汝の名 ★★★★☆

明野照葉さん著

汝の名 (中公文庫)

を読み終えました。

 

評価は星4つです。

 

心が荒んでいるのか、

最近(最近も?)、

やたらドロドロして醜い・怖いミステリー的なものが読みたくて、

この小説にたどり着きました。

 

作者・明野照葉さんは、

初めて読む著者になるのですが、

この本の〔著者紹介〕をみると、

 

東京都生まれ。1998年、「雨女」で第三十七回オール讀物推理小説新人賞を受賞。2000年、『輪廻RINKAI』で第七回松本清張賞を受賞、一躍、注目を集める。ホラーやサスペンスタッチな作品を得意とし、「女の心理と狂気」を描いた独自の作風はファンを魅了してやまない。

 

とありました。

 

「女の心理と狂気」だって!

 

そうそう、

まさに、

そういうのが読みたかったわけです。

 

こういった類でほかに思いつくのは、

私としては、

桐野夏生さんや乃南アサさんになるのですが、

果たして明野さんに、

彼女たちに比肩する力はあるのか?!

 

──結果は、

「是」(マル)でした。

 

たしかに、

ドロドロの女の狂気だぜ!

 

他の作品も読んでみたくなりました。

 

▽内容:

若き会社社長の麻生陶子は、誰もが憧れる存在。だが、その美貌とは裏腹に、「完璧な人生」を手に入れるためには、恋も仕事も計算し尽くす女だ。そんな陶子には、彼女を崇拝し奴隷の如く仕える妹の久恵がいた。しかし、ある日から、二人の関係が狂い始め、驚愕の真実が明らかになっていく…。『女神』の著者が「女の心理と狂気」で描く現代サスペンスの傑作。

 

作者の明野照葉さんは、

1959年生まれの現在56歳。

 

この本を出したのが2007年なので、

今から8年前、

作者48歳のときの作品ということになります。

 

ちなみに、

明野照葉というお名前ですが、

「あきの しょうよう」ではなく、

「あきの てるは」と読むそうです。

 

やはりペンネームらしく、

本名は「田原 葉子」というようです。

 

大学卒業後、

一度は社会人も経験しているみたいで、

この本を読む限り、

たしかにOLやサラリーマン事情にも詳しい感じはしました。

 

話のつくりとしても、

書き方(文体?)としても、

非常に読みやすくて、

下手したら土日でさっと読めるくらいなんですが、

 

よくよく振り返ると、

もう少し肉付けしたほうがよかった点や、

最後のオチはちょっといただけないかも…

──という印象があり、

ここがマイナスポイントでした。

(あくまで個人的主観です)

 

詳細は後述しますが、

ここからはネタバレも含まれますので、

ご注意ください。

 

この物語を読んでいると、

最初は、

自立心・上昇志向が強い、

いわゆるキャリアウーマンの主人公(麻生陶子)が、

男をうまく頼りながら、

事業を成し遂げていく、

「やり手」の女社長の話なんだなと思います。

 

たしかにそうなんですが、

実はこの麻生陶子という人物、

本来はいわくつきの戸籍の持ち主で、

借金苦で首が回らなくなったところを、

その戸籍を綺麗にすることを条件に、

三上里矢子という女性が借り受けているわけです。

 

つまり、

三上里矢子が麻生陶子になりすましている。

(主人公=三上里矢子)

 

この三上里矢子という女性、

プロローグで出てきたとおり、

もとはしがないOLで、

劇団員の彼と同棲するも、

実態は彼女が彼を養っているも同然。

 

彼女は、

そんな自分に嫌気がさし、

ある日、

同棲中の自宅を飛び出してしまうのです。

 

そのときふと目にしたのが、

オシャレな高級マンションに、

颯爽と入っていく綺麗なキャリア・ウーマン。

 

自分の理想とする姿がそこにはあったのです。

 

もう男に搾取される生き方はまっぴら!

 

──そう決心した里矢子は、

ヒモ男やしょうもないOL人生にサヨナラし、

新たな生き方を模索しはじめます。

 

そんな彼女が最初にたどりついたのは、

ブランド品を売りさばくブランドショップの販売会社。

 

ここで里矢子は、

河島宏治という男に会います。

 

彼は、

ブランド品だけでなく、

不動産や金融業など幅広く事業を展開する、

成金のやり手野郎。

 

過去と決別し、

新たな人生を開拓していくにあたって、

彼女は三上里矢子という名前を捨て、

おそらく河島のツテで得た「麻生陶子」の戸籍を借り、

株式会社ETSという人材派遣会社を立ち上げ、

軌道に載せていきます。

 

このETSという会社がまた面白い!

 

人材派遣の一種なんですが、

一般的なホワイトカラー(あるいはブルーカラー)の派遣ではなく、

役者を派遣するというもの。

 

たとえば、

結婚式への参列や、

販売会場のサクラ、

孫や母親代わりなど。

 

この作品のなかでは、

ヘッドハンティングの演出をする役者が陶子によって雇われ、

さらには、

実体のないペーパーカンパニーの事務アシスタントまでもが配役され、

とある男性(伊庭久二)を転職させるというシナリオが展開されています。

 

けれどもこれ、

クライアント(依頼主)は

その男を辞めさせたい会社であり、

要は、

彼を解雇するために、

自ら転職させてしまおうというのが目的。

 

この演出を、

陶子の会社(ETS)がおこなっているわけです。

 

このビジネスモデルは面白い!

 

ETS、エクストラ・タレント・スタッフ──、陶子が抱えているスタッフの多くは、かつて舞台にあこがれていた人間、演劇をやっていた人間、芝居好きな人間、それに現在も演劇に携わっている人間たちが主だ。つまりETSが求めているタレント、才能とは、与えられた役柄をきちんと演じることができる能力のことだった。

おかしな人材派遣業だ。陶子自身そう思う。けれども、不思議なほど需要はある。

 

ネット社会のいまでこそ、

普通にありそうな話ですが、

8年前にこんなビジネスを思いついた作者の発想力がすごい。

 

「不思議なほど需要はある」って、

たしかに、

そうなんだろうなと思います。 

 

ただ、

彼女がどうやってETSを始めるに至ったのか?

については、

もう少し経緯を肉付けしたほうがよかったと思います。

 

そもそも陶子(=里矢子)自身、

昔から演劇に縁があったからという背景はわかるんですが、

そこからどう派生してこのビジネスモデルにたどり着いたのか?

という部分について、

もうちょっと説明があったほうがいい。

 

言わば、

主人公と「演出」というものを結びつける因縁みたいなものですかね。

 

これはラストの結末にも通じるところなので、

自分としては、

もう少しその布石にもなるような、

補足が欲しかったかなと思いました。

 

陶子のその事業を、

裏で河島が支援し、

そのがために彼女は、

肉体関係を拒みもせず、

ビジネスとして割り切ります。

 

一方でまた、

年下のデザイナー(伊藤恭平)とも「いい関係」を維持し、

自社WEBサイトの設計・運営に協力してもらうかわりに、

男女の付き合いを続ける。

 

陶子に言わせると、

これらは、

いいように男に搾取されるのではなく、

陶子もまた男を利用するというビジネスの一環。

 

そうやって三上里矢子は、

麻生陶子として生まれ変わり、

いつしか住まいや身につけるものも洗練され、

やり手の女社長として成功者の階段を着実に昇っていきます。

 

かつての「しがないOL」とは完全にオサラバ。

 

さて、

この三上里矢子には、

高校時代の友人(杉本久恵)がいて、

彼女は里矢子とは正反対の人物でした。

 

里矢子が、

派手で気が強く体型もスマートであるのに対し、

久恵は、

地味でネクラで幼児体型。

 

──まさに陽と陰の関係。

 

久恵はいつも里矢子に憧れていて、

それは東京に出てからも続いていました。

 

作品のなかで、

久恵は里矢子の「信奉者」という表現がされていましたが、

早い話が、

この時点ですでに彼女は、

里矢子の「ストーカー(予備軍)」でした。

 

地味でネクラな久恵も、

東京の勤務先でそれなりに恋をするのですが、

新しく入ってきた新卒女に男をとられてしまい、

あえなく失恋。

 

ただでさえ、

人への憧れや依存心が強い久恵。

 

失恋を機に、

いっきに人間不信に陥り、

精神的に病んでしまいます。

 

おそらくそんな彼女までも、

自身の新たな人生設計に、

陶子(里矢子)は利用できると思ったのでしょう。

 

精神的にひどく落ち込み、

働く意欲も失われた久恵を、

陶子は自分の妹役にして自宅に居候させ、

身の回りの世話をしてもらいます。

 

病気の妹がいるということで、

男からの誘いを上手くかわしたり、

何かと口実にすることができるからです。

 

ただ、

ここも少し言葉足らずかなと思いました。

 

具体的には、

里矢子と久恵が再会し、

同居するようになった経緯がイマイチよくわからないわけです。

 

前述のとおり、

里矢子が麻生陶子を名乗るようになった経緯や、

久恵がもともと高校時代から里矢子を信奉し、

上京してからもそれが続いていたという経緯は触れられていましたが、

 

彼女が失恋して立ち直れなくなってから、

どこでどんな経緯があって里矢子と共に暮らすようになり、

妹分として名乗ることになったのかについては、

特に言及されていませんでした。

 

三上里矢子が麻生陶子になって、

仕事だけでなくプライベートも演出であり、

結局すべてが演出でした、

でもその演出は崩れ……

以上おわり!

──みたいな話なのかなと思ったのですが、

 

最後まで読むと、

この流れはまんざらハズレでもないわけです。 

 

であれば、

演出の「出だし」のディテール部分も、

きちんと説明してほしかったかなと思います。

 

(ちょっとこれは、

細かい部分にとらわれすぎかもですが…)

 

まあ、

結果的に陶子は、

新しい男(壱岐亮介)に出会ったことで、

なんだかんだいいつつ自分は河島の手の上で転がされていること、

麻生陶子としての生き方が本来の自分ではないということに気づいてしまい、

自らを偽って生きることを辞めようと決心するのですが、

 

さて、

ここからが久恵の出番です!

 

強迫観念が強く、

依存体質の久恵は、

陶子が三上里矢子に戻っていくことが怖くなりました。

 

演出でもいい、

虚構でもいい。

 

久恵は、

いまの陶子との、

持ちつもたれつの関係を壊したくありません。

 

陶子が何人男を作ろうが、久恵はまったく気にならない。陶子を羨み、妬むこともない。そういう陶子が好きだからだ。久恵にはできないことをする女。ただし、愛する男を作られるのは嫌だった。男を愛するなどというのは、陶子のあり方ではない。陶子本来のあり方でないから嫌なのではなかった。相手の男に対する嫉妬だ。陶子の目がそちらに向けられることで、自分が見捨てられてしまうことが恐ろしい。もはや価値のないものとして放りだされ、陶子との生活が終わってしまうことが嘆かわしい。

 

その陶子が、

さんざん自分を利用し、

こき使ってきた彼女が、

男なんかに恋をして、

本来の里矢子に戻ろうとしている。

 

(裏切り者)

久恵はなかば吐き捨てるように心で呟いた。

(陶子ちゃんの裏切り者)

久恵は、何かに憑かれたような鬼気迫る面持ちをして、陽射しの下を歩き続けた。

 

──このあたりは、

完全にストーカーの心理を突いていますね。

 

愛と憎しみは紙一重。

 

相手への愛情(依存度)が深ければ深いほど、

いざそれが報われないときの怨みもまた深いわけで、

久恵の陶子に対する愛情は、

いっきに憎しみに変わったわけです。

 

そして彼女は、

持ち前の薬学に関する知識をつかって、

陶子を薬漬けにし、

これを軟禁するという行為に及びます。

 

このあたりの久恵の心理状態に関する、

作者の描写の上手いこと!

 

久恵には、自分が社会で人間扱いしてもらえなかったという思いがある。いつも過去を振り返っては、頬をわななかせて臍を噛んでいた。自分を疎んじ蔑ろにしてきた人や社会に対する彼女の恨みには、根深いものがある。自分自身を否定するか外側の人や社会を否定するか──、今の久恵は後者に傾いている。人を人とも思っていない。

 

この作者は、

人間や女性のどす黒い部分(真理)を、

エグイほど突いているのです。

 

先の久恵の豹変ぶりもそうなんですが、

久恵の陶子に対する「仕打ち」もそう。

 

毒殺は、女が使う殺害の手段──、俗説だ。偏見に満ちてもいる。少なくとも陶子はそう思っている。けれども、久恵を見ていると、あながちはずれていないという気もしてくる。女というのは非力で陰湿で、反面、恨みがましくて執念深いもの。そういう存在だった時代には、恐らく真実を突いた説だったろう。だが、今の女は違う。男も変わった。肉体を頼りに闘うことを放棄した男は薬を使い、自ら闘うことを覚えた女は薬に頼らない。そういうことからするならば、久恵は悪い意味で、昔ながらの女だった。正々堂々と闘う力がないから、姑息で卑怯な手段に出る。

 

先の陶子の会社における、

解雇のための演出というアコギな商売もそう。

 

生き残りのため、企業までもが自社の社員に、詐欺に近い芝居を仕かけてくる。道義も何もあったものではない。また、見栄のため、体面を繕うため、自分がいい気味を味わうため…人は思いの外惜しみなく金を使う。

 

非常に的を得ている表現が多いのです。

 

明野さんは、

こういった人間の欲深さ・どす黒さをよくわかっているし、

隠そうともしない。

 

さらには、

この小説を書くにあたり、

その究極にある精神病理や、

薬に対する知識なども、

おそらくそれなりに勉強されたのでしょう。

 

それは久恵という人物だけでなく、

麻生陶子という新しい生き方に固執する里矢子の描写をみても、

よくわかります。

 

自分自身の目的意識に従って生き生きと行動しているようでありながら、現実に見捨てられまいという思いから死に物狂いの努力をしているに過ぎず、相手に応じて演じ分けるのも、相手に見捨てられたくない、価値のないものとされたくないという心の奥底の思いから生じている。感情的には不安定この上なく、鬱と精神分裂の狭間にある……。

 

この表現↑なんかは、

まさにそう。

 

そして、

私なんぞは、

かつての自分にもこういった面が少なからずあったなぁと、

共感すらしてしまうのです。

 

解説で、

文芸評論家の吉野仁さんという方が、

次のように述べていました。

 

おそらく、読者の知り合いのなかにも、陶子や久恵とよく似た女性が一人や二人はいるだろう。かたや見栄っ張りでヒステリックで自己顕示欲が強い傲慢な女。かたや気が弱くて自分に自信が持てず何をやっても愚図な女。もしかすると、誰でも自分の人格の何パーセントかに、こうした側面を持ち合せているかもしれない。とりわけ女性読者は、陶子や久恵のどろどろした欲望や悪意を拒絶するばかりではなく、むしろいくらか共感を覚える部分も多いのではないだろうか。

 

いやいや、

ほんとその通りだと思います。

 

自分には、

陶子ほどの向上心・行動力はありませんし、

だからといって、

久恵ほどドンクサく陰湿でもない(と思う)。

 

でも、

陶子のような、

自分輝いてます!的な〔なんちゃって勘違い〕の生き方や

ときに病的なまでにヒステリックになるところは、

自分も持ち得ている(持ち得ていた)し、

 

どうせ自分はダメ人間、

でも待てよ、

そうなったのは自分が悪いんじゃなくて、

まわりが悪い、

きっとそうだ、

いやそうに違いない!

──といった久恵のような考え方も、

ゼロかといったらそんなことはない。

 

ともに、

「わかるわ~」と思えるのです。

 

小説の面白さというのは、

新しい世界観とかストーリーの意外性とか、

いろいろ評価ポイントはありますが、

なんだかんだいって、

どれだけ共感できるかによるところは大きいと思います。

 

そういった意味では、

明野さんの作品は、

人間(とくに女性)の真理を突いており、

非常に共感ができて面白かったです。

 

最後は、

軟禁状態から辛うじて脱出した陶子が、

久恵に向けて「お馬鹿さん」という言葉を残し、

無事に久恵のもとを去るわけですが、

 

そんな久恵にもまたようやく春が来て、

新しく男ができ、

ついに結婚か?!と、

人並みの幸せをとり戻していきます。

 

そんななか、

いつしか陶子に対する懺悔の気持ちも芽生え、

実際に陶子に出くわし、

謝罪の言葉も口にするのですが、

 

最後の最後、

この新たな幸せこそ、

陶子が仕組んだ演出だったことに気付かされます。

 

つまり、

長い月日をかけて、

陶子は復讐のために、

久恵に新しい恋人(婚約者)を送り込み、

偽装恋愛を演出したわけです。

 

この真相を知って、

愕然となる久恵。

 

そして物語は、

次のように幕を閉じます。

 

頬にはまだひきつりがあった。しかし、久恵は、しっかりと自分の足で立っていた。

(待っててね、陶子ちゃん。今度は私の番だからね──)

暗いなかにも、久恵の瞳に確かな光が宿っていた。

 

このラストの結末は、

言ってみれば「大どんでん返し」だと思います。

 

衝撃の結末──。

 

なんだけれども、

自分は何かいまひとつ、

納得がいかない。

 

なんでだろう?と思ったときに、

 

「演出」の世界から離れ、

本来の自分に戻った・戻ろうとしたはずの里矢子が、

 

結局、

ここでも「演出」を武器に、

久恵を陥れたわけです。

 

それくらい里矢子と「演出」というのは、

切っても切り離せない関係にあったというのが

作者が読者に印象付けたかったところなのでしょうが、

 

自分としては、

話の流れに逆行しているというか、

「あれ?」と矛盾を感じてしまう。

 

本来の自分(里矢子)に戻るんだ!

と決心し、

(もう少しよ。里矢子、本当にもう少しの辛抱よ。)

と自分に言い聞かせ、

久恵という魔の手から逃れた里矢子(陶子)でしたが、

 

(見ていなさいよ。あんたみたいな薄のろに、いつまでもいいようにされて堪るもんですか。久恵、この借りは、きっちり返させてもらうからね)

と復讐を誓います。

 

この部分こそ、

衝撃のラストに通ずる伏線そのものと言ってよいかと思いますが、

 

本来の自分に戻る流れを描きながら、

結局はまた虚構をつくりだしている。

 

そこになんだか矛盾を感じてしまい、

だからこそ、

このオチに納得がいかなかったし、

もっと里矢子と「演出」の因縁深さなり

ETSという事業の創設との関連性なりを、

作者は印象づけるべきだったんじゃないかと思います。

 

まあでも、

そもそも狡猾であれなんであれ、

虚構や演出を駆使することもまた、

麻生陶子ならぬ、

本来の三上里矢子の生き方であり、

そういうことに闘志が湧いてナンボ、

生き甲斐を感じてナンボなのが里矢子なんだとしたら、

それもまた本来の自分であって、

なんら矛盾はしていませんね。

 

持って生まれた性格はどれほどその欠点に自己嫌悪し、自覚して直そうとしても容易には変わらない。表面だけ別の顔を取り繕っても、性格はそのままだ。なにしろ理性ではどうしようもできない、すなわち「業」の部分が支配しているのだから。

 

解説者のこの一文に、

自分は最初、

「?」が3つくらい頭に並んだのですが、

 

上記のように考えると、

これこそまた、

「的を得ている」と思わずにはいられませんでした。

 

ということで、

今回は巻末の解説がとても参考になりました!

 

 ※以下は、登場人物です(備忘録)

 

・麻生陶子(三上里矢子):

もとは建設会社に勤めるしがないOL。交際相手でヒモの瀬永耕に愛想がつき、人生をやり直すべく、麻生陶子として生きはじめる。株式会社ETS(エキストラ・タレント・スタッフ)の女社長として、一人で会社を切り盛りする。

 

・瀬永耕:

劇団「類」に所属する役者。役者として一向にうだつがあがらず、里矢子と同棲するも、ヒモ状態に。

 

・河島宏治:

陶子(里矢子)の会社の出資者であり、事業パートナー。事業資金の融資、業務上の提携など、陶子を支援しつつ、体の関係も。自身は、貿易商・金融業など、ヤクザじみた事業を幅広く展開。

 

・伊藤恭平:

グラフィックデザイナーとして、陶子の会社のウェブデザインを手掛けるも、陶子との肉体関係から無料に。陶子にとっては、いわば、年下の「使える」セフレ。

 

・伊庭久二:

もとは、に勤めていた総務課長。ヘッドハンティングによって、新たな転職先(オメガ・トレーディング)を勧められ、退職してしまうが、実態は解雇であり、すべては陶子の会社(ETS)に雇われたキャストらによる演出だった。

 

・杉本久恵:

陶子(里矢子)の高校時代の同級生。昔から陶子の信奉者であり、陶子の妹役として神宮前の陶子宅に同居・居候し、陶子の身の回りの世話をする。山梨から上京し、光耀製薬にアシスタントとして勤めていたが、西島との失恋を機に、陶子のもとに入り浸るように。

 

・西島昂一:

光耀製薬の研究員で、久恵の元彼だったが、山口添水に乗り換え、久恵を捨てる。

 

・山口添水(そえみ):

光耀製薬に新卒入社で入ってきた研究員。西島と結婚。

 

・松谷継子:

久恵の元のアパート(若草コーポ)の近くに住む、一人暮らしの老女。具合が悪くなったときに、たまたま久恵が通りかかり、介抱したことがきっかけとなって久恵と親しくなるも、久恵によって気付かないうちにお金を吸い上げられるように。

 

・野地菊男/春川好子/中村カツ子/須藤那賀子/伊丹豊子:

若草コーポのある千駄ヶ谷近辺に住む独居老人。同じく、久恵のカモ。野地は保険に加入し、解約金を久恵に搾取される。春川や中村もまた、預金管理を任せるうちに、久恵にお金を抜き取られる。伊丹は認知症をいいことに、久恵の最も都合のよいカモに。

 

・麻生科子(麻生陶子):

(戸籍上の本人である)麻生陶子の実の妹。借金苦で三上里矢子に戸籍を貸し、自身は、消息不明の妹(科子)の名前と戸籍を使う。薬物依存症になり、麻生陶子と偽って、その戸籍を利用する里矢子に金をせびるも、池袋のアパートで変死。実は久恵が薬を盛って殺害。

 

壱岐亮介:

ゴルゴン・カフェのオーナーで、クラウンホテルグループの御曹司。陶子(里矢子)が本気で恋におちた相手。

 

今井宏幸:

久恵が新たに勤める新宿の不動産会社に客としてやってきた男。大手広告代理店勤務。久恵の4つ年下だったが、久恵と付き合い、同棲するように。

 

 


■まとめ:

・人間(とくに女性)のドス黒さ(真理)をエグイほど突いており、非常に共感ができて面白かった。他の作品も、是非読んでみたいと思った。

・話のつくりや文体も非常に読みやすくてよかったが、里矢子と「演出」の因縁や、里矢子と久恵が同居に至る経緯など、もう少し具体的に肉付けしたほうがよかった点もあった。

・最後はいわゆる「どんでん返し」で、衝撃のラストだったが、自分はちょっと矛盾を感じてしまった。でも、巻末の解説を読んで納得。

 

■カテゴリー:

ミステリー

 

 

■評価:

★★★★☆

 


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真田太平記(5) ★★★★★

池波正太郎さん

真田太平記(五)秀頼誕生 (新潮文庫)

を読み終えました。

 

評価は、星5つです。

 

第四巻は、

豊臣の天下はもはや長くはないとみた甲賀の忍者(山中俊房)が、

これからまた一戦起こるのではないかとにらみ、

自分たちの諜報活動が重宝されるであろうと予測。

 

そんななか、

密かに台頭してきている間諜組織があります。

 

そう、

それは真田の「草の者」

 

天下人・秀吉の旗下にいて、

豊臣に忠誠を誓う真田昌幸の抱える忍者組織です。

 

彼らの存在は、

甲賀の忍者にとって、

もはや油断なりません。

 

その甲賀に、

忍び込んだ草の者・お江。

 

本当はそれをうまく逃がしつつも、

彼らが西に配備する諜報網やその拠点(忍びの宿)を突き止め、

いざというときにそなえようと考えていた山中俊房ですが、

まんまとお江を見失ってしまう。

 

こうなったらもう用はない。

見つけたら殺せ!

部下の忍者たちにこう命じて、

第四巻は幕を閉じます。

 

そして第五巻。

 

物語は、

相変わらずトチ狂ったままの秀吉が、

相変わらず壮大な野望を抱えたまま、

朝鮮半島ひいては中国(明)を征服せんと、

むやみに戦線を引き延ばしているところから始まります。

 

すでに朝鮮入りし、

現地で戦っている武将たち(小西行長)と、

現地を知らない、

知っていてもタイムラグがありすぎて、

もはや正確な戦況を把握しているとはいえない総大将・秀吉。

 

その指揮内容はあまりに現実離れしすぎているし、

そうなると現地も正しい状況を伝えにくくなって、

現場と司令塔の距離は広まる一方。

 

そして、

名護屋(佐賀)に布陣・逗留し、

戦況を見守るその他の諸将たちの間にも、

明らかに勝てるわけがないこの戦いに、

(口にこそ出せないけれども)

すでに厭戦ムードが広まっていました。

 

まぁ、

みんなはじめから乗り気ではなかったんですけどね。

 

だって、

発端が、

どう考えても秀吉の非現実的な野望でしかなかったわけだから。

 

朝鮮はやっぱりだめ、

秀吉自身も心身がそろそろやばそうだし、

もう長くはもたないんじゃないか、

でも次の秀次は全然使えない。

 

そもそも、

人の上に立つような器じゃないし、

およそ天下人とは言いがたい凡才。

 

加藤清正福島正則といった、

豊臣家を支える股肱の臣がいないわけではないけれど、

それにしたって人材の層に厚みがないし、

当の本人(秀次)には人望もない。

 

──となると、

次はいよいよ家康か?!

 

名護屋に兵を率いて集結する武将陣たちのあいだでも、

次の天下を案じて、

心の中はもはや朝鮮遠征どころじゃないわけです。

 

朝鮮出兵のモヤモヤ感と、

次なる天下を予感するザワザワ感が入り混じった、

1593年。

 

第五巻は、

その年からスタートします。

 

▽内容:

肉親を次々と失い朝鮮出兵もうまくゆかず、豊臣秀吉は日に日に生気を失っていく。秀吉歿後をにらんで諸雄は動き始めるが、思いがけず秀頼が誕生したことで天下の行方は混沌となる。いったんは次の天下の主は徳川家康をおいて外にないと確信した真田昌幸であったが、「好きな男」秀吉の世継ぎに己れの命運を賭けようとして、徳川方から嫁をもらった長男・信幸との関係が微妙になる。

 

この巻の目玉は、

巻タイトルにあるとおり、

豊臣Jr.秀頼の誕生です。

 

世継ぎが産まれたことで、

秀吉のアタマは、

朝鮮から国内に切り替えられ、

またまた、

馬鹿みたいな城が再び出来上がります。

 

これが伏見城

 

大坂城・京都聚楽台に次ぐ、

秀吉の栄華極める虚栄の塊。

 

そして、

ようやく明や朝鮮との講和が成立かと思いきや、

明の国書に憤慨した秀吉は、

再び出兵を決意(慶長の役)。

 

諸将からすれば、

伏見城の築城・修繕で大きな犠牲を強いられたうえに、

また戦争かよ?!(涙)って感じですかね。

 

一方で、

内政においては、

秀頼が産まれたことで、

秀吉と秀次の関係が悪化し、

ついに秀吉は秀次を高野山に追放、

彼の血をひいた妻子を全員殺してしまう。

 

こうなると、

もう秀吉は秀頼のことしか眼中にないわけで、

あとはどうやって秀頼を守っていくかにかかっているわけですが、

時すでに遅し。

 

もっと若いときに産まれていればよかったんですが、

まさかの60手前で出来てしまったがために、

愛息の後見層を固めるのが遅かった。

 

前田利家石田三成を頼みとして、

秀吉は息を引きとります。

 

ここから、

前田利家石田三成(大坂)と伏見(徳川家康)が対立するように。

 

それに加えて、

奉行を中心とする文治派(石田光成)と、

武将を中心とする武断派福島正則加藤清正)も、

反目します。

 

武断派は利家と家康を擁立すべく、

両者を和解させようと奔走します。

 

もともと利家がすでに病苦の身にあり、

死が迫っていたこともあって、

家康はすんなりとこの和解を受け入れ、

武断派のよき理解者としての地位を得ることになるのです。

 

前田利家の死後、 

強力な盾を得た武断派は、

豊臣秀頼の名のもと、

政権運営を意のままに操る石田光成を、

今こそ討たんと立ち上がります。

 

一方でまた、

彼を窮地から救おうとする勢力も。

 

彼らのおかげで、

一命の危機を回避した三成は、

故郷・佐和山(近江)に引退し、

あらためて自領の治政に注ぐ一方、

 

次の政権運営者は、

実質上、

ついに家康に移り、

家康は旧・三成派を弾劾していったりもする…。

 

もはや、

関ヶ原の合戦は目前に迫る?!

 

第五巻は、

そんな文禄の役(2年目)の1593年~三成・佐和山引退までの1599年までが

描かれています。

 

前巻(第四巻)が、

甲賀忍びvs真田忍びの忍者対決がメインだったので、

自分的にはちょっと飽きたところもあったのですが

 

今度の巻は、

秀頼の誕生と秀次の死、

秀吉の死と利家の死、

三成の引退と家康の台頭…などなど、

この期におよんでまた、

天下を率いる権力の座がめまぐるしく動いていくのです。

 

そこが見ものかな。

 

次が気になります!

 

※第一巻のレビューはこちら

※第二巻のレビューはこちら

※第三巻のレビューはこちら

※第四巻のレビューはこちら

 

 

【登場人物】

李如松(りじょしょう):

日本の朝鮮出兵で朝鮮が危機に陥った際、明に来援を求めたため、明から軍隊が派遣される。李如松は、そのときの将軍。

 

小西行長

秀吉旗下の武将。朝鮮出兵では、内地に進軍し、参謀本部として総大将をつとめる。石田光成と総司令官を努める。主戦論者の加藤清正と対立。

 

大谷吉継

秀吉の側近の一人。越前・敦賀城主。真田幸村の岳父で、於利世の父。朝鮮出兵においては、船奉行を担当。石田光成と親しく、前田利家の死に際で暗殺計画が履行されたとき、三成を救出すべく奔走。

 

石田三成

秀吉の側近で、五奉行の一人。朝鮮出兵では船奉行を務めるとともに、現地に赴いて小西行長参謀本部を荷う。近江・佐和山城主に抜擢され、要衝の地をおさえる。頭脳派でスマートな顔立ち。秀吉の死後、豊臣政権の運営をめぐって、武断派と対立。前田利家の死に際に、暗殺されかける。大谷吉継や真田家、宇喜多秀家上杉景勝・佐竹義宣らの援護を受けて、一時、家康のもとに庇護され、佐和山に退く。

※「五奉行」は、ほかに浅野長政増田長盛前田玄以長束正家

 

島左近勝猛(かつたけ):

石田光成の寵臣。三成が佐和山城を修築すると、琵琶湖の湖岸に屋敷を構える。前田屋敷で三成の身に危機が迫っていたとき、大谷吉継の密書を受け救出に向かおうとしたが、三成の父・石田正継によって制止される。

 

・石田正継:

石田光成の父。伏見にある三成に代わって、佐和山の治政を代行。

 

・石田正澄:

石田光成の兄。弟(三成)の台頭により、秀吉に引き立てられ、出世。三成よりさらに官僚よりで、戦闘経験はなく、三成には頭があがらない。前田利家の死に際に、三成の危機を知らせる密書を受け取り(大谷吉継→壺谷又五郎)、前田屋敷に滞在する三成にこれを告知。三成にすり替わって、三成を前田屋敷から逃がし、自身(備前島)の邸宅に移送。

 

・宇多河内守頼重:

石田光成の義弟。三成の父(正継)が、養子に入れる。真田昌幸と故・お徳の娘である於菊と婚姻。三成が真田家に働きかけ、秀吉の口添えもあって、成立。

 

小早川隆景黒田長政立花宗茂

いずれも朝鮮出兵で進軍した武将たち。開城に駐屯。黒田長政は、黒田如水(勘兵衛)の息子。

 

黒田如水/河野長吉:

朝鮮出兵の折の、秀吉から現地戦場への伝達指令官。

 

・暮松新九郎:

能楽師名護屋にて秀吉に能の稽古を師事。

 

豊臣秀次

秀吉の姉方の甥。秀吉が世継ぎに恵まれなかったため、後継者に指名される。二代関白で京都・聚楽第の主。政治家としての才覚に欠け、武人としての経歴も浅く、人望も今ひとつだった。伏見城着工の総責任者。拾丸(秀頼)誕生後、地位を揺るがされることを恐れて自暴自棄になり、秀吉の命で高野山に追放されて自殺。寵臣や妻子も京都で首をはねられ、秀次の血を根絶。

 

・三好吉房:

秀次の実父。秀次の乱行を制さず、秀吉の怒りをかい、四国に追放される。

 

・一の台:

豊臣秀次の正室で、今出川晴季の娘。殺生関白事件で、秀吉により、京都で首をはねられる。

 

今出川晴季(菊亭晴季):

真田昌幸の正妻・山手殿と、その妹・久野の父親で、公家。また、一の台(秀次の正室)の父でもある。永らく、右大臣として天皇の側近に仕え、秀吉に接近して朝廷と秀吉の間をとりもってきたが、殺生関白事件で、一時、越後に追放される。

 

豊臣秀勝

秀次の弟、同じく秀吉にとっては甥にあたる。朝鮮出兵に随行するも、陣中で病死。

 

豊臣秀長

秀吉の異父弟。賤ヶ岳の戦い(vs柴田勝家)や、四国平定(vs長宗我部元親)に参加・貢献し、秀吉の天下統一を陰で支え、秀吉から厚く信頼されていたが、小田原攻めののち、病死。

 

前田利家

豊臣政権における5大老の一人。加賀の大納言。もともとは、信長に仕えていた小姓。秀頼の後見人として秀吉から信任されていたが、秀吉の没後、家康と反目するように。加藤清正細川忠興の説得により、病を抱えながら、死を目前にして家康と和解。

※「五大老」は、ほかに徳川家康宇喜多秀家上杉景勝毛利輝元

 

・松子:

前田利家の正妻。

 

・前田利長/利政:

前田利家の長男と次男。父・利家に続き、秀吉が末期のころ、秀頼のために、前田一族の威勢を増大させるべく、大きな権限が与えられる。

 

加藤清正

秀吉の子飼いの大名で、肥後・熊本城主。秀吉とは遠戚にあり、早くから秀吉に仕える。朝鮮出兵で二人の皇子をとらえるなどの戦果を挙げるも、明と朝鮮側の内部分裂策により、あらぬ疑いをかけられ、秀吉から内地に呼び戻され、謹慎処分を受ける。第五巻では、慶長の大地震の際に、死を覚悟で秀吉のもとにかけつけるも、秀吉に大目玉をくらうが、真田幸村がこれをとりもったり、前田利家から家康へ頼み込んで、秀吉の勘気が解かれる。慶長の役で再び朝鮮に出兵し、蔚山に籠城して大苦戦を強いられる。

 

・飯田覚兵衛/森本儀太夫:

ともに加藤清正の家臣。飯田覚兵衛は、清正の母・伊都(いと)に関する慈愛話(清正を妊娠していたころ、老婆を助けるために火事の家に飛び込んだこと)を、のちに真田昌幸に話した人物。

 

鍋島直茂

肥前・佐賀城主。加藤清正とともに、文禄の役で朝鮮の二皇子を捕える。慶長の役にあたり、小西行長より先に出兵することを清正に進言、自身も息子の勝茂とともに竹島城へ入城。

 

藤堂高虎

秀吉末期および秀吉の死の直後、家康が西にある間、一時は自身の大坂屋敷を提供。

 

福島正則(市松):

秀吉の子飼いの大名。出世して、かつて織田信長が居城としていた清州城の城主に任ぜられる。

 

・高橋長右衛門:

福島正則の家来。石田光成の父(正継)に恩を受けた過去があったため、武断派福島正則加藤清正黒田長政・浅野幸長・池田輝政)の間で決行が決まっていた三成の暗殺計画を、石田家に密告。

 

・淀の方(淀殿淀君):

秀吉の側室で、信長の姪。亡き鶴松・秀頼の母。浅井長政お市の方(信長の妹)のあいだに産まれた三人娘の末っ子で、柴田勝家お市の方が再婚し、賤ヶ岳の戦いで自殺すると、秀吉がこの三人娘を保護し、淀の方を側室に据える。お市の方(かなりの美貌の持ち主)に似て美人といわれた。秀吉から山城の淀城を与えられ、ここに居住したことから、「淀殿」に。

 

・鶴松:

秀吉と淀の方との間に産まれた第一子。わずか三歳で夭折。

 

万福丸

浅井長政お市の方(信長の妹)の間に産まれた長男。浅井長政が義兄・信長を裏切って越前・朝倉と同盟、信長軍に追い詰められた際に、辛うじて小谷城を脱出するも捕えられ、わずか5歳で串刺しの刑に処せられる。

 

北政所(寧々):

秀吉の正室。子供には恵まれなかったが、永らく秀吉の寵愛を受ける。

 

・三上与三郎季直:

秀吉の侍臣。もともとは足利幕府の管領・佐々木義賢(よしかた)に仕えていたが、温厚篤実で秀吉に気に入られ、名護屋では船奉行の一人に加えられる。名護屋の道化遊(園遊会)にも参加。

 

・楊方亨(ようほうこう)/沈惟敬(しん いけい):

ともに明の使者。文禄の役の際の、講和特使(正使と副使)。大阪城で秀吉に謁見するも、明の国書に憤慨した秀吉によって即日退去。楊方亨は、偽造の文書を作成して、これを明国王に報告したが、慶長の役の勃発で講和が不成立だったことが発覚すると、その罪を沈惟敬になすりつける。

 

豊臣秀頼

秀吉と側室・淀殿(茶々)の第二子。幼名は、「捨て子を拾って育てると、すこやかに育つ」という迷信から、「拾丸(ひろいまる)」と命名された。秀吉58歳(57歳?)のときの子。秀吉存命中に、徳川秀忠(家康の後継者)の娘・千姫と婚約。

 

・松浦重政:

秀吉の馬廻りをつとめ、朝鮮出兵では軍馬の徴発などを担当。秀頼誕生の際は、秀吉の指示で、秀頼を抱いて大阪城外へ出向き、いったん土の上にすててから拾い上げ、城内へ戻る。

 

・小松殿:

徳川から沼田城主・真田伊豆守信幸のもとに嫁いだ正妻。本多忠勝の娘で、家康の養女。まあ姫と孫六郎、内記を産む。

 

前田玄以

もともとは織田信忠(信長の長男)に仕えていたが、のちに、秀吉の信頼をうけ、京都奉行から丹波亀山城主に任ぜられる。五奉行の一人。

 

織田有楽斎織田長益):

故・織田信長の弟。秀吉の御伽衆の一人。千利休亡き後、秀吉のもとで茶道を司る。

 

・真田左衛門佐幸村:

真田昌幸の次男で、信幸の弟。第5巻では、秀吉の推薦で、従五位・左衛門佐(さえもんのすけ)という官位に叙せられ、出世。伏見城着工の際は、妻・於利世を伴い、大坂に着任。秀吉の死後、妻子を人質として大坂に残し、上田に帰任。

 

・於利世(おりよ):

大谷吉継の娘で、真田幸村の正妻。幸村にはほかに、二人の側室がいた。 

 

・於喜久/おいち:

真田幸村の娘。於喜久は、側室・りく(家来の堀田作兵衛の娘)との間の子、おいちは、正妻・於利世との間の子。

 

・お江:

真田の忍びの者。第五巻では、命からがら甲賀から逃げのび、京都・下久我の忍びの宿で養生したのち、壺谷又五郎と上田に向かい、引き続き、静養。その後、再び西へ赴き、活動を再開。鞍掛八郎とともに、岐阜・笠神の忍び小屋を拠点をまもる。

 

・鞍掛八郎:
砥石の居館に詰めている草の者の一人。16年前、真田幸村とともに、懐妊中のお徳を、樋口角兵衛や山手殿の密命を受けた山田弥助から守る。第五巻でも、真田本家から沼田の分家(信幸)のもとに密かに出奔する樋口角兵衛を壺谷又五郎とともに捕え、上田に戻す。のち、お江とともに、岐阜・笠神の忍び小屋を拠点とする。

 

・壺谷又五郎

真田家の間諜組織の筆頭。お江や姉山甚八などの「草の者」の総司令官に当たる。第五巻では、お江を上田に移送したり、近江・長曾根から京都・下久我へ向かう途中で地震被災したり、樋口角兵衛の身よりを真田本家から分家(信幸)にかえたり、佐助を一人前の草の者にすべく家元から実地(下久我・長曾根)に送ったり、岐阜(笠神)に忍び宿を新設したりと奔走。

 

・池ノ脇藤左:

馬杉市蔵・田子庄左衛門などとともに、甲賀から武田信玄のもとに派遣された甲賀忍びの一人で、その後、山中俊房の命で甲賀に戻る。以後、杉坂重五郎の配下で働いていたが、老齢になり、琵琶湖の近くの忍びの拠点で見張りを続ける。下久我へ向かう又五郎とお江を見つけ、山中俊房に報告。

 

・佐久間峰蔵:

もと武田家の鉄砲足軽で、又五郎の幼馴染。武田家(勝頼)の滅亡間際に、足軽から百姓となって近江・長曾根の村落に婿入り。偶然、再会した壺谷又五郎の頼みもあり、長曾根・笠神の忍び宿の新設に協力。

 

・奥村弥五兵衛

壺谷又五郎配下の真田の忍びの者。第5巻では、新しく設営した近江・長曾根の忍びの宿に滞留し、諜報活動を行う。

 

・山中内匠長俊:

秀吉の御伽衆(側近)の一人で、間諜組織の頭領。山中俊房の又従兄で、甲賀出身。後年の秀吉の朝鮮出征や統治に失望し、山中俊房からの誘いもあって、秀吉に見切りをつける。

 

・山中大和守俊房:

甲賀の豪族で家康の間諜組織を束ねるトップ。山中長俊の又従兄。長俊に密使を送り、秀吉との手切れを提言。家康の老臣・本多正信に直属。

 

・猫田与助:

父・猫田与兵衛をお江の父・馬杉市蔵に殺され、本人もお江と因縁のある、宿敵の仲。山中俊房に仕える。第五巻では、甲賀で取り逃がしたお江を再び発見し、近江から京都へ出るところで仕留めようとするが、折しも、慶長の大地震で機を逃す。

 

・杉坂重吾郎:

山中俊房に仕える忍びの者。田子庄左衛門を仕留め、お江を逃してしまい、猫田与助とともに、真田の草の者の動きを探る。

 

・樋口角兵衛:

樋口下総守と久野の子とされるが、実際は真田昌幸と久野の間に産まれた子。幼少より屈強な身体と獰猛な性格の持ち主。扱いに困り、真田家に取り立てられず、真田の庄の近くで暮らしていたが、村落に出向いては暴行をはたらき、偶然居合わせた佐助に倒される。その後、冷遇の真田本家を離れ、沼田の分家のもとに勝手に走ろうとするが、壺谷又五郎と鞍掛八郎に捕えられるも、又五郎の仲介できちんと本家に仁義をきって分家に引き渡される。

 

・松山儀平/鹿野小介:

樋口角兵衛に仕える従者。角兵衛が真田家を出奔し、放浪していた際に、拾ってきた牢人。角兵衛が真田本家から分家に無断で身を寄せようと上田を離れた際、これを見限り、逃走。

 

・向井佐平次:

第五巻では、真田幸村に随伴し、大阪や伏見を飛び回る。

 

・もよ:

佐平次の妻で、佐助の母。真田の草の者であった故・赤井喜六の娘。砥石城で、番士や家来などの身の回りの世話をする。

 

・横沢与七:

もよの亡母の弟(つまり叔父)で、真田家の草の者の一人。真田の庄をまもる首領。佐助を草の者に育て上げる。

 

・佐助:

佐平次ともよの息子。幼い頃から、真田の庄で暮らしていたため、はやくから忍びの術に関心をおぼえ、横沢与七のもとで修練を積む。獰猛な樋口角兵衛を負傷させる。壺谷又五郎に随伴し、15歳で親許を離れて、下久我→長曾根の忍び宿で実践を積む。最初の指令として、又五郎から上田の真田幸村への密書を託される。

 

・おくに:

真田の草の者の一人。関東の諸方をまわっていたが、横沢与七に頼まれて、佐助の初体験の相手をすべく、真田の庄に戻ってくる。佐助に、忍び者として知っておくべき情事を教える。のちに、長曾根の忍び宿で、佐助と再会。

 

・矢沢薩摩守頼綱:

真田昌幸の叔父で、真田家の老臣。元・沼田城代。第五巻では、心臓を病み、ついに死去。

 

・西笑(さいしょう):

秀吉の御伽衆の一人で、京都・相国寺の住職。外国語に精通しており、日本が朝鮮で入手した外典などを解読、秀吉に伝える。文禄の役の講和において、明の国書を解読し、秀吉にそのまま伝えたため、講和が破談となる。

 

・小西如安(内藤飛騨守):

足利将軍の家臣で、キリシタン宗徒だったが、小西行長に仕えるようになってから小西姓を名乗り、明に特使として派遣される。漢学の大家で、中国語が堪能。

 

・元均(げんきん):

慶長の役における朝鮮水軍の総司令官。日本側の攻撃で、巨済島で戦死。 これにより、再び李舜臣海将に復帰。

 

・真田伊豆守信幸:

真田昌幸の長男。家康の婿(養女・小松殿と結婚)。沼田城主で真田分家のあるじ。第五巻では、文禄の役名護屋に出陣したり、帰国後はまた伏見城の築城工事・京都控屋敷の設営にたずさわる。沼田へ帰還する直前、京都を散策中に、北条家の残党(猪俣元宣)に襲われるが、鈴木右近忠重により救われる。

 

・青木新六/田部井伝蔵:

ともに真田信幸の家臣。信幸の京都散策中に、牢人らに襲われ、殉死。

 

・猪俣瀬兵衛元宣(せへえもとのぶ):

北条氏邦の家臣で、かつて沼田城代だった猪俣邦憲の弟。秀吉の小田原攻めで北条家がほろんだのち、兄・猪俣邦憲も磔の刑に処せられたため、その復讐としてたまたま京都に居合わせた真田信幸を襲う。

 

・鈴木右近忠重:

故・名胡桃城主、鈴木主水の息子。沼田の真田信幸のもとに仕えていたが、沼田を離れ、柳生五郎右衛門宗章に随伴して江戸から奈良へ赴き、柳生宗厳のもと剣術の師事をうける。京都で偶然遭遇した真田信幸を危機から救い、再び信幸に仕えるため、沼田に戻る。

 

・於順:

小松殿の待女で、一時は真田信幸に目をかけられるも、鈴木右近忠重によって白紙に。忠重と恋仲にあるとみた信幸により、婚姻を勧められるも、その後、忠重が沼田から蒸発し、彼を待っているうちに病没。

 

細川忠興

細川藤孝(幽斎)の息子。前田利家細川幽斎は、ともに信長に仕えた戦友で、前田家と細川家には婚姻関係もあったことから、秀吉の没後、反目する前田利家徳川家康の間にたって、周囲から和解の仲裁人に仕立て上げられる。 

 

・湯浅五助:

大谷吉継が伏見の真田屋敷に差し向けた使者。大谷吉継は、利家の死後、本家(池田長門守綱重)・分家(鈴木右近忠重)の差別なく、両方にしばらくは静観を保つようアドバイス。

 

・脇坂小十郎:

石田光成の家来。前田利家が死の瀬戸際にあって、三成が前田屋敷に滞在しているころ、武断派による主の一命の危機を感知し、大谷吉継に助けを求める。

 

・原田喜六:

大谷吉継の侍臣。石田光成の暗殺計画について、真田家(幸村)に報告・相談すべく向けられた使者。

 

・白倉武兵衛:

真田幸村の大坂屋敷総留守居役。もともと武田勝頼に仕えていたが、武田家の滅亡後、真田家を頼る。大谷吉継(原田喜六)から預かった密書を壺谷又五郎に託し、又五郎から太郎次・伏屋太平を介して佐和山へこれ(石田三成の危機)を届ける。

 

・五瀬の太郎次/伏屋太平:

ともに真田の草の者。太郎次は老齢の忍びで、太平は若者で、ともに大坂城下に居住し、大坂の情勢をキャッチアップ。太平は壺谷又五郎の指示で佐和山に、大谷吉継がしたためた三成危機の密書をはこぶ。

 

 ・佐竹義宣:

常陸・水戸城主で、秀吉からの信頼もあつく、小田原攻めでも活躍。石田光成とも懇意にしており、三成暗殺の危機に際して救護に協力。この際、家康のもとに三成を預ける案を提案し、向島に移送。その後、家康の軍とともに、佐和山に送り届ける。

 

黒田長政

故・秀吉の参謀、黒田官兵衛の息子。父の跡を継ぎ、武将として活躍、朝鮮出兵では加藤清正と奮戦、豊前・中津城主に任ぜられる。武断派の大名で、石田光成を討とうとしたが、三成が佐和山へ引退してからは、家康に急接近。豊臣秀頼の後見人および天下運営の主として、家康を持ち上げ、伏見入城を勧める。

 

堀尾吉晴

秀吉の子飼いの大名で、家康のかわりに浜松城主を任ぜられていたが、黒田長政を筆頭に武断派の諸将が家康の伏見(再)入城・ポスト豊臣を推進してからは、家康により、越前・府中城に隠居させられる。

 

・福原長尭/垣見一直/太田一吉/熊谷直盛:

石田光成の下で朝鮮出兵ではたらいた軍目付。正確な報告を怠り、いたずらに戦を長引かせたとして、かねてから武断派の諸将から訴えられており、家康によって罰せられる。これにより、領地没収や謹慎を命じられたが、福原長尭は石田光成の姻戚関係があったため、その後、家康は彼の領土没収を半減。

 

 

【印象に残ったこと】

・旧・伏見城は、一度、慶長の大地震で倒壊・消失しており、本来、秀吉は、明・朝鮮の講和使節をここで迎えるはずだったが、(新・伏見城の完成にも間に合わず)やむなく大坂城に変更。

 

・秀吉の嗣子で世継ぎとされた徳川秀次(三好秀次)は、秀頼が誕生したために、自らの地位が脅かされると疑心暗鬼になり、乱心に走った。また、秀吉側も側近たちからの注進で秀次を見限り、ついにはこれを高野山に追放。もともと、そこまで秀次を信用していなかったうえ、秀頼が産まれたことで、秀吉のなかに譲位を早まった感があったのも事実。

 

・晩年の秀吉は、天下人としての人望を完全に失っていた。真田昌幸・幸村父子も、秀吉に従属していたとはいえ、内心ではすでに見切りをつけていた。

 

豊臣秀吉の意向が、厖大な犠牲の上におこなわれた朝鮮出兵によって、いちじるしく損なわれたのは事実であった。なればこそ、秀吉は、事ごとに自分の威勢を見せつけようとする。まるで、祭りさわぎの出陣。無意味な豪奢をほこる築城。そして、関白・秀次を誅戮したときの狂乱。諸大名が、この〔天下人〕へかけていた信頼と期待は、事ごとに裏切れつつある。

 

豊臣秀吉が、朝鮮出兵に費やした七年の歳月とエネルギーを、天下人としての日本の内政と自分の政権の確立にそそぎ込んでいたら、後年の歴史は、「大いに変わっていたろう」

 

朝鮮出兵において、加藤清正は熱烈な主戦論者であり、石田光成・小西行長らの総司令部とは考え方が違ったが、そこに目をつけた明・朝鮮が、彼らの確執を図り、日本側の結束を乱そうとした。加藤清正は、これに気づいて、途中で交渉の土俵から降り、秀吉に正確な情報を伝えて仕切り直しをはかったが、逆に、相手の術にはまった小西らに秀吉が弄され、清正が悪者にされてしまった。

 

・石田光成は、秀吉から大いに信頼され、頭もよかったが、あまりに策略的・狡賢すぎるところもあり、独善的だった。

 

たとえば、朝鮮の戦況を、名護屋に在る豊臣秀吉へ報告するにしても、講和を急ぐあまり、かならずしも、その実体をつたえては来なかったようにおもわれる。

 

真田昌幸は、名護屋の陣所にいたころ、暗に石田光成や小西行長を評して、「あの奉行たちの目つきは、時に偸盗のごとく光る」といった。

 

・慶長の大地震のおり、家康の家臣で真田信幸の岳父・本多忠勝は、家康に秀吉暗殺を進言。(家康はこれを却下したが…)

 

・秀吉は一時は明・朝鮮との講和を考えたが、こちらの条件がまったく通らず、かつ、明からも屈辱的な国書を突き付けられたため、再戦を決意。これには、小西行長・石田光成だけでなく、加藤清正も無謀と感じており、西笑や前田利家もこれを諌めたが、秀吉はこれを聞かなかった。かといって、自ら海を渡ろうともせず、諸大名に犠牲を強いた。その理由は、秀吉亡き後も盤石な豊臣政権を保つべく、逆にいまのうちに諸大名の勢力をそいでおきたかったから。

 

諸大名を朝鮮へ再出陣させ、天下人としての威風を最後に見せつけておこう。もしも、出陣を渋り、わが命令を不満におもうならば、自分の目の黒いうちに、これを、「淘汰してしまわねばならぬ」このことであった。 

 

伏見城下に建てられた真田家の伏見屋敷は、本家(真田昌幸)の主管にあるが、分家(真田信幸)もここに滞留した。また京都にも控屋敷をもうけたが、こちらは真田信幸が主管にあった。伏見屋敷には、真田昌幸の重臣・池田長門守綱重が総留守居を務める。分家の留守居役は、鈴木右近忠重。

 

伏見屋敷→真田本家・分家が共用(主管は、本家)

京都控屋敷→真田本家・分家が共用(主管は、分家)

大坂屋敷→真田本家(幸村)のみ使用(総留守居役は白倉武兵衛)

 

・鈴木右近を介して、真田家(真田信幸)と柳生家(柳生五郎右衛門宗章)の交誼が結ばれ、長年にわたって続いた。

 

・晩年の秀吉は、とにかく秀頼の将来を心配し、家康の孫娘と秀頼の婚約をとりつけたり、後見人として前田父子の威力をやたら増大させたり、五大老五奉行に対して、忠誠を誓わせる誓約を課した。しかし、後世を見据えた政権運営に乗り出すのが遅かった。

 

・秀吉の死後、伏見城徳川家康)と大坂城前田利家+石田光成)の関係が悪化。両者が反目するようになった。

 

伏見城徳川家康前田玄以長束正家

大坂城前田利家+石田光成

 

・諸大名の縁組は豊臣家の許可があってはじめて成立するが、家康はこれを無視、豊臣政権を運営する大老や奉行たちの同意なしに、勝手に伊達政宗の娘と六男(忠輝)との婚約をととのえたり、養女と福島正則の嗣子(正之)と婚約させたりした。次第に家康と大老・奉行らの関係性はさらに悪化。諸大名も分裂。

 

伏見(徳川屋敷)→福島正則・池田輝元・森・黒田・藤堂・有馬

大坂(前田屋敷)→加藤清正・細川・浅野・佐竹・立花・小西・大谷

 

・関係が悪化する伏見と大坂で、つかの間の平和を保たんと、閣僚たちが一触即発を阻止すべく躍起になり、家康と利家をなんとか和解しようと奔走細川忠興を仲介人として、一時は和解成立までこぎつけるも講和に至らず。利家の死の直前、加藤清正の説得で、ついに講和が成立。家康に秀頼の後見を託す。家康は、利家の死が近いことをわかっていたので、これにすりよった。

 

・秀吉の死後、戦将を中心とする武断派加藤清正福島正則ら)と、官僚(奉行)を中心とする文治派(石田光成・小西行長ら)の二派が対立。武断派は、利家と家康を頼みにしていたので、両者の和解を急がせた。大谷吉継は、三成に近かったが、建前上は中立を保つ。

 

(文治派が)幼い秀頼の側近をかため、彼らが打ち出した政令なり政策なりが、豊臣秀頼の名をもっておこなわれることに、武断派は非常な不安を抱いた。

 

徳川家康は、文治派と対立する武断派の大名たちに対し、あくまでも、よき理解者であることに努めた。

 

・もともと、前田利家と石田光成はウマがあわず、秀吉生前時は仲が悪かったが、秀吉の死後、豊臣家の忠誠・後継という点において、家康と対抗すべく、両者は結託。

 

前田利家の死に際に、石田三成を暗殺しようと、武断派が立ち上がり、三成が滞在する前田屋敷を取り囲むが、大谷吉継・壺谷又五郎・石田正澄(三成の兄)らの協力で、危機を打開。三成はまず、正澄邸に移送され、そこから宇喜多秀家備前島屋敷→佐竹義宣の伏見屋敷→徳川家康向島城→故郷・佐和山へ引退。このとき、家康は石田三成の庇護を受け入れ、武断派を制御する。

 

・石田光成は、もともとインテリ武将の一人として秀吉から重用されたが、佐和山引退後も、その民政手腕はピカイチだった。

 

■まとめ:

・第五巻は、文禄の役(2年目)の1593年~三成・佐和山引退までの1599年までが

描かれている。

・秀頼の誕生と秀次の死、秀吉の死と利家の死、三成の引退と家康の台頭…などなど、この期におよんでまた、天下を率いる権力の座がめまぐるしく動いていく。

関ヶ原の合戦がいよいよ目前に迫っており、先が気になって仕方ない。


■カテゴリー:

歴史小説

 

■評価:

★★★★★

 


▽ペーパー本は、こちら

真田太平記(五)秀頼誕生 (新潮文庫)

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Kindle本は、こちら

真田太平記(五)秀頼誕生 (新潮文庫)

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真田太平記(4) ★★★★☆

池波正太郎さん

真田太平記(四)甲賀問答 (新潮文庫)

を読み終えました。

 

評価は、星4つです。

 

第三巻は、

故・鈴木主水の息子である鈴木右近忠重が、

信奉していた沼田城の真田信幸のもとを密かに去るところで終わるのですが、

 

第四巻は、

秀吉の間諜組織を束ねる山中内匠長俊が、

同じく家康の間諜組織を束ねる山中大和守俊房のもとへ、

こっそり呼ばれて会いに行くところから始まります。

 

この動きを嗅ぎつけた真田の「草の者」があとをつけ、

それに気づいた山中大和守配下の「甲賀忍び」たちが、

真田の奴らの活動拠点をつきとめ、

また一方で生け捕りにせんと、

「忍び合い」が展開されます。

 

まさに、

真田vs甲賀の忍者同士の戦い!

 

この巻は、

大局的には秀吉の朝鮮出兵がいかにトチ狂っていたかを描く一方で、

 

その大局の向かう先を懸念して、

(将来の忍びの世界を牽制すべく)

こうした忍者どうしが、

しのぎを削り合う様が描かれています。

 

 

▽内容:

天下統一をなしとげた豊臣秀吉は、これまでとは人柄も変ったようになり、無謀な朝鮮出兵を号令。そこに豊臣政権のほころび目を見てとった甲賀忍びの頭領・山中俊房は、秀吉の御伽衆である又従弟の山中長俊に早くも手をまわし徳川方への加担を説く。ここに甲賀忍びと真田の草の者との凄絶な戦いが開始され、壷谷又五郎や女忍者お江の常人には推しはかれない活躍が繰り広げられる。

 

 

ということで、

この巻には、 

いろんな忍者道具が登場します。

 

〔飛苦無〕:とびくない

 

〔投爪〕:なげつめ

 

〔忍刀〕:しのびがたな

脇さし

 

〔蛇縄〕:へびなわ

細縄の先に鉄製の錘(おもり)のようなものがついている。この錘を持ち、目ざす相手に投げつけると、細縄が相手の躰へからみついてしまう。

 

──などなど。

 

忍者同士のぶつかり合いや、

戦い方が具体的に描かれていて、

忍者の世界を垣間見るようで面白い!

 

どうやら、

当時の忍者のなかでも、

山中俊房が率いる「甲賀忍び」は歴史も古く、

技術もさることながら組織も整備されていて、

巨大な間諜組織を構成していたんだとか。

 

甲賀の忍者」って、

たしかによく聞く名前ですね。

 

──で、

その甲賀の忍者が、

何気に恐れていたのが、

真田の「草の者」、

つまり、

真田家に仕える忍者たちだったようです。

(この小説を読む限り)

 

謀略家として名高い真田幸隆を父にもち、

自身もまたその策略を武器に、

これまで数々の危機を乗り越えてきた真田昌幸

 

彼のもとで整備・強化されていった真田の草の者たちは、

少数勢力ながら、

甲賀忍びにとって脅威になりはじめている。

 

自分たちが一番!と思っている甲賀忍びにとって、

他の忍者が台頭してくるのは当然面白くないわけです。

 

忍者の敵は忍者。

 

第4巻は、

そんな忍者の抜き差しならぬ闘争が描かれています。

 

逃げる真田の草の者(お江)。

追う甲賀忍び(山内俊房)。

これに通じる内部協力者(田子庄左衛門)と、

彼がお江を助ける過去の所以。

 

これまで比べて、

登場人物が少ないだけに読みやすいのですが、

忍者対決が続くので、

ちょっと自分には間延びした感が否めなかったかな。

 

でも、

忍者好きの人には、

結構面白い巻になるかと思います。

 

※第一巻のレビューはこちら

※第二巻のレビューはこちら

※第三巻のレビューはこちら

 

【登場人物】

・山中内匠長俊:

秀吉の御伽衆(側近)の一人で、策士。間諜組織を束ねるトップ。山中俊房の又従兄で、甲賀出身。山中俊房に呼ばれ、秀吉に見切りをつける(?)。

 

・山中大和守俊房:

甲賀の豪族で家康の間諜組織を束ねるトップ。山中長俊の又従兄。長俊に密使を送り、秀吉との手切れを提言。家康の老臣・本多正信に直属。

 

・杉坂重吾郎:

山中俊房に仕える忍びの者。俊房から長俊へ、密使としてつかわされる。山中俊房より、甲賀に侵入し逃走したお江と、それを匿う田子庄左衛門の動きを監視する役に任ぜられる。

 

・瀬戸伴蔵:

山中俊房に仕える忍びの者。杉坂重吾郎と同じく、山中俊房より、甲賀に侵入し逃走したお江と、それを匿う田子庄左衛門の動きを監視する役に任ぜられる。その後、逃走した庄左衛門とお江を追うも、庄左衛門によって殺される。

 

・豊臣(三好)秀次:

秀吉の姉方の甥。世継ぎに恵まれなかったため、秀次を後継者に指名。二代関白。

 

・お江:

真田の忍びの者。もとは武田家に仕えていたが、武田家滅亡後は壺谷又五郎とともに真田家に仕えるように。第四巻では、山中長俊・俊房の密会をキャッチするところから始まる。真田幸村や向井佐平次と性的関係を経たこともあるが、甲賀で山中忍びにつかまるも、田子庄左衛門の献身的な介護により、一命をとりとめる。これにより、庄左衛門と男女の仲に。しかし、甲賀からの脱出の折、庄左衛門を失う。

 

・馬杉市蔵:

 お江の父。もともと山中大和守俊房に仕える甲賀忍びで、武田信玄のもとに派遣されていたが、武田から織田信長へ鞍替えする主家の命に背き、そのまま武田家に居残る。命令に背いたことで、山中甲賀忍びから裏切り者のレッテルを貼られ、猫田与兵衛らに殺されかけるが、これを討ち取る。長篠の戦い武田勝頼vs信長・家康)で戦忍びとして責務を負うも、戦死。

 

・五瀬の太郎次:

馬杉市蔵と同じく山中俊房に仕えていた甲賀忍びの一人で、馬杉市蔵と同様、山中家から武田家に離反。武田家滅亡後は、真田家に仕え、甲斐から京都へ拠点を移し、僧侶や百姓・商人などになって諜報活動に従事。かつて同じ甲賀忍びだった杉坂重吾郎を見かけ、山中長俊・俊房の密会をキャッチアップ。

 

・向井佐平次:

第四巻では、秀吉のもとに人質としてあずけられている真田幸村に随伴し、大阪に居住する一方、幸村から上田の真田本家に送られる情報の中継役として活躍。

 

・もよ:

佐平次の妻で、佐助の母。真田の草の者であった故・赤井喜六の娘。砥石の真田の庄に暮らし、砥石城の番士や家来などの身の回りの世話をする。

 

・佐助:

佐平次ともよの息子。幼い頃から、真田の庄で暮らしていたため、はやくから忍びの術に関心をおぼえ、叔父(横沢与七)のもとで修練を積む。

 

・横沢与七:

もよの亡母の弟(つまり叔父)で、真田家の草の者の一人。赤井喜六らと共に、はやくから戦忍びとして活躍し、忍びの術に老練している。真田の庄をまもる首領でもあり、幼い佐助に忍術を手なずける。

 

・奥村弥五兵衛/姉山甚八

壺谷又五郎配下の真田の忍びの者。京都・下久我にて秀吉の情報収集につとめる。第4巻では、山中俊房亭に出向く山中長俊を追って、途中、甲賀忍びと戦う。姉山甚八は負傷。

 

・壺谷又五郎

真田家の間諜組織の筆頭。お江や姉山甚八などの「草の者」の総司令官に当たる。第四巻では、向井佐平次の息子(佐助)の成長を案じたり、近江に忍びの宿の配備を進めたり、脱出してきたお江を甲賀から救い出したりと奔走。

 

・まあ殿:

前田利家のむすめで、秀吉の側室の一人。京都・聚楽第天守閣の一階に暮らす。

 

・猫田与助:

父・猫田与兵衛をお江の父・馬杉市蔵に殺され、本人もお江と因縁のある、宿敵の仲。山中俊房に仕える。第四巻では、甲賀で山中長俊をつけてきたお江たちを追う。

 

・牛原茂兵衛:

猫田与助と同じく山中俊房に仕える甲賀忍び。山中俊房亭に赴く山中長俊を見守るべく、邪魔者を監視していたところ、姉山甚八・奥村弥五兵衛らを発見。忍び争いとなり、命を落とす。

 

・新田庄左衛門:

京都・室町で、猫田与助らが忍び宿として使っていた扇屋のあるじ。自身も、山中大和守(俊房)配下の忍びの者。

 

・田子庄左衛門:

甲賀忍びの一人で、山中大和守俊房に仕える。馬杉市蔵とは同期で、武田家にも派遣されたが、山中俊房の命により、撤収。本来は、市蔵とともに武田に居残るはずだったが、その後の動きを馬杉市蔵に伝えるため、意図的に甲賀へ戻る。甲賀に侵入し、逃走するお江を捕らえ、これをかくまって助ける。脱出の際、お江を逃がすべく、自身の命をおとす。

 

・小松殿:

徳川から沼田城主・真田伊豆守信幸のもとに嫁いだ正妻。本多忠勝の娘で、家康の養女。徳川と真田信幸をつなぐパイプ役で、本人の自負も強い。

 

・安田新右衛門道利:

本多忠勝から真田分家(信幸・小松殿)への使者。情報伝達が遅れ、小松に叱責されて割腹を覚悟するも、信幸によって一命をとりとめる。

 

・大谷刑部少輔吉継:

秀吉の側近。越前・敦賀城主。真田幸村の岳父で、於利世の父。朝鮮出兵においては、船奉行を担当。らい病を患っており、朝鮮出兵の過労で病死。

 

・石田治部少輔三成:

近江・美濃など秀吉の直轄領の代官で、秀吉の片腕。九州平定では兵站奉行、朝鮮出兵では船奉行を務める。

 

・岡本重政/牧村政吉:

秀吉の家臣で、朝鮮出兵の際の船奉行。

 

・於利世(おりよ):

大谷吉継の娘で、真田幸村の妻。 

 

・矢沢薩摩守頼綱:

真田昌幸の叔父で、真田家の老臣。元・沼田城代。

 

・樋口角兵衛:

樋口下総守と久野の子とされるが、実際は真田昌幸と久野の間に産まれた子。幼少より屈強な身体と獰猛な性格の持ち主だったが、真田幸村と折り合いがついてからは沈静に。

 

・真田伊豆守信幸:

真田昌幸の長男。家康の婿(養女・小松殿と結婚)。沼田城主で真田分家のあるじ。

 

・まん姫:

真田信幸と小松殿の第一子。文禄の役で、信幸が名護屋に滞在中に生まれる。

 

・真田孫六郎:

真田信幸と小松殿の第二子で、長男。初子が産まれた信幸を思いやって、真田昌幸名護屋から帰郷させた折にできた子。

 

・杉野喜藤次:

本多忠勝が沼田・小松殿へ差し向けた使者。安田新右衛門の同僚。新右衛門が大坂で鈴木右近を見かけたことを、小松殿に報告。

 

・羽尾勘七:

沼田・小松殿から名護屋・真田信幸へ向けられた使者。小松が縫い上げた羽織や、安田新右衛門がしたためた鈴木右近に関する書状を、信幸に渡す。

 

・鈴木右近忠重:

故・名胡桃城主、鈴木主水の息子。沼田の真田信幸のもとに仕えていたが、沼田を離れ、江戸にたどり着く。その後、柳生五郎右衛門宗章に随伴し、奈良まで赴いたのち、柳生宗厳のもと剣術の師事をうける。

 

・於順:

沼田に居住する小松殿の待女。父は、上田城真田昌幸のもとに仕える杉野源右衛門。真田信幸と小松殿が、子供になかなか恵まれなかったときに、小松殿のはからいで信幸の側室に迎えられそうになったが、鈴木右近との偽装恋愛でこれを回避。

 

・玉野:

江戸で鈴木右近が通い詰めていた遊女。

 

・柳生五郎右衛門宗章(やぎゅうごろうえもん むねあき):

柳生但馬守宗厳(むねよし)の四男。江戸で牢人に襲われそうになった鈴木右近を助け、旅の随伴を許し、これを奈良の柳生の庄まで送り届ける。

 

柳生但馬守宗厳(むねよし):

大和・柳生の庄を領する豪族。刀槍の術を修め、新当流・中条流・宝蔵院流の奥義をきわめる。柳生五郎右衛門の父。上泉伊勢守信綱(上州の一豪族)より、新陰流の兵法秘伝を授けられる。のちに家康に召し出され、正式に家臣となる。

 

・柳生新次郎厳勝(よしかつ):

柳生宗厳の長男。松永秀久vs筒井順慶の戦で、松永勢に従軍して重傷を負い、不具の身に。

 

・柳生又右衛門宗矩(むねのり):

柳生宗厳の五男。22歳にして、父のもと(柳生の庄)で、新陰流の相伝を伝授。

 

加藤清正

秀吉の子飼いの大名で、肥後・熊本城主。秀吉が朝鮮出兵の際に構えた、名護屋城の築城時の総監督。唐津城主・寺沢広高もこれに協力。小西行長宗義智に続く第二軍として、朝鮮に進軍。

 

小西行長

秀吉に仕える肥後大名の一人。朝鮮出兵では第一軍として出陣。対馬宗義智(よしとし)もこれに加わり、たちまち釜山城を落とす。その後も、朝鮮南部の各城を次々と制覇。

 

李舜臣

朝鮮出兵の際の、朝鮮側の武将。朝鮮水軍を指揮し、日本海戦で日本軍を大いに悩ます。日本軍は朝鮮各地で快勝するも、李舜臣率いる水軍に補給を断たれ、進軍に苦戦。

 

上泉伊勢守信綱:

上州・箕輪城主、長野業政に仕えるも、武田信玄によって長野家が滅ぼされたのち、諸国を遍歴し、刀槍の術をまなんで蘊奥を極める。自分の工夫を加えた新陰流の剣術を創始。柳生宗厳にこれを授ける。

 

後陽成天皇

朝鮮出兵の際の天皇。父は、正親町(おおぎまち)上皇。秀吉に渡海延期・中止を要請。

 

足利義昭

室町幕府で最後の15代将軍。織田信長毛利元就武田信玄上杉謙信などを謀略であやつりつつ、幕府の栄光を取り戻そうとするも、最終的には織田信長によって京都から追放される。のちに足利昌山と名乗り、秀吉から領地を与えられ、朝鮮出兵にも秀吉の家臣として出陣。

 

・広沢の局:

名護屋越前守の妹。朝鮮出兵の折、秀吉の寵愛を受け、側室となる。名護屋まで出向いた側室・淀殿はこれに嫉妬し、大坂へ戻ってしまう。

 

堀秀政

秀吉と共に信長に仕えていたが、信長の死後、秀吉に仕える。信望厚く、琵琶湖・佐和山城主および越前・北の庄城主をまかされるも、小田原攻めの際、陣中で病没。その後、佐和山城は、息・堀秀治が継いだが、越前へ移封。

 

・佐久間峰蔵:

もと武田家の鉄砲足軽で、忍び者ではないが、又五郎の幼馴染。武田家(勝頼)の滅亡間際に、足軽から百姓となって近江・長曾根の村落に婿入り。偶然、再会した壺谷又五郎の頼みもあり、近江の忍び宿の設営に協力。

 

・大政所(仲):

秀吉が誰より敬慕していた生母。家康と講和の際に、一時は人質として岡崎に差し出したこともあるが、その後は京都・聚楽第にて暮らしていた。危険を顧みない秀吉に、朝鮮への渡海を戒める。文禄の役の最中に、病没(1592)。秀吉は名護屋より急行。

 

豊臣秀頼

秀吉と側室・淀殿(茶々)の第二子。先に鶴松が産まれているが、幼くして病死。秀吉が生母・大政所の死に際して、名護屋から大坂に戻ってきたときに出来た子とされているが、疑わしいところもあり(?)。

 

前田玄以

もともとは織田信忠(信長の長男)に仕えていたが、信長・信忠父子が本能寺の変に斃れると、秀信(信忠の子)を前田玄以に託し、城を脱出させる。のちに、秀吉の信頼をうけ、京都奉行から丹波亀山城主に任ぜられる。秀吉から、伏見城築城計画をまかされる。

 

 

【印象に残ったこと】

・伊賀・甲賀は同じ三重にあると勘違いしていたけれど、伊賀=三重、甲賀=滋賀だった(同様に、「草津」も「草津温泉」のある群馬と勘違いしていたが、滋賀県の「草津市」だった)。。。甲賀の忍者を組織する山中一族やその手下は、時の権力者を見極めながら、諜報活動に協力・従事していた。

 

山中大和守俊房:武田信玄織田信長徳川家康

山中内匠長俊:武田信玄豊臣秀吉→→徳川家康(?)

 

これに対し、

もとから伊那忍びだった壺谷又五郎らは、

勝頼のころ真田家に譲り受けられた。

 

壺谷又五郎武田信玄・勝頼→真田昌幸

 

・秀吉が京都に建てた豪邸・聚楽第は、豪華絢爛・荘厳な楼閣でありながら、それだけで城として、戦にも耐えられるつくりをしていた。

 

ここは豊臣秀吉の居館といっても、一つの城郭である。深い濠をめぐらし、石垣をもって囲い、二重三重の櫓を設け、いざともなれば、ここへ立てこもって一戦をまじえるに充分であった。

秀吉は、旧主・織田信長が無造作に、京の本能寺へ宿泊し、明智光秀の急襲を受けたことを忘れてはいなかった。

 

・秀吉の、(美術や芸術だけでなく)建築や土木に対しての熱意は、誰よりもすごかった。

 

城や殿舎の建築や、土木の工事にかかるときの豊臣秀吉の熱中ぶりは、異常といってよい。

(中略)秀吉は、その時代のもっともすぐれた建築家であり、土木技師でもあったといってよい。

 

・「甲賀忍び」 の組織力や技術は格段で、それに比べると真田の諜報網はまだまだ脆弱だった(15年)。

 

甲賀は、又五郎の目から見ると、「巨大な、忍びの城」の、ようにもおもえる。

百年も二百年もかけて、甲賀忍びの諜報網と技術と組織がととのえられた。

 

・当時、「忍びの者」の身分は低かったが、真田昌幸は、誰よりも彼らを人間としてみなし、温情をもって接した。

 

相手の目を謀り、闇の底から底へ人知れずはたらく隠密の役目…忍びの者には身分もなく地位もない。どこまでも人の蔭に隠れて、生涯を終える。

世の人びとからは、警戒と侮蔑の目をもって看られ、正常の人の生活からは、きびしく排除されているのが忍びの者の一生であった。

 

甲賀忍びと真田の草の者の違いは、前者がかなり組織化・世襲化されているのに対し、後者は少数精鋭で非世襲的なところがあった。

 

(親子の)感情が芽生える前に、彼ら〔=甲賀忍び〕は組織的に訓練され、それ以外には「生きる道を知らぬ…」といってもよいほどであった。(中略)たとえば、遠い他国の一町村に住みつき、二代三代と年を経て、甲賀へ戻らぬまま情報を送りつづけているだけでもよい。(中略)つまり、それほどに甲賀の忍びの活動は底が深く、ひろがりが大きいのだ。

真田の〔草の者〕とは、そこがちがう。草の者は、あくまでも一人の〔個性〕よって、はたらく。

 

 ・甲賀忍び(山中俊房)は、真田勢が秀吉の今後を見かねて、山中長俊を監視するなどの諜報活動を展開していることに慄然とし、真田の先見の明と諜報網の進化を脅威とみなしていた。これは、それだけ真田の草の者が急速に組織化され、精鋭化していたことのあらわれ。

 

真田昌幸は、徳川から長男・信幸のもとに嫁いできた小松殿を、やり手で、かつ真田家にとって脅威になるとみており、一時は暗殺をも考えていた。

 

女ながらも、小松は徳川家の〔外交官〕としての役目を背負って信幸のもとへ嫁入ったのであった。

 

・秀吉が朝鮮出兵に際して、肥前(佐賀)・名護屋城を築城した際、荘厳で堅牢な城郭を短期間で建てたので、多くの工夫が命を犠牲にした。この名護屋城は、のちに、方位学的に不吉とされ、朝鮮出兵の敗因の一つと噂された。

 

・秀吉の朝鮮出兵では、全国から諸大名・譜代が肥前名護屋に集められた。家康や真田昌幸・信幸をはじめ、伊達政宗上杉景勝、佐竹義宣、南部信直池田輝政山内一豊などなど。加えて、足利義昭までもが家臣として京都から行軍。

 

・忍者の活動で生死の境を決めるのは、理屈ではなく五官(勘)と言われていた。

 

理屈で五官で五官がはたらくようになってしまっては、「もはや、忍びではない…」のである。

 

 ・後年の秀吉はかなりトチ狂っていて、周りから精神を病んだのではないかというくらい、無謀な計画が多かった。朝鮮出兵もその一つだし、朝鮮平定の際は嗣子・秀次を朝鮮の関白に、さらに明までをも征服して、北京周辺を後陽成天皇の御料地として献上するといったことを真剣に考えていた。

 

・まわりの君臣たちも、秀吉の朝鮮出兵や壮大な計画に箴言がはばかられ、すでに遠征している小西行長らは石田光成・大谷吉継などと協議し、これ以上の進撃を中止。また、家康をはじめとする名護屋在陣の諸将も、早くことが終わることを待ち望んでいた。

 

・一方で、秀吉はこの期におよんで伏見城築城を計画。聚楽第を秀次へ譲渡したこともあり、それに代わる城(伏見城)を京都と大阪の間に築こうとしていた。この伏見城は、後年の彼の狂信的ともいえる虚栄。

 

朝鮮での進出も、はかばかしくない。

自分の渡海も延期になった。

生母は、自分の渡海を気に病み、それが因をなして病没した。

おもうことが、これまでのようにおもうにまかせぬ苛立ちを、秀吉は、もてあましている〔中略〕。

(城を築こう…)と、おもいたったのも、これならば自分のおもいどおりに事が進められるからであった。

 

 

■まとめ:

・第四巻は、大局的には秀吉の朝鮮出兵がいかにトチ狂っていたかを描く一方で、その大局の向かう先を懸念して、(将来の忍びの世界を牽制すべく)甲賀忍びと真田の草の者がしのぎを削り合う様が描かれている。

・忍者同士のぶつかり合いや、その道具・戦い方が具体的に描かれていて、忍者の世界を垣間見るようで面白いが、話としては、むしろそれが中心なので、ちょっと間延びした感も否めない。

・しかし、それだけに、登場人物も少な目で読みやすい。忍者好きにはたまらない巻だと思う。


■カテゴリー:

歴史小説

 

■評価:

★★★★★

 


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真田太平記(四)甲賀問答 (新潮文庫)

真田太平記(四)甲賀問答 (新潮文庫)

 

 

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真田太平記(四)甲賀問答

真田太平記(四)甲賀問答

 

 

夜光の階段 ★★★★☆

 松本清張さん著

夜光の階段 (上) (新潮文庫)

夜光の階段 (下) (新潮文庫)

を読み終えました。

 

評価は、星4つです。

 

ここのところ、

天野節子さんという、

女流作家のミステリ小説にハマりまして、

 

彼女はデビュー時から「女性版・松本清張」と謳われていたそうで、

先日読んだ『烙印』と作品が、

まさに清張だな!と思って、

急に清張が懐かしくなり、

この本を手に取った次第です。

 

かういう自分も、

20代後半くらいに清張にハマり、

初期の作品を除いて、

次々と彼の著書を読み漁った時期がありました。

(といっても、文庫版になっている代表作程度ですが)

 

その後も、

テレビや映画などで清張の作品が放映されると、

ちょこちょこ観てしまって、

米倉涼子って結構演技うまいじゃん!

──とか、急に彼女の株があがったりもして。

(清張ドラマには、何故か米倉さんが出ていることが多い)

 

いまだに、

松本清張生誕○周年記念”とかカコつけて、

やたらBSなんかでやってますけど、

どんだけお茶の間で人気あんだよ?!と思いつつ、

自分もおそらくその一人であり、

こうしてまた清張の作品に魅了されているという。

 

この『夜光の階段』は、

実は以前にも読んだことがあり、

自分が読んだ清張作品のなかでも、

相当におもしろかった記憶があります。

 

もちろん、

実際に再読してみると、

細かいストーリーの内容や結末は、

見事に忘れてしまっていましたが、

 

たしか、

暗い過去をもった、成り上がり美容師の話だったよなー

とか、

その美容師が次々と女を籠絡して殺しちゃうんだよなー

といった、

大雑把なストーリーがなぜか強く印象に残っていて、

 

その男女のドロドロ感みたいなのが、

エライ刺激的でたまらなかった記憶がありました。

 

松本清張といえば、

私の中では”元祖・ドロドロ系”だと思っていて、

その”ドロドロっぷり”が、

いわゆる女性特有のものにとどまらず、

金・権力・名誉・男女関係・家系…などなど、

けっこう広範囲にわたって描かれています。

 

それこそ清張にハマったときは、

この人って相当な人間観察力があるか、

あるいは、

清張自身がそのドロドロしたものを持っているんだろうな…

──としか思えず、

 

よくもまぁこんなに人間の黒さを書けるもんだな、

──と(決して揶揄ではなく)感嘆したものです。

 

自分の経験からして、

だいたいドロドロ系が好きな人というのは、

やっぱりどこか自分のなかにも、

その黒くよどんだモノがあることを知っていて、

かつそれは、

多少なりとも罪あるいは恥(低俗)であることも自覚している。

 

だから、

それが他人やフィクションに投影されたとき、

”知ってる知ってる、この感情!”

とか

”最低!──でも、ちょっとわかる!”

みたいな共感を禁じ得ず、

 

怖いもの見たさで

ついつい見てしまうことが多い…

 

──と(私なりに)考えています。

 

おそらく、

それを提供する側、

たとえば今回でいうと、

松本清張という作家自身についても、

 

単なる人間観察力や、

読者がどんなものを求めているかというマーケティング能力のみならず、

そもそもの前提として、

彼自身にもやはり、

 

どこか自分のなかにも、

その黒くよどんだモノがあることを知っていて、

かつそれは、

多少なりとも罪あるいは恥(低俗)であることも自覚している

 

──といったベースがあるはずと思うのです(前掲)。

 

じゃないと、

ここまで書けないだろ!って。

 

でも、

私はそれが決して悪ではないと思っていて、

むしろ、

人間らしいと思うのです。

 

だって、

綺麗ごとばっかじゃないし。

 

ワイドショーがなくならない理由も、

ゴシップ記事をなぜか見てしまう理由も、

結局そこにあるわけで。

 

みんな低俗・卑俗だとわかっているけど、

絶対に自分も同じようなことを、

100%同じ経験はしていなくても、

似たような経験をかじったことがあったり、

 

あるいは、

経験とまではいかずとも、

どこかで妄想したことがあって、

ふと頭をよぎったものの、

いけねーいけねーとすぐに打ち消したり、

 

──そんな罪の意識にも近い、

恥じらいの?感情を持ち得たことがあるはずです。

 

嫉妬や欲望なんていうのは、

自然に発生してしまうのですが、

私たち人間はそれを理性でコントロールして、

よくない、下卑た、恥ずかしいものとして、

打ち消そうとする。

 

でも、

やっぱり嫉妬するし、

欲望を満たしたいと思う。

 

ある意味、

それが人間の命運でもあるわけですが、

 

嫉妬したり、

欲にまみれたり、

そしてそれを制御しようと頑張ってみるけれど、

どうしても隠し切れなかったり、、、

そこに私は「人間らしさ」があると思うのです。

 

欲望100%でぶつかってきたら、

こいつバカか!赤ん坊か!

と思う。

 

でも、

隠しきれなかったら、

こいつやっちゃたなー(痛いなー)

と思う。

 

この違いは何か?

 

前者については、

すでに自分が卒業しきっているフェーズで、

完全に自分とは違う異質なものと見なしているけれど、

 

後者については、

下手すれば自分もやりかねないフェーズにいて、

同情ではないけれど共感できる部分がある

(──と私は思っています)。

 

みんな、

こいつやっちゃったなー(痛いなー)

って他人事のように批判したりもするけれど、

自分もその過程を(100%他人事ではなく)知っているから、

「やっちゃった」「痛い」と認識する。

 

そして、

どこかで自分じゃなくてよかった…と思いつつ、

下手に知ってるだけに共感もできたりして、

「人の不幸は蜜の味」だとか、

「昼ドラ大好き」な主婦とか絶対いるわけで。

 

──とまあ、

だいぶ話は逸れてしまいましたが、

そんなドロドロを知り尽くした清張作品のなかでも、

この『夜光の階段』は、

とびきりドロドロしまくっています!

 

ドラマ化もされていましたので、

今度、是非観てみたいと思います。

 

※無料動画はこちら(全9話)

第1話

第2話

第3話

第4話

第5話

第6話

第7話

第8話

第9話

  

▽内容:

貧しい青年美容師佐山道夫は、勤め先の美容室の常連客で、証券会社の社長夫人波多野雅子と関係を結び、その出資で独立する。野望に燃える佐山は、一方では雑誌「女性回廊」の編集者枝村幸子に接近し、彼女の紹介で有名タレントのヘヤーデザインを次々と手がけ、一躍美容界の寵児となる。だが、株で穴を空けた雅子が返済を迫るようになり、佐山の胸には黒い計画が生まれる--。
佐山の行動に不審を抱いた幸子は、雅子の“自殺”の真相を探り出す。脅迫し、結婚を迫る幸子を佐山は、幸子の友人福地フジ子を利用してアリバイを作り、殺害してしまう。かねてから佐山に疑惑を抱き、独自の調査を続けていた桑山検事は、ついに彼の黒い過去を突き止め、「女性回廊」誌上で告発するが……。富と名声を求めて犯罪を重ねる男の野心と女の打算を描く、サスペンス長編。

 

登場人物は20名強いますが、

主立った人物は、

・佐山道夫

・桑山検事

・波多野雅子

・枝村幸子

・岡野正一

・福地フジ子

の計6名です。

(詳細は、【登場人物】参照)

 

※ここから先、ネタバレ含みます※

 

物語はまず、

知人の弔問で福岡の温泉地に来ていた検事が、

散歩がてら近くのお寺に参詣したところ、

その二日前に、

偶然、近くのお寺で殺人事件があったことを知る。

(※この「偶然」を「偶然①」とします)

 

被害者は、

佐賀市内に勤める若いOL(村岡トモ子)、

21歳。

 

加害者は、

精神病院から脱走した精神障害を患う男性(蓮田重男)。

 

職業柄、

つい、いろいろ訊いてしまう桑山検事ですが、

結局この事件は、

加害者の精神疾患を理由に刑事責任なしと見なされ、

不起訴で終わってしまいます。

 

それから八年後。

 

大阪から東京高検に異動した桑山は、

妻との何気ない会話から、

今をときめく新進カリスマ美容師「佐山道夫」を知ります。

 

※実は、この章のタイトルが「二年後」とあるので、

読者としては、

先のOL殺人事件から「二年後」かと

勘違いしてしまう紛らわしさがあります。

 

桑山夫人は、

もともと佐山がいた美容店(村瀬美容室)に通っていたのですが、

彼がそこから独立したこと、

その店の店主は彼が抜けて困っていること、

彼の独立には陰で資産家の奥様の援助があったらしいこと、

──などを桑山に話します。

 

そして、

その数日後、

甥の結婚式で九州に行くことになり、

桑山検事は機内でたまたま佐山を見かけます。

(※この「たまたま」を「偶然②」とします)

 

彼は、

いま売出し中の歌手・草香田鶴子の公演に、

ヘアスタイリスト随行していたところでした。

 

その「佐山道夫」という男、

少年時代を九州ですごし、

早くに父親を亡くして、

いろんな職を転々としながら、

いわゆる「暗い人生」を歩んできたのですが、

 

上京して美容師になってからは、

みるみる頭角をあらわして、

今では「鬼才」と謳われるほどのカリスマ美容師に。

 

そのために彼は、

技術的な努力もさることながら、

自分の心身を犠牲にしてまで、

中年太りの有閑マダム(波多野雅子)に奉仕したり、

キャリアウーマンで気鋭の編集者(枝村幸子)に取り入ったりして、

お金と名声を手に入れていったわけです。

 

そして、

桑山検事の奥さんが噂話で聞いてきたように、

独立して店をもち、

いまでは女優や歌手のヘアデザインまで手掛けることに。

 

まさに、

「売れっ子 カリスマ美容師」です。

 

彼は、

まだまだ高みを目指して突き進みます。

 

そのために、

雅子・幸子との二股という「危ない橋」を何度も渡り、

ときに同じ日・同じ場所でニアミスも。

 

猜疑心が強く・嫉妬深い幸子からは、

ことあるごとに、

監視しているかのような追及を受けますが、

道夫はあらゆる手をつかって、

なんとかこれをかわすのです。

 

その道夫が、

ちょうど九州に来ていたとき、

まさに雅子と幸子のニアミス事件が発生するのですが、

彼は別々の宿を手配し、

双方のバッティングをギリギリで避けます。

 

このあたりは、

映像にすると、

きっとハラハラドキドキもんなんだろうなー。

 

さて、

その道夫が幸子の宿に出向くとき、

道夫が乗りこんだタクシーの運転手が、

偶然にも昔の友人・江頭善造でした。

(※この「偶然」を「偶然③」とします)

 

ここで、 

彼が道夫のことを「宮坂くん」と呼んだことで、

道夫の本名(旧姓)は、

佐山ではなく「宮坂」だったことが明らかに。

 

彼は、

暗い過去と決別すべく、

昔の姓を捨てて「佐山道夫」として上京したのです。

 

昔の姓を捨てるほど、

そんなに暗い過去なのか?

──と、

読者としては訝しげに思っちゃうのですが、

この本当の理由は、

追って明らかになります。

 

で、

九州を訪れている桑山検事が、

その二日後に拾ったタクシーもまた、

偶然にも、江頭の運転する車でした。

(※この偶然を「偶然④」とします)

 

そのタクシー運転手との何気ない会話で、

桑山は、

佐山についての過去を少し知ってしまう。

 

いま福岡に有名な歌手(草香田鶴子)が来ていること、

そのヘアースタイリストを昔の同郷の友人が担当していること、

その友人は宮坂道夫といって、

いまは佐山道夫と名乗る美容師であること、

──などなど。

 

運転手は、

佐山の前職についてこそ口を濁していましたが、

その彼の口から、

佐山の本名が「宮坂道夫」であり、

九州出身であることを桑山検事にしゃべってしまうのです。

 

さて、

それからまた数カ月後、

今度は先輩の息子の結婚式で、

桑山検事は都心のホテルに出掛けます。

 

ここで偶然、

彼は別のカップルの披露宴を目にするのです。

波多野伍一郎と久保澄子の結婚披露宴です。

(※この「偶然」を「偶然⑤」とします)

 

どこかで聞いたことある名前だな、

──と思って、

記憶の糸をたどりよせてみると、

妻が以前通っていた美容室に来店する「波多野の奥さま」のご主人であることが判明。

 

帰宅後、

妻にそのことを話すと、

さらに意外な事実が判明したのです。

 

なんでも、

その「波多野の奥さま」はつい先日、急死したようで、

その「波多野の奥さま」こそ、

かの佐山道夫の独立資金を援助し、

いまでは佐山となみなみならぬ関係になっていたんだとか。

 

九州で偶然見かけたカリスマ美容師の佐山と、

その佐山と波多野雅子が深い関係にあって、

偶然にも波多野雅子は急死、

そんな妻の死を待っていたかのように、

夫(波多野伍一郎)は若い愛人と再婚…。

 

──なにかが桑山のなかで引っ掛かる。

 

彼は、

自分の職域外であるのにもかかわらず、

昔、一緒に仕事した桜田事務官にお願いして

波多野雅子の死について調べてもらいます。

 

その結果、

波多野雅子は病死ではなく、

自殺だったことが判明。

青梅の山中で首を吊っての縊死でした。

 

余計に何かあるなと感じた桑山検事。

 

桜田事務官に追加調査を頼んで、

事件を深堀していきます。

 

ために桜田事務官は、

休日返上で九州まで出向いていくという、

献身っぷり。

 

正直、

桑山検事が自分の担当でもなんでもない事件に、

何故にそうまでして関わろうとするのかも疑問ですが、

何が桜田くんをここまで突き動かすのかも、

ぶっちゃけちょっと不明でした。。。

 

このへんは、

若干リアリティーに欠けるかな、と。

 

それはさておき、 

この桜田事務官の努力の甲斐あって、

さらにいろんなことがわかります。

・遺書があったようだが夫(伍一郎)はそれを焼いてしまったこと

・夫は(自分のことは棚に上げ)妻に男がいたとほのめかしたこと

・道夫が九州にいたとき、雅子も(大阪にいくといいながら)福岡に行っていたこと

・(桑山たちを乗せたタクシー運転手が言うには)九州で道夫が泊まった宿にいた女は雅子ではなかったこと

・道夫には今は亡き父親が一人いたが、酒や博打に溺れ、貧しい少年時代だったこと

・道夫はいろんな職を転々としていて、上京前は保険外交員として病院や学校・美容院などにも営業に出向いていたこと

──などなど。

 

雅子の死について云々というよりも、

道夫の過去についてのほうが、

情報量としては多いわけですが、

 

彼(桑山検事)はここで、

道夫が過去に保険の外交員をしていて、

その営業先に病院があったことや、

その時期などから、

ふと八年前のあの寺で起きたOL殺害事件を思い出すのです。

 

そして、

実際、

精神疾患をわずらっていた犯人が収監されていた病院に、

道夫は出入りしていた事実が判明し、

殺されたOLの弟もその病院に一時期入院していたことや、

この殺人事件のすぐあとに道夫が名前を変えて上京していることなどから、

道夫―加害者(蓮田重男)―被害者(村岡トモ子)

が一本の線でつながったのです。

 

この事件にも、

佐山道夫が何らかの形で関与してるんじゃないか?

──桑山検事の勘が動きます。

 

話は波多野雅子の自殺に戻りますが、

彼女は、

証券会社を営む夫から得ていた小手先の知識と資金をもとに、

自分でも株取引をして小金を稼いでいたのですが、

所詮は素人、

そんなにうまくはいきません。

 

気付いたら大損をぶっこいていた。

 

このことが夫にバレたらマズい。

 

でも、

道夫に融通した資金があれば、

この損失を埋められる。

 

──そう考えた雅子は、

道夫に資金の回収を迫ります。

 

道夫としては、

これまでさんざん尽くしてきて、

その報酬として無償で得た資金だと思っているから、

正直、

この雅子の無心が疎ましくて憎くてたまらない。

 

しかも、

ちょうど自身の店を、

自由が丘から青山へ広げようとしていた矢先のことでした。

 

だから彼は、

逢引とにおわせて雅子を山中に連れ出し、

これを絞殺、

その遺体をあたかも自殺のように見せかけて、

木に吊るした。

 

──これが道夫による雅子殺害の全貌なのですが、

夫の証言や警察の鑑定で、

彼女の死は完全に自殺扱いに。

 

一方、

もう一人の女パトロン・幸子は、

その頃どうしていたかというと、

勤めていた出版社を上司とケンカ別れして退職し、

フリーのライターとして駆け出したところだったのですが、

なにせうまくいかない。

 

これまでいかに自分が、

会社という看板や社歴に守られてきたか、

いかに周りをぞんざいに扱ってきたかを

身をもって知ります。

 

自分の能力やキャリアに、

自信たっぷりだったあの幸子が、

私、まずいかも…?

という境地に陥り、

若干不安になっている。

 

でも大丈夫、

私には道夫がいる。

 

彼は、

売れっ子カリスマ美容師。

 

彼さえつかまえておけば、

なんとかなる──。

 

もうこの頃には、

彼女の道夫に対する想いは、

愛情というより、

執着・依存といったものに変容しているわけです。

 

こうなると道夫にとって、

いっそう彼女が疎ましくてたまらない。

 

彼女がフリーとなったことで、

自分を売り出す新しい活路が拓けるのでは?

と期待した部分もありましたが、

どうもそうじゃない。

 

新たにスポンサーを見つけておく必要がある。

 

そうやって道夫は、

新たに二人の女性(資金源)をつかまえます。

 

次第に道夫を手放すまいと焦る幸子。

一方であの手この手で逃げる道夫。

 

ある日、

彼の背中に爪の痕があることを見つけ、

幸子は道夫を追及します。

 

これって、

女を抱いたときにつけられた爪痕でしょう?!

──と。

 

でも、

本当はそれは、

雅子を殺した時に、

彼女が苦しみもがいてつけた爪痕だったんですが、

幸子は「愛欲の絶頂時の痕」と誤解したわけです。

 

その誤解が疑惑に変わったのは、

彼女がメディアで雅子の自殺を知ったときでした。

 

雅子が自殺したとされる日に、

道夫と会う約束をしていたのに、

彼は来なかった。

 

そして後日、

道夫と会ったときには、

彼の躰にひっかき傷があった。

 

──これは、怪しい。

 

そこから彼女は、

道夫から紹介された売れないデザイナー(岡野)を使って、

ちょっと色仕掛けをかませつつ、

岡野に道夫のその日の行動を調べさせるのです。

 

そしたら、

出るわ出るわ、

道夫の疑惑の数々。

 

雅子を殺したのは、

もう道夫しかいない!

──ということが明らかになります。

 

ついに彼女は、

それをタネに道夫をゆすり、

婚約まで取り付けるに至ったのです。

 

桑山検事と桜田事務官は、

週刊誌の記事から佐山婚約のニュースを知るのですが、

 

同時期に、

福岡で佐山と一緒にいた雅子以外の女が、

この枝村幸子という婚約者だったことを掴みます。

 

というのも、

この週刊誌の記事を書いたのが、

偶然にも、

桜田事務官と昔仕事で絡みがあった編集者(福地フジ子)だったからでした。

(※この「偶然」を「偶然⑥」とします)

 

ここで、

佐山道夫―枝村幸恵―福地フジ子―桜田事務官

のつながりが出来上がります。

 

福地フジ子は、

枝村幸子の数少ない友人の一人であり、

独立した幸子から仕事の世話を頼まれながら、

うまく採用できなかったこともあって、

道夫と幸子の吉事をセンセーショナルに書き立てたのです。

 

さて、

この結婚(婚約)、

単なる夫婦関係の構築ならまだしも、

 

実際は、

優位にたった幸子が、

これから道夫のすべてを支配するというものでした。

 

そして、

道夫がアテにしていた二人の女性(竹崎弓子・浜野菊子)にも手切れを迫り、

挙句の果てには、

店の経営にも介入してくるという始末。

 

実はここで、

桑山検事の奥さんが、

水戸の親戚の家から帰る途中、

常磐線の人身事故があって帰宅が遅れるというハプニングがあったのですが、

その人身事故で亡くなったのが、

偶然にも道夫の新たなパトロンの一人(竹崎弓子)だったという、

これまたすごい偶然がありました。

(※この「偶然」を「偶然⑦」とします)

 

そして、

桜田事務官の調査から、

竹崎弓子―佐山道夫―枝村幸子

というラインがまたひとつ明らかになるのです。

 

いよいよ、

佐山道夫と枝村幸子が怪しくなってまいります。

 

さてさて、

道夫としては、

(雅子を殺したことで)

せっかく新しい店を構えることができたのに、

せっかく新しいパトロンまで見つけて、

せっかく新たな階段を昇りだしたのに、

 

なんと、ここにきて、

幸子に足元を掬われるという、

まさかのどんでん返しを喰らってしまったわけで、

 

彼の中で、

そんなことさせてたまるか!

という憎しみがメラメラ燃え上ってまいります。

 

そして考えたのが、

幸子の殺害と、

岡野をつかっての偽装工作。

 

岡野という売れないデザイナーが、

もともとお人好しだったこと、

そして幸子の色気に少しばかり惑わされていたことを、

道夫はうまく利用したのです。

 

本当は自分が殺したんだけれども、

あたかも岡野が殺したかのような、

状況証拠や物証をあらかじめ用意しておいた。

 

そして案の定、

岡野が幸子殺しの犯人として捕まってしまう。

 

この策略のなかで、

道夫は、

幸子の友人である福地フジ子を前もって凋落し、

自らのアリバイを偽装させました。

 

この福地フジ子という人物、

独特のキャラクターの持ち主で、

最初はいわゆる「オトコ女」あるいは「オナベ」的なスタイルで登場するのですが、

こういう女性は、

所詮は「ウブな女」なわけで、

道夫もそれを知っている。

 

この手の女は、

ちょっと優しい言葉・甘い仕草をみせれば、

意外とすぐに堕ちる。

 

このあたりは、

道夫がすごいっていうより、

清張がすごいと思いました。

 

この人(清張)、

女性について何気に詳しいよな、と。

 

──とまあ、

そんなこんなで、

「オトコ女」だったフジ子が、

いつの間にか、化粧を施すようになり、

服装もズボンからスラックスに替わっているわけです。

 

そして、

挙句の果てに、

フジ子までもが長年勤めた出版社を、

寿退社しますと宣言するほどまでに。

 

といっても、

実際は結婚というオフィシャルな形式はとらず、

この段階ではあくまで内縁関係に過ぎないのですが。

 

とはいえ、

完全にフジ子は、

道夫にはまっちゃったわけです。

 

一方、

岡野の公判が始まり、

有力な反証が得られないまま、

岡野の立場はいよいよ悪くなっていきます。

 

岡野以外の犯人、

あるいは岡野ではないという確証より、

岡野以外にはいない、

岡野がやったに違いないという証拠のほうが多く、

有罪確定のリミットは近づくばかり。

 

その後の私的な調査で、

もはや佐山道夫が一連の犯人であることは間違いないのに、

検察という組織の問題上、

何もできない桑山検事と桜田事務官は、

マスコミにリークして事の次第を露呈させんと画策したのですが、

予想した成果は得られず、

むしろ検察内でそれが問題になってしまい、

不本意にも二人は検察庁を辞することに。

 

そして、

岡野の弁護を引き受ける形で、

事件の解明に当たるわけです。

 

本当に、

正義感あふれるお二人ですわ。

(若干、リアリティに欠けるんですが…)

 

さて、

ここにきて、

さすがにヤバいと焦り始めた道夫が、

次にとった行動は何か。

 

──福地フジ子を殺すことです。

 

純朴でお人好しのフジ子。

 

彼女と桜田(元)事務官がつながっていて、

その桜田や桑山(元)検事が、

岡野の弁護を引き受けることになった以上、

余計なことをしゃべられたら、

道夫は終わりです。

 

だから、

正式な結婚そして新婚旅行というお膳立てを用意しておいて、

その前にまさかの水難事故で新婦(フジ子)が亡くなる、

というストーリーを組み立てた。

 

結婚も旅行も、

道夫にとってはあくまでタテマエにすぎないのですが、

フジ子や世間からすれば、

いかにもそれと見える。

 

明日からハワイにハネムーン、

航空券も宿もおさえていて、

帰国後には正式に結婚することにもなっていた、

それなのに、まさかの悲劇が…

──というわけです。

 

ここまでネタバレさせておきながら、

最後の最後、

驚きの?結末はあえて書きませんが、

 

こうしてみると、

最初は、

道夫 vs 二人の女性だった構図が、

一人やられ、二人やられ、

いっきに邪魔者はいなくなったと思いきや、

 

いつの間にか、

桑山検事 vs 道夫の構図にかわっている。

 

そして、

そのなかで福地フジ子という新たな敵(予備軍)が、

また一人やられ、

実は過去にも村岡トモ子という敵がやられていたことが

明らかになってくるわけです。

 

このあたりの展開は、

読んでいて目が離せませんでした。

 

佐山道夫という人物が、

追い詰められては殺人という手法でこれを乗り越え、

また追い詰められては殺していくもんだから、

 

これがいつ終わりになるのか、

どうやって終わるのか、

もう気になって仕方ない!

 

そして、

女性という敵はかわせたけれど、

最後は、

正義感あふれる司直によって出口を塞がれるのです。

 

でもね、

どうしてもひとつ、

文句を言いたいんです、

私は。

 

それは、

もはや言わずもがなですけれど、

あまりに「偶然」が多すぎる!ということ。

 

これだけクドクドと

ストーリーを説明した理由はそこにあるのですが、

あえてもう一度再掲します。

 

偶然①:

桑山検事が八年前に知人の弔問で福岡を訪れた際、

偶然、近くのお寺で(村岡トモ子の)殺人事件があったことを知る。

 

偶然②:

桑山夫妻が甥の結婚式で九州に出向いた際、

機内でたまたま佐山を見かける。

 

偶然③:

道夫が若手歌手の九州公演に随行した際、

乗りこんだタクシーの運転手が、

偶然にも昔の友人・江頭善造だった。

 

 

偶然④:

同じく同時期に、

九州を訪れた桑山検事が拾ったタクシーもまた、

江頭の運転する車だった。

 

偶然⑤:

桑山が知人の結婚式に参加した際、

偶然にも、

波多野雅子の夫の結婚披露宴を見かける。

 

偶然⑥:

枝村幸子と佐山道夫に共通する人物の一人に、

福地フジ子という編集者がいるが、

この福地フジ子と桜田事務官は、

偶然にも、

昔仕事で絡みのある顔なじみだった。

 

偶然⑦:

枝村幸子のせいで、

道夫の新たなパトロンの一人(竹崎弓子)は、

電車に飛び込み自殺をしたが、

偶然にも、

その人身事故に桑山検事の奥さんが遭遇。

 

──とまあ、

どうですか、

この偶然のオンパレード!!

 

作品中で、

作者自身も「世の中狭い」とか「偶然は多い」みたいなことを、

結構書いているんですが、

 

それにしても、

いや、そんな言葉で騙されるほど、

こっちは甘くはないわけです。(笑)

 

だって、

おかしいでしょ、

こんな偶然?!

 

ストーリーの構成として、

あるいは伏線として、

うまく出来ているのは間違いないんですが、

その伏線が、

ほとんど「偶然」によって成り立っている。

 

これが、

私にはすごく不満でした。

 

ここまで「偶然」のオンパだと、

どうしてもリアリティに欠けてしまう。

 

そんなこといったら、

ミステリーの伏線なんていうのは、

ほとんど「偶然」によって成り立っている

といっても過言ではないのかもしれませんけれども、

 

この作品においては、

それがあからさますぎるのが非常に問題で、

良く出来ているけどあり得ないよねぇ?!

っていう話で。

 

だから、

ものすごく展開は気になるんですけれど、

結局、すべてが偶然に支配されてんじゃん!

ってことに気づくと、

どうしても星5つがつけられませんでした。。。

 

あと、

ここには書きませんでしたが、

最後の結末もそれかよ?!

っていう印象で。。。

 

この結末を、

衝撃のラスト!

ととらえる読者も多いと思いますが、

 

私は、

なんだかなぁ…という感じで、

すべてが露呈してしまった道夫のコメントが、

是非聞きたかったです。 

 

まあでも、

ドロドロ×ハラハラ感を味わうには、

もってこいの作品でした。

 

ドラマも観るぞー!

 

【登場人物】

佐山道夫:

本名は、宮坂道夫。佐賀の大川で少年時代を過ごし、家具職人(大川)→陶器の絵付見習い(有田)→生命保険の外交員(鳥栖)を経て、上京。雇われ美容師として腕を磨き、やがて有閑マダムや独身のキャリアウーマン、芸能人などから重宝されるようになり、資金のバックアップも得て、独立。美容界の鬼才となり、名声を得る。

 

桑山信爾:

大阪地検に勤めていたが、東京の検察庁高検)に栄転。まじめで几帳面、曲がったことを嫌う。佐山道夫の身辺で起こる事故・事件を怪しみ、担当外でありながらも独自に調査。道夫の正体を暴いていく。これが検察内で異端視され、異動を命じられ、検察庁を退職。弁護士となる。

 

桜田事務官:

東京検察庁の事務官。もと警視庁・捜査一課の出身。地検時代に桑山とよしみがあり、桑山の助手的立ち位置で、波多野雅子・枝村幸子の死に疑念をもち、佐山道夫の身辺調査にたずさわる。桑山にのっかり、自身も辞職、桑山の弁護士事務所に勤める。

 

波多野雅子:

道夫の女パトロン。証券会社の社長を夫にもつ、中年の太った有閑マダム。道夫に独立開店資金を融資し、自由が丘に店をもたせるが、その後、株の失敗と道夫への資金融通が夫にバレたため、道夫に返済を迫り、青梅の山中で殺される。

 

波多野伍一郎:

波多野雅子の夫で、証券会社の社長。雅子の死を機に、かねてから愛人関係にあったバーのマダム(久保澄子)と再婚。

 

村瀬進太郎/みな子:

道夫が最初に雇われていた美容室の経営者とその妻。美容師として腕のよい道夫をスタッフに抱え重宝していたが、雅子のバックアップにより店から独立されてしまう。

 

枝村幸子:

婦人雑誌「女性回廊」の編集者(のちに独立してフリーに)。道夫をメディアで取り上げ、華々しくPR、彼の名声を高めた。気位が高く、高慢。それだけに男には縁がなく、した手にでるのが上手い道夫にゾッコン。恩着せがましく、嫉妬深い性格で、そのうえ計算高く、道夫にとってどんどん窮屈な存在に。さらに、道夫が波多野雅子を殺した尻尾をつかんでからは、道夫を完全に手中におさめ婚約に至るが、ついに堪えられなくなった道夫に殺されてしまう。

 

藤浪竜子:

いまをときめく歌手・女優。枝村幸子の紹介で、道夫がヘアースタイリストを引き受ける。幸子がフリーのライターになってからは、看板と権威を失った彼女をぞんざいに扱うように。

 

岡野正一:

仙台から東京に出てきたしがないデザイナー。道夫がかつて住んでいたアパートの隣人。なかなかうだつがあがらず、昔のよしみで道夫に仕事の斡旋を頼む。道夫や幸子にいいように使われ、道夫によって、幸子殺しの犯人にでっちあげられる。

 

岡野和子:

岡野正一の妻。家計を助けるため、新宿のバーでホステスとして働く。

 

草香田鶴子:

近頃人気の若手歌手。藤波竜子のヘアースタイリストとして頭角をあらわしてきた新進美容家の佐山道夫に、地方公演(福岡)の随行を依頼。

 

柳田利男:

道夫の助手・弟子。

 

江頭善造:

福岡のタクシーの運転手。道夫とは、佐賀の家具屋(大川製作所)で家具職人をしていた頃の同僚。福岡で偶然、道夫と再会。そのコネを使って、草香田鶴子のリサイタルを観覧させてもらう。

 

村岡トモ子:

佐賀在住の事務員。福岡・二日市の天拝山麓にあるお寺の境内で絞殺死体で見つかる(享年21歳)。当時、佐山道夫と交際関係にあり、佐賀市の食品加工会社に勤めていた。

 

蓮田重男:

村岡トモ子を殺害したとされる犯人。精神分裂病で佐賀精神病院に入院しており、病院から脱走、精神荒廃により殺害を犯した(とされる)。

 

福地フジ子:

男性のような容姿の、週刊誌の編集者。幸子の友人。道夫に手なずけられ、幸子殺しのアリバイ工作に協力。

 

竹崎弓子:

赤坂の割烹料理店の女主人。財界人のパトロン(添島社長)がいたが、一方で道夫ともできていて、パトロンから受け取っていた資金を、道夫に融通。幸子がこれを添島にリークし、絶縁と返金を言い渡されたため、鉄道に飛び込み自殺。

 

浜野菊子:

道夫と関係のある女の一人。製薬会社社長の妻。夫が不倫していたため、自身も道夫と不倫し、道夫の青山出店の際には資金の一部を融通。しかしその後、幸子の追及と脅迫に負け、道夫と別れる。

 

黒原三郎:

青梅林業の若いトラック運転手。青梅の中華料理店(和来軒)の前で、道夫と雅子が乗る車とトラブルを起こし、口論になった相手。

  

  

■まとめ:

・再読だったが、相変わらずのドロドロっぷり×ハラハラ感が満載で、先が気になって仕方なかった。
・ストーリーの構成・伏線として、うまく出来ているのは間違いないが、その伏線がほとんど「偶然」によって成り立っているのが不満。ここまで「偶然」のオンパだと、どうしてもリアリティに欠けてしまう。展開は気になるものの、結局、すべてが偶然に支配されていることに気づいてしまうと、満足レベルが落ちる。

・最後の結末や、二人の検察関係者の正義感みなぎる熱意も、自分としてはパッとしなかった。


■カテゴリー:

ミステリー

 

■評価:

★★★★★


▽ペーパー本は、こちら

夜光の階段 (上) (新潮文庫)

夜光の階段 (上) (新潮文庫)

 

 

夜光の階段 (下) (新潮文庫)

夜光の階段 (下) (新潮文庫)

 

 

Kindle本は、こちら

夜光の階段(上)

夜光の階段(上)

 

 

夜光の階段(下)

夜光の階段(下)

 

 

 

真田太平記(3) ★★★★★

池波正太郎さん

真田太平記(三)上田攻め (新潮文庫)

を読み終えました。

 

評価は、星5つです。

 

これまで一巻二巻と、

圧倒的なおもしろさで、

見事にハマってしまいましたが、

ここにきて少し中だるみ?してきた感もあります。

 

とはいえ、

やっぱり面白い。

 

徳川と北条を敵にまわしてしまった真田家が、

このピンチをどう脱するのか?

 

そして天下を治めた豊臣秀吉と、

どう渡り歩いていくのか?

 

当主である真田昌幸はもちろんのこと、

信幸(兄)・幸村(弟)が辿りはじめる運命はいかに?

 

──と、

気になる展開が続きます。

 

▽内容:

上州・沼田城の帰属をめぐり北条家と争う真田昌幸は、ついに徳川・北条連合軍と戦端を開く。出来たばかりの上田城に拠った昌幸父子は、捨身の決戦で数倍の敵を退ける。そして、旧態依然たる北条家のふるまいに嫌気がさした豊臣秀吉は、甲賀忍びの御伽衆・山中長俊の仕組んだ謀略を使って開戦にもちこみ小田原城を攻め落とす。こうして秀吉の天下統一はなったのだが…。

 

第三巻は、

沼田を守るために家康と手切れした真田家が、

ついに徳川・北条家と剣を交える上田合戦(1585年)

そして秀吉側に本格的に従属してからの小田原攻め(1590年)

さらにその後、

秀吉の朝鮮出兵で派兵を準備するところまで。

 

年号にして、

秀吉の朝鮮出兵は1592年とありますから、

だいたい1591年くらいでしょうかね。

 

まず、

上田合戦では、

数では決してかなわない大軍を前に、

真田家はこれを得意の謀略でもって防ぎ、

奇跡的な勝利を手にします。

 

このとき、

長男の真田信幸が、

父・昌幸に次のようにアドバイスします。

 

「このたびの戦は、一日にて、決着をつけてしまわねばなりますまい」

 

昌幸は、

そんなことわかってるよ!

──と言わんばかりに、

生意気な信幸に苦虫を噛みながらも、

 

「そうか…」

「そうか、わかったぞ、源三郎…」

 

 

と一転して破顔に。

 

まさに、

昌幸のなかで「一瞬のひらめき」が起こるわけですが、

読んでいるほうからすると、

これにはあまりに突発すぎる感がありました。笑

 

でも、

え?どうやって決着つけんだよ?

──と、

気持ちはついつい急いてしまう。

 

結論からいうと、

上田城に小細工をして、

敵を集めるだけ集めて逃げられないようにしてから、

その小細工をつかって蹴散らします。

 

──これが戦術になるのですが、

この戦術は、

実は二回りも三回りも塗り固められていて、

次から次へとさらなる作戦が展開されるわけです。

 

そこにまた心をとられてしまう。

 

そしてそれが次々に成功していくのです。

これはもう、一種の爽快感。

 

ここで、

かつてのライバル・上杉景勝が、

実はすごい強力な盟主になったことも描かれていて、

上杉景勝という人物についての興味もわいてきました。

 

一方で、

北条氏政・氏直はというと。

 

こちらも真田家にとって、

永らくライバルでしたが、

この上田合戦のあとも、

相変わらず、

沼田をよこせ、名胡桃をよこせとうるさい。

 

家康にうまく取り入り、

同盟関係を結ぶところまでは、

決してバカじゃないんだなと思っていましたが、

そのあとの時の趨勢の読み方がアホというか、見えていない。

 

秀吉がいかにすごい人物で、

さすがの家康もしたがったほどなのに、

この北条父子はなかなか意を曲げない。

 

頑固でプライドが高く、

政治的判断力や交渉力に欠ける。

 

つまり、お馬鹿さん。

 

どうも、

この小説を読む限りでは、

そのように見えてしまうのです。

 

だから、

今度は別角度から、

この北条家という人物像を覗いてみたいとも思いました。

 

そして、

最後の朝鮮出兵

 

実際にはその手前までなんですが、

秀吉がなぜかトチ狂って、

朝鮮を足掛かりに、

明まで手中におさめようと息巻いています。

 

信長存命中から、

もともとその気はあったようですが、

彼の野望がもはや現実的でなくなってしまったのは、

愛する家族や腹心を失い、

もはや心ここにあらずだったから、

──と(本作のなかでは)書かれています。

 

異父弟の秀長、

愛息の鶴松、

そして千利休がまさにそれです。

 

秀吉は千利休を自害させていますが、

なぜ彼が懇意にしていた千利休をそうさせたのか、

それについて本作では、

「愛と憎しみは紙一重のもの」

という言葉で説明していましたが、

 

要は、

千利休に対し)

「深く信頼していたからこそ信奉してほしかった」

というおもいが秀吉のなかにあって、

結局はそれが強すぎてついにかなわなかったから、

その反動にでてしまった、

──ということなのでしょうかね。

 

秀吉と千利休の関係については、

他にもいろいろ小説や文献が出ているでしょうから、

こちらも今度、

是非読んでみたいと思っています。

 

秀吉と利休 (新潮文庫)

小説 千利休 秀吉との命を賭けた闘い (PHP文庫)

 

──とまあ、

この第三巻も、

何かと興味をそそられる内容が盛りだくさんでした。

 

ついでにいうと、

登場人物もこれまで以上に多かった気が。

(これは結構、大変だった…)

 

そして、

真田信幸と幸村の兄弟が

それぞれ別々の運命をたどることになるであろう伏線が、

この巻からわりと明確に引かれています。

 

兄弟の行方はいかに…?!

 

次回も楽しみです。

 

※第一巻のレビューはこちら

※第二巻のレビューはこちら

 

【登場人物】

本多忠勝
徳川家康の第一級の重臣。秀吉と対決した小牧・長久手の戦いでは、秀吉の追撃部隊を阻むべく、小勢で果敢に秀吉に挑む。徳川・真田の政略結婚で、忠勝の娘(稲姫)を真田源三郎信幸に嫁がせる(1588年)。

 

鳥居元忠
徳川家康の第二級の武将。上田攻めの先手大将をつとめる。

 

大久保忠世
徳川家康の第二級の武将。上田攻めの先手大将をつとめる。家康の祖父(松平清康)のころから徳川家に仕える譜代で、二俣城主。弟に、大久保彦左衛門忠教(ただたか)がいる。

 

・柴田康忠/菅沼重直:
徳川家康の家臣。上田攻めでは、大久保忠世を補佐。

 

平岩親吉
徳川家康の第二級の武将。上田攻めの先手大将をつとめる。家康の長男・信康が切腹したとき、その補佐役であったことから、永らく謹慎を言い渡されていたが、上田攻めで汚名挽回をはかろうと躍起。

 

・諏訪頼忠:
母が武田信玄の妹であったため、かつては武田家に仕えていたが、武田家滅亡後は家康に仕えるも、信州をめぐって、徳川・北条が対立すると、北条氏直に与し、同盟後には再び家康に仕える。上田合戦にも参加。徳川軍の先鋒を務めるも、いきなり真田軍の奇襲攻撃に蹴散らされる。

 

・池田長門
真田家随一の奇襲の名人。上田合戦では、源三郎信幸とともに真田軍の先鋒をつとめ、信幸の本軍と別働隊を率いて、徳川軍を狙撃・かく乱する。

 

今川氏真(うじざね):
故・今川義元の嗣子。父・義元が信長に討たれてからは、武田信玄徳川家康の攻勢に堪えられず、駿府を出て京都で静かに余生を送る。蹴鞠の天才で、性格的には戦国大名というより、公家寄りだった。

 

・鈴木主水:
名胡桃城主。上杉謙信に仕えていたが、謙信の死後、真田幸村に属し、上田合戦では吾妻・中山城の北条軍と対立し、防戦。猪俣邦憲と義弟・中山九兵衛の内通によって妻子と名胡桃城を奪われ、城下の寺で自死

 

・丸子三左衛門:
信州・丸子城主で、真田昌幸に従属。昌幸がうまく重用したことで、昌幸を深く信頼するようになり、家康の上田攻めの誘いにものらなかった。

 

上杉景勝
故・上杉謙信の養子で、景虎との家督争いに勝ち、上杉家の当主となる。信玄・信長の亡き後、川中島へ出兵し、森長可を追い払って海津城を手中に治める。過去、真田家と対立もしていたが、上田合戦では真田側を援護。はやくから秀吉に従属。真田幸村を人質としてあずかるも、その人柄を高評価し厚遇。

 

・須田満親(みつちか):
上杉景勝に仕える武将で、海津城代。上田合戦で、真田家に助勢し、徳川勢による上田陥落を防ぐ。

 

・藤田能登守:
上杉景勝に仕える武将。上田合戦における真田軍の先勝を受けて、さらに援護を厚くすべく、景勝より出兵を命じられる。

 

井伊直政
徳川家康の重臣。上田合戦で先陣の四武将(大久保・鳥居・諏訪・平岩)が苦戦したため、家康の命を受けて参戦。

 

・向井佐平次:
武田家側の一兵卒として仕えていたが、高遠城の落城で壺谷又五郎とお江により一命をとりとめ、真田幸村に仕える。幸村が上杉景勝の人質となったときも、春日山へ随行し、身の回りの世話をする。幸村が秀吉のもとに移送されると、壺谷又五郎とともに大阪へ。

 

・もよ:
真田家に仕える草の者(赤井喜六)の娘。父の死後、岩櫃城に引き取られ、真田幸村らの身の回りの世話にあたっていた。その後、砥石へ移り、向井佐平次と結婚して、佐助を産む。

 

北条氏直
北条氏政の長男。一時は東信濃をめぐって上杉景勝と対立し、真田昌幸と同盟するも、沼田の領有権をめぐって真田家と対立。徳川と同盟し、沼田城を攻めんと、北条氏邦(叔父)・太田氏房(弟)を大将とする征伐軍を編成するが、矢沢頼綱の防戦に阻まれ失敗。その後、秀吉の仲介で沼田城を手中におさめるが、名胡桃城の領有権についても主張。秀吉への隷属をガンとして拒んだため、小田原攻めにあい、最後は一命をとりとめるも、高野山に放逐される。父・北条氏政と叔父・氏照は打ち首。

 

・矢沢薩摩守頼綱:
真田昌幸の叔父で、矢沢(但馬守)頼康の父。沼田城代として、これまでに何度も北条軍を防戦してきたが、上田合戦の際も、氏邦・太田氏房率いる北条軍に反撃。秀吉の仲介で北条家に沼田城を明け渡したのちは、岩櫃城代に。

 

・矢沢但馬守頼康(三十郎):
真田昌幸の従弟で、岩櫃城の元城代。上田合戦では岩櫃を離れ、矢沢の砦に入り、徳川軍の上田攻めを防戦。

 

・樋口角兵衛政輝:
武田家に仕えていた樋口鑑久と久野(真田昌幸の義妹)の子とされるが、実は真田昌幸と久野の子。幼い頃から強力無双。お徳(真田昌幸の妾)殺害を企てるも失敗し、行方をくらませていたが、上田合戦にあたり、上田城に帰還。永らく真田信幸を信奉し、幸村を疎んでいたが、国俊の短刀事件を機に、精神的にも成長した幸村と和解し急接近。

 

石川数正
岡崎城主で、家康の重臣だったが、秀吉への使節を務めるうちに秀吉に懐柔され、天正13年(1586年)妻子一族を連れて秀吉のもとに逃走。家康が上田攻めを諦める押しの一手になる。

 

・真田源三郎信幸:
真田昌幸の山手殿との間の長男。第三巻では、上田合戦で大活躍。自ら決死隊を率いて徳川軍に奇襲を仕掛け、攻防。真田家が秀吉陣営に入って、徳川と和解すると、家康の養女で本多平八郎忠重の娘(稲姫)をもらいうける。その後、小田原攻めで、沼田城が北条方から戻ってくると、真田家初の城主に。

 

・真田源二郎幸村:
真田昌幸の次男で、妾腹の子とされる。第三巻では、上田合戦の勝利の約束として、上杉景勝のもとに人質として身を寄せる。その後、真田昌幸・信幸の大阪城上洛の際、秀吉のもとに移送されることが決定。

 

新発田治時(はるとき)/芦名盛重:
新発田は越後、芦名は会津の武将で、上杉景勝に従属していたが、1586年に景勝に反旗を翻して挙兵。真田昌幸は矢沢頼康に命じて景勝を援護。

 

長宗我部元親
四国の大名。家康と織田信雄の呼びかけに応じて、永らく秀吉と対立してきたが、降伏。その後、秀吉は関白に任ぜられる。

 

今出川(菊亭)晴季:
真田昌幸の正妻・山手殿(典子)と、その妹・久野の父。右大臣にあり、秀吉の関白就任に尽力。これで、秀吉は近衛前久(さきひさ)の猶子となり、関白・藤原秀吉となるも、藤原一族の反感を疎い、天皇より直接、豊臣姓を賜って太政大臣の地位に。

 

佐々成政
柴田勝家の与力、富山城主。家康と織田信雄の呼びかけに応じて、永らく秀吉と対立してきたが、長宗我部元親に続き、こちらも降伏。

 

織田信雄
信長の次男、清州城主。異母弟の信孝と反目、信孝&譜代派(柴田勝家滝川一益)と対抗し、一時は秀吉につくも、その後離反。家康を頼って小牧・長久手の戦いで秀吉に快勝したが、その後、秀吉の和議申し入れに応じ、完全に秀吉の幕下に入る。佐々成政へ降伏を仲介したのも信雄。

 

織田長益
信長の弟。秀吉の旗下にあり、家康に上洛をすすめる使者となる。

 

・於義丸:
家康の二男。11歳で秀吉のもとに人質として出される。

 

・朝日姫:
秀吉の異父妹。もとは尾張・中村の百姓の妻だったが、秀吉の出世にともない、夫婦の身分も上がるが、夫を亡くし、再婚・三婚をするも、秀吉→家康の懐柔策のために離縁、家康のもとに嫁ぐ。

 

徳川秀忠(長丸):
家康の三男で世継ぎ。小田原攻めの前に、12歳で秀吉のもとに人質として出されるが、秀吉はこれを京都で厚遇してから駿府に戻す。

 

・大政所(仲):
秀吉の生母、もとは尾張・中村の百姓で織田家の足軽をつとめる木下弥右衛門に嫁いでいたが、夫を亡くしてから織田家の茶同胞をつとめていた筑阿弥(ちくあみ)と再婚。家康の懐柔策のため、一時は家康のもとに送られたが、家康の上洛後、丁重に送り返される。

 

・智子(とも):
秀吉の実姉。仲と木下弥右衛門の間に産まれる。

 

豊臣秀長
秀吉の異父弟で、朝日姫の実兄。仲と筑阿弥の間に産まれる。はやくから秀吉を支え、秀吉の天下統一を助けるも、朝鮮出兵の前に病死。

 

・寧々(ねね):
秀吉の正妻(北政所)。

 

稲姫(小松殿):
本多忠勝の娘。徳川・真田の和睦にあたり、家康の計で、真田信幸と政略結婚。その際、家康の養女となる。

 

・お徳:
真田家に仕えていた足軽(岡内喜六)の元妻だったが、その後、真田昌幸の側室となる。名胡桃城の鈴木主水に預けられ、娘(於菊)を産む。北条方による名胡桃攻めで運よく脱出するも、傷が治らず、死去。

 

島津義久
薩摩の大名。最後まで秀吉に対抗していたが、降伏。

 

大友宗麟
豊後の大名。はやくから秀吉に屈し、秀吉の薩摩平定においても協力。

 

・鈴木小太郎忠重(右近):
鈴木主水と栄子の息子。幼少時より病弱・色白だったが、85歳の長寿をまっとう。北条方に名胡桃城を攻められ、母と共に北条勢に捕えられるも、その後、解放され、真田信幸に仕えて沼田城に移る。信幸・小松殿の好意で、於順との縁談がとりもたれていたが、好意を失意ととらえ、沼田より姿をくらます。

 

・栄子:
鈴木主水の妻で、上州・中山城主:中山安芸守の娘。実家の中山城は北条家に奪われる。猪俣邦憲と弟・九兵衛の内通で名胡桃城を落とされ、北条勢に捕えられる。忠重とともに沼田城へ移って間もなく病没。

 

・中山九兵衛実光:
栄子の弟で、鈴木主水の義弟。中山城にいたが、北条家に攻め入られ、名胡桃城に身を寄せる。その後、名胡桃城を狙う北条側と密かに通じ、猪俣邦憲に協力して、北条方による名胡桃城奪取に内応。のちに事情を知った北条氏直から猪俣邦憲をそそのかしたと疑われ、沼田城へ身柄を移されて謹慎。

 

・諸田頼母(たのも):
鈴木主水の重臣。北条方で沼田城代の猪俣邦憲と中山九兵衛の内通により、名胡桃城が落城した際、討死。

 

直江兼続(かねつぐ):
上杉景勝の寵臣。景勝と共に秀吉に謁見した際、早くから秀吉にその才幹ぶりを見初められ、後年、豊臣姓を与えられる。のちに天下を争う大戦の立役者に。

 

・豊臣(三好)秀次:
秀吉の甥。三好吉房と秀吉の姉(智子)の息子。実子がいない秀吉の養子となる。秀長(秀吉の弟)・鶴丸(秀吉の息子)亡き後、跡継ぎに決まるも(関白の地位も譲られる)、周囲の期待は薄かった。

 

・茶々(淀殿):
於市の方(信長の妹)と故・浅井長政との間に産まれた娘。於市の方は、柴田勝家と再婚し、三女をもうけるも、賤ヶ岳の戦いで死去。遺子を秀吉が引き取り、茶々を側室にする。小田原攻めの前に男子(鶴松)を産むも、わずか三歳で病死。しかしその二年後に秀頼を産む。

 

本多正信
もともとは家康の鷹匠三河一向一揆の大将として家康に歯向かったこともあるが、上田城稲姫が嫁ぐ際には、その行列を先導。

 

・禰津長右衛門/河原右京亮:
ともに、真田昌幸の側近。上田から小諸に出向いて、稲姫の輿入れを出迎える。

 

・山中内匠長俊(やまなかたくみながとし):
秀吉の御伽衆(側近)の一人で、策士。山中俊房の又従弟で甲賀出身。秀吉の諜報組織の筆頭。

 

・督姫:
徳川家康の娘。徳川・北条の同盟締結において、北条氏直に嫁ぐ。よって、家康は北条氏直の岳父にあたる。

 

・富田知信/津田信勝:
秀吉の家臣。真田から北条へ沼田城を明け渡す際、秀吉の仲介代理として立ち会う。徳川家康は、重臣・榊原康政を派遣。

 

・猪俣能登守邦憲(くにのり):
真田から北条への沼田開城で、北条方の沼田城代として入城した武将。秀吉と山中長俊の謀略で、名胡桃城を攻めてしまい、秀吉に小田原攻めの口実を与えることに。

 

・柏木吉兵衛:
もとは甲賀忍び。山中長俊を古くから慕う老熟の忍び。山中の命を、北条に忍び入っている酒巻才蔵(住吉慶春)に伝える。

 

・山中大和守俊房:
甲賀の豪族で、武田信玄織田信長徳川家康に協力。徳川の間諜網の重要ポストに就く。お江の父(馬杉市蔵)の上司でもあった。

 

竹中半兵衛重治:
もとは、斎藤道三の孫・斉藤竜興(たつおき)の家来。竜興を見限って浪人になったところを秀吉が召し抱え、軍師とする。山中長俊を秀吉に紹介。

 

・心山和尚:
小田原城下の法城院(=山中長俊の基地)の和尚。長俊の叔父でもあり、甲賀出身の忍びの一人。少年時より仏門に入門。

 

・住吉慶春(酒巻才蔵):
北条父子の御伽衆の一人で、絵師。北条父子に気に入られ、小田原城内に居住を許されるも、実体は秀吉のスパイの一人。もとは甲賀忍びで山中長俊に仕え、お江の父(馬杉市蔵)と同じく、武田家に雇われていたことも。山中長俊の密命で、小田原から沼田城へ出向き、ニセの密書を猪俣邦憲に手渡す。

 

・お江(おこう):
真田家に仕える女忍び。第三巻では、住吉慶春(酒巻才蔵)に接近し、昔の(父の)よしみで、秀吉と山中長俊の小田原討伐作戦を入手。主家(真田昌幸)にこれを伝える。

 

・寺尾新兵衛:
沼田城の北条方と中山城の中山九兵衛を密かにとりもっていた連絡係。

 

石田三成(治部少輔):
滋賀・長浜の出身。幼少時より学問に通じ、寺子に出されていた際、秀吉の目にかなって出仕。若くして出世し、水口城主を務め、貿易奉行にも抜擢。真田幸村にも目をかけ厚遇。

 

北条氏邦
北条氏直の叔父で、鉢形城主。秀吉勢より先に沼津城に攻め入り、ここを牙城とすることを提言。小田原開城の際には、秀吉より目をかけられ、加賀の前田利家のもとに預けられる。

 

・松田憲秀:
北条家の老臣。北条氏邦の積極抗戦論をたしなめ、小田原で防戦一方を説くも、裏で秀吉と通じていた。息子・左馬之助にこれを勘付かれ、自害。

 

・大道寺政繁:
北条家の老臣で、松井田城主。本能寺の変滝川一益が上州から退いた隙に、すぐ松井田城に入る。秀吉・真田の小田原攻めの際に、おびき寄せ作戦を遂行し、一時は真田信幸を追い込むも、樋口角兵衛の援護で失敗。その後、前田利家上杉景勝の本軍に攻められ、松井田城に立てこもるも、降伏。

 

・渡辺勘兵衛:
別名「槍の勘兵衛」ともよばれるほどの、槍の名手。秀吉の小田原攻めの際、箱根の山中城を一日で落としたが、主君・中村一氏がその論功を我が物にしたため、小田原攻めが終わらぬうちに中村一氏のもとを離れ、浪人となる。これを真田昌幸が召し抱えようと画策したが、先に増田長盛に見出され、一足違いで獲得できず。

 

・太田氏房:
北条氏直の弟で、守将。秀吉方の宇喜多秀家に懐柔され、早くから北条家に降伏を説くも、北条父子(とくに父・氏政)の反対で長期化。

 

北条氏規(うじのり):
伊豆・韮山城主。たてこもって奮戦を続ける。

 

伊達政宗
奥州の勇将。18歳で家督を継いでから、近辺の諸氏を相手に勇戦を繰り返し、宿敵・芦名義広を討ち取る。芦名が秀吉に従属していたため、秀吉を敵に回すことになり、北条家との同盟も検討していたが、秀吉の呼びかけに応じ、小田原攻めに参加。

 

・保春院:
伊達政宗の母。政宗の片目を嫌悪し、弟(小次郎)を当主にせんと、政宗が小田原に出向く前日、彼を毒殺しようとはかる。これにて弟(小次郎)は打ち首、保春院は兄・最上義光のもとへ放逐。

 

最上義光(よしあき):
出羽・山形城主で、保春院の兄。保春院による政宗毒殺について、影で糸を引いていたといわれる。

 

・滝川雄利:
秀吉方にあって、かねてより北条方と無血開城の工作にあたっていた人物。北条氏直が弟・太田氏房をともなって家康のもとに投降してきた際、家康が滝川のもとに差し向け、滝川がこれを秀吉に仲介。

 

・杉野源右衛門:
もとは鈴木主水の家臣だったが、主水亡き後、真田昌幸に仕え、上田に移る。

 

・於順:
杉野源右衛門の次女。沼田城で、信幸夫人・小松殿の待女をつとめる。しばらく子を授からなかった小松殿の策で、一時は真田信幸の側室候補となったが、鈴木右近忠重の仲裁でこの線はなくなる。

 

・三宅清太夫:
本多平八郎忠勝の侍臣。秀吉の朝鮮出兵にあたり、家康も派兵することを使者として真田信幸に告げる。

 

・宗義調(よししげ):
対馬の領主。鎌倉期より対馬を治め、長年にわたり、朝鮮と日本を仲介。秀吉より、朝鮮国の屈服を打診されるが、国王みずから来日しないことに立腹した秀吉はこれを突っぱねたため、小西行長に相談。

 

小西行長
秀吉に仕える、肥後の大名。宗義調の岳父。宗氏の相談に応じ、秀吉を説得。これによって秀吉は朝鮮の使節団に会う。

 

大谷吉継(よしつぐ):
若いころから秀吉の小姓として奉公、武勇の誉れたかく、越前・敦賀城主に任ぜられる。らい病を患い、悪意のある噂も多かったが、かねてより真田幸村に目をかけ、好意を寄せていたため、むすめを幸村に差し出す。

 

千利休(宗易):
堺の商人だったが、武野紹鷗に茶の湯をまなび、侘び茶を大成。信長・秀吉に仕えたが、秀吉の怒りを買い、自決。

 

・真田安房守昌幸:

真田幸隆の三男。二人の兄を長篠の合戦(織田信長vs武田勝頼)で亡くし、真田家の当主に。真田信幸・幸村の父。

 

・山手殿:

真田昌幸の正室で、源三郎信幸の母。気位が高く、かつては昌幸の妾・お徳の暗殺を企てたくらいだが、お徳が娘を産んで、かつ名胡桃城で命をおとしかけてからは、同情するように。

 

・久野:
山手殿の妹で、樋口角兵衛の母。真田昌幸と情を交わしており、角兵衛は実は昌幸と久野の子。

 

・壺谷又五郎

真田家の間諜組織の筆頭。もとは武田家の忍び(伊那の忍び)だったが、真田昌幸がもらいうけ、真田家に直属するように。

 

 

【印象に残ったこと】

・家康は、大病(背中の腫瘍)を患い、生死をさまよったことで、忍耐強く・慎重になった。息子たち(秀康・秀忠)が幼く、あとを任せられないこともあり、ようやく秀吉と手を結ぶ決意をしたものの、真田に上杉が味方し、さらにその上杉は秀吉の傘下にあったため、上田合戦は再び徳川vs羽柴の代理戦争に。

 

・家康も、重臣たちも、上田攻めを甘く見ていた。上田は徳川の二級武将が、沼田は北条家が攻めるも、上田は真田昌幸・信幸父子の奇襲&挟み撃ち作戦で大きな痛手を被り、沼田は矢沢頼綱の攻防にあって戦果をあげられなかった。

 

・上田合戦で、真田軍の先鋒をつとめたのは真田信幸。上田城を守る父にかわり、城外で決死隊を指揮し、奇襲を講じて戦果をあげる。予期しない抗戦としぶとさに、家康は上田攻めを一旦諦めるが、秀吉との緊張関係が高まったこともこれを後押し。重臣の石川数正が秀吉のもとに走ったり、秀吉が関白→太政大臣に就任、名実ともに天下統一を果たし、天皇のお墨付きを得てしまったこともあって、上田出兵はしばらくお預けになる。しかし、その二度目の上田攻めを家康に諦めさせ、真田と徳川の間をとりもったのも、秀吉だった。これにより、真田昌幸は、沼田を手放すことを決意(北条へ渡る)。かわりに家康領だった伊那の一部と、岩櫃城・名胡桃城の二城の領有権(存続権)を得る。

 

・天下統一を果たした秀吉は、再三にわたり家康に上洛を促すも、家康はこれを断固拒否。秀吉の度重なる懐柔策(異父妹・朝日姫を家康の後妻として差し出したり、生母・大政所を日と人質として送ったり)に折れ、ついに上洛を果たす。

 

・秀吉は西国(四国・九州)を平定して実質的に天下統一を果たすために、東国については、徳川家康(&北条氏政+氏直)・上杉景勝真田昌幸を懐柔しておく必要があった。真田幸村を差し向けろと、直接、上杉景勝に言わなかったのは、上杉に対する遠慮のため。

 

・最初は、上杉景勝のもとに、その後、秀吉のもとに人質として送られた真田幸村だったが、景勝からも秀吉からも大いに可愛がられた。

 

・「関東の支配者」を自負する北条氏政・氏直父子は、最後までプライドを捨てることができなかったため、秀吉の怒りや家康の呆れを買い、ついに秀吉によって征伐された。また、自らが居住する小田原城を「天下の堅城」と豪語し、そう簡単には落ちないと思い込んでいたことも、大きな誤算だった。

 

・家康は家臣のマネジメントにすぐれていたし、良い家臣をもっていた。

 

徳川家の、(中略)老臣たちは主家を自分の家と考え、領国を自分の国とも思って、家来ではあっても、主人の家族のひとりだという意識が強い。(中略)徳川家が栄えるならば、取りも直さず、それは自分の家の栄えになる。これが、徳川譜代の重臣たちの考え方なのである。

 

真田昌幸・幸村親子にとって、上杉景勝の寛容と石田光成の厚意は、強く印象付けられ、のちのちまで影響。

 

一は、真田が浮くか沈むかの苦境に立ったときに受けた恩恵であり、一は、危急を知っていながら、あえて、「見殺しにした…」いや、見殺しにせざるを得なかった名胡桃城と鈴木主水の遺族の安否を(三成から)知ることができたという安心。そして、わがむすめ生存をたしかめたよろこびである。

 

真田昌幸の隠し子で、信幸・幸村の異母弟にあたる樋口角兵衛は、当初は信幸にぞっこんで幸村を目の仇にしていたが、人質となって他家を渡り歩く幸村が精神的に成長したことで、角兵衛をうまく懐柔。角兵衛は掌を返したように、幸村にぞっこんになる。

 

大阪の豊臣秀吉の許で暮らした二年の歳月が、幸村を成長させ、角兵衛に対する心が変わるにつれ、それが粗暴な角兵衛の胸中へもつたわったのであろうか…。幼少のころから、幸村には、さんざんに嘲弄され、力くらべでは負けぬ角兵衛も、幸村の才智に結局は屈服せざるを得なかった。

 

・信長は、武人としてだけでなく、モダンな芸術家(芸術を愛する)としても有名だったが、秀吉もまたその信長のもとで洗練され、建築・芸術・衣服などに財を投ずるのを惜しまなかった。

 

・小田原討伐後、家康は関東へ移ることを命ぜられ、かつて家康の領国だった駿河三河遠江には、秀吉の子飼いの家臣に任せてしまった。この人事配置がのちのち失策となって裏目にでてしまった。

 

秀吉は自分と家康との間に〔緩衝地帯〕をもうけ、信頼のできる自分の勢力を入れ、この〔地帯〕を、しっかりと経営させる。これが、秀吉のねらいであることはいうまでもない。

 

(しかしながら)豊臣秀吉が亡くなったのち、豊臣の残存勢力は、関東(徳川家康)の進出に対し、複雑微妙におくれをとってゆくことになる。それもこれも東海の三国が、豊臣家のものとして、しっかりとうちかためられていなかったからだ。

 

■まとめ:

・第三巻は、沼田を守るために家康と手切れした真田家が、ついに徳川・北条家と剣を交える上田合戦(1585年)、そして秀吉側に本格的に従属してからの小田原攻め(1590年)、さらにその後、秀吉の朝鮮出兵で派兵を準備するところまで。登場人物が多くて複雑だが、真田信幸・幸村兄弟がそれぞれ別の運命を辿り始める、いわゆる「分かれ目」がここからスタート。

・上田合戦における真田昌幸・信行親子の作戦・奮闘ぶりには目を見張られる。そしてその作戦や奇襲が次々と成功するので、一種の爽快感を感じた。

・また、上田合戦における上杉景勝の寛容さや、小田原攻めにおける北条父子(氏政・氏直)の愚鈍さ、秀吉と千利休の関係など、本作とはまた別の角度からその人物像や人間関係を見てみたいという興味がわいた。


■カテゴリー:

歴史小説

 

 

■評価:

★★★★★

 


▽ペーパー本は、こちら

真田太平記(三)上田攻め (新潮文庫)

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Kindle本は、こちら

真田太平記(三)上田攻め

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目線 ★★★★☆

天野節子さん

目線 (幻冬舎文庫)

を読了しました。

 

評価は、星4つです。

 

天野作品は、

これまで、

彷徨い人 (幻冬舎文庫)

氷の華 (幻冬舎文庫)

烙印 (幻冬舎文庫)

と読んできましたが、

 

おもしろさでいうと、

『氷の華』と肩を並べるくらい、

よく出来ていて、

展開が気になって仕方なかったです。

 

天野さんの作品は、

(有名どころは)これで一応すべて制覇したわけですが、

あえて順番をつけるとすると、

 

1.目線

2.氷の華

3.彷徨い人

4.烙印

 

──という感じになるかもしれません。

(なんと、1位?!)

 

そのくらい、

この作品は構成・展開がよく出来ていて、

とてもおもしろかったと思います。

 

正直、星5点でもいいかも。

 

最後まで読むと、

(タイトルにある)「目線」って、そういうことだったのね!

と納得。

 

おススメです。

 

▽内容:

建設会社社長の堂島新之助が、自身の誕生日にベランダから落ちて死亡する。宴の場に集っていた家族ら11人にアリバイがあり、警察は自殺として処理する。そして、初七日。哀しみに沈む堂島邸で、新たな犠牲者が。新之助の死は、本当に自殺だったのか?疑念を抱く3人の刑事は、独自の捜査を開始する。愛憎渦巻く一族の悲劇を描いた長編ミステリ。

 

こちらは、

60歳で小説家デビューした天野節子さんの第2作目となりますが、

 

実は、

以前に一度読んでいて、

何故か最初ちょろっと読んだだけで、

そのあと頓挫してしまったことがあります。

 

つかみがまったく面白くなかったというわけではなく、

本当にちょろっとしか読んでいないので、

面白いもつまらないもなく、

 

ただただ、

仕事やら何やら、

他のことに時間をとられてしまって、

読み続けることができなかっただけなんですが、

(おそらくこの小説でなくても読めなかった)

 

いま思うと、

結構、面白かったのに何故?!

という感じです。笑

 

まぁ過去はさておき、

再読できて(再読して)よかった!

──この一言に尽きます。

 

デビュー作『氷の華』が大ヒットして、

2008年にテレビ朝日でドラマ化もされていますが、

氷の華 (2008) EP 01 - YouTube

氷の華 (2008) EP 02 - YouTube

 

2作目の『目線』のほうも、

2010年にフジテレビでドラマ化されています。

金プレ特別企画「目線」

 

これ、見たかったなぁー。

(いまから動画みればいいんですが)

 

天野さんの作品は、

どれもすごくおもしろくて、

今年、すっかりハマってしまったのですが、

なかでもこの『目線』という作品については、

トリックが本当にうまくできていて、

結末にも納得がいきます。

 

冒頭で、

既刊4作品の勝手にランキングを発表しましたが、

どれも傑作だったのは間違いないものの、

それぞれ以下のようなマイナスポイントもありました。

 

4位→『烙印』:

犯人はあらかた想像がついていて、

犯行の経緯や動機をクリアにしていくのがメインだったため、

ドキドキ感に欠ける。

 

そして、

その経緯や動機も、

やや入り組んでいてゴチャゴチャしてたり、

変に曖昧にして行間を読ませたりで、

ハッキリしないところに不完全燃焼さを感じた。

 

3位→『彷徨い人』:

真相の解明(真実の断定)が粗い。

本当のところどうなのか?が最後まで曖昧で、

今ひとつパッとしない。

結末にもちょっと納得がいかない点があった。

 

2位→『氷の華』:

細かいところでのトリックや経緯が、

明確にされていない。

 

それまでの流れで、

きっとこういうトリックなんだろう…

という読み方はできるけれど、

 

こういうものは、

エビデンスを提示して、

ハッキリさせてほしかったし、

 

一部の経緯についても、

あまりに突拍子すぎるところがあって、

どうしてそんな経緯に至ったのかを、

もう少し肉付けしておいて欲しい感じがあった。

 

さて。

 

今回の作品については

どうだったかというと、

 

位→『目線』:

トリック・経緯&動機・結末ともに、

あまり矛盾を感じたところもなく納得。

 

ごくごく細かいところでの「ん??」(腑に落ちない点)はあったにせよ、

全体的に構成・結末ともによく出来ていて、

 

犯人はこいつだったのかー!

目線ってそういうことかー!

こいつはこういう役割を果たしてたのかー!

 

──などなど、

いろんな驚きがあって面白かったです。

 

以下、

登場人物とあらすじをざっと整理。

 

※※ネタバレ注意※※

 

・堂島新之助(65歳):

堂島建設の社長で、堂島家の一家のあるじ。

自身の誕生日に自宅で死亡。

当初は自殺として処理されたが、

他殺の疑いが残り捜査が続けられる。

 

その捜査の過程で、

生粋の良家の御曹司かと思いきや、

堂島家の婿養子だったことが明らかに。

(旧姓は、関谷)

 

・桐生苑子(35歳):

堂島新之助の第一子(長女)で、

大輔・喜和子・あかりの姉。

桐生直明と結婚し、

一児(弘樹)をもうける。

 

・桐生直明(41歳):

堂島建設の社長秘書として堂島家に出入りしているうちに、

苑子に見初められ結婚、

堂島家の女婿となる。

 

堂島建設の仕入部門部長。

 

・堂島大輔(30歳):

堂島新之助の第二子(長男)で、

喜和子・あかりの兄。

堂島建設の次期社長。

 

大学卒業後、一時は商社に入社したが、

その後、堂島建設に入社。

現在、コミュニティ部門に所属し、

堂島建設が請け負ったマンションの管理組合をサポートする仕事を担当し、

現場経験を修練していた。

 

水谷香苗と結婚することが決まっている。

 

・堂島喜和子(29歳):

堂島新之助の第三子(二女)。

 

音大を卒業後、

音楽教室の先生を生業としていた。

 

故・堂島新之助の初七日に、

絞殺されて死亡。

 

・堂島あかり(28歳):

堂島新之助の第四子(三女)で、

苑子・大輔・喜和子の妹。

 

本業はイラストレーターだが、

週に2~3日、

美術館で臨時職員として働き、

受付などの仕事に従事。

 

・加納拓真(30歳?):

堂島大輔の幼馴染。

大学で歴史を教える講師。

 

思慮深く落ち着きがある反面、

ユーモアもあって周りに溶け込みやすい性格。

 

堂島喜和子とかねてから男女の仲にあると思いきや、

実は違っていて、

平田小枝子とできていた。

 

・平田小枝子(28歳):

堂島あかりの友人で、職場の同僚。

美術館の正職員で、学芸員の資格を有しており、

資料の管理や展示会の企画・運営などに従事。

 

実は、加納拓真と付き合っていた。

 

・水谷香苗(?歳):

堂島大輔の婚約者。

 

家具デザイナーとして、

大手家具メーカーの企画デザイン課に勤務。

 

大輔とは、

仕事を通じて知り合う。

 

・堂島雪江:

堂島新之助の妻で、

堂島家の一人娘だった。

 

15年前に白血病で死去。

 

・桐生弘樹(5歳):

桐生直明と苑子の息子。

小学受験を控えているが、

能力にバラつきがあり、

プレゼンや創作が苦手な一方で、

抜群の記憶力を有する。

 

堂島家では、

あかりに一番なついている。

 

・野村清美(53歳):

堂島家で働く住み込みの家政婦。

13年間、堂島家に奉公。

 

宮本茂(65歳):

元々はホテルのレストランでシェフとして働いていたが、

引退後は、

堂島家に時折出入りして料理を振舞う。

 

堂島新之助が死去したのち、

初七日の法要の日に、

堂島家の池で死体として発見される。

 

死因は溺死だが、

後頭部に殴打痕があったため、

他殺と断定。

 

のちに、

松浦郁夫・堂島新之助とは同郷の友人で、

集団就職のため、

三人一緒に故郷の山形・赤湯から上京していたことが判明。

 

・松浦郁夫(65歳):

堂島新之助のお抱え運転手。

堂島家の斜め向いに住居を構える。

 

温厚・誠実な人柄で、

堂島家の一家の信頼も厚かったが、

 

故・堂島新之助の初七日に、

自宅から、

宮本茂・堂島喜和子殺人事件に関わったと思われる自筆の書が見つかり、

両事件の被告と断定。

 

山形・赤湯の出身で、

宮本・堂島新之助集団就職した際は、

自動車整備士として日暮里の自動車整備工場に勤めていたが、

その後、堂島建設(新之助)の運転手に。

 

・津由木哲夫(48歳):

田園調布東署の刑事係長。

 

嶋・田神とともに、

堂島家で起きた事件・事故を担当。

 

三人のなかでは最年長で、

先輩として捜査をリードしていく。

 

・嶋謙一(27歳):

田園調布東署の若手刑事。

津由木・田神とともに、

堂島家で起きた事件・事故を担当。

 

・田神修司(23歳):

田園調布東署の若手刑事で、

津由木・嶋と堂島家の事件・事故の捜査にあたる。

 

田園調布東署での仕事は腰かけに過ぎず、

本庁採用のキャリア組のため、

数ヶ月で本庁に戻ることになっている。

 

エリートにありがちな高慢さや過度な遠慮もなく、

人懐っこい性格の持ち主であることから、

津由木・嶋と打ち解け、

ともに捜査にあたり、

事件の解明に貢献。

 

・工藤恒彦/田中武治/渡辺:

いずれも田園調布東署に勤務。

 

工藤は副署長で、

宮本茂・堂島喜和子殺害事件の捜査を指揮。

 

田中は刑事課長で、

津由木や嶋の直属の上司。

 

渡辺は嶋より少し若い刑事。

 

・大滝勝(65歳):

山形・赤湯温泉にある旅館「大滝苑」の主人。

松浦・宮本・堂島新之助とは同級生で、

なかでも松浦とは親しくしていた。

 

・松浦啓子:

松浦郁夫の妻。

山形・米沢の出身。

(すでに亡くなっている)

 

・松浦美佐子:

松浦郁夫の妹。

子供をとりあげられて精神的におかしくなり、

26,27歳のときに、死去(自殺)。

 

・星野慶介:

松浦夫妻と妹の美佐子が暮らしていた、

日暮里の借家の家主。

 

 

さて。

 

登場人物は、

ざっとこれくらいでしょうか。

 

一見、

多いようにも見えますが、

 

実際は、

・堂島家の一族の7人

 →新之助・苑子・桐生直明・弘樹・大輔・喜和子・あかり)

・堂島家に出入りする関係者の6人

 →宮本・松浦・野村清美・水谷香苗・平田小枝子・加納拓真

・堂島家の事件・事故の解明にあたる刑事の3人

 →津由木・嶋・田神

 

計16人のあいだで、

このミステリーは繰り広げられます。

(それでもちょっと多いか)

 

解説(野崎六郎)を引用すると、

 

物語は、犯人もその一員である閉じられた小世界で進行していく。場所は田園調布、さる資産家の一族を襲う、惨劇の連続。

 

堂島新之助の65歳の誕生日を祝うその日に、

まず1つめの事件が起こります。

 

それは、

新之助自身の自殺。

 

自殺の方法は、

二階にある自室ベランダからの飛び降り。

 

折しも、その日は雨。

 

その雨の降り方と新之助の衣服の濡れ具合に違和感を感じた津由木刑事は、

新之助の「自殺」に疑問を呈します。

 

解説の言葉を借りると、

以下のとおりです。

 

彼が引っかかるのは、被害者の着衣が吸った水分だ。当日の朝、転落から発見までの時間を考え合わせてみると、服の濡れ具合がどうもおかしい。合理的に考えると、時間差が生じているのだ。

 

そして、

後輩刑事の嶋も、

そもそも自殺を考える人間が、

二階からの投身なんてするか?!

というところにひっかかっていました。

 

また、

同じく若手刑事の田神は、

別に犯人の目星をつけたわけではありませんが、

堂島新之助の運転手(松浦)が、

予定を一日切り上げて山形から戻ってきていたことに、

疑問を抱いていました。

 

そんななか、

今度は新之助の初七日を迎えた法要の日に、

第二・第三の事件が生じます。

 

1つは、

料理人として出入りしていた宮本茂が、

堂島家の庭で溺死。

 

もう1つは、

堂島家の次女・喜和子の絞殺死。

 

ふたりとも、

新之助の法要に出席しており、

その後、

何者かに殺されるわけです。

 

そして、

第二・第三の事件現場から発見された指紋や、

松浦家の机に残された置手紙から、

宮本・喜和子の殺害には、

松浦が関与したものとして指名手配されるのですが、

 

松浦はその後、

高尾山の山中で首を吊って自殺。

 

この第二・第三の事件においても、

何か違和感を拭いきれない刑事トリオは、

再び知恵を絞り合います。

 

ここで大きく貢献したのは、

キャリア組の若手エリート、

田神(通称・ガミくん)。

 

彼は、

松浦が一人でやったにしては、

宮本と喜和子の殺害にかけた時間が、

あまりにも慌ただしすぎることを、

「時間表」をつくって検証するのです。

 

宮本の殺害こそ、

松浦の仕業ということは間違いないのですが、

 

喜和子の殺害は、

本当に松浦の仕業といえるのか?

 

そして、

松浦が喜和子を殺していないとしたら、

松浦は逆に(時間的に)喜和子の殺害を知る由はないわけで、

 

津由木は、

このように提言するのです。

 

「松浦の書置きにあった、『全て私がしました』。これをどう解釈したらいいかな。前とは事情が変わってきた。捜査会議では『全て』を、宮本茂と堂島喜和子の殺害と判断したが、われわれは別の結論に達したわけだから、当然、『全て』の解釈が変わってくる。松浦は一人しか殺していない。それなのに、全てと書いた。これはおかしい。そうだろう?」

 

──となると、

 

ここでいう『全て』とは、

堂島新之助宮本茂の死亡を指すことになります。

 

ここで三人トリオは、

当初より疑わしかった新之助の「自殺」を、

あらためて「他殺」の方向でとらえなおすことに。

 

とはいえ、

新之助が亡くなった時間に、

松浦にはアリバイがある。

 

そうなると、

新之助の殺害に松浦は関わっていない。

 

でも、

誰がやったかは知っている。

 

実際、

松浦は、

その犯人を宮本から聞いています。

 

松浦は、

そのことを宮本に口止めするため、

衝動的に彼を殺してしまうのです。

 

でも、

なんのために?

 

津由木は言います、

 

「──大切な人を守るため」。

 

じゃあ、

松浦は誰を守ろうとしているんだ?

新之助は誰に殺されたんだ?

喜和子は誰が殺したんだ?

 

ここから、

三人トリオは、

新之助の事件も含め、

あらためて犯人を探し始めるのです。

 

疑わしきは、

苑子・桐生直明・大輔・あかり・加納拓真・平田小枝子・水谷香苗・野村清美の8人。

 

津由木:

「この中に、犯人がいる」

 

ここから、

彼らの捜査活動に拍車がかかり、

事件解決のヤマ場を迎えていくのです。

 

この物語でポイントとなるのは、

以下の2つだと私は思っています。

 

1つは、

「時間」。

 

先にも紹介していますが、

三人トリオの刑事たちは、

時間的な矛盾を突破口として事件を解明していくわけで、

 

最終的に、

その「時間的な矛盾」は全て明らかになっていくわけですが、

 

(例えば、

 松浦が予定を一日切り上げて戻ってきたのは、

 彼が胃癌を患っていて、

 単にその薬を持ってくるのを忘れたからだとか)

 

この「時間」こそ、

物語のトリックにおいて、

重要な役割を果たしていることがよくわかります。

 

2つめは、

「目線」

 

この本のタイトルにもなっている「目線」ですが、

自分は当初、

なんとなくですが、

この「目線」というのは、

 

事件の様子を誰かがどこかでじっと見ていて、

実はコイツが知っている的な、

そういう「目線」だと思っていました。

 

物陰やドアの隙間から、

こっそり見ているような「目線」です。

 

「目線」というより「視線」かな。

 

本書でタイトルにもなっている「目線」は、

「目の高さ」と「意識」をあらわしています。

 

そもそも、

「目線」という言葉には2つの意味があって、

 

「目線を落とす」とか「目線が合う」というように、

「位置」をあらわす場合と、

 

「自分目線」「オレ目線」などというように、

「意識」をあらわす場合がありますが、

 

本書で何より主題となるのが、

「位置」すなわち「目の高さ」としての「目線」です。

 

犯人は最後にこう言い残しています。

 

『どこに身を置いても同じなんです。どう足掻いても、私の目線はいつも地上100センチ。それが私に与えられた世界なんですから』

 

──と。

 

そう、

この物語(事件)は、

「地上100センチ」の「目線」で展開されているのです。

 

そしてそこには、

犯人がずっと抱えてきた哀しみが凝縮されてもいる。

 

下半身不随となり、

100センチ の高さにしか身を置けなくなって、

すべてが懐疑的になり、

「自分目線」でしか物事を見れなくなってしまったこと。

 

これはハッキリ言ってしまうと、

 

喜和子と拓真が恋仲にあって、

結婚するものとばかり思い、

 だから犯人は、

それを喜ぶ新之助や喜和子を殺した。

 

100センチでしか見えない(位置的な)世界が、

本人の(意識としての)世界観までもをかえてしまった。

 

この本のタイトルの「目線」には、

そんな悲哀がこめられているわけです。

 

解説でも、

次のように言及されていました。

 

動機は、「あの人を幸せにはさせない」と。これはやはり『氷の華』の作者ならではの世界だ。

 

そういわれると、

たしかにそうで、

『氷の華』と本作『目線』では、

共通している犯行動機と言えるでしょう。

 

過去にまつわる出来事から、

ずっと抱え込んできた嫉妬と憎悪。

 

天野さんは、

こういう人間のドロドロした感情を、

よくわかっているし、

そこはやはり女性作家としての強みでもあると思うのです。

 

さて、

解説では、

上記以外に本書を楽しむ「パズルのヒント」 として、

「凶器」が挙げられているのですが、

 

実は私はそこに、

ある種の意外性(ナルホドそういうことか!)は感じつつも、

トリックとしては納得感に欠けるものがあると思っています。

 

この「凶器」というのは、

ぶっちゃけ「こけし」を指しており、

 

堂島新之助が自殺した際に、

嶋刑事が感じた疑問は、

 

そもそも自殺を考える人間が、

二階からの投身なんてするか?!

 

この「こけし」という「凶器」の登場により、

うまく解消されるのです。

 

犯人は、

新之助を2階のベランダに誘き出し、

こけしで殴ってから、

その身体を持ち上げて突き落した。

 

これだと、

2階から落ちても確実に殺せる。

 

嶋:

新之助は二階から落下して死亡。これに間違いはないですよね」

 

津由木:

「それは間違いない。右半身全体に強い打撲痕があった。落下時の衝撃の痕だ」

 

でもね、

そんだけ殴っておいて、

死体から「こけし」の殴打痕が見つからないって、

ちょっとおかしくねーか?

 

いくらハナから自殺と決めつけたにせよ、

簡単な検死くらいはするだろうし、

そこで「こけし」の痕が見つからないなんて、

そんなことありえるか??

 

自分としては、

ここにはさすがに無理がある気がして、

納得がいきませんでした。

 

あと、

下半身不随の犯人が、

どうやって喜和子の遺体を運んだのか?

という点。

 

これも、

根拠が薄いです。

 

いくら車椅子や昇降機があったとはいえ、

そもそも、

そういう人間が、

重い遺体を持ち上げるのは無理があるのでは?

と思うわけです。

 

作者は、

こういう細かい点が詰めきれていない。

 

ほかにも、

クリアになっていない点があります。

 

たとえば、

犯行当時の松浦の行動。

 

堂島家の東建物の廊下の端、物置の入り口と向き合うドアに、

松浦の左掌の跡と指紋が付着していて、

その指先から、

宮本を殺害したときの血液が検出されたことで、

 

松浦が誰にも見られずに建物に入ることができて、

かつ喜和子を殺すことができたという、

警察が判断した最初の犯行経緯が導き出されたわけですが、

 

結局、

喜和子を殺したのは松浦ではないわけだから、

じゃあ何のために建物のドアにそんな物証が残っていたのか、

という疑問が残ります。

 

きっと、

彼が宮本を殺した時に、

たまたまついてしまったものだと思うのですが、

作者はそれについて何も言及していません。

 

疑わしい状況だけ臭わせておいて、

ケツをふかないのは、

ちょっとルール違反じゃ?

 

非難するわけではありませんが、

彼女の作品は、

なんかそういうところが目についてしまいます。

 

でも、

それも(他の作品のレビューでも書いたけれど)、

全体的にトリックがあまりに完璧すぎるから

 

自分のなかでは、

逆に細かい失点が目立ってしまうだけ。

 

その「細かい失点」でいうと、

もう1つあります。

 

池に浮かんだ黒いスーツの死体をみて、

犯人がなぜか、

(宮本ではなく)「松浦さんだ!」と言うシーンがあります。

 

津由木:

「なぜ、松浦さんと思ったんです?」

 

犯人:

「なぜだかよく分かりません」

「黒い色から喪服を思い浮かべたんだと思います。宮本さんもその日喪服を着ていましたが、宮本さんはとっくに帰ったことを知っていましたから」

 

作者はこれだけ書いて、

あとはこの不思議な点に何も触れていないのですが、

 

仮に、

犯人のこの証言をそのまま受け入れるとすると、

 

松浦も宮本も同じ時間に堂島家を出て帰っているわけだから、

宮本だけが「とっくに帰った」はずはなく、

犯人のこの証言は矛盾しているはずなのです。

 

──これについての「後始末」がない。

 

三人トリオの刑事が、

この矛盾点を突くでもなく、

犯人がそれを明らかにするでもなく、

はたまた第三者が触れるわけでもない。

 

スルーです、スルー。

 

読者には、

不思議に思わせておいて、

そしてあたかも、

その不思議な点はクリアになったように見せかけておきながら、

全然クリアにはなっていない。

 

作者がこれを意図してやっているのかどうかは不明ですが、

クリアにしたつもりでいるとしたら、

犯人のその証言には矛盾があるし

意図的にそうしたのであれば、

刑事か誰かをつかってきちんと「後始末」をして欲しい。

 

じゃないと、

ウヤムヤのままじゃん!

って思いました。

 

以上の点をふまえ、

星5つのうち、

1つを減らしたわけですが、

 

あくまで上記は細かい点であり、

その他のトリックやそのための布石は本当にうまく配置されていて、

その技量には脱帽と言わざるを得ません。

 

これは本当です。

 

プロローグの(昔の)事件が、

最後にこうやってつながるのかとか、

 

冒頭にも述べましたが、

(タイトルにある)「目線」って、そういうことだったのね!

という驚き。

 

いやー、面白かった!!

 


■まとめ:

・裕福な一家の、屋敷内で次々と起こる惨劇を解明していくので、スケールとしては狭いながらも、ストーリー的には既刊4作品のなかで一番面白かった。

 ・ごくごく細かいところで、腑に落ちない点はあったにせよ、全体的に構成・結末ともによく出来ていて、犯人はこいつだったのかー!目線ってそういうことかー!こいつはこういう役割を果たしてたのかー!などなど、いろんな驚きがあった。強いて言うなら、他作品にもあるように、疑わしさ・不思議さだけ呈しておいて、きっちり後始末をしていないところがマイナスポイント。

 ・デビュー作『氷の華』同様、犯行動機である、「あの人を幸せにはさせない」というドロドロした感情がうまく描かれている。過去にまつわる出来事から、ずっと抱え込んできた嫉妬と憎悪。それが紐解かれていくさまや、トリックの布石には脱帽。

 


■カテゴリー:

ミステリー

 

■評価:

★★★★☆


▽ペーパー本は、こちら

目線 (幻冬舎文庫 あ 31-2)

目線 (幻冬舎文庫 あ 31-2)

 

 

Kindle本は、こちら

目線

目線

 

 

 

 

真田太平記(2) ★★★★★

池波正太郎さん

真田太平記(二)秘密 (新潮文庫)

を読み終えました。

 

評価は、星5つです。

 

前巻に続き、

相変わらず面白かった!

 

▽内容:

天下統一を目前にした織田信長が本能寺に討たれたことから、諸雄は再びいろめきたつ。上・信二州に割拠する真田昌幸は、関東の北条、東海の徳川、越後の上杉と対峙しつつ、己れの命運を上田築城に賭けた。一方、昌幸の二人の子供、兄の源三郎信幸と弟の源二郎幸村、そして従兄弟の樋口角兵衛をめぐる真田家の複雑に入り組んだ血筋が、小国の行方に微妙な影を落としてゆく。

 

第二巻は、

本能寺の変(1582年6月)以後、

真田昌幸が家康に見切りをつけて、

旧敵・上杉景勝と停戦調停を結ぶ(1585年7月)ところまで。

 

主君として仕えていた武田家が滅亡したのち、

織田信長が天下統一に向けて着々と手を広げるなか、

真田昌幸もまた東にあって、

家康に取り入りつつ、

一方で信長に認めてもらおうと準備していましたが、

 

なんと、

本能寺の変で信長が討たれてしまいます。

 

ここで、

信長を頂点とするヒエラルキーはいっきに崩れ、

天下は秀吉vs家康の覇権争いに。

 

東国でも、

徳川・北条・上杉・そして真田のあいだで

再び凌ぎ合いが多発し、

 

真田昌幸は、

家康に取り入って同盟状態を継続させるも、

北条から家康へ横槍が入ったことによって、

真田家がおさえていた「沼田」をめぐり、

徳川・北条と対立することに。

 

そこで彼は、

武田時代からの敵でもあった上杉(景勝)に助けを請います。

「援軍は出さなくてもいいから、せめて何もせず見守っていてくれ」

──と。

 

相変わらず混乱を極める戦国時代のまっただ中にあって、

上州・信州における基盤を守らんと画策する真田家(昌幸)が、

一巻に続いて、

「忍びの者」を駆使して世の趨勢を見極め、

諸侯と渡り歩いていくさまが描かれています。

 

その中で、

長年の夢でもあった上田城を築城し、

真田家の財政基盤をより強化したり、

 

一方で、

昌幸の子供たち(源三郎信幸/源二郎信繁幸村や娘の於国/御菊、そして甥である樋口角兵衛)をめぐって、

彼らの血縁に関する秘密が明かされていきます。

 

天下の動向いかに?!というマクロな動きと、

真田家のなかでうごめくミクロな動き(秘密)がクロスし、

物語にいっそう厚みが増していくので、

もう目が離せません!

 

いやー、

おもしろいね。

 

以下、備忘録がてら、

登場人物とレビューのメモになります。

 

※第一巻のレビューはこちら

【登場人物】

・向井佐平次:
武田家側の一兵卒として仕えていたが、高遠城の落城で一命をとりとめ、その後、源二郎幸村に拾われ、主従関係に。真田の忍びの者の娘である「もよ」と結ばれ、佐助をもうける。

 

・もよ:
真田家に仕える草の者(赤井喜六)の娘。父の死後、岩櫃城に引き取られ、真田源二郎や家臣らの身の回りの世話にあたっていた。その後、砥石へ移る。向井佐平次と結婚し、佐助を産む。

 

・お徳:
真田家に仕えていた足軽(岡内喜六)の元妻だったが、その後、真田昌幸の側室となる。懐妊がわかってから、正室(山手殿)や樋口角兵衛らに命を狙われるが、真田源二郎幸村に見守られながら、名胡桃城の鈴木主水に預けられ、無事、娘(於菊)を産む。

 

清水宗治
信長存命時に、中国平定に遠征中の秀吉が落とさんと攻め続けていた毛利勢の一家臣で、高松の城主。信長が本能寺の変で討死するも、その情報を知らず、秀吉に城中の人間の命と引き換えに自らの切腹を申し出、死去。高松城は秀吉の手に落ち、秀吉は城中の遺臣らを毛利側に送り返して、休戦状態に持ち込む。同時に中国地方の一部を織田側に譲り渡すという条件をつけて講和が成立。

 

・明智日向守光秀:
信長の重臣だったが、謀叛を起こして本能寺で信長を討ち取る。天下再建に向けて諸侯や朝廷へ協力を呼びかけ、一時は安土城を占拠するも、協力が得られず、また秀吉のスピード帰還で猛攻にあい、山崎の合戦であえなく敗退。本拠の近江・坂本城へ落ちのびる途中、小栗栖の竹藪で土民らに殺された(と言われている)。

 

穴山梅雪斎:
武田勝頼の伯父で武田家の一員だったが、武田を裏切り、家康に取り入って、家康の甲州攻めの案内人を務める。家康とともに上京していたが、本能寺の変で明智勢の追撃を避けて逃避行していたところ、伊賀の山中で土民らによって殺害される(家康は命からがら逃げきることができた)。

 

細川藤孝・忠興:
明智光秀の親友。忠興は藤孝の子どもで、光秀の娘(玉子=のちの細川ガラシャ夫人)を正室に迎えている。本能寺の変以降、光秀に味方せず、これを見送る。

 

筒井順慶
大和郡山を領有する武将。明智光秀の友人で、光秀とは縁戚関係にもあり(光秀の妻の妹を正室に迎えている)、光秀の口利きで信長の後ろ盾を得られることになり、大和における所領を守ったが、山崎の合戦では再三の要請にもかかわらず光秀側に出兵することを最後まで見送る。山崎の合戦後は、秀吉側につき、臣従。

 

足利義昭
室町第15代将軍。一時は光秀を側近として仕えさせていたため、光秀の口利きで信長の庇護を受けるも、その後、信長によって京都から追放される。中国の毛利を頼り、信長打倒を画策。光秀は、この足利義昭の線を頼りに、毛利勢の加勢を当てにしていたが、これらを待たずして滅び去る。賤ヶ岳の戦いで、秀吉が織田譜代派(柴田勝家滝川一益)と対立するようになると、柴田勝家らに肩入れし、足利将軍家と毛利家の再興を狙って毛利輝元を動かそうとそそのかすが、毛利はこれに乗らず。

 

北条氏直
北条氏政の長男。小田原を拠点に関東の領地拡大に息巻く。本能寺の変のあと、上州へ進出、神流川の戦い滝川一益を追いやってこれを占拠。続いて、東信濃に入り上杉景勝と対立、真田昌幸はいったんここで北条側に与し、上杉軍を駆逐。昌幸の力量を買う一方で、脅威にも感じており、徳川家康と休戦・同盟を申し入れる。甲斐を家康に譲るかわりに、上州・沼田の領有を主張。真田家の上・信州における基盤拡大(上田城築城や沼田への定着)を阻止せんと図るも、真田昌幸は築城を強行。真田と対立するようになる。

 

・督姫:
徳川家康の娘。徳川・北条の同盟締結において、北条氏直に嫁ぐ。

 

滝川一益
織田信長傘下の武将。信長亡き後、上州から撤退し、本国の伊勢・長島に戻る。信長亡き後の清州会議では、柴田勝家に同盟し織田信孝を跡継ぎに据え、秀吉と対立。秀吉の天下横取りを阻止する織田譜代派の中で、作戦参謀としての役割を果たす。柴田勝家が冬の積雪で越前にこもっている間、秀吉軍に伊勢に攻め入られるが、柴田勝家の死後、秀吉に降伏。越前・大野へ引退し、三年後に死去。

 

真田昌幸
本能寺の変ののち、滝川一益から沼田城(城代は甥の滝川義太夫益重)を奪回し、再び矢沢頼綱(昌幸の叔父)を城代に置く。信長亡き後、領有する上・信州を、徳川/北条/上杉から守らんと奔走。一時は徳川・北条に与し、上杉と敵対するも、沼田をめぐって今度は徳川・北条と対立。上杉と停戦。第二巻では、念願の上田城を築き、彼の子供たちの出自に関わるヒミツが、次々と明らかになっていく。

 

村上義清
かつて武田信玄真田幸隆を悩ませた北信濃の武将。砥石城を築いた。真田幸隆の謀略で、村上の家臣の内応があり、砥石城は真田家に渡る。その子・村上影国は上杉景勝に従属し、(信長存命中に、この地を与えられた森長可を追い出して)信州:川中島海津城の城代をつとめる。

 

柴田勝家
織田信長の筆頭の老臣で、越前の国主。信長亡き後、清州会議では三男の信孝を跡継ぎとして主張、彼を支える。信長の妹で浅井長政の未亡人・お市の方を娶り、織田家との血縁を得る。秀吉より近江・長浜城をもらいうけ、養子の勝豊におさめさせるが、その後、すぐに長浜が秀吉の手に落ちる。また、上州より引き上げてきた滝川一益越中の佐々木成政を味方に引き入れ、信孝勢を強化。賤ヶ岳の戦いで秀吉に敗れ、越前に戻るも、最後は北の庄の城に火を放って自害。

 

・柴田勝豊:
柴田勝家の養子。勝家が秀吉から貰い受けた近江・長浜城に城代として入る。勝家が佐久間勝敏(勝家の甥)・佐久間盛政(勝敏の兄)を重宝したため、柴田家で冷遇されていたところを、秀吉がうまく利用。すぐに柴田家を離れ、秀吉側に寝返り、長浜城を明け渡す。1583年の柴田vs秀吉の戦闘には加わらず、京との東福寺で病没。

 

・佐久間盛政:
柴田勝家の甥。弟の佐久間勝敏は、勝家の養子に入る。近江・長浜城の城代として入城するはずだったが、秀吉によって柴田勝豊(同じく勝家の養子)が城代に据えられる。賤ヶ岳の戦いで、秀吉が戦線を離れ、岐阜入りした隙に秀吉軍に攻め入り、中川清秀を急襲、これを討ち取る。のちに秀吉に敗れ、処刑される。

 

織田信雄
織田信長の次男。信長亡き後は尾張を占有し、清州城主となる。異母弟の織田信孝と反目していたため、信孝&譜代派(柴田勝家滝川一益)に対抗して、一時は秀吉側に付くも、賤ヶ岳の合戦で秀吉と柴田勝家が対峙するあいだに秀吉から離反。信孝&柴田勝家らの死後、三法師をかついで信長の跡をつがんとする秀吉と対立し、家康を頼みとする。小牧山の戦いや長久手の戦いで秀吉軍に快勝したのち、本国を秀吉に攻撃され、伊勢に戻る。その後、(家康に相談もせず)秀吉の和議申し入れに応じる。

 

織田信孝
織田信長の三男。信長亡き後の清州会議では、柴田勝家の庇護のもと、織田家の跡継ぎに立候補し、秀吉と対立。美濃(岐阜城)を占有。信雄の異母弟にあたり、妾腹の子であったことから、昔から兄(信雄)とは不仲。柴田勝家の死後、一時は秀吉に降伏するも、信雄の命で岐阜城を明け渡し、割腹自殺。

 

・三法師:
織田信長の長男・信忠の遺子。信長の孫。信長が死んだとき、三歳。清州会議で、秀吉にかつがれ、織田家の跡継ぎに指名される。秀吉は、三法師をかつぐことで、自分がその替わりになって天下統一の役目を果たそうと企む。

 

丹羽長秀
織田信長の重臣。信長亡き後は、秀吉に味方。

 

お市
信長の妹で、政略結婚により浅井長政に嫁ぐも、浅井家が信長によって滅ぼされてからは、清州に戻る。その後、三男・信孝のはからいで柴田勝家と再婚。

 

羽柴秀勝
織田信長の四男。秀吉が養子に貰い受ける。信長亡き後は、丹波を譲り受け、領有。

 

羽柴秀長
秀吉の異父弟。賤ヶ岳の戦いに参加し、秀吉とともに柴田勝家に勝利。徳川vs秀吉の戦で、徳川側についた長宗我部元親を討つべく、四国平定の総司令官に任命される。

 

・岡田重孝/津川義冬/浅井長時/滝川三郎兵衛:
織田信雄の重臣。秀吉に懐柔され、秀吉と密かに通じていたことから、滝川三郎兵衛がこれを織田信雄に密告、他の三老臣は信雄によって討ち取られる。

 

森長可(ながよし)/堀秀政
森長可は美濃城、堀秀政彦根城の城主。いずれも故・織田信長の旗下にあった武将。家康&信雄vs秀吉の戦いでは、家康らの呼びかけに反し、秀吉につく。長久手の戦いで森長可は戦死、長可の三人の弟に長定(蘭丸)・長隆・長氏がいるが、いずれも本能寺の変で殉死している。

 

佐々成政/長宗我部元親
佐々成政は、柴田勝家の与力で、富山城主。長宗我部元親は、四国を領有する武将。家康&信雄の呼びかけに呼応し、秀吉に反旗を翻すも、織田信雄の勝手な和議調停により、出鼻をくじかれる。のちに、佐々成政は秀吉に降伏、その傘下におさまる。

 

池田恒興
故・信長の乳母の子で、信長の宿老四人(勝家・秀吉・長秀)の一人とされるが、思慮浅く、短絡的。秀吉の圧力に屈し、信雄ではなく秀吉について、信雄勢の配下にある犬山城を攻め落とす。小牧山に陣取る信雄・家康勢を尻目に、三河岡崎城)を急襲しようとしたところ、岩崎城で丹羽氏重にあおられ、岩崎城攻めに着手。ここで家康・信雄の追撃軍に襲われ、長久手の戦いで戦死。

 

池田輝政
池田恒興の二男。兄で長男の池田元助は、父・恒興とともに、長久手の戦いで戦死。輝政は脱出して生き永らえ、後年、秀吉から重用される。

 

榊原康政
徳川家康の家臣。小牧山に急行・陣取り、秀吉と対立。以後の戦局を大きくリード。家康が岡崎城に戻ったあとも小牧山の本陣を守る。

 

・丹羽氏次(兄)/氏重(弟):
徳川勢の武将。兄・氏次は小牧へ出陣、弟・氏重は三河の岩崎城を守る。岡崎に攻め入らんとする池田恒興ら羽柴勢をあおり、戦に持ち込むも、討死。

 

酒井忠次/本多忠勝
家康の重臣。家康・信雄にかわり、小牧山を守る。本多忠勝は、長久手の援護に駆け付けようとする秀吉の大軍をとどめようと、小勢で果敢に秀吉に挑む。のちに、忠勝の娘を真田源三郎信幸が妻に迎える。

 

・三好秀次:
秀吉の甥。父は三好吉房で母が秀吉の姉。池田恒興について三河に攻め入るも、家康&信雄の追撃軍に蹴散らされ、命からがら帰還。のちに子に恵まれない秀吉の嗣子となり、関白職に就く。

 

・富田知信/津田信勝:
秀吉の家臣。津田信勝は、織田家の一族だったが、故信長の怒りにふれて信長のもとを離れ、家康→秀吉の庇護を受ける。家康の戦略戦術を秀吉に教授していたと言われる。

 

上杉景勝
上杉謙信の養子。父・上杉政景は、上杉謙信の従兄にあたる。同じく北条家から迎えられた養子に上杉景虎がいるが、家督争いで景虎に勝ち、景勝が上杉家の当主となる。武田信玄織田信長亡き後、川中島へ出兵し、森長可を追い払って海津城を手に入れると、東信濃へ侵攻、同じく東信濃を狙う北条氏政・氏直父子と対立。いったん北条側についた真田昌幸とは、何度も小競り合いを続ける。徳川vs秀吉の戦では、秀吉側につく。

 

・羽尾源六郎:
丸岩城をおさめていた羽尾幸全(ゆきまさ)の遺子。しばらく真田家と同盟関係にあったが、上杉景勝の援助を受けて丸岩城に攻め入り、ここを奪回。上杉軍の先鋒として、中棚の戦いで真田家がおさめる岩櫃城に攻め入るも、源三郎信幸による見事な返り討ちにあって丸岩に退去。その後、兵の脱走や、上杉景勝の援助が追い付かず、完全に孤立するが、上杉景勝真田昌幸の停戦調停によって、景勝のもと(春日山)に戻ることが叶う。


・樋口角兵衛政輝:

樋口下総守鑑久と久野(真田昌幸の妻の妹)の一子。幼い頃から強力無双。実は、真田昌幸と久野の子。真田源三郎を信奉し、真田家で重宝される源二郎幸村を疎むように。また、懐妊したお徳を殺害しようと企むも、源二郎幸村に阻まれる。その後、失踪し、源二郎を襲うも、再び行方をくらます。

 

・矢沢但馬守頼康(三十郎):
真田昌幸の従弟で、岩櫃城の城代。真田昌幸上田城築城の許可を仰ぐべく、浜松(家康)に赴くも、築城の許可が下りず、岩櫃に戻る。

 

・矢沢薩摩守頼綱:
矢沢頼康の父。真田幸隆の実弟で、昌幸の叔父。沼津城の城代。

 

・真田源三郎信幸:
真田昌幸の山手殿との間の長男。第二巻では、母とともに岩櫃に居住。矢沢頼康が浜松にあって不在の際、羽尾源六郎との対立で、頼康にかわって岩櫃を守る。頼康帰着後は、中棚の砦の救済にあたり、羽尾勢を追い払う。

 

・真田源二郎信繁:
真田昌幸の次男。のちの真田幸村。源三郎より一つ年下とされるが、実は同い年(?)。妾腹の子とされる。真田家のなかでは、お徳の警護や角兵衛の拿捕に尽力。外では、小県の平定にあたり、丸子城(丸子三左衛門)攻めで初陣を果たす。第二巻では、ほとんど砥石に居住。

 

・於国(村松どの):
真田昌幸の長女で、源三郎・源二郎兄弟の姉。小山田壱岐守茂誠(しげまさ)に嫁ぐ。武田家滅亡の際に、真田家に送り返され、のちに同じく真田家に身を寄せた夫とともに、小県の村松にて余生を送る。

 

・小山田壱岐守茂誠(しげまさ):
武田家に仕えた小山田備中守昌辰の子。信州・内山城を守っていたが、主君・武田勝頼と生死を共にしようと甲斐入りしたが、勝頼自害と聞いて、真田昌幸のもとに身を寄せる。のちに、昌幸より小県郡の「村松」というところを領地として与えられたため、妻であり昌幸の長女である「御国」は、「村松どの」と呼ばれるように。

 

・池田長門守綱重:
砥石城の旧城代で、真田昌幸に仕える家臣の一人。

 

・山手殿:
真田昌幸の正室で、源三郎信幸の母。昌幸と山手殿の結婚は、武田信玄の主命によるものだったため、昌幸とは深く結ばれていない。気位が高く、嫉妬深いため、懐妊したお徳を密かに殺そうと企むも、失敗。

 

・久野:
山手殿の妹で、樋口角兵衛の母。真田昌幸と情を交わしており、角兵衛は実は昌幸と久野の子(?)。

 

・真田隠岐守信尹(のぶただ):
真田昌幸のすぐ下の弟。信玄存命時に、甲斐の名家・加津野氏をつぎ、加津野市右衛門(かづの いちうえもん)を名乗り、徳川家康と通じる。徳川勢の動きを密かに真田昌幸へ伝える。

 

・福場八郎左衛門:
真田の出城である中棚の砦を守っていた武将。上杉勢の羽尾源六郎の急襲に気づかず、警戒を怠った責任をとって自害。かわりに、真田源三郎のもとで兵を率いた高森藤兵衛が着任。

 

・お江(おこう):
真田の庄の草の者(忍者)の一人。第二巻では、京都における信長急死や、浜松に赴いて家康の動向を探る矢沢頼康の伝言などを、真田昌幸に知らせる。また、真田源二郎幸村を樋口角兵衛の急襲から守り、別所の湯で源二郎に初めて女性を教える。

 

・壺谷又五郎
真田家の草の者(忍び)。真田の草の者を統括する責任者。

 

・姉山甚八/奥村弥五兵衛:
いずれも又五郎の部下で、第二巻では大阪や浜松に入り、秀吉や家康の動向をスパイして真田家に報告。

 

・山田弥助:
真田の忍びの者の一人。お徳のそばに仕えると同時に、山手殿にも通じる。これが真田源二郎にバレ、切り捨てられる。

 

・平左:
下忍びと呼ばれる忍びの者の末端の一人。山田弥助のもとで、山手殿との伝達係をつとめる。

 

・鞍掛八郎:
砥石の居館に詰めている草の者の一人。真田源二郎とともに、懐妊中のお徳を、樋口角兵衛や山手殿の密命を受けた山田弥助から守る。その後、源二郎の密命で、失踪した角兵衛の追跡にあたる。

 

・才助:
鞍掛八郎に仕える下忍び。八郎の命で、樋口角兵衛の消息を追っていたが、角兵衛に撲殺される。

 

・間野兵介:
真田の忍びの者で、沼田に詰めている一人。沼田城代・矢沢頼綱の命を受け、砥石から名胡桃に向かうお徳一行を護衛。

 

・鈴木主水:
もともと沼田氏の家臣だったが、沼田家の内紛後、上杉謙信のもとで、名胡桃城の城代を務める。謙信の死後、旧沼田領を真田昌幸が奪うが、その後、沼田平八郎がこれを奪い返さんと攻め込む。名胡桃城をおさめていた鈴木主水は、このときの沼田氏の呼びかけには答えず、そのまま真田昌幸に従属したため、真田家との信頼を深める。

 

・鈴木小太郎忠重:
鈴木主水とその妻・栄子の愛息。他にも数人の子供がいたが、すべて早くして病死し、小太郎だけ生き残る。母・栄子の血を受けて、幼少時より病弱・色白だったが、85歳の長寿をまっとう。

 

・栄子:
鈴木主水の妻で、上州・中山城主:中山安芸守の娘。実家の中山城は北条家に奪われる。

 

・中山九兵衛実光:
栄子の実弟で、鈴木主水の義弟。中山城にいたが、北条家に攻め入られ、名胡桃城に身を寄せる。

 

・諸田頼母(たのも):
鈴木主水の重臣。

 

・依田康国:
依田信蕃(のぶしげ)の長男。武田家滅亡後の、信州・小諸城の城代。徳川家康の旗下。信長の死後、ここを与えられた滝川一益が兵をひきいて去ったため、一時北条軍の手におちるが、その後、徳川勢の依田信蕃が北条勢を追い払い、入城。

 

・長野業政:
上州・箕輪城の城主。上杉謙信旗下の武将として、武田勢と攻防を繰り返す。業政の病没後、箕輪城は武田軍の手におちるが、武田家滅亡後は、滝川一益がこれをおさめる。信長の死後、滝川一益の退去にともない、北条氏堯(うじたか)が箕輪城を落とす。

 

北条氏堯(うじたか):
北条氏康の六男、氏政の弟で、氏直の叔父。武田家滅亡後、箕輪城の城主となる。

 

・大滝伍平:
向井佐平次のように、真田源二郎に仕える側近の一人。

 

【印象に残ったこと】

・信長亡き後、すんなり秀吉がその後継者の地位についたのかと思っていたが、実際はすったもんだが繰り広げられていた。信長の二男・信雄、三男・信孝、孫(長子・信忠の遺子)三法師など。そして、存命中に秀吉と家康が実際に刃を交えていたのも知らなかった(長久手の戦い・小牧の戦い)。長久手の戦いでは、家康の鉄砲隊が大活躍。

 

信雄=家康

長久手の戦いで秀吉に勝ち、小牧の戦いで決着がつかず、秀吉と単独和睦(信雄のみ)

 

信孝=譜代派(柴田勝家滝川一益

賤ヶ岳の戦いで秀吉に敗れ、消滅

 

三法師=秀吉

長久手の戦いで家康に敗れ、小牧の戦いで決着がつかず、信雄と和睦(家康とは対立)

 

真田昌幸が嫡男の源三郎信幸を冷遇していたのは、そもそも正室で源三郎の母である山手殿に愛情を交えていなかったから(武田信玄の命で、しぶしぶ結婚したから)。昌幸は山手殿の殺害すら企んでいた。そして、昌幸は相当な”好き者”であり、長女で源三郎・源二郎の姉にあたる御国(村松どの)も正室以外の女性に産ませているし、源二郎や御菊(お徳の娘)もまた妾腹の子だった。源二郎は、真田昌幸の二男で、源三郎信幸の一つ年下の弟とされているが、実は同い年。

 

柴田勝家は老齢で、古くから信長に重用されていたため、秀吉の抜擢を快く思っていなかったため、信長の後継者を決める清州会議や、賤ヶ岳の戦いで、実際に秀吉と対立することになったが、身内(柴田勝豊=勝家の養子)の不満に気づくことができず、裏切りにあって、結局、秀吉に敗れた。

 

・信長の二男(信雄)と三男(信孝)は、もともと母親が異なり、それもあって仲が悪かった。

 

・信長の死後、真田昌幸は、滝川一益を沼田から追い出し、一時は北条と同盟して上杉を駆逐、家康にも取り入っていたが、家康vs秀吉の対立があらわになると、家康と手切れして徳川・北条を敵にまわす。その際、今度は上杉景勝に停戦調停を申し入れ、春日山に呼び出されたが、景勝の深い配慮で人質をとられることもなく調停が成立。とはいえ、その後、柴田勝家に味方して秀吉と戦った滝川一益については、(上州から追い払ったとはいえ)たびたび使者を送って引退後も懇意にしていた。

 

・昌幸は性格的には、(信長や家康より)秀吉とウマが一番あうと考えていた。

 

・信長の死後、秀吉が明智光秀を討って中央へ躍り出る一方、家康は東の席巻に注力。なかでも甲斐の地盤強化に傾注した。

 

家康は、旧武田の家臣たちを手厚く迎え入れ、これを原動力にして甲州調略に立ち向かい、大きな収穫を得たのであった。

 

また、そのために家康は、東の基盤を安定すべく、北条と真田に二枚舌を使っていた。北条には(真田の)沼田をあげるから同盟を続けよう・だから三河に攻め入ったりしないでね…、真田には上田築城を認めよう・だから北条を牽制しておいてね…というふうに。そういう意味では、真田昌幸は家康を狡猾な男とみていた。

 

・兵をめぐらす速さでは随一だった秀吉も、小牧・長久手における家康の布陣や戦法には舌を巻いた。結果として、家康に軍配があがる。そして、家康は、諜報網をうまく活用して先読みすることに長けていた長久手の戦い以降、秀吉が迂闊に家康に戦を仕掛けることができなくなったのは、家康の迅速果敢な動きや戦闘力を見直したから。

 

武田家がほろびたのち、その下につかえていた忍びたちの一部が、徳川家へ吸収されているらしい。考えて見れば、家康の庇護をうけている武田の遺臣も、すくなくないのだから、それも当然といえよう。

 

・家康は、背中(脊髄?)に腫瘍ができ、一時、死亡説が流れたが、ひそかに招かれた中国人によって息を吹き返した(という噂もある)。

 

・源三郎信幸は樋口角兵衛を大きく買い、また角兵衛も彼を慕っていたが、源二郎幸村はその怪力さと短絡的すぎる角兵衛の特徴を危惧、忌み嫌い、両者は互いに憎みあう。

真田昌幸上田城を築いた目的は、防衛上の理由もあるが、城下町をひらき財政基盤を一層強化するため。上田は「ひろびろとした台地に築かれた平城」で、温かく住みやすい。そうした地の利を利用して、経済発展を目論み、国防費を賄おうとした。

 

近年は〔鉄砲〕という火器が、戦闘には「欠くべかざるもの」となってきて、この最新兵器を購うためには莫大な費用がかかる。日本の戦争も政治も、中央へしぼられてきてスケールが大きくなり、中央のくわしい情報が、どうしても必要になってくる。真田昌幸が、故主・武田信玄を見ならい、草の者を中心とする情報網をととのえるための費用も、「一戦も二戦もできる…」ほどに大きいのだ。だから、どうしても財力がなくては、「生き残れぬ…」のである。城のまわりに町をひらき、商工業を発展させ、領内の耕地を増やして収穫をはかる。それでなくては、もはや大名・武将の存続はないといってよい。

 

・上記もその一例に該当するが、ところどころに作者の分析が入っていて、それがまた「ナルホドなぁ」と納得できるから面白い。

 

戦国の大名や武将たちは、その生国と、その領国の如何によって、おのれの力量を左右される。武田信玄上杉謙信ほどの英傑が、天下人たるべき器量と実力をそなえていながら、ついに、ちからつきて、若い織田信長の独走をゆるしたのは、日本の首都(京都)への最短距離に信長いたからであった。このように、風土は、国と人とに強い影響をあたえずにはおかぬ。

 

また、その場所を実際に歩いた作者の感想や幼少時の記憶などが作中に入るのも、この作品の特徴。そのときは、いっきに現代に時間が戻されるから、歴史小説として珍しいケースだと思う(でも決してイヤじゃない)。

 

 

■まとめ:

・第二巻は、本能寺の変(1582年6月)以後、真田昌幸が家康に見切りをつけて、旧敵・上杉景勝と停戦調停を結ぶ(1585年7月)ところまで。信長亡きあとも、混乱を極める戦国時代のまっただ中にあって、上・信州における基盤を守らんと画策する真田家(昌幸)が、一巻に続き、「忍びの者」を駆使して世の趨勢を見極め、諸侯と渡り歩いていくさまが描かれている。一方で、真田家の子供たちをめぐって、彼らの血縁に関する秘密が明かされていく。

・天下の動向いかに?!というマクロな動きと、真田家のなかでうごめくミクロな動き(秘密)がクロスし、物語にいっそう厚みが増していくため、目が離せない。

・作者独自の分析がいちいち納得で感心してしまったり、ところどころに、作者が実際にその町を歩いた感想や幼少時の思い出などが挿入されているので、突然、時間が元に戻されて(歴史小説としてはなんだかレアなケースで)面白い。


■カテゴリー:

歴史小説 

 

■評価:

★★★★★


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