おーい!竜馬   ★★★★★

武田鉄矢原作、小山ゆう作画の歴史漫画

『お~い!竜馬』 

を読み終えました。

 

評価は、星5つです。

 

幕末は面白いとか激動の時代だとかよく言われますが、

なんとなくそうなんだろうなと知っていても、

何が面白いのか?どう激動だったのか?

と聞かれたら、

私は答えられなかったと思います。

 

幕末には多くの有名人が名前を連ねていて、

メディアや学校のテストなどでその名前はよく聞いていたものの、

 

新選組はどういう位置づけで、

西郷隆盛はどうかかわっていて、

桂小五郎(木戸孝義)は?

勝海舟は?

と言われると、

 

バカのひとつ覚えみたいに

新選組近藤勇土方歳三沖田総司

西郷隆盛西南戦争

桂小五郎長州藩

勝海舟江戸城無血開城

…みたいなことは言えるのですが、

「だから何だ?」みたいな。

 

結局、

断片的に一行でまとめられるような、

そんな簡単なものではなくて、

すべてが関係性の中にあり、

その関係性を理解するのがこの時代は難しい。

 

だから、

複雑だし、激動だし、それが面白いのでしょう。

 

このマンガを読み終えて、

ようやくその関係性とやら全体像やらがみえてきて、

それを池上彰さんふうに表現するとしたら、

そうだったのか!幕末ニッポン

みたいな感じでした。

 

▽内容:

幕末の英雄・坂本龍馬の生涯を、虚実を交えながら、時にコミカルに時にシリアスに描いた作品。『少年ビッグコミック』(小学館)で1986年から連載を開始し、同誌と後継誌『ヤングサンデー』に1996年まで連載。

 

このマンガはどうやら、

武田鉄也さんが司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく 』にハマり、

すっかり坂本竜馬に魅了されて、

そこでは書かれていない竜馬の幼少時代から描いていることが

ひとつポイントなんだそうです。

 

マンガのなかでは、

竜馬・武市半平太(瑞山)・岡田以蔵は幼馴染とされていたり、

幼少期に、ジョン・エリックというアメリカ人漁師が漂流してきたのを助け、

彼との出会い・再会が竜馬の海運業への夢を芽生えさせたこと、

新選組の名が世に知れ渡ることになった池田屋事件の際に、

竜馬は寺田屋に居合わせたシーン、

新選組沖田総司と竜馬が顔なじみであったこと、

14代将軍・家茂に竜馬が謁見したシーンなどなど、

とてもリアルに描かれていますが、

実はこれらはみな武田さん独自の設定らしく、

事実ではないそうです。

 

このマンガ、

とてものめり込みやすいので、

うっかり史実と勘違いしてしまいそうでした。笑

 

でも、

それくらい読者を虜にするほど、

よく描けているということなんだと思います。

 

私は小山ゆうさんの作品をちゃんと読んだことはありませんが、

汚いものにフタをせず、

決して理想やロマンに偏りもせず、

事象だけを並べた無機質なマンガで終わることもなく、

人間の汚さも素晴らしさもごちゃ混ぜにして

リアルに、かつ、ドラマチックに描かれていたので、

個人的にはそこがよかったです。

 

先日の『水滸伝』と違って、笑

感情表現も豊かなため、

ぐっと入り込んでしまいました。

 

連載当初、土佐藩の旧態依然とした封建体制下において、

上士と郷士の身分の違い、

上士の郷士に対する極悪非道な振る舞い、

藩主・山内容堂の冷徹非情な施政が

これでもかこれでもか!と

続けて描かれていましたが、

 

この山内容堂の描写については、

山内家の子孫から小山さんにクレームが来たそうです。

「残虐に描きすぎ」と。

 

あくまで小説やマンガは、

作者による想像(虚構)の部分もあるという前提を

読み手も頭の片隅においておかないといけませんが、

逆にこの想像(虚構)の領域こそ、

歴史マンガや歴史小説の醍醐味だと私は思います。

 

フィクションだろうと思っていても、

作者によって歴史上の人物のまた違った一面が見えてきて、

それはそれで面白い。

 

よく聞く坂本竜馬像とは、

・義理人情に厚く、包容力が大きい

・型にはまった考えをせず、柔軟な頭の持ち主

・大局観や先見の明が優れている

・謙虚で素直、小さなことにとらわれない

・並外れた行動力

ざっとこんなものかと思いますが、

 

このマンガを読んでも、

上記のような竜馬の人間力がよく伝わってきました。

 

竜馬がなぜこれほどまでに世代を超えて

多くの人たちから愛されているのかがよくわかりますが、

 

一方で、

実は竜馬は相当な腹黒い人間でもあったのではないか?

という疑心も浮かびあがりました。

 

彼は、

その大局観や先見の明から、

小さいことにはこだわらず、

ときにはプライドも捨て、

柔軟に立場を右に左にとりつつも、

自らの信じる道を切り開いていったわけで、

 

ここに普通の人にはない

「謙虚さ」とか「捨て身の精神」を垣間見ることができるのですが、

ある意味、要領よくうまく立ち振る舞っていた。

 

ある程度の腹黒さがなくて、

ここまで人間うまくやれるか?

と私なんかの心が狭い人間は、

そう思ってしまうのです。

 

事実、

司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』によって、

坂本竜馬は一躍、お茶の間の人気俳優になったわけで、

 

日本近代史を専攻とする歴史学者・松浦玲さんに言わせると、

 

現在流通している坂本龍馬のイメージの多くは『竜馬がゆく』で創られた。たいていの読者はそれが史実だと信じるから、それは司馬さんの創作ですと指摘しても、なかなか分かってもらえない。大多数の読者は『竜馬がゆく』で坂本龍馬が分かり明治維新が分かった気になっているのである。

*松浦玲「歴史小説歴史学は違う 司馬史観を持ち込む愚」(『Ronza』3巻5号、1997年)

 

…なんだとか。

 

また、

井沢元彦さんの『英傑の日本史 坂本龍馬編』では、

下記のようなインタビューを紹介しています。

 

司馬遼太郎さんの担当編集者であった半藤一利さん氏も、

「司馬さんの『竜馬がゆく』はね、もう非常に困った作品で(笑)、あれと違うことを言うと、文句が来るんです」と受けている。

 

この『おーい!竜馬』も『竜馬がゆく』も、

やっぱりどこかでフィクションなんだろうなと思いながらも、

そのフィクションにあえてハマってみるのが面白いと思います。

 

一方で、

多角的に竜馬をとらえながら、

みていくのもまた面白いと思う。

 

竜馬の生き方は、

われわれ現代人に対して、

「つまらないプライドなんて捨てて、アンタもうまくやりなさいよ」

といった教訓にもなり、

それはそれでとても勉強になるのですが、

 

一方でちょっとうがった見方をすると、

謙虚なフリをしてうまくのし上がった実は腹黒人間?みたいな

一面も疑えたりもして、

 

これはこれでまた違った意味で、

「目的を達成するためなら、プライドなんて捨てて謙虚なフリをしたほうがうまくいくよ」

という教訓にもなる気がするのです。

 

そういった意味で、

必ずしも英雄視することなく、

決して綺麗すぎる先入観から入ることもなく、

人間・「坂本龍馬」にアプローチしていってもいいんじゃないか?

と私は思いました。

 

しかし、いずれにせよ、

型にハマらず自分でどんどん道を切り開いていくあの行動力は

脱帽する限りです。

 

人間は謙虚でなくてはいけませんが、

だからといって何も行動しないと何も事を成すことはできません。

このバランスが難しいところです。

 

次は、

司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』を再読しつつ、

史実を並べた本なども読みながら、

もっといろいろな角度から坂本龍馬を知りたいと思いました。

 

■まとめ:

・フィクションが含まれながらも、幕末激動期の時代背景や思想の流れがわかるので、名だたる幕末明治期の著名人の業績が、この流れのなか・関係性のなかでとらえやすい。言うなれば、池上彰さんにたとえて、マンガ版「そうだったのか!幕末ニッポン」という感じ。

・人間の汚さも素晴らしさもごちゃ混ぜにしてリアルに、かつ、ドラマチックに描かれていたので、ぐっと入り込めた。

・世代を超えて愛される竜馬像もさることながら、竜馬は、実は相当腹黒い人間でもあったのではないかと感じた。ただし、その腹黒さは、我々現代人に「目的を達成するためなら、プライドなんて捨てて謙虚なフリをしたほうがうまくいくよ」と諭してくれている気がする。

 

■カテゴリー:

マンガ

 

■評価:

★★★★★

 

▽ペーパー本は、こちら

お?い!竜馬 全巻セット (小学館文庫)

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