まんがで読破 蟹工船 ★★★☆☆

小林多喜二さん原作

蟹工船 (まんがで読破)

を読み終えました。

 

評価は、星3つです。

 

原作はずっと気になっていたのですが、

これまで読んだことはなく、

数年前から文庫本サイズで漫画化されていたので、

今回、手に取ってみました。

 

この【マンガで読破シリーズ】は、

イーストプレス社という出版社が手掛けており、

国内外の「名作」を漫画化しているわけですが、

現在134の作品が刊行されているようです。

 

そもそも、

名作の定義って何ぞや??

という点はさておき、

 

名作を読む意義は何ぞや?

という点について考えると、

 

自分はだいたい、

次の3つがあるのではないかと思います。

 

1.

世間一般に名作といわれているものに触れることができる

 

2.

作品そのもの(内容・作者の考え)に対する読解力・想像力が養われる

 

3.

文章や語彙に対する理解力が育まれる

 

1.は、

名作とよばれるものに触れることで、

「教養」というものが身につくわけですが、

 

私はあえてこれを、

世間のいう「教養」に触れることができる

と言い換えたいと思います。

 

何をもって「教養」とするかは、

他人が決めるものと、

自分が決めるものとがあって、

 

一般的に言われているような

「教養がある」とか「高い教養」とかいう言葉は、

他人が決めているもの、

つまり世間の尺度による「教養」であって、

 

ここで言う

「名作」=「教養」とは、

まさに世間の尺度によるものだからです。

 

対して、

自分が決める「教養」とは、

自分しか役立たないかもしれないけれど、

人生に役立つ知識を学べば、

それもまた教養なのではないかと思うわけです。

 

話は戻りますが、

それでいうと、

このような「名作」は世間でいうところの「教養」であり、

 

そういったものに触れることで、

そりゃ当時は斬新な内容だっただろうよ!

とか、

へえ~世間ではこういうものが教養とされているんだ…

とか、

なんでこれが名作なわけ?

とか…

当然ながら、

いろいろな反応・賛否両論が受け手には起こります。

 

とはいえ、

こうやって名作の世界観を知ることで、

当時のあるいは後世の、

「世間」というものに触れることになるわけです。

 

そしてこのプロセスは、

必ずしも原作である必要はなく、

噛み砕いた解説書やマンガでもいいわけです。

 

もちろん、

原文に近ければ近いほど、

その世界観やそれらを評する世間の「教養」の取得濃度は高くなりますが、

 

解説書やマンガで

大枠の流れがつかめれば、

それはもう世界観と「教養」に近づいたも同然かと思うのです。

 

これに対して、

2と3は、

原作でなければ養成されづらい。

 

わかりづらい文章、

作者独特の言いまわしだからこそ、

想像力や理解力が求められ、

そこを誰かが解説したり、

マンガや映像で「絵」にしたら、

それらはあまり培われないでしょう。

 

また、

原作で意味不明の言葉が出てきたら、

文脈で意味を考えたり、

あるいは辞書を引いたり、

人に聞いたりして、

理解を得ることもありますが、

 

マンガや解説書では、

その言葉自体がカットされてしまえば、

触れ合う機会すらないわけで。

 

そういう意味では、

2と3は、

原作ならではの意義かと思います。

 

長くなってしまいましたが、

 

かりにマンガであっても、

ハナシの大枠さえつかめれば、

いわゆる名作の世界観に触れられるし、

世間でいう教養を知ることもできます。

 

原作における文章や語彙の読解力・想像力、

作者や作品に対する

より緻密なアプローチには欠けるとはいえ、

 

「あらすじが知りたい」「教養に触れたい」

というライトユーザーにとっては、

こうしたマンガはお手軽でいいと思いました。

 

▽内容:

軍閥支配の進む昭和初期。北洋オホーツクで蟹を獲り缶詰に加工する工場船「博光丸」では、貧しい労働者たちが働いている。不衛生な環境、長時間労働を強制する監督浅川。過酷な環境に耐えきれず、やがて労働者たちは一致団結し、ストライキを起こすが…。「資本と労働」の普遍的テーマを描いたプロレタリア文学の代表作を漫画化。

 

さて、

ここからは作品に関連するコメントです。

 

蟹工船における、

不当な労働搾取や過酷な労働は

実際にあった話らしく、

 

Wiki先輩によると、

 

小説発表後も、1930年(昭和5年)にエトロフ丸で、虐待によって死者を出した事件もおきている

 

のだそうです。

 

戦前とはいえ、

当時は重工業化に邁進していた日本ですから、

 

蟹工船以外でも、

鉱山開発における炭鉱労働もまた、

過酷な労働搾取があったのは事実ですし、

 

女工哀史」に見られるような、

紡績工場におけるそれもまた一例といえるでしょう。

 

要は、

この時代(大正~昭和初期)、

労働者はいまのように法律で守られておらず、

過酷な労働を強いられていた、

資本家と労働者の格差がものすごかった、

格差を是正し、労働搾取から逃れるためには、

労働者が一致団結してストを起こすしかない!

そこに未来はある!

 

…これが本作の大枠かと。

 

原作では、

主人公はいないようですが、

マンガでは、

松本というプロレタリア側の主人公がたてられています。

 

その松本が、

目の前で起こる数々の同僚たちへの虐待や衰弱、

長時間労働や重労働への強制、

賃金の搾取などを見るに見かね、

ついに行動をおこします。

 

彼は、

蟹工船が嵐に遭遇したことを契機に、

川崎船の死守を名目に、

船団からはぐれ、

ロシア漁船に保護されます。

 

そこで見た光景は、

日本のそれとは大違い。

温かいスープ、

国籍を問わず守られている人権…。

 

松本は、

ロシア人や韓国人漁夫から諭されます。

 

資本家は働かずにお金を稼ぎ、

労働者は働いても働いてもお金が稼げない。

この負のスパイラルを断ち切らないと、

資本家は肥る一方だし、

労働者は痩せ衰えるのみ。

 

だから、

みんなで立ち上がれ、蜂起しろ!と。

 

蟹工船に帰った松本は、

同僚らを集めてストを起こします。

このときは現場監督の浅川らに恐れをなし、

恐怖でストへの参加を見送る同僚らも。

 

加えて、

計画が事前に漏れ、

海軍?警察?にもリークされたために、

ストをおこした一団は一網打尽となり、

松本はその場で死亡。

 

ストはここで終わるかと思いきや、

彼の遺志を継いだメンバーが、

今度は労働者全員を率いて再度ストを起こします。

 

みんなで歯向かえば、

いくら治安部隊といえども全員を逮捕することはできない。

そうして彼らのストは成功するわけです。

 

印象的だったのは以下です。

 

・ロシアが思いのほか好意的に描かれていたこと

・ストを起こすなら全員でないと意味がないということ

・現場監督として情け容赦ない浅川も、経営者からすれば一労働者にすぎず、最後は冷たく追い出されてしまったこと

 

後世からみるロシアの共産化は、

相当危ないものがあるし、

資本家と労働者の平等なんて大成できておらず、

絵に描いた餅。

 

結局は、

共産主義は理想にすぎません。

 

当時の小林をはじめとするリベラル派は、

その「絵」に正当性を見出していて、

だからこそロシアを好意的に描けたんだと思いますが、

 

それが逆に、

「知らない」ということの怖さをあらわしているようで、

自分にとっては非常に印象的でした。

 

ストもまた理想に近い。

いまでもストライキはありますが、

完璧な意味でのストは、

やはり全員でなければ意味がない。

 

JALにはその昔、

非常に多くの労働組合があったことで有名ですが、

経営陣の傀儡的な組合もあれば、

あからさまに対立する組合もあり、

下手すれば労働組合同士が対抗したり、

それぞれがそれぞれにストを起こすので、

ストの数だけは多いわけです。

 

これに対して経営側は、

分断統治をおこなってきたことで、

手間はかかるけれど

ストを回避することができたそうです。

※のちにこれは再建の足かせになっていくわけですが

 

複雑な労務問題を抱えたJAL、経営側の「労組分断策」が再建の足かせに | 東洋経済オンライン

 

この時代に、

(部分的な)ストの盲点を突いている多喜二さんは、

ある意味すごいなと思いました。

 

最後の浅川追放のシーンもまた、

現代の中間管理職に通ずるところがあって、

印象に残りました。

 

そもそも、

2008年には「蟹工船」という言葉が、

流行語大賞のトップ10に入っており、

たしかに2008年~2009年ごろにかけて、

やたら書店やメディアで「蟹工船」を見るようになりました。

 

リーマンショック後の不景気を機に、

日本の労働問題や待遇が問われる機会が増え、

その労使関係や労働待遇から、

再び『蟹工船』が脚光を浴びることになったというわけです。

 

※Business Media 誠 より

(2008年の流行語大賞にノミネートされた言葉は)2006年の流行語大賞トップ10“格差社会”に通じる言葉も多い。「蟹工/蟹工船」「名ばかり管理職」といった雇用・労働問題関連や、「ロスジェネ(宣言)」「ゆとり世代/脱ゆとり教育」などの“世代格差”を連想させるキーワード、「ねんきん特別便」「後期高齢者」など、年金問題関連の言葉がノミネートされている。

 

いくら労働者が法律で守られいるとはいえ、

実態としては、

残業時間に見られるようなグレー/ブラックな面があるし、

 

資本家と労働者の格差は、

人権面においては昔ほどあからさまではないけれど、

結局いまも昔も経済的・社会的格差は否めないし、

 

派遣村なんていうのは、

それこそ非正規労働者によるストライキ(デモ)なわけで、

 

ほーら、

現代の『蟹工船』はあなたの目の前にありますよ、

という感じでしょうか。

 

いまは経済再生だの売り手市場だのと、

労働(者)問題が話題にあがることはほとんどありませんが、

 

景気が悪くなって、

労働者の不満が増えれば、

また『蟹工船』ブームは再来するかもしれませんね。

 

なぜ「蟹工船」が売れているのか|Web Magazine OPENERS 

 

そうやって、

いつの時代もずっと読み継がれていくから、

蟹工船』は名作と言われるのかもしれません。

 

■まとめ:

・名作の漫画化は、原作における文章や語彙の読解力・想像力、作者や作品に対するより緻密なアプローチには欠けるものの、大枠さえつかめれば、その世界観に触れられるし、世間でいう教養を知ることもできるメリットがある。

・全体を通して、ロシアが好意的に描かれていたこと、ストは全員で起こさなければ意味がないということを早くから突いていたことが、印象的だった。

・2008年~09年にかけて『蟹工船』ブームが訪れたのは、労働者の境遇が悪い(=不満が多い)時代の反映。

 

■カテゴリー:

マンガ

 

■評価:

★★★☆☆

 

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