日本人が知らない「怖いビジネス」  ★★★★☆

はじめまして、

門倉 貴史(かどくら たかし)さん。

 

「ホンマでっか?!TV」で、おなじみの、

エコノミストの方です。

 

テレビでお見かけすることはありましたが、

著書を読んだのは初めてです。

 

はじめてのくせに、

このように言い切るのは、若干はばかられますが、

 

彼の本を読むと、

バラエティー番組やワイドショーに出演されるのがよくわかりました。

 

門倉さんの経歴は、

慶應の経済学部を卒業し、

シンクタンク勤務を経て、

新興国のグローバル経済を研究する「BRICs経済研究所」を立ち上げる

…という、

「超エリート」なエコノミストの方なのですが、

 

著書自体は、

一般ウケするような雑学的な話が多く、

研究者にありがちな、難解な文体でもないので、

 

私のような一般ピープルでも、

「へぇ!」とか「なるほど、そういうことか」という

驚きと納得が感じられやすいです。

 

テレビでお見受けするときの、

あのナヨナヨっとした「ひ弱」な感じもまた、

学者にありがちな高慢さがなく、

普通の人が親近感をおぼえやすいのではないでしょうか。

 

経歴や著書を見る限り、

彼自身のご専攻は、

おそらく世界経済(学)なのかと思いますが、

 

この

日本人が知らない「怖いビジネス」

も、

 

そのタイトルのとおり、

日本だけでなく世界各国にまたがる「怖いビジネス」について

解説されています。

 

あえて私がサブタイトルをつけても良いのなら、

本当にあった!世界のアングラビジネス

といった感じでしょうか。

 

「怖い」かどうかは、

正直、読む側が決めることであって、

 

タイトルのつけ方が、

「引き」(=売上)を狙った感が満載なのは、

(ちょっとうがった見方をすると)

「うーん…?」と否定的になりますが、

 

中身を読むと、

その知識の豊富さや、

どんなことが大衆ウケしやすいか?をよくわかっていて、

「うーん…やるな」とうなってしまいます。(笑)

 

印象に残った内容を、箇条書きで残しておきます。

 

・フランスには「Ultime Realife」という、誘拐サービスを提供する会社が実在し、アドベンチャーな「リアル誘拐」が体験できる。基本料金は11万ユーロで、突然誘拐されて監禁されるシステム。オプションで、脱走・ボートチェイス・ヘリコプターによる追跡などをオーダーすることも可能。顧客の大半は、大企業の役員。この会社は、誘拐サービスのほかに、「遺体安置所で一夜を過ごす」「生き埋めにする」などのサービスプランも提供している。

 

・メキシコでは近年、外国人旅行者や中産階級を狙った「短時間誘拐」がはびこっている。被害者を車に無理やり押し込んだりして一時的に拘束し、ATMでキャッシュを引き出させて解放するというもの。

 

北朝鮮の外交官は、経済的な理由から「在外公館」を民間にレンタルしたり、外交官の身分を利用して麻薬やたばこなどの密輸・密売をして、ポケットマネーを稼いでいる。ドイツ・ベルリンの北朝鮮大使館は、敷地内のビルの一部を民間に賃貸し、ホテルとして営業されているし、ポーランドワルシャワではテレビ局など16の民間企業に賃貸してリース料を得ている。

 

・アフリカでは、アフリカゾウの「象牙」の密猟・密売があとを絶たず、近年ではサイの角まで高値で取引されている。サイの角は、アジアで漢方薬の原料として使われている。シベリアの凍土に眠るマンモスの牙も、盗掘が相次いでいる。

 

タジキスタン出身で旧ソ連の軍人だったビクトル・ボウトは、現代の「死の商人」。軍での人脈をいかして、ウクライナなどから武器を仕入れ、アフリカなどの紛争地帯に売りさばいて、巨万の富を得る。

 

・アフリカのサッカー界では呪術ビジネスが浸透し、クラブ専属の呪術師もいる。勝敗

によって呪術師に巨額が支払われたり、逆に負けた場合には、暴行を受けることもある。

 

・世界の麻薬地帯として有名なのが、中南米東南アジアの「黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)」/中東・南アジアの「黄金の三日月地帯」。ゴールデントライアングルは、タイ・ラオスミャンマーメコン川沿いの山岳地帯。かつては、アヘンやヘロインの原料になる「ケシ」が栽培されていた。三日月地帯は、アフガニスタン・イラン・パキスタンを結ぶ一帯で、今でもケシが栽培され、武装勢力の資金源となっている。

 

・日本では、バイアグラの偽薬がネットで大量に出回っている。製薬大手4社の自社調査では、市場に出回っているED治療薬の過半数が偽物。その8割は中国製で、暴力団などが売りさばいている。

 

・アメリカでは女子学生と富裕層中高年者のマッチングサイトが存在する。表向きは、学費を援助するソーシャルファンディングだが、内実は愛人関係そのもの。富裕者中高年が「シュガーダディ―」と呼ばれるパトロン役、女子大生が「シュガーベイビー」とよばれる妾役。パトロン役が有閑マダムの逆パターンとして、「シュガーマミー」サイトも存在する。

 

・スイスでは、「男性側の需要がある限り、規制をいくら強化しても、売春産業はなくならない」という理由に基づいて売春を合法化しているが、売春婦が犯罪に巻き込まれるのを未然に防止したり、公共の場で料金交渉などがおこなわれるのを避けるため、「ドライブイン型簡易セックスボックス」の設営が計画されている。

 

・アメリカでは、金融機関が生きている人から生命保険(死亡保険)を買い取り、数千人くらいを単位にした証券化商品(死亡債)に仕立てて、投資ファンドとして投資家に販売されている。保険の加入者は、解約返戻金よりも多い金額を受け取ることができる一方で、死亡債を購入する投資家は死んだときの保険金を確実に得ることができる。死亡債の市場は年々拡大。

 

ルーマニアはサイバー犯罪の巣窟で、スパイウェアやウイルスをまき散らす発信源は、ルーマニアのネットカフェの場合が多い。ルーマニアは、旧チャウシェスク社会主義政権時代、IT発展に注力していたため、国民のITレベルが高い。政権崩壊後、経済が混迷して、失業者となった多くの若者がサイバー犯罪に手を染めるようになった。

 

・ネットオークションを使った闇取引も、近年、世界的に拡大している。盗品の換金目的のほか、人身売買も行われるケースがある。中国では生後まもない赤ちゃんが、英国では10歳の少女が、61歳の祖母をオークションに出品。自分の「処女」を売りに出すケースもあり、米国では実際に入札が殺到して、3億円を超える値段がついた。

 

・韓国では、女性が、生活苦から金銭目当てに「卵子」を売る闇売買が横行。不妊に悩む日本人などに斡旋するWebサイトも存在する。提供する卵子は、登録女性の年齢・身長・容貌・学歴などによって細かくランク分けされていて、不妊患者の要望を聞いたうえで、適合する卵子を選んで販売。

 

・日本では、多重債務者や自己破産者を養子縁組させて人生をリセットさせ、金融機関から新たに融資を引き出すことができるようにして、その不正に引き出させた融資から手数料を搾取する「リセット屋」ビジネスもある。

 

・香港は、アジア最大の所得格差地域。著しい経済発展の裏側で、年々、貧困層は増えており、「棺桶ホテル」といった貧困層向け賃貸住宅(非合法)が存在。その狭さは、カプセルホテルなみ。家賃は150ドル/月程度で格安だが、安全性・衛生面では劣悪。

 

上記はあくまで一例であって、

 

本書では、ほかにも、

ドラッグ・性風俗闇金融著作権貧困ビジネスなど、

あらゆる国の、あらゆる闇ビジネスについて紹介されています。

 

この本が出版されたのは2012年ですが、

 

たとえば、メキシコの短時間誘拐では、

つい最近、この事件がニュースで話題になりました。

エクアドルを新婚旅行中に襲撃される 夫は死亡、南アメリカに横行する「特急誘拐」とは何か?

 

また、アフリカゾウ象牙密猟問題では、

実際に密猟からゾウたちを守ろうと、

自分の知りあいの女性たちが奮闘しています。

アフリカゾウの涙 - tearsofelephants ページ!

 

ちょっと笑っちゃうような、

スイスの「ドライブイン型簡易セックスボックス」も、

昨年、ついに現実のものとなりました。

CNN.co.jp : ドライブイン式売春施設がスタート スイス

 

北朝鮮外交官の「在外公館」ビジネスではありませんが、

朝鮮総連本部ビル売却問題 - Wikipedia

も、何か「キナ臭い」、

大がかりなアングラビジネスを彷彿とさせます。

 

箇条書きには残していませんが、

つい最近ニュースにあがっていたこの件も、

<覚醒剤>知らぬ間に「密輸」 高齢の「運び屋」急増 関空 (毎日新聞) - Yahoo!ニュース

まさにこの本の中で指摘されていたことでした。

 

「へぇ!」「ほんと?」

なんて思いながらも、

結構、現実的に身近なものになっていたりして、

他人事ではないような気にもなってきました。

 

さすがに、国家的・政治的なものになると、

ドシロウトの自分が巻き込まれる感は薄いですが。(笑)

 

感銘を受けたとか、

すごく印象に残ったというわけではありませんが、

小さな驚きの連続

という意味では、

面白く読めた本でした。

 

その他によかったこととしては、

著者(門倉さん)が、

わりとニュートラルで現実的な意見を紹介したり、

ご自身で述べられていた

ところです。

 

たとえば、

卵子の闇売買」が横行する韓国

に関しては、

 

このような卵子の違法な売買をなくすには、卵子の提供者に合法的に報酬を支払う仕組みをつくったほうがいいと主張する専門家もいます。政府が管理するかたちで、卵子提供者への報酬を統一して支払うようにすれば、違法な売買はなくなるし、安全性も向上するという見方です。

 

という意見も紹介しています。

 

世の中には、 

セックス産業や、臓器や人の生死を取引することを、

やたら悪く言う人がいますが、

 

私はどちらかというと「アリ」と思っているほうで、

むやみに人を傷つけたり、

不合理な知識・環境のもとで取引されたり、

双方の合意が得られない一方的なものであったりすれば別ですが、

 

そうでなければ、

別に卵子を売ったり買ったりしようが、

そこに仲介業者が存在しようが、

売春サイトがあろうが、

別にいいんじゃないかと思っています。

 

「倫理にそぐわない」「人の道に反する」

とか言われるかもしれませんが、

 

需要と供給があって、

双方が合意のうえであれば、

必要悪というか、

そういったビジネスや行為があっても仕方ないわけで、

 

それを外野がどうこういうべきではないのではないか

と、思うのです。

 

そういった意味では、

この本は、

世間一般的に「怖い」(であろう)商売

を紹介しているにすぎず、

 

著者は、

それが(倫理的に)絶対にダメだとは言い切っていません。

 

普通の人がもつ感覚と同じように、

「常識的には悪いこと」という認識は多分にありますが。

 

また、

弱者を骨の髄までしゃぶる「貧困ビジネス

の章では、

 

世の中にはびこる貧困ビジネスをなくすために、

貧困ビジネスの氾濫を防ぐ「ベーシックインカム」構想

を紹介しています。

 

ここでは、

経済格差による貧困問題を根本的に解決するための仕組みや、

実際の財政・国民の税負担(額)をシミュレートしており、

具体的な解決策・展望を導きだしています。

 

よく貧困問題について、

とにかくその人道的な是非を問うような評論家や

その生き様を哲学的にとらえて提示するルポライターがいますが、

(たとえば、自分が好きな石井光太さんなども、その一人かなと思います)

 

それはそれで、

自分みたいなヘイヘイノウノウと生きている人間より、

よっぽど深く考えていると尊敬するのですが、

 

ただ問題提起するだけで、

現実的な解決策がなかったりもして、

 

じゃあ、どうすればいいの?

 

と、

思うことも正直あります。

 

自分でも答えは持っていないんじゃないか?

本人が考えるのが面倒だから、読者にゆだねているだけなのでは…?

とすら 思います。

そういう部分では、私は若干ルポライターを軽蔑しているかもしれません。

 

その点、

この本のなかでの門倉さんはアッパレでした。

 

さすがエコノミスト

現実的かつ具体的でした。

 

■まとめ:

・わかりやすい文体で、世界中のアングラビジネスを紹介している

・感銘を受けるとか、すごく印象に残るというわけではないが、驚きの多い本だった

ニュートラルな意見や、現実的・具体的な解決策も提示するところは良かった

 

■カテゴリ:

経済・経営

 

■評価:

★★★★☆

 

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