雪が降る ★★☆☆☆

藤原伊織さん

雪が降る (講談社文庫)

を読みました。

 

評価は、星2つです。

 

藤原伊織さんと言えば、

先日読んだ『テロリストのパラソル』で有名ですが、

そこでもご紹介したとおり、

本書のなかの一編には『テロリスト~』の主人公(島村)が登場します。

 

※ちなみに本書は短編集で、

『テロリスト~』の3年後に刊行。

 

こちらには、

『テロリスト~』のほうで、

島村がまだ新宿中央公園の爆破テロに巻き込まれる前の、

とある夏の出来事(事件)が語られています。

 

『テロリスト~』が壮大なスケール感をもち、

オイオイどうなっちゃうの?!的な読み応えがあったのに対し、

こちらは短編集というだけに、

わりとあっさり

 

あんまりミステリーっぽさはなかったです。

 

この作家さんは、

やっぱり長編のほうがいいかなーと思いました。

 

▽内容:

母を殺したのは、あなたですね……

母を殺したのは、志村さん、あなたですね。少年から届いた短いメールが男の封印された記憶をよみがえらせた。若い青春の日々と灰色の現在が交錯するとき放たれた一瞬の光芒をとらえた表題作をはじめ、取りかえようのない過去を抱えて生きるほかない人生の真実をあざやかに浮かびあがらせた、珠玉の6篇。

 

本作品を読了したのは、

3月の半ばごろだったかと思います。

 

今年に入って、

このブックレビューがほとんど更新できていないのですが、

引越やら何やらでサボってしまいました。

読書自体はちまちまやっていたんですけれども。

 

ということで、

記憶をたどりながら、

コメントしていきたいと思います。

 

全6編の短編になっているので、

さっくり読めます。

 

台風

ビリヤード屋で育った主人公が、

会社の元部下の傷害事件をきっかけに、

昔の生家(ビリヤード屋)での事件を思い出す。

 

ジャズピアニストを夢見た好青年(兵藤)と、

柄の悪い街の成金(早坂)の玉突き勝負。

 

店の手伝いの看板娘・明子と兵藤はできていて、

早坂は明子へちょっかいを出す横柄な客。

 

彼の横暴を止めるべく(要は明子を賭けて)

二人は真剣勝負を果たしたわけですが、

勝負に因縁をつけられた兵藤は、

早坂らに大事な商売道具でもある指を折られたため、

店の中から包丁を持ち出して殺してしまう。

 

解説(黒川博行)では、

 

”上質の小説”

 

として、

 

日常からほんのわずかな狂気を切りとった巧さ

 

があると評していましたが、

 

要は、

どんな好青年でも、

どんなにお行儀のよい人間でも、

 

人知れず、

大変な人生を背負っていて、

それでも、

わずかな希望を胸に、

明日を夢見て頑張ろうとしているわけで、

 

そのわずかな希望が、

他人による心無い一言や悪意ある行為によって打ち砕かれたとき、

人間は悪魔になる

 

──っていうことだと思うんですが、

この書評は、

うーん、正直どうかなーと。

 

好青年(兵藤)がチンピラに指を潰されたことが、

はたして、

「ほんのわずかな狂気」と言えるのか。

「ガチの狂気」でしょ?

と思っちゃうんですけどね。

 

まぁ、話の展開としては、

良く出来ているというか、

主人公の【いま】目の前で起きた事件と、

【昔の】ビリヤード屋の事件がそうつながるわけかぁ

という納得感はありました。

 

 

雪が降る

 

主人公・志村と、上司にあたる高橋は、

もともとは気の置けない同期だったが、

同じ女性(陽子)を愛してしまう。

 

志村の転勤などもあって、

結局、彼女を射止めたのは高橋のほうだったが、

結婚して間もなく、

志村と陽子は映画館で再会し、

昔を思い出した陽子は、

ふたたび志村と恋におちる。

 

その日は雪が降っていて、

帰れなくなった二人はホテルに泊まり、

一夜を過ごす。

 

そして、

自分はやっぱり志村のことが好きだと確信した陽子は、

次にまた雪が降ったら、

高橋と別れて志村に会いにいくと宣言。

 

後日、

雪が降ったその日、

陽子の運転する車は雪でスリップして事故を起こし、

陽子は死んでしまう。

 

彼女の死後、

陽子が保存BOXに残した(でも志村には送っていない)Eメールに気づいた息子が、

ふたりの間にあった真相を確かめるべく、

志村を訪れる。

 

そのときのメールの件名が、

「雪が降る」だった、

という話。

 

これはもう、

純愛小説に近いと思います。

 

このへんで、

藤原さんってロマンチストなんだなー

とあらためて気づかされます。

 

良い意味では、

言葉の額面通りなんですが、

悪い意味でいうと、

ちょっと気持ち悪いとすら感じる。

 

だって、

二人の男が一人の女を愛し、

それによって関係が疎遠になりつつも、

結局(彼女の死を越えて)熱い友情を呼び戻す、

──なんていう話の展開が、

もう男のロマンでしかないでしょう?

 

要は、

オナニーです、オナニー。

 

そういう意味では、

ちょっと気持ち悪いんだよなー、

この作家さん。。。

 

ちなみに、

本作品にでてくる「映画」は、

リバー・フェニックスの『旅立ちの時』という作品なんですが、

自分が中学生のころCATVで観た映画で、

内容は全く覚えていないんだけれど、

妙に思春期の心を揺さぶった記憶があります。

 

リバー・フェニックス

とっくの昔に死んでしまったけれど、

カッコよかったよなー。

 

 

銀の塩

 

冒頭で少し記載したとおり、

テロリストのパラソル (講談社文庫)』の番外作。

 

主人公(島村)が住む新宿のボロアパートには、

隣にバングラディシュから出稼ぎにきた青年(ショヘル)が住んでいて、

彼は秋葉原の電気屋でコツコツ働き、

国に帰って一旗あげようと夢見ていたが、

とある事件に巻き込まれる。

 

会社から日頃のご褒美として、

軽井沢の保養地への休養が与えられたショヘルは、

島村を誘って軽井沢に出かけたが、

 

彼はそこで、

会社が仕組んだライバル企業を蹴落とすための盗聴作業に

不本意にも加担してしまう。

(厳密には加担させられてしまう)

 

盗聴先の別荘には、

別荘の持ち主であり経営者でもある男と結婚した女性(里美)がいて、

彼女はショヘルがひと夏の恋におちた相手でもある。

 

島村から事の次第を教えられた彼は、

自分のしでかしたことに後悔し、

彼女にすべてを白状して日本を去る。

 

里美はカネのためだけに結婚し、

すでに結婚を後悔しているので、

ショヘルの荒行を特にたしなめもせず…。

 

この作品は、

前作『テロリストのパラソル』を読んでいる人だと、

やっぱり島村って頭いいよなーとか、

このときから島村ってこんな感じだったんだなーとか、

いろいろ再発見があって面白いと思いますが、

 

まぁ知らなくても、

島村の人となりがわかって楽しめるかと思います。

 

先の解説者・黒川博行氏は、

藤原伊織さんとは昔から麻雀仲間でもあり、

彼のことを「イオリン」と呼ぶくらいの、

気の置けない間柄のようですが、

 

その黒川氏が、

藤原さんの小説家(芸術家?)としての手腕を

次のように評しています。

 

イオリンの語り口にはエンターテイメントの枠内におさまりきらない日本的な情感が色濃く漂っている。たとえばAという人物を表現しようとするとき、イオリンは決して正面からAの心理に分け入るような無粋なことはしない。Aのなにげない動作や台詞、あるいはAをかこむBやCという人物を丹念に描写することで、Aの人となりを浮き立たせようとする。

 

たしかに、

これには同感できる部分が多々あって、

ここでの島村も『テロリスト~』の島村も、

そんな作者の手管で描かれています。

 

一言でいうと、

島村という主人公は、

ある種の虚無感すら漂うクール・ガイなんだけれど、

頭がキレて情にもアツい男。

 

でもそんなふうには、

藤原さんは一言も書いちゃいないわけで、

 

本作では、

ショヘルとの絡み方や事件への関わり方、

前作『テロリスト~』でいえば、

ヤクザやホームレスとの接し方なんかで、

ひたすら遠回しに主人公の人物像を描き切っているのです。

 

それが黒川氏のいう「日本的な情感」なのかどうかは、

ぶっちゃけ自分には「???」なんですが、

(むしろ、会話のやりとりなんかはアメリカ映画っぽいとすら感じる)

 

描写の仕方は独特だなーと思いました。

 

でも、

やっぱり自分は、

「日本的」というより、

どうしても、

「アメリカ映画」のような気障っぽさを感じてしまう。。。

(くどいですが…)

 

そういう意味では、

彼のこの描写方法は好きか嫌いかでいうと、

自分は嫌いなほうに入ります。

 

このあたりは、

テロリストのパラソル』でも、

同様に評してしまっていますが。

 

ちなみに、

タイトルの「銀の塩」は、

バングラディシュでは、

星空のことをそのようにたとえるんだとか。

 

 

トマト

これが一番、奇想天外でした。

というか、意味がわからなかった。(笑)

 

ある日、

人魚と称する女性に誘われて銀座のバーに入った主人公。

 

人魚の世界にはトマトがないといって、

人魚はそこでトマトを注文する。

 

はじめてのトマトの挑戦に、

なぜ主人公を案内人として選んだのか。

 

──それは、

彼がいちばん「むごたらしい顔」をしていたから。

 

ではなぜ、

「むごたらしい顔」がトマトの案内人にふさわしいのか。

 

──それは、

新しい経験は、

その大半が「むごたらしく悲惨なもの」だから。

 

でも人魚は言います、

 

(はじめてトマトを食べるといった)こういう経験は満足とか不満とか、そういうレベルを超えてんのよ。たしかにむごたらしく悲惨ではあるわよ。でも、どんな経験も少なくともゴミじゃないのよ

 

(むごたらしい経験をするからといって)トマト自体についての感想に意味はないの

 

こういう奇想天外な作品こそ、

解説で丁寧に解説してほしいものですが、

そこには、

 

奇妙な味のショートストーリ

 

──とか、

 

彼女がなぜ人魚なのか、人魚の世界にはなぜトマトがないのか、明確な説明がないところがおもしろい

 

──と、あるだけで、

 

一向にその「奇妙」さについての、

分析が加えられていません。

 

これじゃ、ただの感想じゃねーかよ!

解説者の黒川氏には、

文句の一言も言いたくなる(爆)。

 

解説というのはやっぱり、

文字通り、

解説者なりの読み方があったうえで、

その人が得た印象・感想を添えるのが解説だと思います。

 

そういう意味では、

この解説はダメだなー。

(↑解説にイチャモン…)

 

自分としては、

思うに、

最後のこのくだり↓こそが本作品の肝で、

 

(はじめてトマトを食べるといった)こういう経験は満足とか不満とか、そういうレベルを超えてんのよ。たしかにむごたらしく悲惨ではあるわよ。でも、どんな経験も少なくともゴミじゃないのよ

 

(むごたらしい経験をするからといって)トマト自体についての感想に意味はないの

 

人魚が話し相手として主人公を選んだというより、

慣れない仕事ばかりで悩んでいた主人公が、

(妄想のなかで?)人魚を惹きつけ彼女に諭されたわけで、

 

どんな経験も、

最初はたいていうまくいかなくて当たり前、

まずは一歩踏み出すことが大事で、

その価値はそのときわかるものではなく、

ふり返って評価すべきもの

 

──そんな格言めいたものが、

この奇想天外な物語に含まれているように思います。

 

まぁそれにしたって、

これだけじゃわかりづらくて、

おもしろいとかおもしろくないとか、

何とも言えないけどね。

 

作者としては、

「想像にお任せします」なんだろうけど。

あまりにも任せ過ぎだろ!

 

 

紅の樹

これぞ藤原節炸裂のハードボイルド小説。

 

ヤクザの世界から足をあらい、

彼らに追われながらも、

堅気の世界で人生をやり直す主人公が、

 

同じく堅気の世界でつつましく暮らしながらも、

借金をかかえ、

ヤクザに追われる身となった女性を愛してしまったがために、

 

再びヤクザのシマに乗り込み、

女性のために血を流す話。

 

いわゆる、「任侠モノ」

 

ここでの「藤原節」とは、

ハードボイルドを書かせたら、

おそらくこの作家はメチャウマ!と評されるほどの手腕がある

ということもそうなんですが、

 

先の「雪が降る」でも述べたような、

良くも悪くも男のロマン的な要素が凝縮されている

という点も含みます。

 

自分としては、

前者は好きな(というか是非評価したい)点ですが、

後者は嫌いな(というか気持ち悪いと思う)点でもあります。

 

要は、

私のいう「藤原節」とは、

作家への尊敬と揶揄の二通りの側面がある。

 

まわりくどいですが、

必ずしも、

良い意味ではないということです。

 

だって、

この手の話はもう、

男のロマンでしかないでしょうよ。

 

というか、

もはや「雪が降る」以上に、

オナニーでしかない!

 

そういう意味では、

藤原さんって、

けっこうナルシストだよなーとすら思えてしまう。

(ぶっちゃけ、ちょっとバカにしてます)

 

男なんてだいたいそうだとは思いますが、

女が強くなってしまったいま、

ちょっと時代にそぐわない感はあります。

 

あまり登場人物と一体化できなかったのは、

舞台設定ももちろんありますが、

自分がそこまでロマンチストではないからだと思います。

 

逆に、

もう少し自分がロマンチストだったら、

もっと楽しく読めたのに!と思う。

 

そういう意味では、

残念でもあります。

 

強くて優しい男が好き!

強くて優しい男になりたい!

──みたいな男女諸君であれば、

藤原さんの作品に出てくる登場人物には、

結構、同情できるんじゃないかと思いました。

 

 

ダリアの夏

元野球選手だった主人公が、

宅配便の仕事で、

元女優だった女性の家を訪れて、

その息子の野球を指導する話。

 

ダリアはその家の庭に植えられていて、

それは女性の夫が息子のスウィングの練習のために植えたものだった。

 

ただ、

この夫、

女性が女優時代に不慮の事故で関係がこじれてしまったばかりに、

やむなく結婚した「大物」のジジイで、

そこにはどうやら恋愛感情はなかったらしく、

 

いわば仕事上、

結婚せざるを得なかった的な。

 

仕事上の見栄(対外的なパフォーマンス)なのか、

さて、なんなのか…。

 

このあたりの経緯は、

作品内でも濁されていて、

正直よくわかりません。

 

このまま意味のない結婚を続け、

どうなるのかと迷っている女性と、

 

(野球という夢を諦め)

このままバイト生活で、

ヒモのような人生を送って良いのかとモヤモヤしている主人公。

 

この二人が、

ダリアの花が割く庭を介して、

もっと言うと、

そこで目にした些細な出来事や事件を通して、

再び人生を見つめ直していくという話です。

 

うーん、自分でこんなふうに書いてても、

わかりづらい。。。

 

ひとつには

自分の文才の無さがあることも否めませんが、

もうひとつには、

(作品で言いたいことが)なんだかよくわかんねーな…

という面もあります。

 

私の読解力が鈍いだけかもしれませんが…。

 

全体的に、

読みやすいのは確かで、

短編集なのでさっくりイケるんですけど、

これはおもしろい!的な話が1つもなかったのが残念でした。

 

藤原伊織を読むなら是非長編を!

 

■まとめ:

・全6編からなる短編集。全体的に読みやすく、短編集なのでさっくり読めるが、それだけに内容は薄く、読み応えに欠ける。藤原作品は、長編のほうが面白い。
・独特の描写だが、この作者の描き方は、好き嫌いが分かれると思う。アメリカ映画のような気障っぽさ(スカしている感じ?)があり、内容も男のロマンを追求した自慰的な気持ち悪さもあって、若干ひいた。

・現実主義すぎると作中の登場人物にあまり共感できないと思うが、少しロマンチストの人であれば、共感できるところも増えて、面白く読めると思った。

 


■カテゴリー:

ミステリー

 

■評価:

★★☆☆☆

 


▽ペーパー本は、こちら

雪が降る (講談社文庫)

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