目線 ★★★★☆

天野節子さん

目線 (幻冬舎文庫)

を読了しました。

 

評価は、星4つです。

 

天野作品は、

これまで、

彷徨い人 (幻冬舎文庫)

氷の華 (幻冬舎文庫)

烙印 (幻冬舎文庫)

と読んできましたが、

 

おもしろさでいうと、

『氷の華』と肩を並べるくらい、

よく出来ていて、

展開が気になって仕方なかったです。

 

天野さんの作品は、

(有名どころは)これで一応すべて制覇したわけですが、

あえて順番をつけるとすると、

 

1.目線

2.氷の華

3.彷徨い人

4.烙印

 

──という感じになるかもしれません。

(なんと、1位?!)

 

そのくらい、

この作品は構成・展開がよく出来ていて、

とてもおもしろかったと思います。

 

正直、星5点でもいいかも。

 

最後まで読むと、

(タイトルにある)「目線」って、そういうことだったのね!

と納得。

 

おススメです。

 

▽内容:

建設会社社長の堂島新之助が、自身の誕生日にベランダから落ちて死亡する。宴の場に集っていた家族ら11人にアリバイがあり、警察は自殺として処理する。そして、初七日。哀しみに沈む堂島邸で、新たな犠牲者が。新之助の死は、本当に自殺だったのか?疑念を抱く3人の刑事は、独自の捜査を開始する。愛憎渦巻く一族の悲劇を描いた長編ミステリ。

 

こちらは、

60歳で小説家デビューした天野節子さんの第2作目となりますが、

 

実は、

以前に一度読んでいて、

何故か最初ちょろっと読んだだけで、

そのあと頓挫してしまったことがあります。

 

つかみがまったく面白くなかったというわけではなく、

本当にちょろっとしか読んでいないので、

面白いもつまらないもなく、

 

ただただ、

仕事やら何やら、

他のことに時間をとられてしまって、

読み続けることができなかっただけなんですが、

(おそらくこの小説でなくても読めなかった)

 

いま思うと、

結構、面白かったのに何故?!

という感じです。笑

 

まぁ過去はさておき、

再読できて(再読して)よかった!

──この一言に尽きます。

 

デビュー作『氷の華』が大ヒットして、

2008年にテレビ朝日でドラマ化もされていますが、

氷の華 (2008) EP 01 - YouTube

氷の華 (2008) EP 02 - YouTube

 

2作目の『目線』のほうも、

2010年にフジテレビでドラマ化されています。

金プレ特別企画「目線」

 

これ、見たかったなぁー。

(いまから動画みればいいんですが)

 

天野さんの作品は、

どれもすごくおもしろくて、

今年、すっかりハマってしまったのですが、

なかでもこの『目線』という作品については、

トリックが本当にうまくできていて、

結末にも納得がいきます。

 

冒頭で、

既刊4作品の勝手にランキングを発表しましたが、

どれも傑作だったのは間違いないものの、

それぞれ以下のようなマイナスポイントもありました。

 

4位→『烙印』:

犯人はあらかた想像がついていて、

犯行の経緯や動機をクリアにしていくのがメインだったため、

ドキドキ感に欠ける。

 

そして、

その経緯や動機も、

やや入り組んでいてゴチャゴチャしてたり、

変に曖昧にして行間を読ませたりで、

ハッキリしないところに不完全燃焼さを感じた。

 

3位→『彷徨い人』:

真相の解明(真実の断定)が粗い。

本当のところどうなのか?が最後まで曖昧で、

今ひとつパッとしない。

結末にもちょっと納得がいかない点があった。

 

2位→『氷の華』:

細かいところでのトリックや経緯が、

明確にされていない。

 

それまでの流れで、

きっとこういうトリックなんだろう…

という読み方はできるけれど、

 

こういうものは、

エビデンスを提示して、

ハッキリさせてほしかったし、

 

一部の経緯についても、

あまりに突拍子すぎるところがあって、

どうしてそんな経緯に至ったのかを、

もう少し肉付けしておいて欲しい感じがあった。

 

さて。

 

今回の作品については

どうだったかというと、

 

位→『目線』:

トリック・経緯&動機・結末ともに、

あまり矛盾を感じたところもなく納得。

 

ごくごく細かいところでの「ん??」(腑に落ちない点)はあったにせよ、

全体的に構成・結末ともによく出来ていて、

 

犯人はこいつだったのかー!

目線ってそういうことかー!

こいつはこういう役割を果たしてたのかー!

 

──などなど、

いろんな驚きがあって面白かったです。

 

以下、

登場人物とあらすじをざっと整理。

 

※※ネタバレ注意※※

 

・堂島新之助(65歳):

堂島建設の社長で、堂島家の一家のあるじ。

自身の誕生日に自宅で死亡。

当初は自殺として処理されたが、

他殺の疑いが残り捜査が続けられる。

 

その捜査の過程で、

生粋の良家の御曹司かと思いきや、

堂島家の婿養子だったことが明らかに。

(旧姓は、関谷)

 

・桐生苑子(35歳):

堂島新之助の第一子(長女)で、

大輔・喜和子・あかりの姉。

桐生直明と結婚し、

一児(弘樹)をもうける。

 

・桐生直明(41歳):

堂島建設の社長秘書として堂島家に出入りしているうちに、

苑子に見初められ結婚、

堂島家の女婿となる。

 

堂島建設の仕入部門部長。

 

・堂島大輔(30歳):

堂島新之助の第二子(長男)で、

喜和子・あかりの兄。

堂島建設の次期社長。

 

大学卒業後、一時は商社に入社したが、

その後、堂島建設に入社。

現在、コミュニティ部門に所属し、

堂島建設が請け負ったマンションの管理組合をサポートする仕事を担当し、

現場経験を修練していた。

 

水谷香苗と結婚することが決まっている。

 

・堂島喜和子(29歳):

堂島新之助の第三子(二女)。

 

音大を卒業後、

音楽教室の先生を生業としていた。

 

故・堂島新之助の初七日に、

絞殺されて死亡。

 

・堂島あかり(28歳):

堂島新之助の第四子(三女)で、

苑子・大輔・喜和子の妹。

 

本業はイラストレーターだが、

週に2~3日、

美術館で臨時職員として働き、

受付などの仕事に従事。

 

・加納拓真(30歳?):

堂島大輔の幼馴染。

大学で歴史を教える講師。

 

思慮深く落ち着きがある反面、

ユーモアもあって周りに溶け込みやすい性格。

 

堂島喜和子とかねてから男女の仲にあると思いきや、

実は違っていて、

平田小枝子とできていた。

 

・平田小枝子(28歳):

堂島あかりの友人で、職場の同僚。

美術館の正職員で、学芸員の資格を有しており、

資料の管理や展示会の企画・運営などに従事。

 

実は、加納拓真と付き合っていた。

 

・水谷香苗(?歳):

堂島大輔の婚約者。

 

家具デザイナーとして、

大手家具メーカーの企画デザイン課に勤務。

 

大輔とは、

仕事を通じて知り合う。

 

・堂島雪江:

堂島新之助の妻で、

堂島家の一人娘だった。

 

15年前に白血病で死去。

 

・桐生弘樹(5歳):

桐生直明と苑子の息子。

小学受験を控えているが、

能力にバラつきがあり、

プレゼンや創作が苦手な一方で、

抜群の記憶力を有する。

 

堂島家では、

あかりに一番なついている。

 

・野村清美(53歳):

堂島家で働く住み込みの家政婦。

13年間、堂島家に奉公。

 

宮本茂(65歳):

元々はホテルのレストランでシェフとして働いていたが、

引退後は、

堂島家に時折出入りして料理を振舞う。

 

堂島新之助が死去したのち、

初七日の法要の日に、

堂島家の池で死体として発見される。

 

死因は溺死だが、

後頭部に殴打痕があったため、

他殺と断定。

 

のちに、

松浦郁夫・堂島新之助とは同郷の友人で、

集団就職のため、

三人一緒に故郷の山形・赤湯から上京していたことが判明。

 

・松浦郁夫(65歳):

堂島新之助のお抱え運転手。

堂島家の斜め向いに住居を構える。

 

温厚・誠実な人柄で、

堂島家の一家の信頼も厚かったが、

 

故・堂島新之助の初七日に、

自宅から、

宮本茂・堂島喜和子殺人事件に関わったと思われる自筆の書が見つかり、

両事件の被告と断定。

 

山形・赤湯の出身で、

宮本・堂島新之助集団就職した際は、

自動車整備士として日暮里の自動車整備工場に勤めていたが、

その後、堂島建設(新之助)の運転手に。

 

・津由木哲夫(48歳):

田園調布東署の刑事係長。

 

嶋・田神とともに、

堂島家で起きた事件・事故を担当。

 

三人のなかでは最年長で、

先輩として捜査をリードしていく。

 

・嶋謙一(27歳):

田園調布東署の若手刑事。

津由木・田神とともに、

堂島家で起きた事件・事故を担当。

 

・田神修司(23歳):

田園調布東署の若手刑事で、

津由木・嶋と堂島家の事件・事故の捜査にあたる。

 

田園調布東署での仕事は腰かけに過ぎず、

本庁採用のキャリア組のため、

数ヶ月で本庁に戻ることになっている。

 

エリートにありがちな高慢さや過度な遠慮もなく、

人懐っこい性格の持ち主であることから、

津由木・嶋と打ち解け、

ともに捜査にあたり、

事件の解明に貢献。

 

・工藤恒彦/田中武治/渡辺:

いずれも田園調布東署に勤務。

 

工藤は副署長で、

宮本茂・堂島喜和子殺害事件の捜査を指揮。

 

田中は刑事課長で、

津由木や嶋の直属の上司。

 

渡辺は嶋より少し若い刑事。

 

・大滝勝(65歳):

山形・赤湯温泉にある旅館「大滝苑」の主人。

松浦・宮本・堂島新之助とは同級生で、

なかでも松浦とは親しくしていた。

 

・松浦啓子:

松浦郁夫の妻。

山形・米沢の出身。

(すでに亡くなっている)

 

・松浦美佐子:

松浦郁夫の妹。

子供をとりあげられて精神的におかしくなり、

26,27歳のときに、死去(自殺)。

 

・星野慶介:

松浦夫妻と妹の美佐子が暮らしていた、

日暮里の借家の家主。

 

 

さて。

 

登場人物は、

ざっとこれくらいでしょうか。

 

一見、

多いようにも見えますが、

 

実際は、

・堂島家の一族の7人

 →新之助・苑子・桐生直明・弘樹・大輔・喜和子・あかり)

・堂島家に出入りする関係者の6人

 →宮本・松浦・野村清美・水谷香苗・平田小枝子・加納拓真

・堂島家の事件・事故の解明にあたる刑事の3人

 →津由木・嶋・田神

 

計16人のあいだで、

このミステリーは繰り広げられます。

(それでもちょっと多いか)

 

解説(野崎六郎)を引用すると、

 

物語は、犯人もその一員である閉じられた小世界で進行していく。場所は田園調布、さる資産家の一族を襲う、惨劇の連続。

 

堂島新之助の65歳の誕生日を祝うその日に、

まず1つめの事件が起こります。

 

それは、

新之助自身の自殺。

 

自殺の方法は、

二階にある自室ベランダからの飛び降り。

 

折しも、その日は雨。

 

その雨の降り方と新之助の衣服の濡れ具合に違和感を感じた津由木刑事は、

新之助の「自殺」に疑問を呈します。

 

解説の言葉を借りると、

以下のとおりです。

 

彼が引っかかるのは、被害者の着衣が吸った水分だ。当日の朝、転落から発見までの時間を考え合わせてみると、服の濡れ具合がどうもおかしい。合理的に考えると、時間差が生じているのだ。

 

そして、

後輩刑事の嶋も、

そもそも自殺を考える人間が、

二階からの投身なんてするか?!

というところにひっかかっていました。

 

また、

同じく若手刑事の田神は、

別に犯人の目星をつけたわけではありませんが、

堂島新之助の運転手(松浦)が、

予定を一日切り上げて山形から戻ってきていたことに、

疑問を抱いていました。

 

そんななか、

今度は新之助の初七日を迎えた法要の日に、

第二・第三の事件が生じます。

 

1つは、

料理人として出入りしていた宮本茂が、

堂島家の庭で溺死。

 

もう1つは、

堂島家の次女・喜和子の絞殺死。

 

ふたりとも、

新之助の法要に出席しており、

その後、

何者かに殺されるわけです。

 

そして、

第二・第三の事件現場から発見された指紋や、

松浦家の机に残された置手紙から、

宮本・喜和子の殺害には、

松浦が関与したものとして指名手配されるのですが、

 

松浦はその後、

高尾山の山中で首を吊って自殺。

 

この第二・第三の事件においても、

何か違和感を拭いきれない刑事トリオは、

再び知恵を絞り合います。

 

ここで大きく貢献したのは、

キャリア組の若手エリート、

田神(通称・ガミくん)。

 

彼は、

松浦が一人でやったにしては、

宮本と喜和子の殺害にかけた時間が、

あまりにも慌ただしすぎることを、

「時間表」をつくって検証するのです。

 

宮本の殺害こそ、

松浦の仕業ということは間違いないのですが、

 

喜和子の殺害は、

本当に松浦の仕業といえるのか?

 

そして、

松浦が喜和子を殺していないとしたら、

松浦は逆に(時間的に)喜和子の殺害を知る由はないわけで、

 

津由木は、

このように提言するのです。

 

「松浦の書置きにあった、『全て私がしました』。これをどう解釈したらいいかな。前とは事情が変わってきた。捜査会議では『全て』を、宮本茂と堂島喜和子の殺害と判断したが、われわれは別の結論に達したわけだから、当然、『全て』の解釈が変わってくる。松浦は一人しか殺していない。それなのに、全てと書いた。これはおかしい。そうだろう?」

 

──となると、

 

ここでいう『全て』とは、

堂島新之助宮本茂の死亡を指すことになります。

 

ここで三人トリオは、

当初より疑わしかった新之助の「自殺」を、

あらためて「他殺」の方向でとらえなおすことに。

 

とはいえ、

新之助が亡くなった時間に、

松浦にはアリバイがある。

 

そうなると、

新之助の殺害に松浦は関わっていない。

 

でも、

誰がやったかは知っている。

 

実際、

松浦は、

その犯人を宮本から聞いています。

 

松浦は、

そのことを宮本に口止めするため、

衝動的に彼を殺してしまうのです。

 

でも、

なんのために?

 

津由木は言います、

 

「──大切な人を守るため」。

 

じゃあ、

松浦は誰を守ろうとしているんだ?

新之助は誰に殺されたんだ?

喜和子は誰が殺したんだ?

 

ここから、

三人トリオは、

新之助の事件も含め、

あらためて犯人を探し始めるのです。

 

疑わしきは、

苑子・桐生直明・大輔・あかり・加納拓真・平田小枝子・水谷香苗・野村清美の8人。

 

津由木:

「この中に、犯人がいる」

 

ここから、

彼らの捜査活動に拍車がかかり、

事件解決のヤマ場を迎えていくのです。

 

この物語でポイントとなるのは、

以下の2つだと私は思っています。

 

1つは、

「時間」。

 

先にも紹介していますが、

三人トリオの刑事たちは、

時間的な矛盾を突破口として事件を解明していくわけで、

 

最終的に、

その「時間的な矛盾」は全て明らかになっていくわけですが、

 

(例えば、

 松浦が予定を一日切り上げて戻ってきたのは、

 彼が胃癌を患っていて、

 単にその薬を持ってくるのを忘れたからだとか)

 

この「時間」こそ、

物語のトリックにおいて、

重要な役割を果たしていることがよくわかります。

 

2つめは、

「目線」

 

この本のタイトルにもなっている「目線」ですが、

自分は当初、

なんとなくですが、

この「目線」というのは、

 

事件の様子を誰かがどこかでじっと見ていて、

実はコイツが知っている的な、

そういう「目線」だと思っていました。

 

物陰やドアの隙間から、

こっそり見ているような「目線」です。

 

「目線」というより「視線」かな。

 

本書でタイトルにもなっている「目線」は、

「目の高さ」と「意識」をあらわしています。

 

そもそも、

「目線」という言葉には2つの意味があって、

 

「目線を落とす」とか「目線が合う」というように、

「位置」をあらわす場合と、

 

「自分目線」「オレ目線」などというように、

「意識」をあらわす場合がありますが、

 

本書で何より主題となるのが、

「位置」すなわち「目の高さ」としての「目線」です。

 

犯人は最後にこう言い残しています。

 

『どこに身を置いても同じなんです。どう足掻いても、私の目線はいつも地上100センチ。それが私に与えられた世界なんですから』

 

──と。

 

そう、

この物語(事件)は、

「地上100センチ」の「目線」で展開されているのです。

 

そしてそこには、

犯人がずっと抱えてきた哀しみが凝縮されてもいる。

 

下半身不随となり、

100センチ の高さにしか身を置けなくなって、

すべてが懐疑的になり、

「自分目線」でしか物事を見れなくなってしまったこと。

 

これはハッキリ言ってしまうと、

 

喜和子と拓真が恋仲にあって、

結婚するものとばかり思い、

 だから犯人は、

それを喜ぶ新之助や喜和子を殺した。

 

100センチでしか見えない(位置的な)世界が、

本人の(意識としての)世界観までもをかえてしまった。

 

この本のタイトルの「目線」には、

そんな悲哀がこめられているわけです。

 

解説でも、

次のように言及されていました。

 

動機は、「あの人を幸せにはさせない」と。これはやはり『氷の華』の作者ならではの世界だ。

 

そういわれると、

たしかにそうで、

『氷の華』と本作『目線』では、

共通している犯行動機と言えるでしょう。

 

過去にまつわる出来事から、

ずっと抱え込んできた嫉妬と憎悪。

 

天野さんは、

こういう人間のドロドロした感情を、

よくわかっているし、

そこはやはり女性作家としての強みでもあると思うのです。

 

さて、

解説では、

上記以外に本書を楽しむ「パズルのヒント」 として、

「凶器」が挙げられているのですが、

 

実は私はそこに、

ある種の意外性(ナルホドそういうことか!)は感じつつも、

トリックとしては納得感に欠けるものがあると思っています。

 

この「凶器」というのは、

ぶっちゃけ「こけし」を指しており、

 

堂島新之助が自殺した際に、

嶋刑事が感じた疑問は、

 

そもそも自殺を考える人間が、

二階からの投身なんてするか?!

 

この「こけし」という「凶器」の登場により、

うまく解消されるのです。

 

犯人は、

新之助を2階のベランダに誘き出し、

こけしで殴ってから、

その身体を持ち上げて突き落した。

 

これだと、

2階から落ちても確実に殺せる。

 

嶋:

新之助は二階から落下して死亡。これに間違いはないですよね」

 

津由木:

「それは間違いない。右半身全体に強い打撲痕があった。落下時の衝撃の痕だ」

 

でもね、

そんだけ殴っておいて、

死体から「こけし」の殴打痕が見つからないって、

ちょっとおかしくねーか?

 

いくらハナから自殺と決めつけたにせよ、

簡単な検死くらいはするだろうし、

そこで「こけし」の痕が見つからないなんて、

そんなことありえるか??

 

自分としては、

ここにはさすがに無理がある気がして、

納得がいきませんでした。

 

あと、

下半身不随の犯人が、

どうやって喜和子の遺体を運んだのか?

という点。

 

これも、

根拠が薄いです。

 

いくら車椅子や昇降機があったとはいえ、

そもそも、

そういう人間が、

重い遺体を持ち上げるのは無理があるのでは?

と思うわけです。

 

作者は、

こういう細かい点が詰めきれていない。

 

ほかにも、

クリアになっていない点があります。

 

たとえば、

犯行当時の松浦の行動。

 

堂島家の東建物の廊下の端、物置の入り口と向き合うドアに、

松浦の左掌の跡と指紋が付着していて、

その指先から、

宮本を殺害したときの血液が検出されたことで、

 

松浦が誰にも見られずに建物に入ることができて、

かつ喜和子を殺すことができたという、

警察が判断した最初の犯行経緯が導き出されたわけですが、

 

結局、

喜和子を殺したのは松浦ではないわけだから、

じゃあ何のために建物のドアにそんな物証が残っていたのか、

という疑問が残ります。

 

きっと、

彼が宮本を殺した時に、

たまたまついてしまったものだと思うのですが、

作者はそれについて何も言及していません。

 

疑わしい状況だけ臭わせておいて、

ケツをふかないのは、

ちょっとルール違反じゃ?

 

非難するわけではありませんが、

彼女の作品は、

なんかそういうところが目についてしまいます。

 

でも、

それも(他の作品のレビューでも書いたけれど)、

全体的にトリックがあまりに完璧すぎるから

 

自分のなかでは、

逆に細かい失点が目立ってしまうだけ。

 

その「細かい失点」でいうと、

もう1つあります。

 

池に浮かんだ黒いスーツの死体をみて、

犯人がなぜか、

(宮本ではなく)「松浦さんだ!」と言うシーンがあります。

 

津由木:

「なぜ、松浦さんと思ったんです?」

 

犯人:

「なぜだかよく分かりません」

「黒い色から喪服を思い浮かべたんだと思います。宮本さんもその日喪服を着ていましたが、宮本さんはとっくに帰ったことを知っていましたから」

 

作者はこれだけ書いて、

あとはこの不思議な点に何も触れていないのですが、

 

仮に、

犯人のこの証言をそのまま受け入れるとすると、

 

松浦も宮本も同じ時間に堂島家を出て帰っているわけだから、

宮本だけが「とっくに帰った」はずはなく、

犯人のこの証言は矛盾しているはずなのです。

 

──これについての「後始末」がない。

 

三人トリオの刑事が、

この矛盾点を突くでもなく、

犯人がそれを明らかにするでもなく、

はたまた第三者が触れるわけでもない。

 

スルーです、スルー。

 

読者には、

不思議に思わせておいて、

そしてあたかも、

その不思議な点はクリアになったように見せかけておきながら、

全然クリアにはなっていない。

 

作者がこれを意図してやっているのかどうかは不明ですが、

クリアにしたつもりでいるとしたら、

犯人のその証言には矛盾があるし

意図的にそうしたのであれば、

刑事か誰かをつかってきちんと「後始末」をして欲しい。

 

じゃないと、

ウヤムヤのままじゃん!

って思いました。

 

以上の点をふまえ、

星5つのうち、

1つを減らしたわけですが、

 

あくまで上記は細かい点であり、

その他のトリックやそのための布石は本当にうまく配置されていて、

その技量には脱帽と言わざるを得ません。

 

これは本当です。

 

プロローグの(昔の)事件が、

最後にこうやってつながるのかとか、

 

冒頭にも述べましたが、

(タイトルにある)「目線」って、そういうことだったのね!

という驚き。

 

いやー、面白かった!!

 


■まとめ:

・裕福な一家の、屋敷内で次々と起こる惨劇を解明していくので、スケールとしては狭いながらも、ストーリー的には既刊4作品のなかで一番面白かった。

 ・ごくごく細かいところで、腑に落ちない点はあったにせよ、全体的に構成・結末ともによく出来ていて、犯人はこいつだったのかー!目線ってそういうことかー!こいつはこういう役割を果たしてたのかー!などなど、いろんな驚きがあった。強いて言うなら、他作品にもあるように、疑わしさ・不思議さだけ呈しておいて、きっちり後始末をしていないところがマイナスポイント。

 ・デビュー作『氷の華』同様、犯行動機である、「あの人を幸せにはさせない」というドロドロした感情がうまく描かれている。過去にまつわる出来事から、ずっと抱え込んできた嫉妬と憎悪。それが紐解かれていくさまや、トリックの布石には脱帽。

 


■カテゴリー:

ミステリー

 

■評価:

★★★★☆


▽ペーパー本は、こちら

目線 (幻冬舎文庫 あ 31-2)

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