ、一躍美容界の寵児となる。だが、株で穴を空けた雅子が返済を迫るようになり、佐山の胸には黒い計画が生まれる--。
佐山の行動に不審を抱いた幸子は、雅子の“自殺”の真相を探り出す。脅迫し、結婚を迫る幸子を佐山は、幸子の友人福地フジ子を利用してアリバイを作り、殺害してしまう。かねてから佐山に疑惑を抱き、独自の調査を続けていた桑山検事は、ついに彼の黒い過去を突き止め、「女性回廊」誌上で告発するが……。富と名声を求めて犯罪を重ねる男の野心と女の打算を描く、サスペンス長編。

 

登場人物は20名強いますが、

主立った人物は、

・佐山道夫

・桑山検事

・波多野雅子

・枝村幸子

・岡野正一

・福地フジ子

の計6名です。

(詳細は、【登場人物】参照)

 

※ここから先、ネタバレ含みます※

 

物語はまず、

知人の弔問で福岡の温泉地に来ていた検事が、

散歩がてら近くのお寺に参詣したところ、

その二日前に、

偶然、近くのお寺で殺人事件があったことを知る。

(※この「偶然」を「偶然①」とします)

 

被害者は、

佐賀市内に勤める若いOL(村岡トモ子)、

21歳。

 

加害者は、

精神病院から脱走した精神障害を患う男性(蓮田重男)。

 

職業柄、

つい、いろいろ訊いてしまう桑山検事ですが、

結局この事件は、

加害者の精神疾患を理由に刑事責任なしと見なされ、

不起訴で終わってしまいます。

 

それから八年後。

 

大阪から東京高検に異動した桑山は、

妻との何気ない会話から、

今をときめく新進カリスマ美容師「佐山道夫」を知ります。

 

※実は、この章のタイトルが「二年後」とあるので、

読者としては、

先のOL殺人事件から「二年後」かと

勘違いしてしまう紛らわしさがあります。

 

桑山夫人は、

もともと佐山がいた美容店(村瀬美容室)に通っていたのですが、

彼がそこから独立したこと、

その店の店主は彼が抜けて困っていること、

彼の独立には陰で資産家の奥様の援助があったらしいこと、

──などを桑山に話します。

 

そして、

その数日後、

甥の結婚式で九州に行くことになり、

桑山検事は機内でたまたま佐山を見かけます。

(※この「たまたま」を「偶然②」とします)

 

彼は、

いま売出し中の歌手・草香田鶴子の公演に、

ヘアスタイリスト随行していたところでした。

 

その「佐山道夫」という男、

少年時代を九州ですごし、

早くに父親を亡くして、

いろんな職を転々としながら、

いわゆる「暗い人生」を歩んできたのですが、

 

上京して美容師になってからは、

みるみる頭角をあらわして、

今では「鬼才」と謳われるほどのカリスマ美容師に。

 

そのために彼は、

技術的な努力もさることながら、

自分の心身を犠牲にしてまで、

中年太りの有閑マダム(波多野雅子)に奉仕したり、

キャリアウーマンで気鋭の編集者(枝村幸子)に取り入ったりして、

お金と名声を手に入れていったわけです。

 

そして、

桑山検事の奥さんが噂話で聞いてきたように、

独立して店をもち、

いまでは女優や歌手のヘアデザインまで手掛けることに。

 

まさに、

「売れっ子 カリスマ美容師」です。

 

彼は、

まだまだ高みを目指して突き進みます。

 

そのために、

雅子・幸子との二股という「危ない橋」を何度も渡り、

ときに同じ日・同じ場所でニアミスも。

 

猜疑心が強く・嫉妬深い幸子からは、

ことあるごとに、

監視しているかのような追及を受けますが、

道夫はあらゆる手をつかって、

なんとかこれをかわすのです。

 

その道夫が、

ちょうど九州に来ていたとき、

まさに雅子と幸子のニアミス事件が発生するのですが、

彼は別々の宿を手配し、

双方のバッティングをギリギリで避けます。

 

このあたりは、

映像にすると、

きっとハラハラドキドキもんなんだろうなー。

 

さて、

その道夫が幸子の宿に出向くとき、

道夫が乗りこんだタクシーの運転手が、

偶然にも昔の友人・江頭善造でした。

(※この「偶然」を「偶然③」とします)

 

ここで、 

彼が道夫のことを「宮坂くん」と呼んだことで、

道夫の本名(旧姓)は、

佐山ではなく「宮坂」だったことが明らかに。

 

彼は、

暗い過去と決別すべく、

昔の姓を捨てて「佐山道夫」として上京したのです。

 

昔の姓を捨てるほど、

そんなに暗い過去なのか?

──と、

読者としては訝しげに思っちゃうのですが、

この本当の理由は、

追って明らかになります。

 

で、

九州を訪れている桑山検事が、

その二日後に拾ったタクシーもまた、

偶然にも、江頭の運転する車でした。

(※この偶然を「偶然④」とします)

 

そのタクシー運転手との何気ない会話で、

桑山は、

佐山についての過去を少し知ってしまう。

 

いま福岡に有名な歌手(草香田鶴子)が来ていること、

そのヘアースタイリストを昔の同郷の友人が担当していること、

その友人は宮坂道夫といって、

いまは佐山道夫と名乗る美容師であること、

──などなど。

 

運転手は、

佐山の前職についてこそ口を濁していましたが、

その彼の口から、

佐山の本名が「宮坂道夫」であり、

九州出身であることを桑山検事にしゃべってしまうのです。

 

さて、

それからまた数カ月後、

今度は先輩の息子の結婚式で、

桑山検事は都心のホテルに出掛けます。

 

ここで偶然、

彼は別のカップルの披露宴を目にするのです。

波多野伍一郎と久保澄子の結婚披露宴です。

(※この「偶然」を「偶然⑤」とします)

 

どこかで聞いたことある名前だな、

──と思って、

記憶の糸をたどりよせてみると、

妻が以前通っていた美容室に来店する「波多野の奥さま」のご主人であることが判明。

 

帰宅後、

妻にそのことを話すと、

さらに意外な事実が判明したのです。

 

なんでも、

その「波多野の奥さま」はつい先日、急死したようで、

その「波多野の奥さま」こそ、

かの佐山道夫の独立資金を援助し、

いまでは佐山となみなみならぬ関係になっていたんだとか。

 

九州で偶然見かけたカリスマ美容師の佐山と、

その佐山と波多野雅子が深い関係にあって、

偶然にも波多野雅子は急死、

そんな妻の死を待っていたかのように、

夫(波多野伍一郎)は若い愛人と再婚…。

 

──なにかが桑山のなかで引っ掛かる。

 

彼は、

自分の職域外であるのにもかかわらず、

昔、一緒に仕事した桜田事務官にお願いして

波多野雅子の死について調べてもらいます。

 

その結果、

波多野雅子は病死ではなく、

自殺だったことが判明。

青梅の山中で首を吊っての縊死でした。

 

余計に何かあるなと感じた桑山検事。

 

桜田事務官に追加調査を頼んで、

事件を深堀していきます。

 

ために桜田事務官は、

休日返上で九州まで出向いていくという、

献身っぷり。

 

正直、

桑山検事が自分の担当でもなんでもない事件に、

何故にそうまでして関わろうとするのかも疑問ですが、

何が桜田くんをここまで突き動かすのかも、

ぶっちゃけちょっと不明でした。。。

 

このへんは、

若干リアリティーに欠けるかな、と。

 

それはさておき、 

この桜田事務官の努力の甲斐あって、

さらにいろんなことがわかります。

・遺書があったようだが夫(伍一郎)はそれを焼いてしまったこと

・夫は(自分のことは棚に上げ)妻に男がいたとほのめかしたこと

・道夫が九州にいたとき、雅子も(大阪にいくといいながら)福岡に行っていたこと

・(桑山たちを乗せたタクシー運転手が言うには)九州で道夫が泊まった宿にいた女は雅子ではなかったこと

・道夫には今は亡き父親が一人いたが、酒や博打に溺れ、貧しい少年時代だったこと

・道夫はいろんな職を転々としていて、上京前は保険外交員として病院や学校・美容院などにも営業に出向いていたこと

──などなど。

 

雅子の死について云々というよりも、

道夫の過去についてのほうが、

情報量としては多いわけですが、

 

彼(桑山検事)はここで、

道夫が過去に保険の外交員をしていて、

その営業先に病院があったことや、

その時期などから、

ふと八年前のあの寺で起きたOL殺害事件を思い出すのです。

 

そして、

実際、

精神疾患をわずらっていた犯人が収監されていた病院に、

道夫は出入りしていた事実が判明し、

殺されたOLの弟もその病院に一時期入院していたことや、

この殺人事件のすぐあとに道夫が名前を変えて上京していることなどから、

道夫―加害者(蓮田重男)―被害者(村岡トモ子)

が一本の線でつながったのです。

 

この事件にも、

佐山道夫が何らかの形で関与してるんじゃないか?

──桑山検事の勘が動きます。

 

話は波多野雅子の自殺に戻りますが、

彼女は、

証券会社を営む夫から得ていた小手先の知識と資金をもとに、

自分でも株取引をして小金を稼いでいたのですが、

所詮は素人、

そんなにうまくはいきません。

 

気付いたら大損をぶっこいていた。

 

このことが夫にバレたらマズい。

 

でも、

道夫に融通した資金があれば、

この損失を埋められる。

 

──そう考えた雅子は、

道夫に資金の回収を迫ります。

 

道夫としては、

これまでさんざん尽くしてきて、

その報酬として無償で得た資金だと思っているから、

正直、

この雅子の無心が疎ましくて憎くてたまらない。

 

しかも、

ちょうど自身の店を、

自由が丘から青山へ広げようとしていた矢先のことでした。

 

だから彼は、

逢引とにおわせて雅子を山中に連れ出し、

これを絞殺、

その遺体をあたかも自殺のように見せかけて、

木に吊るした。

 

──これが道夫による雅子殺害の全貌なのですが、

夫の証言や警察の鑑定で、

彼女の死は完全に自殺扱いに。

 

一方、

もう一人の女パトロン・幸子は、

その頃どうしていたかというと、

勤めていた出版社を上司とケンカ別れして退職し、

フリーのライターとして駆け出したところだったのですが、

なにせうまくいかない。

 

これまでいかに自分が、

会社という看板や社歴に守られてきたか、

いかに周りをぞんざいに扱ってきたかを

身をもって知ります。

 

自分の能力やキャリアに、

自信たっぷりだったあの幸子が、

私、まずいかも…?

という境地に陥り、

若干不安になっている。

 

でも大丈夫、

私には道夫がいる。

 

彼は、

売れっ子カリスマ美容師。

 

彼さえつかまえておけば、

なんとかなる──。

 

もうこの頃には、

彼女の道夫に対する想いは、

愛情というより、

執着・依存といったものに変容しているわけです。

 

こうなると道夫にとって、

いっそう彼女が疎ましくてたまらない。

 

彼女がフリーとなったことで、

自分を売り出す新しい活路が拓けるのでは?

と期待した部分もありましたが、

どうもそうじゃない。

 

新たにスポンサーを見つけておく必要がある。

 

そうやって道夫は、

新たに二人の女性(資金源)をつかまえます。

 

次第に道夫を手放すまいと焦る幸子。

一方であの手この手で逃げる道夫。

 

ある日、

彼の背中に爪の痕があることを見つけ、

幸子は道夫を追及します。

 

これって、

女を抱いたときにつけられた爪痕でしょう?!

──と。

 

でも、

本当はそれは、

雅子を殺した時に、

彼女が苦しみもがいてつけた爪痕だったんですが、

幸子は「愛欲の絶頂時の痕」と誤解したわけです。

 

その誤解が疑惑に変わったのは、

彼女がメディアで雅子の自殺を知ったときでした。

 

雅子が自殺したとされる日に、

道夫と会う約束をしていたのに、

彼は来なかった。

 

そして後日、

道夫と会ったときには、

彼の躰にひっかき傷があった。

 

──これは、怪しい。

 

そこから彼女は、

道夫から紹介された売れないデザイナー(岡野)を使って、

ちょっと色仕掛けをかませつつ、

岡野に道夫のその日の行動を調べさせるのです。

 

そしたら、

出るわ出るわ、

道夫の疑惑の数々。

 

雅子を殺したのは、

もう道夫しかいない!

──ということが明らかになります。

 

ついに彼女は、

それをタネに道夫をゆすり、

婚約まで取り付けるに至ったのです。

 

桑山検事と桜田事務官は、

週刊誌の記事から佐山婚約のニュースを知るのですが、

 

同時期に、

福岡で佐山と一緒にいた雅子以外の女が、

この枝村幸子という婚約者だったことを掴みます。

 

というのも、

この週刊誌の記事を書いたのが、

偶然にも、

桜田事務官と昔仕事で絡みがあった編集者(福地フジ子)だったからでした。

(※この「偶然」を「偶然⑥」とします)

 

ここで、

佐山道夫―枝村幸恵―福地フジ子―桜田事務官

のつながりが出来上がります。

 

福地フジ子は、

枝村幸子の数少ない友人の一人であり、

独立した幸子から仕事の世話を頼まれながら、

うまく採用できなかったこともあって、

道夫と幸子の吉事をセンセーショナルに書き立てたのです。

 

さて、

この結婚(婚約)、

単なる夫婦関係の構築ならまだしも、

 

実際は、

優位にたった幸子が、

これから道夫のすべてを支配するというものでした。

 

そして、

道夫がアテにしていた二人の女性(竹崎弓子・浜野菊子)にも手切れを迫り、

挙句の果てには、

店の経営にも介入してくるという始末。

 

実はここで、

桑山検事の奥さんが、

水戸の親戚の家から帰る途中、

常磐線の人身事故があって帰宅が遅れるというハプニングがあったのですが、

その人身事故で亡くなったのが、

偶然にも道夫の新たなパトロンの一人(竹崎弓子)だったという、

これまたすごい偶然がありました。

(※この「偶然」を「偶然⑦」とします)

 

そして、

桜田事務官の調査から、

竹崎弓子―佐山道夫―枝村幸子

というラインがまたひとつ明らかになるのです。

 

いよいよ、

佐山道夫と枝村幸子が怪しくなってまいります。

 

さてさて、

道夫としては、

(雅子を殺したことで)

せっかく新しい店を構えることができたのに、

せっかく新しいパトロンまで見つけて、

せっかく新たな階段を昇りだしたのに、

 

なんと、ここにきて、

幸子に足元を掬われるという、

まさかのどんでん返しを喰らってしまったわけで、

 

彼の中で、

そんなことさせてたまるか!

という憎しみがメラメラ燃え上ってまいります。

 

そして考えたのが、

幸子の殺害と、

岡野をつかっての偽装工作。

 

岡野という売れないデザイナーが、

もともとお人好しだったこと、

そして幸子の色気に少しばかり惑わされていたことを、

道夫はうまく利用したのです。

 

本当は自分が殺したんだけれども、

あたかも岡野が殺したかのような、

状況証拠や物証をあらかじめ用意しておいた。

 

そして案の定、

岡野が幸子殺しの犯人として捕まってしまう。

 

この策略のなかで、

道夫は、

幸子の友人である福地フジ子を前もって凋落し、

自らのアリバイを偽装させました。

 

この福地フジ子という人物、

独特のキャラクターの持ち主で、

最初はいわゆる「オトコ女」あるいは「オナベ」的なスタイルで登場するのですが、

こういう女性は、

所詮は「ウブな女」なわけで、

道夫もそれを知っている。

 

この手の女は、

ちょっと優しい言葉・甘い仕草をみせれば、

意外とすぐに堕ちる。

 

このあたりは、

道夫がすごいっていうより、

清張がすごいと思いました。

 

この人(清張)、

女性について何気に詳しいよな、と。

 

──とまあ、

そんなこんなで、

「オトコ女」だったフジ子が、

いつの間にか、化粧を施すようになり、

服装もズボンからスラックスに替わっているわけです。

 

そして、

挙句の果てに、

フジ子までもが長年勤めた出版社を、

寿退社しますと宣言するほどまでに。

 

といっても、

実際は結婚というオフィシャルな形式はとらず、

この段階ではあくまで内縁関係に過ぎないのですが。

 

とはいえ、

完全にフジ子は、

道夫にはまっちゃったわけです。

 

一方、

岡野の公判が始まり、

有力な反証が得られないまま、

岡野の立場はいよいよ悪くなっていきます。

 

岡野以外の犯人、

あるいは岡野ではないという確証より、

岡野以外にはいない、

岡野がやったに違いないという証拠のほうが多く、

有罪確定のリミットは近づくばかり。

 

その後の私的な調査で、

もはや佐山道夫が一連の犯人であることは間違いないのに、

検察という組織の問題上、

何もできない桑山検事と桜田事務官は、

マスコミにリークして事の次第を露呈させんと画策したのですが、

予想した成果は得られず、

むしろ検察内でそれが問題になってしまい、

不本意にも二人は検察庁を辞することに。

 

そして、

岡野の弁護を引き受ける形で、

事件の解明に当たるわけです。

 

本当に、

正義感あふれるお二人ですわ。

(若干、リアリティに欠けるんですが…)

 

さて、

ここにきて、

さすがにヤバいと焦り始めた道夫が、

次にとった行動は何か。

 

──福地フジ子を殺すことです。

 

純朴でお人好しのフジ子。

 

彼女と桜田(元)事務官がつながっていて、

その桜田や桑山(元)検事が、

岡野の弁護を引き受けることになった以上、

余計なことをしゃべられたら、

道夫は終わりです。

 

だから、

正式な結婚そして新婚旅行というお膳立てを用意しておいて、

その前にまさかの水難事故で新婦(フジ子)が亡くなる、

というストーリーを組み立てた。

 

結婚も旅行も、

道夫にとってはあくまでタテマエにすぎないのですが、

フジ子や世間からすれば、

いかにもそれと見える。

 

明日からハワイにハネムーン、

航空券も宿もおさえていて、

帰国後には正式に結婚することにもなっていた、

それなのに、まさかの悲劇が…

──というわけです。

 

ここまでネタバレさせておきながら、

最後の最後、

驚きの?結末はあえて書きませんが、

 

こうしてみると、

最初は、

道夫 vs 二人の女性だった構図が、

一人やられ、二人やられ、

いっきに邪魔者はいなくなったと思いきや、

 

いつの間にか、

桑山検事 vs 道夫の構図にかわっている。

 

そして、

そのなかで福地フジ子という新たな敵(予備軍)が、

また一人やられ、

実は過去にも村岡トモ子という敵がやられていたことが

明らかになってくるわけです。

 

このあたりの展開は、

読んでいて目が離せませんでした。

 

佐山道夫という人物が、

追い詰められては殺人という手法でこれを乗り越え、

また追い詰められては殺していくもんだから、

 

これがいつ終わりになるのか、

どうやって終わるのか、

もう気になって仕方ない!

 

そして、

女性という敵はかわせたけれど、

最後は、

正義感あふれる司直によって出口を塞がれるのです。

 

でもね、

どうしてもひとつ、

文句を言いたいんです、

私は。

 

それは、

もはや言わずもがなですけれど、

あまりに「偶然」が多すぎる!ということ。

 

これだけクドクドと

ストーリーを説明した理由はそこにあるのですが、

あえてもう一度再掲します。

 

偶然①:

桑山検事が八年前に知人の弔問で福岡を訪れた際、

偶然、近くのお寺で(村岡トモ子の)殺人事件があったことを知る。

 

偶然②:

桑山夫妻が甥の結婚式で九州に出向いた際、

機内でたまたま佐山を見かける。

 

偶然③:

道夫が若手歌手の九州公演に随行した際、

乗りこんだタクシーの運転手が、

偶然にも昔の友人・江頭善造だった。

 

 

偶然④:

同じく同時期に、

九州を訪れた桑山検事が拾ったタクシーもまた、

江頭の運転する車だった。

 

偶然⑤:

桑山が知人の結婚式に参加した際、

偶然にも、

波多野雅子の夫の結婚披露宴を見かける。

 

偶然⑥:

枝村幸子と佐山道夫に共通する人物の一人に、

福地フジ子という編集者がいるが、

この福地フジ子と桜田事務官は、

偶然にも、

昔仕事で絡みのある顔なじみだった。

 

偶然⑦:

枝村幸子のせいで、

道夫の新たなパトロンの一人(竹崎弓子)は、

電車に飛び込み自殺をしたが、

偶然にも、

その人身事故に桑山検事の奥さんが遭遇。

 

──とまあ、

どうですか、

この偶然のオンパレード!!

 

作品中で、

作者自身も「世の中狭い」とか「偶然は多い」みたいなことを、

結構書いているんですが、

 

それにしても、

いや、そんな言葉で騙されるほど、

こっちは甘くはないわけです。(笑)

 

だって、

おかしいでしょ、

こんな偶然?!

 

ストーリーの構成として、

あるいは伏線として、

うまく出来ているのは間違いないんですが、

その伏線が、

ほとんど「偶然」によって成り立っている。

 

これが、

私にはすごく不満でした。

 

ここまで「偶然」のオンパだと、

どうしてもリアリティに欠けてしまう。

 

そんなこといったら、

ミステリーの伏線なんていうのは、

ほとんど「偶然」によって成り立っている

といっても過言ではないのかもしれませんけれども、

 

この作品においては、

それがあからさますぎるのが非常に問題で、

良く出来ているけどあり得ないよねぇ?!

っていう話で。

 

だから、

ものすごく展開は気になるんですけれど、

結局、すべてが偶然に支配されてんじゃん!

ってことに気づくと、

どうしても星5つがつけられませんでした。。。

 

あと、

ここには書きませんでしたが、

最後の結末もそれかよ?!

っていう印象で。。。

 

この結末を、

衝撃のラスト!

ととらえる読者も多いと思いますが、

 

私は、

なんだかなぁ…という感じで、

すべてが露呈してしまった道夫のコメントが、

是非聞きたかったです。 

 

まあでも、

ドロドロ×ハラハラ感を味わうには、

もってこいの作品でした。

 

ドラマも観るぞー!

 

【登場人物】

佐山道夫:

本名は、宮坂道夫。佐賀の大川で少年時代を過ごし、家具職人(大川)→陶器の絵付見習い(有田)→生命保険の外交員(鳥栖)を経て、上京。雇われ美容師として腕を磨き、やがて有閑マダムや独身のキャリアウーマン、芸能人などから重宝されるようになり、資金のバックアップも得て、独立。美容界の鬼才となり、名声を得る。

 

桑山信爾:

大阪地検に勤めていたが、東京の検察庁高検)に栄転。まじめで几帳面、曲がったことを嫌う。佐山道夫の身辺で起こる事故・事件を怪しみ、担当外でありながらも独自に調査。道夫の正体を暴いていく。これが検察内で異端視され、異動を命じられ、検察庁を退職。弁護士となる。

 

桜田事務官:

東京検察庁の事務官。もと警視庁・捜査一課の出身。地検時代に桑山とよしみがあり、桑山の助手的立ち位置で、波多野雅子・枝村幸子の死に疑念をもち、佐山道夫の身辺調査にたずさわる。桑山にのっかり、自身も辞職、桑山の弁護士事務所に勤める。

 

波多野雅子:

道夫の女パトロン。証券会社の社長を夫にもつ、中年の太った有閑マダム。道夫に独立開店資金を融資し、自由が丘に店をもたせるが、その後、株の失敗と道夫への資金融通が夫にバレたため、道夫に返済を迫り、青梅の山中で殺される。

 

波多野伍一郎:

波多野雅子の夫で、証券会社の社長。雅子の死を機に、かねてから愛人関係にあったバーのマダム(久保澄子)と再婚。

 

村瀬進太郎/みな子:

道夫が最初に雇われていた美容室の経営者とその妻。美容師として腕のよい道夫をスタッフに抱え重宝していたが、雅子のバックアップにより店から独立されてしまう。

 

枝村幸子:

婦人雑誌「女性回廊」の編集者(のちに独立してフリーに)。道夫をメディアで取り上げ、華々しくPR、彼の名声を高めた。気位が高く、高慢。それだけに男には縁がなく、した手にでるのが上手い道夫にゾッコン。恩着せがましく、嫉妬深い性格で、そのうえ計算高く、道夫にとってどんどん窮屈な存在に。さらに、道夫が波多野雅子を殺した尻尾をつかんでからは、道夫を完全に手中におさめ婚約に至るが、ついに堪えられなくなった道夫に殺されてしまう。

 

藤浪竜子:

いまをときめく歌手・女優。枝村幸子の紹介で、道夫がヘアースタイリストを引き受ける。幸子がフリーのライターになってからは、看板と権威を失った彼女をぞんざいに扱うように。

 

岡野正一:

仙台から東京に出てきたしがないデザイナー。道夫がかつて住んでいたアパートの隣人。なかなかうだつがあがらず、昔のよしみで道夫に仕事の斡旋を頼む。道夫や幸子にいいように使われ、道夫によって、幸子殺しの犯人にでっちあげられる。

 

岡野和子:

岡野正一の妻。家計を助けるため、新宿のバーでホステスとして働く。

 

草香田鶴子:

近頃人気の若手歌手。藤波竜子のヘアースタイリストとして頭角をあらわしてきた新進美容家の佐山道夫に、地方公演(福岡)の随行を依頼。

 

柳田利男:

道夫の助手・弟子。

 

江頭善造:

福岡のタクシーの運転手。道夫とは、佐賀の家具屋(大川製作所)で家具職人をしていた頃の同僚。福岡で偶然、道夫と再会。そのコネを使って、草香田鶴子のリサイタルを観覧させてもらう。

 

村岡トモ子:

佐賀在住の事務員。福岡・二日市の天拝山麓にあるお寺の境内で絞殺死体で見つかる(享年21歳)。当時、佐山道夫と交際関係にあり、佐賀市の食品加工会社に勤めていた。

 

蓮田重男:

村岡トモ子を殺害したとされる犯人。精神分裂病で佐賀精神病院に入院しており、病院から脱走、精神荒廃により殺害を犯した(とされる)。

 

福地フジ子:

男性のような容姿の、週刊誌の編集者。幸子の友人。道夫に手なずけられ、幸子殺しのアリバイ工作に協力。

 

竹崎弓子:

赤坂の割烹料理店の女主人。財界人のパトロン(添島社長)がいたが、一方で道夫ともできていて、パトロンから受け取っていた資金を、道夫に融通。幸子がこれを添島にリークし、絶縁と返金を言い渡されたため、鉄道に飛び込み自殺。

 

浜野菊子:

道夫と関係のある女の一人。製薬会社社長の妻。夫が不倫していたため、自身も道夫と不倫し、道夫の青山出店の際には資金の一部を融通。しかしその後、幸子の追及と脅迫に負け、道夫と別れる。

 

黒原三郎:

青梅林業の若いトラック運転手。青梅の中華料理店(和来軒)の前で、道夫と雅子が乗る車とトラブルを起こし、口論になった相手。

  

  

■まとめ:

・再読だったが、相変わらずのドロドロっぷり×ハラハラ感が満載で、先が気になって仕方なかった。
・ストーリーの構成・伏線として、うまく出来ているのは間違いないが、その伏線がほとんど「偶然」によって成り立っているのが不満。ここまで「偶然」のオンパだと、どうしてもリアリティに欠けてしまう。展開は気になるものの、結局、すべてが偶然に支配されていることに気づいてしまうと、満足レベルが落ちる。

・最後の結末や、二人の検察関係者の正義感みなぎる熱意も、自分としてはパッとしなかった。


■カテゴリー:

ミステリー

 

■評価:

★★★★★


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