朝鮮王朝の歴史と人物  ★★★☆☆

康 熙奉(カン ヒボン)さん著

『知れば知るほど面白い 朝鮮王朝の歴史と人物』

を読み終えました。

 

評価は、星3つです。

 

雑学程度に読みたかったので、

内容自体にはまったく不満ありませんが、

「へぇー!!」とか「え?!そうなんだ!!」みたいな

斬新な驚きがあまりなかったので、

この評価に留まりました。

 

著者ご自身が、

以下のように表明しているとおり、

 

全体を通じて、朝鮮王朝時代を説明するときは「わかりやすく」ということを心がけた。

 

文章はわかりやすくてサラリと読めました。

 

ムック本として読む分にはよいと思います。

 

▽内容:

人気沸騰の韓流時代劇で描かれている朝鮮王朝とはどのように成り立っていたのか?徳川政権の、ほぼ倍に当たる長い歴史を誇る朝鮮王朝の誕生から崩壊まで、約520年間に登場した偉人たちの足跡をたどり、両班に代表される儒教国家で活躍した人びとの、華麗なるエピソードを紹介する。初代王・太祖(李成桂)から歴代王までの治世を克明に綴った正史『朝鮮王朝実録』をもとに、歴史の真実に迫る。韓流ドラマの世界がもっと親しみやすくなる、面白い話題がいっぱい。

 

この本は2011年に発刊されたもので、

当時はまだ日本が、

韓流ブームの名残を楽しんでいたときだと思います。

 

いまでこそ、

韓流ブームは終わったと言われており、

 

つい最近も、

新大久保にある韓流グッズの総本山(韓流百貨店)がつぶれたり、

韓流ムック本を出版していた会社が倒産したりで、

韓流はすでに下火になっていまが、

 

新大久保の「韓流百貨店」が倒産、日本の韓流ブームは消滅寸前 - Yahoo!ニュース

 

この本が出された3年前くらいまでは、

まさに韓流のピークだったかもしれません。

 

韓流が衰退した理由はいろいろあるかと思います。

 

①日韓関係の悪化→嫌韓ムードの大衆化

②韓国エンタメ界の低迷(供給過多・マンネリ化・過剰接待・経営悪化)

 

ひとつは日本国内における韓国排斥運動。

これには①が大きく関わっているのかと思います。

 

もうひとつは、韓国側の問題。

②のように、韓国の業界自体が低迷し、

輸出で儲けようとしていることで、

韓流コンテンツが高騰しているから。

 

ちょっと前まで韓流ドラマは

コンテンツ業界のユニクロ”(=コストが安いわりに視聴率が稼げる)

と言われるようなポジショニングにあって、

 

これで、

うまみをしめて調子にのっていたのがフジテレビ(らしい)。

 

フジTVは、

ゴリ押し韓流ブーム”を扇動していたとして、

問題になっていましたが(2011年)、

 

この本が出されたのは、

ちょうどそんなときでした。

(売れたのかな、とちょっと心配になりますが…)

 

私も、

以前は韓流ドラマをよく見ていましたが、

 

いまはブームの低迷で、

テレビでの放映自体が減っていますし、

 

どのドラマも、

話の展開がだいたい似ているので、

だんだん飽きてきてしまって、

見る機会は減りました。

 

それでも、

時代劇はいまだに見ています。

 

日本の時代劇って、

大河ドラマがそうなんですが、

話がまどろっこしい。

 

行間を読めというか、

感情の起伏が少ないというか、

日本人にありがちの繊細な描き方が多くて、

見ていて頭を使うので、

私はあまり続かないのです。

 

それに比べると、

韓流時代劇はいたって単純。

権力を取り巻くドロドロした人間模様や権謀術数など、

物語の起伏が多いですし、

(その様子も)あからさまでわかりやすい

 

日本の時代劇でも、

こういうものもありますが、

水戸黄門とか大岡越前といった、

一話完結型の勧善懲悪モノ。

 

それはそれでシンプルでいいんですが、

これではちょっと見ごたえがない。

 

それにひきかえ、韓流は長い。

百何話とか、とにかく長い。

 

本書の中で、

「なぜ、韓国のテレビ界では時代劇の人気が高いのか?」

について、

以下の3つの要素があると説明していました。

 

①長編であること

 

なぜ韓国の時代劇がこんなにも長くなるのかというと、主人公の身の回りで起こったことを何でもかんでも詰め込もうとするからだ。決して省略せず、その歴史上の人物像を実にていねいに描く。

 

②誰もが勇気をもらえる「成功物語」であること

 

視聴者は、主人公の成長を一緒に見守ることができる。この一体感が大きい。

 

③「史実よりも創作」性が高いこと

 

大方の流れが史実と合っていれば、細部はとことん創作して話を面白くするのが韓国時代劇の特徴なのである。

 

つまり、

ストーリーに起伏をつけて「創作性」を高め、

あえて長編かつ「成功物語」にすることで、

私たち視聴者を引きつけている、

ということらしいです。

 

主人公が大人物に成長していく過程を共有することで、視聴者は歴史にかぎりない親しみを持つようになる。いわば、視聴者を歴史の証人にするようなスタイルが、その人気の源となっている。

 

なるほどねー。

 

でも、

あんまり長すぎるのも疲れるので、

20話とか30話くらいで終わるほうが、

個人的にはいいんですけどね。

 

話をこちらの本に戻しますと、

私のように韓流時代劇を見たことがある人や好きな方には、

この本は楽しめると思いますが、

 

帯にあるように、

 

イ・サンやトンイ、ファン・ジニなど朝鮮王朝ドラマを10倍楽しめる!

 

というのはウソだと思います。

 

もちろん受け止め方は人それぞれなので、

その通りでした!

という人もいるかもしれませんが、

 

少なくとも私にとっては、

10倍は言い過ぎだろー

という印象を持ちました。

 

タイトルに、

「歴史と人物」とありながらも、

身だしなみや食事、儒教や仏教のことなど、

当時の民俗宗教なども取り上げていて、

広く浅く楽しめる感じですが、

これには賛否両論あるようでした。

 

(歴史と人物についての)

内容が浅い・情報量が少ない・どうでもいいことばかり書かれている

という批判もあれば、

 

端的に述べられている・入門書としてならおもしろい

という賛成もあります。

 

個人的には、

このレビューアーさんの意見に一票。

 

しっかりした歴史を学びたければ、図書館で歴史書を借りたら良いと思います。
この本は在日の作家でありながら日本人サイドから書かれた、分かり易くしかも楽しく読める工夫が満載の、時代劇ファン(初心者)のための本だと私は理解しています。

 

おっしゃるとおり。

 

でも、

やっぱ10倍は楽しめなかったぜ。

 

とはいえ、

だいたい帯の文言なんていうのは、

広告だと思ったほうがよくて、

これは完全に売る側の誘導文言でしかないわけです。

 

初代王李成桂、大王世宗、チャングムが仕えた中宗、「イ・サン」の正祖、トンイを愛した粛宗ら、歴代27人の王と華やかな王侯貴族たち、名宰相柳成龍や将軍李舜臣など大活躍した偉人の波乱万丈のエピソードを満載。

 

そもそも、

「波乱万丈」の「偉人」の人生が、

200ページそこらの小さな本に納まるハズがありません。

しかも何十人分もの人生を。

 

私は、

それぞれの人物を知ることより、

むしろ、

当時の時代背景というか、

民俗文化とかしきたりチックなものを知ることができたことのほうが、

この本に価値を感じました。

(タイトルに反していますが…)

 

この本を読んで次に観たくなった韓流時代劇は、

張禧嬪[チャン・ヒビン]  とか 

ホジュン 宮廷医官への道 とかですかね。

 

李成桂(創始者)~太宗(3代)・世宗(4代)までを描いたとかいう

龍の涙 も観てみたいですが、

全159話だもんなー。

 

この歳になると、

もう短いほうがいいです。

 

 

以下は、個人的な備忘録です。

 

・朝鮮王朝は、朝鮮有史上、最も長く続いた政権で、その期間は1392年~1910年(日韓併合)までの518年間。その間に君臨した王は、27人。一番長く在位したのは英祖(イ・サンの祖父)、次が粛宗。粛宗は、王宮の権力闘争を間近でみて育ってきたために、うまく世渡りして即位後は王権強化に乗り出す。そのほか、経済を発展すべく、農地整備や商業奨励、本格的な貨幣鋳造事業に着手し、政治的には非常に有能だったが、女性遍歴が激しく、チャン・ヒビンの暴走を止められなかった。

 

・『宮廷女官チャングムの誓い』で描かれる主人公の立派な姿とは裏腹に、それまで(15世紀くらいまで)は、医女の身分は非常に低く、庶民の下とされていた。医女は、人命救助のほか宴会の酌婦としてもこき使われていた。上流階級はもちろん庶民の間でも医女を志願する人は少なかったため、奴婢の中から頭脳明晰の女性を選抜して漢方や鍼灸の知識を学ばせていた。

 

・韓国三大悪女といえば、張緑水(チャン・ノクス)/鄭蘭貞 (チョン・ナンジョン)/張禧嬪(チャン・ヒビンの3人。チャン・ノクスは、10代王の燕山君の側室で、史上最悪の暴君を陰で操った”欲のかたまり”として知られる。チョン・ナンジョンは、11代中宗の三番目の正妃(文定王后)に仕えた女策士。チャン・ヒビンは、おぞましい策を使いながら、一介の宮女から19代粛宗の側室にまでのぼりつめ、ついに正室まで追い出して王妃となった女性。

 

・史上最悪の暴君「燕山君」は、生母(斉献王后・尹氏)が成宗に嫉妬したあげくに精神を病んでしまい、毒殺されたことを知り、即位後に関係者を次々に処刑。すでに死んでいる者は、墓をあばいて首をはねた。この暴君は日夜酒色におぼれ、庶民がハングルで王を批判した理由でハングルの使用を禁止。その行為はあまりに専横的で残虐、常軌を逸していたという。

 

・4代世宗(太宗の三男・忠寧)は、朝鮮王朝最高の名君。一番の功績は、「訓民正音」(のちのハングル)という文字の作成・公布。知識人はずっと漢字を使い続けたが、日本の植民地支配のあと、民族主義が高まるなかでハングルが普及していった。

 

・韓流時代劇でおなじみの女性の髪形は、カチェというカツラ。身分の違いをあらわすため、地位の高い人ほど多いなカチェを使っていた。重い物で3㎏以上。一般女性の間でも流行するようになったため、カチェを買うために借金する女性も増えた。朝鮮王朝後期には、法律でカチェが禁止に。

 

・「太祖」とか「太宗」といった王の名は、諡(おくりな)であり、死後に贈られた名前。「」は多大な功績があった王につけられ、「」は徳があった王につけられる。「祖」がついているのは、太祖・世祖・宣祖・仁祖・英祖・正祖・純祖の七人。『イ・サン』は正祖、彼の祖父が英祖で、当初は二人とも「宗」だったが、後日あらためて「祖」に格上げされた。「燕山君」や「光海君」のように、在位中に追放された王には、「」がつけられた。

 

・それぞれの王の生存中の名は、難しい漢字一文字で表記されるならわしになっていた。たとえば、正祖(イ・サン)の「祘(サン)」のように。王の名前を誰かが書くことはあまりに恐れ多いことで、普通の文中などで簡単に使用されないように、普段使わないような漢字があてられた。

 

・女官の身分をあらわす官位には、最上位の「一品」から最下位の「九品」まであり、それぞれに「正」と「従」があった(つまり、合計18ランク)。王様に直接仕えることができたのは「従四品」までで、尚宮は「正五品」だっため、じかに会えなかった。一生男子禁制の世界だったため、同性愛者も多かった。

 

・韓国で老舗が少ないのは、伝統的な家内制手工業(伝統工芸や食堂など)が蔑視されてきたから。そもそも韓国では、儒教の影響が強く、頭を使う仕事が最も尊ばれていたので、子どもを医者・弁護士・官僚・教授などにしたがる家族が多い。そのため、「創業○年」という看板や表示は、「わが家では、子供たちにレベルの高い教育を受けさせることができず、いまも食堂やっています」ということをわざわざアピールしているようなもの。

 

 ・かつての都・漢陽(ハニャン)は、今のソウルにあたり、都は城郭で仕切られ、城郭の中には小さな川が流れていた。これが今の清渓川。この川の北側に上流階級が、南側に庶民が住んでいた。いまの明洞は南側に位置する。この川は、70年代には暗渠(排水路)になっていて、上に高架道路が建設されていたが、ソウルの再開発のなかで、当時のソウル市長だった李明博が、再び清流として整備したため、これが彼の大きな功績となっている。

 

・朝鮮王朝になってから、政治経済に介入していた寺院や僧は排斥され、儒教が重んじられるように。特に3代太宗によって、儒教が国教化。科挙制度や成均館(中央の最高学府)・郷校儒教を学ぶための地方の学校)が整備されるように。一方で、仏教寺院は町から追放され、山中に隠遁。仏教を衰退させるべく、に重税もかけた。今でも、韓国には都市部に寺院がなく、緑茶以外のお茶を飲むことが習慣づいているのはこの名残。

 

・仏教から儒教への移行によって、食肉の習慣や、火葬から土葬へ埋葬様式も変化(成宗の治世)。仏教は殺傷を禁じているので、食肉の習慣は高麗王朝までは根付いていなかった。仏教は火葬だが、儒教は土葬なので、いまだに韓国では土葬が一般的。ただし、墓地の敷地が不足しているため、いまは火葬が奨励されている。

 

儒教文化は、形式的・保守的で、男尊女卑や祭祀が重視されすぎていたため、家計や経済活動の足かせになっていた。これを改革したのが朴正煕大統領による「セマウル運動」。朝鮮王朝時代からの名残である、奢侈な冠婚葬祭の簡略化を推進。これによって、70年代後半から韓国は経済成長を遂げることに。

 

・江戸時代の1607年に、朝鮮通信使が来日、初めて日本と朝鮮王朝のあいだに正式な外交が結ばれる。オファーを出していたのは徳川家康、それに答えたのが宣祖(中宗の孫)。第一次通信使は国交回復のため、それ以降(全12回)は平和維持のため。通信使は必ず韓国の釜山・日本の対馬を経由して江戸に来ていた。逆に、日本からの使節団は、釜山までしか行けず、過去の秀吉による朝鮮侵攻(文禄・慶長の役)の教訓から、その先(漢陽)には通されなかった。

 

対馬藩は、幕府の対朝鮮外交の出先機関であり、それによる経済効果を受けていたため、両国の関係が悪化することを危惧していた。対馬によって、両国のメンツをつぶさないように、国書の改ざんがおこなわれていたことが発覚し、幕府が激怒するが、罪に問われてはいない。

 

・豊臣の朝鮮侵攻で最も手柄をたてたのは、李舜臣。彼は、世界の海戦史に名を残すほどの水軍の名将。「亀甲船」という世界初の鉄甲船を考案し、秀吉軍を海上で殲滅。高官の内紛に巻き込まれ、「日本に内通している」という嫌疑をかけられて投獄されるも、名将を失った朝鮮水軍は敗北を重ね、再び水軍の総司令官に返り咲く。しかし彼を迎えたのはわずか12隻の小舟のみ。それでも水軍を再編成し、日本を迎え撃つ。秀吉が死亡した吉報に乗じて、いっきに総攻撃を仕掛けたが、流れ弾にあたって死亡。水軍の士気が低迷するのを懸念して、息子たちの盾でその死を隠し、最後まで戦い続けた。現在、ソウル中心部にある李舜臣の像は、日本の方向を向いている。

 

■まとめ:

・朝鮮王朝の時代背景や人物について、広く浅くわかりやすく解説している。

・ムック本・雑学的に読む分にはよいが、斬新な驚きはあまりなかった。

・情報量が限られているがゆえに、本書で取り上げられている人物をドラマなり何かで、あらかじめ知っているほうが楽しめると思う。

 

■カテゴリー:

歴史

 

■評価:

★★★☆☆

 

▽ペーパー本は、こちら

知れば知るほど面白い 朝鮮王朝の歴史と人物 (じっぴコンパクト新書)

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