百年の愚行  ★★★☆☆

小学生のとき、

本多勝一さんの『南京への道』(朝日文庫)を読んだことがあります。

 

これは日本の中国侵略や南京大虐殺についてのルポタージュなんですが、

当時は何も知らなくて、

怖いものみたさで読んだだけだったので、

その内容や写真に大きなショックを受けたのをおぼえています。

 

小学生のくせに、本多勝一を読むなんて、

自分でも変人じゃないかと思ってしまいますが、

 

それはさておき、

とにかく内容が子供心には強烈で斬新でした。

 

その内容のグロさに驚きつつも、

本多勝一ってスゲー!これが真のジャーナリズムでしょ?!

と、臭いものに蓋をしない彼の姿勢に憧れたりもしたものです。

(まだ小学生のくせに…アホだ)

 

大人になって、

南京大虐殺はなかったとか、

本多はアカだとか、

彼の取材は出鱈目だとか、

いろいろと否定されているのを知りましたが、

 

いまでもAmazonのレビューなどみると、

結構、酷評されているようですね。

南京への道 (朝日文庫)

南京への道 (朝日文庫)

 

 

さて、

いまここで本多さんの本をとりあげたのは、

彼のルポの是非を問いたいわけではなく、

 

子供のころから、

こういうグロい内容をちょいちょい見てきた「ど変態」の私であっても、

 

今回読んだ本(写真集)は、

久々に「グロい」ものを見た

という感じで、

少し目をそむけたくなるものもありました。

 

その本とは、

Think the Earth プロジェクトというNPO法人が発行している

百年の愚行

という写真集です。

 

▽内容:

20世紀を振り返り、21世紀の地球を考える100枚の写真。それぞれが、人類が地球環境と自分自身に対して及ぼした数々の愚行の「象徴」であり、と同時にひとつひとつがれっきとした「現実」である

 

刊行は2002年なので、

もう10年以上前の書籍ですね。

 

20世紀の創造と発展の裏で、

その犠牲になった自然破壊・環境汚染・戦争・格差などをとりあげ、

その象徴たる写真と、

5人の知識人たちからのコラムを紹介しているものです。

 

詳細の目次は、

WATER 水

AIR 空気

EARTH 森・大地

ANIMAL 動物

MASS PRODUCTION / CONSUMPTION 大量生産・大量消費

NUCLEAR / TECHNOLOGY 核・テクノロジー

WAR 戦争

PERSECTION 差別・迫害

REFUGEE 難民

POVERTY 貧困

に分かれています。

 

この写真が、結構、グロい。

正直、グロいのが得意ではない方は見ない方がよいと思います。

衝撃を受けます。

 

特に、動物や戦争、難民、貧困などのところは、

命あるものたちの凄惨な現実を目の当たりにします。

 

「動物」編では、

密猟によって殺されたサイの写真。

1980~1996年頃、ケニアのマサイ・マラで撮影されたもので、

ツノがえぐられ、血肉がむき出しになったサイが横たわる写真は、

衝撃的でした。

 

門倉貴史さんの

日本人が知らない「怖いビジネス」 ★★★★☆ - pole_poleのブログ

でも知りましたが、

 

アフリカでは、アフリカゾウの「象牙」の密猟・密売があとを絶たず、近年ではサイの角まで高値で取引されている。サイの角は、アジアで漢方薬の原料として使われている。シベリアの凍土に眠るマンモスの牙も、盗掘が相次いでいる。

 

写真の解説には、

「サイの角は媚薬になるといわれ、珍重される」とありましたが、

いずれにしても、その姿は残酷そのものでした。

 

 

「核・テクノロジー」編では、

1984年にインドのボパールで起きた、アメリカ資本の農薬工場でのガス漏れ事故。

 

2000人以上の死者が出たそうで、

地中に埋められている子供(?)の写真が、

あきらかに死体なんですが、

瞳が死んだ魚のように濁っていて、

(言葉は悪いですが)気持ちの悪い人形のようでした。

 

「戦争」や「差別・迫害」、「難民」「貧困」になると、

もうかなりのグロテスクな写真が続きます。

原爆、内戦、ナチス時代のガス室や囚人たち、地雷、銃殺、エイズコレラ、スラム…

と「凄惨」の代名詞かのような写真が並びます。

 

よくこういう悲惨なものや汚いものから、

「目を背けてはいけない」という言葉がありますが、

私個人としては、べつに背けてもいいと思っています。

 

背けたら悪いヤツで、直視したらいいヤツなのか?

そんなこと誰が決めたのでしょう。

感じ方・受け取り方はそれぞれです。

具合が悪くなるまで見る必要はないですしね。

 

私自身、この本を読んで、

特に何かが得られたわけではありませんが、

なぜ私はいまこうして何も考えず、のうのうと生きているんだろう?

と不思議な気持ちになりました。

 

そこには、

のうのうと生きていることに対する罪悪感があるわけでもなく、

かといって、

そのような悲惨なシーンに直面している国や人々を見下すわけでもなく、

うまく言えませんが、とにかく不思議な気持ちでした。

 

これを見ると、

自分たちの先輩がやってきたことは、

たしかに愚行なのかもしれません。

 

でも、

とりあえず自分とその周りについては、

何もないことへのラッキー感、

平和であってよかったという安堵感。

 

だからこそ、

こういうふうにはなりたくないし、したくない、

しないようにしなければいけない、

しいて言えばそれが正直な感想です。

 

愚から学ぶ正もあるかと思うので、

(イヤじゃない限り)知っておいて損はない

という感じですかね。

 

私はこの、

【Thenk the Earth プロジェクト】という団体をよく知らないので、

この団体についてとやかく言う筋合いはないですし、

特に否定も肯定もしませんが、

 

とくに映像や画像は、

私たちの脳裏にリアルなイメージを焼き付けるので、

写真だけに惑わされてはいけないなと思います。

あまり感傷的になって極端な思想に偏るのも少し危険だと思っています。

 

「残虐なのは常に人間であって自然ではない」

という一言は、

本当にそうかな?と思いますし、

(じゃあ東日本大震災もそういえるのかと言いたいですし)

 

池澤夏樹さんのコラムにあるような、

「消費は中毒」、すなわち悪い欲の連鎖とするような考えも、

個人的にはどうかと思います。

悪いは悪いのかもしれませんが。。。

 

いま、

『千年、働いてきました』

という本を読んでいるのですが、

その中で紹介されている、

セラリカNODAの社長の言葉がとても印象的でした。

 

「人間の欲というものを認めたうえで、環境問題に取り組んだほうがいいですよ」

 

そう、

消費も人間の欲のひとつで、

生きている限り絶対に誰しもが(量に差こそあれ)もつもので、

 

考えなければならないのは、

その欲は仕方ないとしながらも具体的にどうするべきか、

だと思います。

 

ここで紹介されているのは、

具体的な解決案を提示していないコメントと、

見る側に心理的なダメージを与える、衝撃的な写真。

 

よくいえばリアル、

わるくいえば(単なる)事象の詰め合わせ、

コラムは抽象的な概論で終わる、

という感じで、

そこが少し、違和感をおぼえたところです。

 

しかし、

そもそも、それが目的でしょうし、

これはこれで読者に考えさせるきっかけをつくる良い教材だと思います。

臭いものにフタをしていませんし。

なので、★3つをつけました。

 

クロード・レヴィ=ストロースという、フランスの?民族学者・人類学者の方が、

この本のなかで、「なるほど」と思うことを述べていました。

 

人間は、道徳的存在として自らを定義することにより、特別な地位を獲得してきました。まず私たちは、人間の占有物ではない生き物としての性質を基盤として、その権利を確立すべきです。この条件が満たされて初めて、人類に認められている権利が、その行使により他の種の存続を脅かそうとする瞬間に効力を失うのです。

 生の権利の、ひとつの特例に還元された人間の権利。このような「人権」の再定義こそが私たちの未来、そして私たちの惑星のあり方を決定づける精神革命に必要な条件だと、私には思われます。

 

これも言ってみれば精神論のような気もするのですが、

 

彼の言うように、

「人権」という言葉を、人間という種のあいだの関係性にとどめず、

(もっと広く)生命体のなかでの人間の生きる権利として再定義すれば、

 

ひょっとしたら環境条例とか国と国との条約とか、

その条文が効力を発揮する範疇は少し変わるかもしれないですね。

約款のなかに環境への配慮が必ず盛り込まれるとか。

 

そして、

そうしたことを考え、実行に移せるのも、

道徳的な存在である我々人間の責務だろうと。

 

このあとに続く池澤さんや、

イランの映画監督であるアッバス・キアロスタミさんのコラムは、

私の脳みそが足りないのもあって、

正直、「???」だったのですが、

ストロース氏の「人権」の再定義については、

一理あるなと思いました。

 

■まとめ:

・グロい写真が多いので、苦手な人は見ないほうがよい。

・よくいえばリアル、わるくいえば(単なる)事象の詰め合わせ、コラムは抽象的な概論が多いので、少し違和感があった。

・しかし、臭いものに蓋をしていないリアルが詰まっているからこそ、愚から学ぶ正もあると思うので、(イヤじゃない限り)知っておいて損はない。

 

■カテゴリ:

写真集

 

■評価:

★★★☆☆

 

 

▽ペーパー本は、こちら

百年の愚行 ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY [普及版]

百年の愚行 ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY [普及版]

 

 

百年の愚行 ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY [オリジナル複写版]

百年の愚行 ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY [オリジナル複写版]

 

 

Kindle本は、いまのところ出ていません