ポケット詩集 ★★★★☆

たまには趣向を変えて、

今日は詩を読んでみました。

 
帯書きに惹かれつつも、
その言葉がまた詩っぽくて、
冒頭から頭を使いました。笑
 
昔の少年は詩をよく読んだものだ。それも、とびきり上等の詩ばかりを、だ。そしてよく考え、「足る」を知った。みんなへっぴり腰を恥じて涼しげな目の下に、素朴な正義感をひそかにかくしていた。子どもよ、そして子どもの心を持った大人たちよ、この時代にとびきり志の高い詩を読みなさい。
 
どうです、このポエムな引き!
 
どちらかというと私は、
ロマンチストではなく、現実主義者ですし、
 
自分の感性に特段自信があるわけでもないので、
詩は決して得意ではありません。
 
作者が何を言いたいのか、
ちんぷんかんぷんなことも多いです。
 
ただ、
詩というのは、
散文詩定型詩を問わず、
そもそもクイズ的な要素が多分にあって、
 
(帯書きにもあるように)
読み手はひたすらその解釈を考え、
きっと作者はこう言いたいに違いない
と納得することで、
ひとつの答えを得た気になって、
それが詩の醍醐味というものなのでしょう。
 
しかし、この一句はすごい。
みんなへっぴり腰を恥じて涼しげな目の下に、素朴な正義感をひそかに隠していた。
 
これぞ詩的な表現そのものです。
まさに、ちょっとしたクイズですね。
 
私の解釈では、
昔はみんな、
(格好つけているようで恥ずかしいから)
「俺、詩なんて読まねーし」と涼しい顔をしていたが、
実は純粋に詩に惹かれていて、
それをひたむきに隠していた
となりますが(あっているかどうかはわかりません…)、
 
これを【素朴な正義感】とたとえるのもすごい。
 
なぜそれが正義感なのか、
解き明かそうとするとめちゃくちゃ文字数がとられますが、
【素朴な正義感】という言葉だけで、
なんとなく伝わるのです。
 
言葉の魅力というか、感性に響く言葉というか。
 
解釈のクイズなんだけれど、
いちいち言葉に訳さなくても、
感性でなんとなく理解するもの、
それが詩なのかもしれません。
 
だとしたら、
学校のテストなんかで、
いちいち子供たちに解釈させないほうが良さそうですけどね。
 
また、
何をもって【上等な詩】と定義するのか定かではありませんが、
とりあえず、この詩集においては、
【志の高い詩】であることは間違いなさそうです。
 
では、
【志の高い詩】とはどんな詩なのか?
ということになりますが、
 
この詩集を読むかぎりで私が感じたのは、
 
・自分を律するもの
・愛や生命を貴ぶもの
 
の大きく二つあるのかなと思いました。
 
前者が自分を律すること、
後者が自分を取り巻く他人や世界に優しい眼差しを向けること。
 
平たく言うと、
自分に厳しく(ときにゆったり構えて)、他人に優しく
これが【志の高い】ということかもしれません。
 
昔、目にしたことのある詩もいくつかあって、
当時はよくわからなかったものが、
いまならなんとなくわかるものもありますし、
 
昔に出会っていたら、
当時のほうがもっと共感できていたものもあるかもしれません。
 
そういう意味で詩は、
そのときそのときの解釈や受け取り方が違うので、
その時々でクイズの体得度がアップしたり下がったり
という、時間を超えた面白さがあるかもしれません。
 
この「ポケット詩集」は、
ほかにも続刷で2冊刊行されているようです。
残りの2冊も是非読みたいです。
 
今回のベスト3を残しておきます。
 

◇ベスト1:石垣りん 「表札」

自分の住むところには

自分で表札を出すにかぎる。

 

自分の寝泊まりする場所に

他人がかけてくれる表札は

いつもろくなことはない。

 

病院へ入院したら

病室の名札には石垣りん様と

様がついた。

 

旅館に泊まっても

部屋の外に名前は出ないが

やがて焼場の鑵にはいると

とじた扉の上に

石垣りん殿と札が下がるだろう

そのとき私がこばめるか?

様も

殿も

付いてはいけない。

 

自分の住む所には

自分の手で表札をかけるに限る。

 

精神の在り場所も

ハタから表札をかけられてはならない

石垣りん

それでよい。

 

誰からも評されることのない、
れっきとした自分を持つべきであるという戒めのようにも、
ひとからどう思われようが自分は自分、
それでいいのだという慰めのようにも聞こえます。
 

◇ベスト2茨木のり子 「自分の感受性くらい」

ばさばさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
 
気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
 
苛立つのを
近親のせいにするな
なにもかも下手だったのはわたくし
 
初心消えかかるのを
 暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった
 
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
 
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
 
この詩集には、
茨木のり子さんの作品が、
このほかに「聴く力」「汲む」の2作がおさめられていますが、
どれもストイックというか、
まさに自分を律するような気があって、
読んでいるとなんだか背筋がピシッとなる感じです。
 

◇ベスト3:まど・みちお 「くまさん」

はるが きて
めが さめて
くまさん ぼんやり かんがえた
さいているのは たんぽぽだが
ええと ぼくは だれだっけ
 
はるが きて
めが さめて
くまさん ぼんやり かわに きた
みずに うつった いいかお みて
そうだ ぼくは くまだった
よかったな
 
まど・みちおさんは、
童謡の作詞も多く手掛けていますが、
この「くまさん」は、秀逸。
 
テンポもいいし、
冬眠から覚めた熊がしばらくぼーっとしているところが
よく伝わってくるし、
最後に自分が熊だということがわかって、
「よかったな」と!
 
何がよかったんだよ、コノヤロー?!
と突っ込みたくなるのですが、
 
有無をいわさず、
よかったねぇ~
と言ってしまうこの自然な流れ。
 
絶妙です。
 
最後の3位は、
吉野弘さんの「祝婚歌」と迷ったのですが、
ほのぼのとした「くまさん」にやられました。
 
吉野弘さんの「祝婚歌」は、
このあいだNHKで取り上げられていました。
 
 
わたしは、吉野さんのこの詩のなかで、
一番気になる言葉というか、
わかるようでわからない言葉があります。
 
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目をつかわず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい

 

この部分の、
「生きていることのなつかしさ」という言葉がそれなのですが、
 
「生きていることのなつかしさ」って、
はたして何だろう?
どんな心境なんだろう?
というのがわかるようでわかりません。
 
この歌の、とくにこの部分は、
まだ結婚数年目の未熟な夫婦にはわかるはずもなく、
先輩の吉野さんだからこそ言える「なつかしさ」なのかもしれないですね。
 
この言葉は出ないわー。
 

■まとめ:

・自分に厳しく、ときにゆったり構え、自分を取り囲む周りの世界には優しい眼差しを向けることを謳った、【志の高い詩】を集めたもの。
・日本を代表する現代詩人の名歌を厳選。昔、どこかで目にした詩も多く、あのときはよくわからなかったけど、いまならなんとなくわかる詩もある。
・しばらくしたら、また違うクイズが解けた気になるかもしれないので、また時間をおいて再読したい。
 

■カテゴリ:

詩・詩集
 

■評価:

★★★★☆
 
 

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