読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

慶應幼稚舎 ★★★★☆

私には子供がいないので、

正直、教育にはあまり興味はないのですが、

自身のまわりに幼稚舎出身の友人が何人かおり、

彼らのルーツを知るためにも、

ちょっと気になったので手にしてみました。

 

作者も言うとおり、

将来的に子供を幼稚舎に入れようかどうか検討しているご両親や、

幼稚舎に限らず、教育に奮闘している親御さんには、

この本はなかなか興味深いと思います。

 

とはいえ、

この私のように、

たいして小学受験や子供の教育に興味はないけれど、

慶應幼稚舎って、いったい何なの?

と思っている方にも、

それなりに面白いネタが提供されると思います。

 

一般的に、慶應幼稚舎と聞くと、

・小学受験の頂点

・おぼっちゃま、お嬢様が通うところ

・コネや献金による裏入学がある

・家柄も頭脳もよくないと入れない

などといったイメージがありますが、

 

本当のところはどうなのよ?

という疑問に、

この本は1つずつ答えてくれます。

 

著者の石井至(いたる)さんは、

東大医学部出身→外資金融会社→独立→金融コンサルタント・教育事業を展開

という

異色の経歴をお持ちの超エリート。

 

そもそも、

医学部を出てなぜ金融の道を進んだのかが「?」ですが、

金融の道から教育事業に踏み込んだのも、

ご自身の息子さんの小学受験がきっかけだったとか。

 

彼がお子さんのお受験を通して感じたのは、

あまりにもお受験ビジネスが前近代的で、

とてもお金がかかるわりに、

その価値が不透明すぎること。

 

キーワードとして、

「費用対効果が見えない」「(消費者は)業者の言いなり」など、

要するに彼の眼には

根拠のないビジネス

と映ったのかと思います。

 

理系出身でバリバリの外資

しかも金融業界におられた著者からすると、

このお受験ビジネスが、

野蛮なビジネス

に感じられたとしても、不思議ではありません。

 

いまから十数年前とはいえ、

半年で400万円もお受験対策にかけたというから、

恐るべしお受験ですね。笑

 

本は、全体的にとてもわかりやすかったです。

内容は、

幼稚舎の校風や、お受験の準備に必要なこと、

入試の内容、実際のお台所事情(学費や交際でいくらかかるか)、

源流となる福沢諭吉の教育思想ってそもそもどんなものなのか、

実際の学校生活(幼稚舎OBにインタビュー)、

幼稚舎生の進路ってどうなの?

という感じで、

お受験対策としても、おもしろい読み物としても、役立ちます。

 

印象に残った点を、箇条書きで残します。

 

・幼稚舎に子供を入学させたい親は、3タイプに分けられる。

 ①有名大学の付属校、しかも慶應というブランドが得られながらも、

  大学まで苦労せずに進学できることを最大のメリットと考えているタイプ。

 ②親が慶應出身で、子供も慶應に入れたい「慶應ファン」。

  幼稚舎がだめでも、中高大と根気強く慶應を受けさせることが多い。

 ③祖父母や親が幼稚舎出身で大学まで慶應という、代々の「慶應ファミリー」。

  大企業のオーナー社長や老舗の経営者という家庭が多い。

・現在の幼稚舎は、1学年で男児96人+女児48人=144人。

・6年間、クラス替えはなく、担任もずっと同じ。

 強い絆が得られるメリットがある一方で、担任やクラスが合わないと辛い。

 授業の裁量権は担任ひとりひとりにゆだねられていて、教師のレベルも高い。

・クラスは4クラスに分けられている。

 K組…慶應ファミリーが多いので、勉強はほどほどで楽しい学校生活を目指している

 E組…慶應ファミリーでも開業医でもない子。慶應ファンや普通の家の子など。

 I組…E組と同じ。

 O組…開業医の子供が多いため、教育は勉強に重点を置いている。

・幼稚舎の教育方針は、「先ず獣身を成して後人心を養え」「独立自尊」。

 まずは健康な体を鍛えてから勉強は二の次、個性を尊重。

 幼稚舎生の特徴をひとことであらわすならば、「空気の読めない子供」。

 「小学三年生で漢字検定○級、全員合格!」のような全体主義的な教育ではなく、

 児童一人一人の興味の方向と程度に応じて適切に指導がなされる。

・幼稚舎では6年間のあいだに1キロの遠泳を必ずマストにする。

・以前は慶應ファミリーが多かったが(多いときで7割くらい)、

 現在は普通の家の子も入れるようになっている。

・入学革命を起こしたのが金子郁容氏。99年に舎長に就任し、二期3年半を努める。

 従来の慶應ファミリーから、幅広く一般家庭の子どもに門戸を開放。

・コネ入学は全体の25%程度。

 一定のコネ枠があるとはいえ、そのなかで試験の成績が悪いと落ちる。

・倍率は例年15~17倍。男子はまだよいが、女子は20倍以上の最難関。

・幼少期の1か月の(成長の)違いは大きいので、幼稚舎受験では、

 生まれた月や性別によって試験内容をかえている。

 四月生まれの女子の試験が一番難しく、三月生まれの男子の試験が一番易しい。

・2011年に小中一貫の「第二の幼稚舎」が、東横線青葉台に開校計画されていたが、

 リーマンショック後の経営難で白紙撤回。

・幼稚舎入試の特徴は、行動観察とお絵かきだが、いずれも基本となるのが、

 「言語能力」と「コミュニケーション能力」。教師の指示を理解して行動すること、

 子供らしく楽しく取り組めること、自分の考えを発言・体現できること。

・幼稚舎の入学から卒業までにかかる費用(学費)は、6年間でざっと750万円。

 都内でもトップクラスの高さ。

・そのほかに、寄付金30万円・塾債30万円が(任意ではあるが)かかる。

・慶應の寄付金・塾債・卒業後の就職支援(慶應閥)は、諭吉のいう「社中協力」。

 困ったときは、身の内どうしで協力しあおう、という精神が根底にある。

・諭吉は最初から開国派で、交易を通じて海外の学問を取り入れないと、

 日本は欧米列強に食いつぶされると予想していた。

 幕府は一般的に開国派ととらえられがちだが、内実は攘夷派が多く、

 鎖国を続けたがる旧態依然とした人間の集まりだった。

・『学問のすすめ』の「天は人の上に人をつくらず人の下に人をつくらず」は、

 単に平等思想を説いているのではなく、

 生まれながらにして身分の差はあっても、学問においては身分の差は問われない、

 賢いかどうかは勉強したかどうかである、

 ということを言っている。

・給食は学費の中に含まれるが、年間9万円くらい。月7500円で、公立の倍くらい。

 ニューオータニが運営するカフェテリアで、低・中・高学年と時間をずらして

 採るシステムになっている。低学年はおかわりができない。

 栄養バランスがとれた給食で、ホテルのレストランレベルの食事が出される。

・幼稚舎内の経済格差は確かに存在する。一番特徴的なのは、「お誕生日会」。

 中でも保護者を悩ますのが「お誕生会のお返し」。

 現在ではお互いの誕生日に友達を呼び合うのを自粛し、

 開催しても一人千円程度のプレゼントを持ち寄り、全員でプレゼント交換する。

・幼稚舎出身者は、基本的に競争に慣れていないため、中高大・社会人…と

 ステージが進むにつれて競争社会でドロップアウトする人が多い。

 健康第一、個性第一の伸び伸びとした教育方針は非常に良いが、これからの社会、

 競争に負けない、強い人材に育てることも必要。

 「社中協力」の良い処だけ独り歩きして、幼稚舎が「ぬるま湯」化しないために、

 いまこそ、真に「独立自尊」を果たす人材を、世に輩出していくべきではないか。

 

私の友人は、

一人が裕福な家庭の子、一人がお医者さんの子ですが、

共通していえるのは、どこかやっぱり気品があることです。

・きっとお金持ちなんだろうけれど、まったく高慢ぶらないこと

・(成金のような)いやらしさがまったくないこと

・人に合わせるのも上手だけれど、自分というものをしっかりもっていること

 

猜疑心が強いわけでもなく、

かといって何でも信じるようなバカではないし、

集団に合わせることの大事さを知っているけれども、

自分は自分という一線もきちんと有しています。

 

たとえば私なんかは、

あまりブランド物などは好きなほうではありませんが、

それでも、ちょっといいものを持っていると、

さりげなく自慢げに身に着けるのに対して、

(※この時点で、実は「さりげなく」なんてことはないのですが…)

彼らは、本当にさりげなくという感じです。

 

決して自慢しようと思って着ているとか住まいによぶとかではなく、

普通の衣食住だと思ってやっている感じがするのです。

 

だから彼らに会うと、

私なんて本当にかなわないな、

と思ってしまいます。

 

ステレオタイプにカテゴライズするのもどうかと思いますが、

そんな彼らの一面一面が、

実は幼稚舎というルーツにあるのではないかと思ったりもするのです。

 

この本を読んでみて、なんとなく納得できたこともありました。

 

幼稚舎であまり格差社会を知らずにのびのびと育てられた感が、

その気品にあらわれているのでしょうし、

 

仲よくなる人とはとことん仲よくなる部分がありながら、

ある部分では非常に頑固だったりもします。笑

チームワークを大事にしながらも、個性は曲げない。

これは幼稚舎生ならではの特徴かもしれません。

 

前から思っていたのですが、

慶應は、早稲田と比べてスマートなイメージがありますが、

実はものすごく体育会的なカルチャーをもっているところだと思います。

和を尊び、目上の人をきちんと立てるように、わきまえているというか。

 

それが「社中協力」なのかもしれませんが、

著者は、こうも指摘しています。

 「社中協力」の理念に基づき、同級生・同窓生のネットワークも強靭だ。しかし、「社中協力」だけを重視しすぎてはいけないのではなかろうか。(中略)

 同級生・同窓生が仲よくすることは悪いことではない。だが、それに頼り切っているようでは、一人ひとりが独立した人間ではなくなってしまう。

 

要するに彼は、

いまの慶應は、「社中協力」が強くなりすぎて、

独立自尊」が失われているのではないか?

と警笛を鳴らしているわけです。

 

たしかに、

あれだけ門閥体制を嫌って、

勉強して自立するんだ!学問する人に身分の差は関係ないんだ!と説いた諭吉が、

いまの慶應閥の企業なんかを見たら、

なんて言うんでしょうね。笑

 

塾生たちが築き上げてきたのは、

あの福沢諭吉先生が最も毛嫌いしていた、

立派な派閥社会じゃないのか?

 

…と、

私なんかは思ってしまうわけです。

 

組織に埋もれれば(組織に依存しすぎたら)、

独立自尊」なんて、絵に描いた餅と一緒で。

 

これから社会にでる就活生も、採用する慶應OBも、

まずは自分のオリジナリティをきちんと担保したうえで、

うまく派閥をつかっていってほしいものです。

(だんだん、こうなってきていると思います)

 

じゃあ自分の友人はどうだろう?と照らし合してみたのですが、

結構ちゃんと自立していて、

ネットワークは依存するものではなく、

都合よく使うものだと認識しているので、

決して組織依存型の人間ではありません。

…安心しました。笑

 

あえて辛辣な表現をすると、

(私にとっては)読み物として面白いだけで、

特に人生で何か役にたつということはありませんでしたが、

最後に、ひとつだけ引用。

 

現在の加藤舎長は折に触れ、「自分が興味の持てることをひとつ見つけてほしい」と語っている。興味をもったものは上達する。上達すると自信をもつ。自信をもつということは他人に依存しないということであり、「独立自尊」の第一歩となる。逆にまわりに依存してしまうと、周囲の人の顔色をうかがうようになってしまうだろう。

自分の存在が尊いものであることを知れば、子供たちはまわりの意見に左右されず、自分の道を進むことができる。だから自分の足で立つことが大事なのだ。

 

この部分は、子どもだけでなく、

我々大人もたまに読んで、自らの行動を振り返りたいものです。

 

物事に興味がなくなると成長しなくなる、

というのはなんだか頷けます。

 

■まとめ:

・小学校のお受験ビジネスは、根拠のない値札が無作法に貼られている

慶應幼稚舎のうわさと真相にアプローチ

・チームワークを大事にしながらも個性を伸ばす教育方針はとてもよいが、競争社会にはついていけない

 

■カテゴリ

教育

 

■評価:

★★★★☆

 

▽ペーパー本は、こちら

慶應幼稚舎 (幻冬舎新書)

慶應幼稚舎 (幻冬舎新書)

 

 

Kindle本は、いまのところ出ていません