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リセット  ★★★★☆

筒井哲也さんのマンガ

リセット(1巻読み切り)

を読み終えました。

 

評価は、星4つです。

 

同じ日に、

ダズハント』(1巻読み切り)

という作品も読んだのですが、

どちらも面白かったです。

 

『ダズハント』の感想はこちら

 

▽内容:

プレイヤーを自殺に追い込むネットワークゲームディストピア』。その謎を追い一人の男が今、立ち上がる!WEBコミックが生んだ鬼才、筒井哲也の商業誌初連載作品。細密な画と大胆な発想で描かれる極限のサイバーホラー。

 

筒井さんの凄さについては、

マンホール』でも『ダズハント』でも、

これでもかというくらい絶賛してきた私ですが、

 

本当に、

「鬼才」という言葉がお似合いだな

と思うくらい、

 

彼の才能は、

画家としても(話の)クリエーターとしても、

素晴らしいと思っています。

 

毎回書いていますが、

彼の強みは大きく3つ。

 

・テーマに対する見識が深い

・ストーリーの組み立て方が上手

・絵がうまい

 

3点目と2点目については、

出版社側は

「細密な画」とか「大胆な発想」

というふうに表現していますが、

さすがに売り出すほうは上手なコメントをする。

 

でもこれ、

お世辞でもなんでもなく、

そのとおりだなと思います。

(普段、出版社のこうした釣り文句には迎合しないんですが)

 

このマンガも、

類にもれず、

彼の凄さを思い知らされる作品でした。

 

物語は、

とある団地の一室で、

何か書き終えた男性が、

ふと一息ついて窓のカーテンを開けたところ

 

あなたの人生は失敗しました

リセットして下さい。

 

というメッセージが目に入り、

 

彼は持っていたペンで

自分の首を突き刺して死んでしまう

 

…というところから始まります。

 

その後、

同じ団地に住む複数の人間が、

同じように、

 

あなたの人生は失敗しました

リセットして下さい。

 

というメッセージを見て(脳に浮かんで)、

死んでしまう。

 

ある者は強盗に押し入ったかと思いきや、

拳銃を自分の頭に突き刺して自爆、

 

ある銀行員は団地から身を投げて投死、

 

ある少年もまた投死を試みますが、

自転車置場の屋根がクッションがわりになって

一命をとりとめます。

 

彼らを自殺に追い込んでいたもの、

それは「ディストピア」という

ネット上の仮想ゲームでした。

 

そのゲームは、

団地にすむ住人のみが参加できる仕組みになっていますが、

逆にいうと、

団地の住人だけがターゲットにされていた

ということ。

 

ちなみに、

ディストピア(DYSTOPIA)とは、

ユートピア(理想郷)の反対語です。

理想郷の反対だから、

地獄みたいなもんでしょうかね。

 

なにが彼らを死に追いやったのか。

 

それは、

ゲームにハマりすぎて、

現実と非現実の境界がわからなくなり、

その隙間にサブリミナル効果として、

彼らを死に追いやるメッセージが

刷り込まれていたからです。

 

具体的に言うと、

ゲーム上でもゲームオーバーになると、

例の言葉↓があらわれるわけですが、

 

あなたの人生は失敗しました

リセットして下さい。

 

そこには、

「死ね」という言葉が

サブリミナル的に仕掛けてある。

 

作品中に登場する警察の「辰巳」は、

それをこのように説明しています。

 

臨場感満点のゲーム世界で死を迎える事は

プレイヤーにとって

かなりのストレスになるだろう

 

仮想現実の自分は死んでいるが

現実の体には何の異常も見られない

その意識のギャップに

「刷り込み」の入るスキが生まれるという訳だ

 

全ての人間に効果のあるものでもないだろう

しかしもともと生に対する執着の薄い者や

現実との境界を見失った者は

「答え」を求める事になるかもしれない

 

「この世界は本当に現実のものなのか?」

それを確かめるには自殺に踏み切るしかない

そういう精神状態に追い込まれるのだろう

 

そういう意味では、

ディストピア」は、

プレイヤーをこうした精神状態に追い詰め、

死に至らしめるわけなので、

 

このゲームの制作者は

明らかにプレイヤーに対し殺意を持っている

 

と。

 

そしてこの「ディストピア」には、

悪趣味な制作者によって、

より臨場感を高めるためにも、

刺激(残酷さ)を増長するためにも、

細かい仕掛けが散りばめられています。

 

事件の解明にあたって、

もともとサイバーテロなどで犯罪を犯した知能犯が

警察に荷担することで解決の糸口がつかめる

…というのはよくある設定ですが、

 

この作品でも、

「喜多嶋俊介」という元知能犯が、

辰巳の指揮下で

この事件と奮闘します。

 

彼いわく、

その「細かい仕掛け」とはこうです。

 

「配置」と「調整」でメッセ―ジを伝える作業

 

現実と寸分変わらない程

精巧に作られた箱庭世界「ディストピア

しかし「配属」と「調整」という視点で見てみると

このゲームには背筋が凍る程の

殺意と狂気に満ちていることが分かる

 

例えば野良猫の住み着く一角には

「液体爆弾」と「注射器」が据えられている

子供達が遊ぶl公園の砂場には

「対人指向性地雷クレイモア」が山のように積まれている

会社勤めの住民が車で帰宅する時間帯には

「対戦車無反動砲グスタフ」がいつの間にか駐車場に配備されている

ありとあらゆる殺し方をただ楽しむ──

それが「ディストピア」の世界だ

 

このあたりの話の作り込み方・専門知識っていったら、

すごい。

その一言に尽きます。

 

じゃあ、

犯行理由はそもそもなんなのか?

なんでこんなことをするのか?

 

それは、

団地建設計画に反対していた犯人一家が、

賛成派の嫌がらせで放火にあい、

 

結果として

犯人である息子(=ゲーム上でGMと呼ばれる人物)が

大火傷を負って、

 

その腹いせに

放火に関わった人物を制裁しようとしたから。

 

犯人一家は、

家屋消失による立ち退きにあたって、

最上階の部屋と団地の管理人職を得ると同時に、

 

全戸に張り巡らされた

LAN回線網のターミナルサーバーを

一元管理する権利をも手に入れた

 

というカラクリがあります。

 

冒頭で、

自らの首にペン先を突き刺して自殺した男は、

放火犯の一人で、

実は最初のGMによる被害者でもあり、

 

彼が死ぬ前に書いていた「何か」とは、

ゲーム上でGMに強迫され、

自白するための共犯者リストだったというわけです。

 

銀行強盗で自らの頭を打って死んだ男も、

不意に飛び降りて死んだ銀行員の男も、

おそらくはこの共犯者だったんでしょう。

 

自分は最初、

銀行員の男については、

共犯だったのか?

あるいはゲームの危険性に途中で気付いたばかりに、

殺人ターゲットの対象になってしまったのか?

どっちかわからないと思いました。

 

それは彼が、

「ゲーム世界の可能性についての考察」

というレポートを遺していたからなんですが、

このレポートの内容がすごい。

 

作者はこれを、

バーチャルリアリティに関する論文なり、

ゲーム上のグラフィック進化論なりを読んで、

 

要は、

他者からの情報を得て

まとめたレポートかとは思いますが、

 

それにしたって、

イチ漫画家が(といったら失礼ですが)書く文章にしては、

すごすぎる。

 

ほかに転載しているサイトが見つからなかったので、

そのまま載せちゃいますが、

 

(素人の私が言うのもなんですが)

論文としてもかなり質の高いものなんじゃないか

と思えてなりません。

 

わずか1秒間に数十億回もの演算処理を行う描画装置の働きで、ゲーム世界のグラフィックは今、劇的な進化を遂げている。

その凄まじいまでの臨場感は、一世代前おTVゲームとは比べものにならない程であるが、しかしそれでも、煎じ詰めれば粗雑な多面体の集合であることには変わりはない。

常識的な分別を持った人間は、ゲームと現実を混同するような事は決してないはずだ、と一般には考えられている。

しかし、その認識は大きな誤りである。

優れた設計のゲームは、しばしばプレイヤーに「手触り」や「痛み」、その場の「温度」や「臭い」までをも感じさせることがある。

殴られれば痛いと感じ、火を起こせば熱いと感じる。肉を焼けば旨そうな臭いが立ち込め、食べ物を腹に詰めれば、本当に空腹感を忘れてしまう。

大掛かりな体感装置は要らない。ごくありふれたPC用モニターを目にするだけで、私達の精神は、そこに「在る」ことができるのだ。

これはおそらく、私達の脳が仮想空間にリアリティを加える為に、情報の補正を行っているのではないだろうか。

粗雑で不完全な多面体が織り成す映像の視覚情報、これらが網膜から上丘、視覚野を辿る過程の中で劇的な充填現象を得て、活き活きとした世界として私達の脳裏に描かれるのである。

即ち、「補完された世界」とでもいえようか。

そして、もしも私達の脳が、この「補完された世界」に居心地の良さを感じてしまったとしたらどうだろう。「補完された世界」こそが現実である、と脳が「選択」してしまったら。

私達が生きているこの現実の世界が、「補完されていない」ということを証明出来る者は○○○ないのだ。

 

最後の○○○は、

おそらく、「【存在し】ないのだ」という言葉で

完結するんじゃないかと思います。

 

バーチャルな世界こそが現実で、

今生きている世界が非現実だと

脳が判断していたら、

 

実は

仮想世界=「補完された世界」、

現実世界=「補完されていない世界」

ということすら気づかないし、

 

その脳がとらえる世界では、

それを証明する人間は存在しないはずだ、

 

ということを言いたいのかと思います。

 

ただ、

いくらすべての情報を集約できる立場にあるとはいえ、

 

ただのマゾヒストのGMが、

こんな論文に目をつけたとは考えにくく、

 

やはり銀行員は、

放火の共犯者だったんだろうと思います。

 

よくわからなかったのは、

大輔という少年。

 

彼が団地から身を投げたのは、

親が共犯者だった可能性と、

親から放置されすぎて、

ゲームの世界にどっぷり浸りすぎてしまった可能性の

2通りが考えられますが、

おそらく後者でしょう。

 

先に、

現実と仮想の世界の見分けがつかず、

サブリミナル効果の影響を受けやすい人間について、

辰巳の説明を挙げましたが、

 

全ての人間に効果のあるものでもないだろう

しかしもともと生に対する執着の薄い者や

現実との境界を見失った者は

「答え」を求める事になるかもしれない

 

それでいうと、

この少年は、

「もともと生に対する執着の薄い者」だったわけで、

その背景には、

親から見放されて生きていることがあったのかなと。

(そんな感じで描かれていたので)

 

とはいえ、

このへんの行間は埋めて欲しかったかなぁ。

(ちょっとわかりづらい…)

 

先のレポートも、

この辰巳の言葉もそうですが、

このマンガを読むと、

なんで寝食も忘れるほどゲームにハマって死ぬんだ?!

っていう謎が理解できます。

 

ネトゲ廃人が引き起こした事件【海外ネトゲ依存症】 - NAVER まとめ

 

ひとくちに「ハマる」といっても、

韓流ドラマにハマるとか、

コンビニスイーツにはまるとか、

そんなゆるいもんじゃない。

もう脳がやられちまっているわけです。

 

話は戻りますが、

元サイバー犯の喜多嶋は、

団地の空き部屋に侵入してゲームに参加し、

「チート野郎!」と蔑まれながらも、

GMのしっぽを摑んでいきます。

 

部外者として追い出された彼ですが、

銀行員の男が残したアカウントを借りて、

再びゲームに参戦します。

 

ちなみに、

「チート野郎」については、

以下に説明がありますが、

ネット上のスラングみたいですね。

 

チート野郎って何ですか?-Yahoo!知恵袋

 

チート(cheat)は、

騙す・あざむく、いかさま・詐欺師

といった意味の英語です。

 

彼は決め手となる物証を得ます。

 

その方法がまた面白い。

 

GMから犯行と共犯者の自白を強迫された男の

ハードディスクのコピーを入手し、

それをディストピアのゲーム内で走らせる。

HDのコピーには、

 

プレイヤーのおこした行動

音声

影響を与えた物体の状況

そういうのが全部「キャッシュファイル」として一時保存されている

 

というわけだから、

それをゲーム内で再現すると

事件の経緯がバーチャルで見えることになります。

 

でもこれも、

結局はバーチャルの世界なので、

「物証」とはいいがたい。

 

喜多嶋が、

銀行員の男の未亡人(ヒトミ)に、

一緒にゲーム内に入って

経緯を説明することには役立ったけれども、

 

結局、

そのヒトミもサブリミナル効果にやられて

現実世界でリストカットしてしまう。

(すぐに助けられたので命はとりとめましたが)

 

このヒトミという奥さん、

ただ年収が高いことだけにつられて銀行員の男と結婚し、

生きている実感がまったくわかない専業主婦として

冒頭から描かれているんですが、

 

ここでもまた、

辰巳のあの言葉がよみがえります。

 

全ての人間に効果のあるものでもないだろう

しかしもともと生に対する執着の薄い者や

現実との境界を見失った者は

「答え」を求める事になるかもしれない

 

そう、

彼女もまた、

「もともと生に対する執着の薄い者」の

一人だったというわけです。

 

こうなってくるとGMは、

最初の男(ペンで首を突き刺して死んだ男)以外は、

もはや共犯者を殺そうとしていたのではなく、

住民全体を誰それ構わず

殺そうとしたのかもしれませんね。

 

で、

喜多嶋は、

そのバーチャルな犯行のいきさつを動画として録画するのですが、

所詮はこれも、

「デジタルソースの動画」に過ぎず、

「痕跡を残さずに改編することができる」ので、

証拠能力としては少々怪しいわけです。

 

しかし、

その後の辰巳と喜多嶋のやりとりでは、

証拠としては十分という結論に至る。

 

…ん?なんで??

 

このへんは、

ちょっと難しくて、

よくわかりませんでした。

 

ところが、

そんなことはもはやどうでもいい!

といった新しい事実が判明します。

 

喜多嶋がセキュリティの欠陥を発見し、

ディストピアの乗っ取りに成功したのです。

 

バーチャルの世界にどっぷり浸っていたのは、

犯人(GM)も同じ。

 

彼は、

喜多嶋によってバーチャルの世界を乗っ取られた瞬間、

死を覚悟し、

現実世界でもそれを実行します。

 

そこを先回りしていた辰巳以下、

警察部隊が「お縄」にするという結末です。

 

この結末には、

少々、

乱暴さが感じられたものの、

 

作品の最後の最後は、

夫を失ってはじめて(一人で)

「生きていく」ということを覚悟するに至った

ヒトミさんの姿が描かれて終ります。

 

女が一人で生きて行くには

辛く厳しい世の中だ

それでも地面に足を付けて踏み止まろう

自分の足で立って歩こう

人生はきっと何度でもやり直せるものだから…

 

私はここに、

作者がこの作品のタイトルを

「リセット」とした真意があることがわかりました。

 

リセットとは、

そこで終わりだからリセットではなく、

白紙に戻してやり直すことができるからリセットなのだと。

 

ひょっとしたら

題名は「ディストピア」でもいい。

 

でもそうなると、

救われないわけで。

 

作者としては、

たとえマンガというバーチャルな世界といえども、

救いようのある現実を

残しておきたかったんだろうと思うのです。

 

以前、

ゼロ・グラビティ』という映画を観ましたが、

その結末も似たような感じだったのに、

そしてそれについては酷評したのに、

 

こちらに共感できたのは、

話の組み立て方・持って行き方が

上手だからだと思います。

 

わざとらしいといえば、

話のつくりなんて全部「わざと」ですけども、

ゼロ・グラビティの時に感じたような、

その「わざとらしさ」を感じなかったのは、

その消し方が巧みだったからと、

それに尽きます。

 

いやー読み応えのある作品でした。

 

■まとめ:

・「鬼才」という言葉がお似合いの、作者の凄さを実感する一冊。バーチャルリアリティに対する深い知見もさることながら、話の組み立て方・持っていき方が上手。

・終盤の、犯人の逮捕され方には、(話の組み立て方として)若干の乱暴さが感じられたが、ネット上の仮想ゲームの怖さを思い知る作品だった。

・リセットとは、そこで終わりだからリセットではなく、白紙に戻してやり直すことができるからリセットなのだという本来の意味・タイトルの真意が感じとれる終り方だった。

 

■カテゴリー:

マンガ

 

■評価:

★★★★☆

 

▽ペーパー本は、こちら

リセット (ヤングガンガンコミックス)

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