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なぜ夜に爪を切ってはいけないのか ★★★☆☆

北山哲さん著

なぜ夜に爪を切ってはいけないのか―日本の迷信に隠された知恵

を読みました。

 

評価は、星3つです。

(2.5くらい)

 

本書は、

日本で古くからよく言われていることについて、

その意味と背景を簡単にまとめたものです。

 

「なぜ夜に爪を切ってはいけないのか」

というタイトルにひかれて買いました。

 

たしかに、

なんでだっけ…?と思い。

 

全部で80の格言(迷信)について、

それぞれ見開き2ページで解説しており、

非常にわかりやすく書かれているので、

民俗学や歴史の知識が浅い人でも気軽に読めると思います。

 

▽内容

「夜に爪を切ると親の死に目に会えない」「茶柱が立つと幸先がいい」。これらの言葉は、誰もが両親や祖父母から一度は耳にしたことがあるだろう。科学万能の世においては廃れつつある伝統のひとつかもしれない。しかし日本人は昔から、子どもをしつけるため、また自らの縁起を担ぐために、この「迷信」を連綿と言い伝えてきた。これらの迷信はいったい、いつ、どこで、何のために生まれたのか?そこには、信心深く、しきたりを重んじる昔の日本人の知恵が隠されていた。

 

著者は北川哲さんといって、

もともと編集者の方だったようで、

いまは執筆活動もされているようなのですが、

詳細はまったく不明です。

 

著者略歴には、

 

ユニークな切り口を意識した情報発信は、幅広い読者層に受け入れられている

 

なんて紹介されているんですが、

 

他にどんな切り口で作品を書いているんだろうと

Amazon著者ページを見ても、

彼の作品はこの本しか見当たらず、

なんとも言えません。

 

ただ、

ご本人も「はじめに」で

下記のようにおっしゃっていて、

 

本書では、数ある「俗信」や「迷信、「験担ぎ」から、誕生のルーツや面白い逸話を選りすぐり、わかりやすく紹介している

 

たしかにわかりやすいです。

 

著者によると、

 

こうした「俗信」や「迷信」、「験担ぎ」には、たんなる噂話や伝承だけではない、長年の経験から培われた先人の知恵やメッセージが込められている

 

ということですが、

 

これらは、

科学的根拠があるものもあれば、

まったくないものもあるので、

そうなると一概に妄信するわけにはいかないけれども、

 

(その裏にある真意を汲み取って)俗信が生まれた時代背景やそのルーツを詳らかにすることは、これまで積み上げてきた日本文化をひも解くことになり、日本を再発見することつながるはずである

 

と述べています。

 

つまり、

昔からの言い伝えを通じて文化や民俗にアプローチしますよ、

といった、

いわゆる文化人類学民俗学の世界へご案内してくれるのですが、

 

専門的・学術的というより大衆的・雑学的な感じですので、

「サラリと読める」ガイドブックになっています。

 

ただ、

それだけに考察が浅いなーと思った面も否めず、

なんでなんで星人の私にとっては、

いまひとつパンチが欠けていました。

 

たとえば、

朝の蜘蛛は吉、夜の蜘蛛は凶

という有名な言い伝えがありますが、

 

これについて本書では、

古墳時代の初期から朝の蜘蛛は吉兆と信じられていた

・朝の蜘蛛は、客人・恋人・金運・晴天を招くサイン(好評価)

・夜の蜘蛛は、ソロソロと動く姿が泥棒に似ているので凶(悪評価)

と中身をちょっと細かく言い換えているのに過ぎず、

 

朝だとなぜ吉で、

夜だとなぜ凶になるのか?

という根拠は提示されていないと思いました。

 

それでいて最後は、

 

朝夕で人間の対応が一変するのだから、蜘蛛にとっては迷惑な話である。

 

と結ばれています。

 

だーかーらー、

なんで一変するわけよ?

 

蜘蛛にとって迷惑とかどうでもよくて、

知りたいのはそこなんだけど

 

…と、

なんでなんで星人の自分としては、

しっくりこないのでした。

 

「ルーツを詳らかにする」と言いつつ、

されてないと思うものもいくつかあったので、

そういう意味では減点でした。

 

とはいえ、

そういう背景があったのね!

と素直に「!」を受けたものも多く、

目からウロコとまではいきませんが、

それなりにおもしろかったです。

 

ここでは、

80コあるうちの印象に残ったいくつかを

残しておこうと思います。

 

夜に爪を切ると親の死に目に会えない

・爪には霊魂が宿っていて、幽気が暗躍する夜に爪を切ると魂をもっていかれる(早死にする)

・親から与えられた身体の一部を、夜暗いところで切ったら危ない(粗末にしてはいけない)説も

 

爪や髪の毛を火にくべてはいけない

・髪の毛や爪には、自分の霊魂が宿っている

・それらを燃やすことは、自分を燃やすこと

・誰かを呪う時に、髪の毛がつかわれたのはそのせい

 

葬列に出会ったら親指を隠せ

・親指を隠して握りこぶしをつくるポーズは、気を充実させるので、死者の霊気をはらいよけることができる

 

寝言に返事をしてはいけない

・昔は、寝ているときは仮死状態にあり(魂が離脱)、生命力が衰えている考えられていたので、言葉をかけると脳が疲弊して身体によくない

 

枕を踏むと頭痛持ちになる

・眠っている人の魂は、体から抜け出て、枕に宿っている

・その枕を粗末に扱うと、魂が揺れ動き、頭痛もちになる

・「枕」という言葉は、魂がつまった蔵=魂蔵(たまくら)が語源

 

出がけに靴ひもが切れるとよくないことが起こる

・昔は、死者を弔うとき、新しい草履や草鞋を履き、埋葬が終わると墓場に捨てて行った

・それらの鼻緒は霊がうろつかないように切られたので、出がけに鼻緒=靴ひもが切れることは、縁起が悪いと考えられている

 

ほうきを逆さまに立てると客が早く帰る

・ほうきには神様が宿っていると考えられており、祭礼で神前に供える「御刷毛」は逆さに立てたほうきにそっくり

・自分達では手におえない客を、神様の力を借りてなんとかしてもらおうとする願いが込められている

 

全部たいらげてからお代わりするのはよくない

・お代わりを断らないのは正しい礼儀作法だが、すべて平らげてからお代わりをお願いするのは好ましくない

・一口分のご飯を残すことで、ご馳走になっている家の人たちとの縁が切れていないことを表現

 

噂されるとくしゃみが出る

・昔から、くしゃみは病いの予兆と考えられていて、くしゃみが出ると、「休息万病、休息万病…」というおまじないが唱えられた

・この「休息万病」がなまって「くさめ」→「くしゃみ」の語源に

・このおまじないは呪術的にも用いられ、くしゃみが出るときは噂されている(呪術をかけられている)

 

猫が棺桶をまたぐと死人が生き返る

・猫は神秘的な力を持つ動物(例:化け猫)

・そのネコが死人のそばに現れると死者の魂がのりうつってしまう

 

カラスが鳴くと人が死ぬ

・死者が土葬された際、昔は棺桶を埋めた場所にお膳を供えていた

・そのお膳を狙っていたカラスが、墓場周辺にやってきては鳴いた

 

縁談の席でお茶を出してはいけない

・「茶化す」「お茶を濁す」など、お茶は男女の縁を結ぶにはふさわしくない言葉を連想させる

・お茶のかわりに、関東では塩漬けにした桜の花にお湯を注いだ「桜湯」、関西では「昆布茶」を出すのが一般的

 

三人で写真を撮ると真ん中の人が死ぬ

・写真は魂を抜かれるものだと思われていた

・三人で写真をとるとピントが真ん中の人にあてられる(他はぼやける)

・真ん中にたつのはたいてい年長者なので早く死ぬ説も

 

沢庵は二切れに限る

・「一切れ」は「人斬れ」、「三切れ」は「身斬れ」、「四切れ」は「死」という語呂あわせから

・五切以上だと出す側の負担が大きい

 

雛人形を3月3日のうちに片付けなければ嫁にいけない

・もともとの起源は中国で、旧暦3月の最初の巳の日に厄除けのために水を浴びて身を清める儀式があった

・3月の初めは水が冷たいので、人間のかわりに人形をお祓いし、川に流すように(流し雛)

・江戸あたりから今のような豪華な人形が売られるようになり、流すことができなくなって、その日じゅうに片付けるようになった

・これに季節外れ=適齢期逃しにならないように説が加わる

 

節分に自分の年齢の数だけ豆を食べると力がつく

・節分(2月3日)はもともと、旧暦の12月31日(大晦日)。

・豆まきは年越しの行事で、押しの数より豆を1つ多く食べるのは新しい年を迎えて年齢をひとつ重ねるから

・豆には穀物の精霊が宿っていて、栄養学的にも健康食の代表

 

貧乏ゆすりをすると出世できない

・物乞いや貧しい人たちは、栄養失調で手足の震えが止まらず、貧乏ゆすりをする人が多かった(膝をゆする癖=貧乏証)

・神経質で落ち着きのない人は、仕事もできない

 

歯の生え変わりでは、上の歯は縁の下に、下の歯は屋根に

・丈夫な永久歯への生え変わりを願って、歯の生える方向に向けて(人の目に触れないところへ)投げる

・「ネズミの歯にかわりますように」「鬼の歯になりますように」というおまじないを唱えることも

・抜けた乳歯が他の動物に食べられて、次に生えてくる歯がその動物に似ないよう、西洋では塩を振って暖炉で燃やす

 

女を船に乗せると時化に遭う

・船には船霊様という女の神様がいて、女性を乗せるとその神様が嫉妬する

 

女の陰毛を財布に入れておくと賭け事に勝つ

・女性には、男性が叶うことがない生殖能力があり、神秘の力が宿っている

・人知の及ばないギャンブルで、験担ぎとして頼ろうとした

 

ミョウガを食べると物忘れする

・インドに物忘れの激しい仏僧(周梨槃特)がいて、彼の死後、埋葬された墓に草が生えてきた

・その草は、「彼の名前を荷って生えてきた」として、「名を荷う草」=「茗荷」と命名

・その草を食べると、物忘れがひどくなる

 

靴下をはいて寝ると親の死に目に会えない

・靴下は死人が履くもの(白装束)→死を想起させ、縁起が悪い(早死にする)

・寝床は魂が抜けて神様と接触する場→足袋をはいたまま神様にあうのは失礼

 

食べてすぐ横になるとウシになる

・食事がおわったらすぐ働くべきという、日本人の生真面目な性格が生んだ格言

・実際は、食後は無理に身体を動かさない方が消化に良い

 

天ぷらとスイカは一緒に食べてはいけない

・科学的根拠は乏しいが、天ぷら(油)とスイカ(水)が胃の中で一緒になると、胃が疲れているときには反発しあって胃に負担がかかるじゃという経験則。

 

酢を飲むと体が柔らかくなる

・お酢は乳酸を分解し、筋肉をやわらかくする

・悪玉コレステロールも分解する

・糖分も分解して、脂肪として蓄えるのを防ぐ

 

結婚式のとき、

たしかに「桜湯」が出てきて、

特別な日にただのお茶じゃ地味なのかなと

当時は思っていたんですが、

男女の仲を祝う日に、

お茶は縁起が悪かったんですね。

 

知りませんでした。

 

最後にとりあげた、

「酢を飲むと体が柔らかくなる」の解説については、

冒頭の

「朝の蜘蛛は吉、夜の蜘蛛は凶」と同じで、

ルーツの説明が薄かったように感じます。

 

書かれてあることは、

いまわかっている効能(科学的根拠)であって、

知りたいのはルーツ(そう言われていた所以)です。

 

それについて、

ほとんど触れられていないのが残念でした。

 

なんだか重箱の隅をつつくような、

揚げ足取りのコメントをしてしまいましたが、

 

よかったのは、

わかりやすくてさらりと読めたところ、

 

悪かったのは、

一部で考察や説明が浅く、

筆者の言う「ルーツ」が見えなかったところです。

 

 

■まとめ:

・昔からある言い伝えを通じて、先人たちの知恵に学んだり、日本の文化・民俗にアプローチできる一冊。

・専門的・学術的すぎず、大衆的・雑学的にまとめているので、初心者でもさらりと読めて、文体もわかりやすい。

・背景や根拠に「そうだったんだ!」と感銘を受けたところもあるが、一部で考察や説明が浅く、筆者の言う「ルーツを詳らかにする」という成果には、今ひとつ納得できなかった。

 

■カテゴリー:

民俗・民俗学

 

■評価:

★★★☆☆

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